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我儘姫に付き合って 01

「それがお前の敗因だ、クロウ。哀れな男よ」

「おのれ、おのれぇぇ、この偽善者がぁあああ!」

 炎をバックに、傷だらけの二人の男が剣を構え、最後の戦いが始まる。

 苦戦する主人公、強さを見せつけていく仇敵。

 しかし絶体絶命に陥った主人公を恋人の形見が救い、決着がつく。

 最後に主人公は恋人の事を想い涙を流し、彼女を失った日常に帰っていく。

 すべてがどことなく軽い、いわゆるB級映画の結末である。

 それを前に、

「……おぉ、主人公のお兄さん最後までカッコ良かったの!」

 と、ルハ・ララノイアは声を弾ませ、実にご満悦だった。

 隣の席にいたリリカも、

「うん、戦闘場面は凄かったよね。特にゴロツキとの戦い。あれ、演技じゃなくて、実際に絡まれたのをそのまま撮ったんだって」

 と、パンフレットを見ながら、やや弾んだ声を漏らす。

 ただ、彼女はルハほどにこの映画を評価しているわけではなく、

「だけど、このクロウさんは一体何がしたかったんだろう? よくわからない理由で主人公見逃したり、死なれたら困る筈の仲間をなにも考えずに殺しちゃったり……実は自分で自分の首を絞めるのが好きとか、そういう事だったのかな? でも、私は完璧主義者とか言ってたし、周りの人たちもそんな風にクロウさんの事言ってたしなぁ……」

 こんな感じで、ラスボスが取った数多くの不可解な行動に首を傾げていたりもした。

 ともあれ、娯楽作品としては十分な良作であり、二人は映画館を出てからもしばらく映画の話で盛り上がっていた。


       §


 その日の夕方、食事の席で、ルハは影のように映画館に同行していた執事のオーウェ・リグシュタインに訪ねた。

「ところでオーウェ、映画って実際の所どうやって作ってるの?」

「お嬢様は記録石というものをご存知ですか?」

 向かいに腰かけていたオーウェは、穏やかな微笑と共にそう訪ね返してくる。

「もちろん知ってるよ。大事な証言とかを残しておく、あれでしょう? いわゆる写しってやつだよね?」

「ええ、それですな。それを用いて必要な映像だけを順に記録していき、その映像に合わせて館内に音楽や効果音などを流せば、映画の完成です」

「もしかして、意外と簡単?」

「そうですな。内容や品質に拘らなければ記録石一つで可能ですし、複数記録出来る石を使えば順序の入れ替えも簡単ですから、制作自体はそう難しいものではないでしょう」

「ほほぉ……」

 良い事を思いついた。

 その良い事がなんなのかは、当人でないオーウェにもすぐに判るものだったのか、

「……そういえば、地下の倉庫に空の記録石があったような気がしますな」

 と、彼はのほほんとした調子で呟き、重労働の前にと左手前に置かれていた飲料水を一口呑んでから、彼女が命令をするより先に、すっと席から立ち上がる。


 かくして、貴族のお姫様による道楽は幕を開けたのだった。


次回は三日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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