プロローグ
「気持ちよさそうに寝てるな・・・」
俺、大谷浩也が彼女、朝日奈 花蓮と初めて出会ったのは4月。入学式後の放課後のことであった。
新品の紺のブレザーにチェックのショートスカートという浩也が通う学校で定められた制服に身を包んだ彼女は公園のベンチに座り、数匹の猫に囲まれながらコクリ、コクリとうたた寝をしていた。
浩也は高校に入学と同時に一人暮らしを始めたため、家には誰もいない。そのため、彼女を見かけたのは今日の夜ご飯を買うべくスーパーへと出かけた帰り道であった。
公園には楽しそうに遊ぶ小学生がいる。まだ明るいとはいえ、怪しい人に連れて行かれる可能性や風邪をひいてしまう可能性がある。見てしまった以上、念のため声だけは掛けておこうと思いゆっくりと近付いていく。
徐々とはっきりとしていく彼女の容姿に浩也は目を見開いた。
とてつもない美少女であった。長くさらさらとしたロングヘアーに長いまつげ。鼻は高く、顔のピースがバランスよく配置されているのがよくわかる。一瞬、緊張して声をかけるのを戸惑ったが――、
「ねぇ、君。うちの高校だよね?」
「・・・?」
彼女は声をかけられて驚いたのか、頭を起こしキョロキョロと辺りを見回す。しばらくして、話しかけたのが浩也だとわかったのか、少し目を擦りながら顔を向けた。
「はい、そうですけど・・・貴方は・・?」
「俺は、大谷浩也。今年入学した1年生だ」
「はぁ・・・、それで私に何かご用ですか?」
彼女は若干浩也を警戒した様子で浩也を見つめていた。
「いや、用があるってわけじゃないよ。ただ、こんな所で眠ってると風邪ひくよって言いに来ただけだよ」
日差しがあり、春とはいえまだ少し肌寒い。長時間外でうたた寝していれば風邪を引く可能性も多くなる。入学早々休むわけにも行かないだろう。
彼女は浩也のことをナンパだとでも思われたのか浩也のセリフを聞くと素っ気ない態度で膝上にいる猫へと目を向けながら答えた。
「そうですか・・・ご忠告感謝します。直ぐ帰りますので、お気になさらず」
彼女はそう言って膝の上で気持ちよさそうに眠る猫を撫でる。
「おう。じゃ、気をつけて帰れよ?」
猫と美少女というまさに絵になった光景を目に焼き付け、それを微笑ましそうに見つめると、浩也は身を翻して帰路へと着いたのだった。
少しずつ、離れていく浩也の背中を彼女はじっと見つめていた。