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退屈部は退屈しない  作者: 似純濁
8/11

6 覆面作家 mask writer 後編

「まず、そのツイートを見に行こう」

こうなったら図書室のパソコンを使うしかない。部室から出て、カウンターに向かう。

柚兄が司書の先生に尋ねた。

「先生。パソコン貸して下さい」

「…………」

手元の本から顔をあげない。

「先生!」

「……あーもう良いところだったのに!何でもいいからさっさとしろ!」

すごい睨まれた。何を読んでいたんだろう。ブックカバーがかけられていて見えなかった。

パソコンでTwitterを開く。

「アカウントの名前、打ち込んでくれ」

「あっ、はい」

紫音ちゃんが検索する。

『神夜野にも』というアカウントが出てきた。

「なんか、字面が厨二病っぽい……」

「庭戸!そういうこと言わない!」

「ご、ごめん」

日和ちゃんに怒られている。完全に恋する乙女だ。

「この方についての情報を教えてください」

「はい!えっと、中学一年生の女子です」

「それ以外は……あまり知りません」

いや、わりと個人情報言っちゃってるけどね。

「例のツイートはどこかな?」

「えっと……これですね!」

背後から皆で画面を覗き込む。

『本屋に行ってきます!今日はとても晴れていますね!空が綺麗です……

午後三時四十二分・××××年六月六日』

そしてその後に、空の写真。拡大すると、森浜中が少し映っている。

「これは……森浜中の南東ですかね?」

……あまり通らないからわからなかった。森浜中の多くは、北側から通学している。

「えっと……この、神夜野さんはどこの本屋に向かったんだ?」

「下の方にツイートがあったと思います!……これです!」

本屋の袋の上に、ライトノベルが三冊、並べられている。

「柳具書店ですね。森浜中の北東にある大型ショッピングモールの中に入っています」

柳具書店は小さいが、手書きポップが多くてあたたかい雰囲気の店だ。

「この写真は南東で撮影された。しかし、向かったのは北東にある柳具書店。ということは、神夜野さんは南東に住んでいる……おそらく、濱小学校の人だろう」

「だいぶ、絞り込めますね」

「それに、ツイートされた時間帯が午後三時四十三分だから、その日に部活動を実施していなかった部に入っているか、事情があって部活動に入っていないか、または……僕たちのような人間か。こっちでも、だいぶ絞り込めると思う」

「誰か濱小学校の人いる?」

氷と千代さんが手を挙げた。

「俺たちは、ずっと同じクラスなんだ。そうだろう、千代?」

「そうですね……濱小の人だったら、大概わかると思います」

さすが千代さん!清々しい全力スルー。

「じゃあ絞り込んでみますか……」

「直接行きましょうよ!今から!」

日和ちゃんが目を爛々と輝かせた。

「日和……あんまり迷惑かけちゃ……」

「まだ時間あるし、良いんじゃない?そんな遠くもないと思うし」

案ずるより産むが易し!善は急げ!

柚兄が溜め息をついた。

「はあ……まあ、行くか」


まだ部活動の声が聞こえる中、森浜中から出て、南東の方に歩いていった。

「ここが……写真の撮られた場所です」

じゃあこの辺りか……。ん?

「これ……同じクラスの二宮さんの家だ」

「あ、本当だ……」

試しに立ってみると、ツイートの写真と同じ構図になる。

……ピンポーン。

「おい杏!アポなしだし、いるかどうかもわかんないのに……」

「はーい」

声がして、ドアが開いた。ハーフアップに丸眼鏡の子がでてくる。

「水里さん?それに、泉さんと川井さんも……」

二宮さんはけげんそうな顔をした。

「えっと……あなた、神夜野にもさん?」

バシッと決めるつもりだったのに微妙になってしまった。

「なんで……」

二宮さんは呆然として呟いた。

「なんで知ってるの……」


「えっと、私たちがここに来たのは、かくかくしかじかで……」

二宮さん……もとい、二宮萌花にのみやもかさんに説明をする。

「何故あなたかと思ったのはここの私の兄が、かくかくしかじかで……」

制服姿の学生の集団は少し目立つようだ。

「で、この二人……泉日和ちゃんと川井紫音ちゃんは神夜野にもの、ファンなの」

「そ、そ、そ、そうなんです……」

「ファ、ファンです!大好きです!」

混乱状態の二人が口を開く。

「ずっと好きでした……連載が、すごい楽しみで……毎日サイトを見に行って……」

「ツイッターも見てました!なんというか、憧れの存在です!神夜野先生は!」

「泉さん、川井さん……」

二宮さんは感極まった様子だ。

口を抑えながら言葉を絞り出す。

「ありがとう……私の小説を読んでくれて……本当にありがとう……」


後日談。

この日を境に、私と萌花と日和と紫音は仲良くなった。いつもクラスでオタク談義をしている。

少し……毎日が楽しくなった、気がする。

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