5 覆面作家 mask writer 前編
おおっ!これはラノベ的演出の極みっ!ふふふ……先生、流石!
朝の教室でニヤニヤしながら推理小説を読んでいると、声をかけられた。
「水里さ……」
「杏ちゃん!ちょっと良い?」
顔を上げると、二人のクラスメートの顔。
たしか……お団子頭の方が泉日和ちゃんで、ショートカットの方が川井紫音ちゃん、だった気がする。たぶん、二人ともバドミントン部。おそらく。
紫音ちゃんがおずおずと口を開いた。
「あの、水里さんって……退屈部に入ってるよね?」
「……うん」
他人の口から聞くとちょっとその名称は恥ずかしいぞ。
「あたしたち、ちょっと相談事?があるんだけど、放課後に退屈部の部室に行って良い?」
!? なんと物好きな……。
いや……こんな「よくわからない部活未満の同好会」に相談者が来るなんて、二次元だけだと思ってた。
「だ、大丈夫だよー。部室、わかりにくいから私が案内するよ」
「ありが……」
「うわ、ありがとう!よろしくね!」
紫音ちゃん、毎回日和ちゃんに台詞とられてるような……。正反対だけどなんだかんだ仲良いなぁ。
二人は去っていった。
でも、相談事って……事件の予感!(……ちょっとぶりっ子してみました……あは)
「ここが退屈部の部室でーす」
壁を開けたら(変な表現だ)二人は唖然としていた。
そりゃそうだよね……。
「どなたですか?そちらのお嬢さん方は?」
手を二人の方に向けて、キラーンとウインク。
久しぶりに見たわー。相変わらずうざいな、氷。
「えっと……あのっ……」
「ぶははははははっ。何この人っ!?あたしたちは杏ちゃんのクラスメートでーす!あっははははっ」
狼狽える紫音ちゃんと、爆笑する日和ちゃん。
「これはこれは……。僕は花貴氷。杏がいつも……お世話になっております」
僕……おぅえ。こいつが言うと気持ち悪い。というかメンタル強いな。とにかくこれだけは抗議しておく。
「私はあんたにお世話された覚えはないんだけどー!?」
「まあまあまあまあ」
柚兄になだめられた。
「どういう用件でこちらに?」
私たちが揉めてる間に話が進んでいた。
「ちょっと相談事があって……って、庭戸じゃん!久しぶり~」
「ああ、うん……」
庭戸尊は、森浜屈指のマンモス校、守小学校出身だった気がする。日和ちゃんと知り合いでも、まあおかしくはない。少しの違和感は感じるけども。
「相談事というのは……わたしたちが好きな、ネット小説家を探してほしいんです」
ネット小説家……。…………。
「ネット小説家っていうのは、ネットに小説を投稿してる人のことです!」
解説、ありがとうございます。
「どういうのを書いてるの?」
「えーと……異世界転移や異世界転生が中心ですね。少しマニアックだけど、フォロワーは百人くらいいるはずです」
異世界転生……。転移と何が違うんだ……。フォロワーって……。
時代についていけない退屈部のみなさん。
「何故、僕らに?」
「何故かというと!実は、そのネット小説家が森浜中にいるかもしれないからなんです!」
それでも退屈部を頼る理由がわかんねぇわ……。部の存在自体が、公然の秘密化してる気がする。
「根拠を説明してください」
千代さんが無表情で聞く。でも心なしか、目がキラキラしているように見える。
「根拠は、その小説家さんのツイッターです。風景を撮った写真だったんですけど、そこに森浜中周辺の景色が写り込んでいたんです」
「小説家さんは中学生だと公表していて、ツイートの内容が『近くの本屋に行ってきます』だったので、森浜中の生徒だと考えました!」
森浜中学校に、ネット小説家がいる……!?