幕間その2 泣き顔
あー……疲れたー……。
放課後、退屈部の部室に向かう。
体育の後の担任の長い話……。ちょっと遅くなったかもしれない。
だるっとしながら壁を開けた。
全員揃っていた。ほぼいつも通りなのだが……。
氷が声を殺して泣いていた。
「ちょっと……氷、なんで泣いてるの?」
小声で庭戸尊に聞く。
彼はちょっと眉尻を下げて、
「わからないんだよね……。珍しく推理小説……あれね……を読んでたと思ったら、急に泣き出したから……」
氷が読んでいたのは、『泣ける感動作』と話題の推理小説だ。
いつも彼は、謎の原書を読んでいるのだが、今日は違ったようだ。
うーん……。私は氷に近づいた。
「ねぇ。なんで泣いてるの?」
こうなったら直接聞くのが一番だ。
三人から「まじか!?」というような視線が浴びせられる。
「……ごめん。俺……」
そこで彼は濡れた碧眼を拭った。
「俺……人が死ぬところを見たり、読んだりすると、泣いてしまうんだ……。この本、こんな人が死ぬと思ってなかったよ……」
「え……だから、部室では推理小説を読まなかったの?」
氷は赤い目のまま頷く。
「……フランスにいたころに、親友が死んで……まだ夢もあったのにっ……それで……」
「なのに推理小説読んでるの?」
「確かにね。でも……推理小説以外に、面白いものなんてそうそうないから……」
「それはそうですよ!」
「当たり前ですよ!」
「もちろんだよ!」
あ……。声が重なった。ちょっと嬉しいかも。
「良かった良かった……。結構びっくりしたんだぞ」
柚兄は胸をなでおろす。
「ほんとだよ……。失恋でもしたのかと思った」
「なっ……失恋ごときでこんなにみんなの前で泣くか!あと一つ言っておくが、俺は失恋したことがない!」
「……あっそうですかー良かったですねー」
いつもうざくてナルシストだけど……こういう一面もあるってことを確認できた。
氷の推理小説にかける思いを。
まあ……ちょっとだけ好感度あがったかな?
ほんのちょっと、ね。