幕間その1 友達
「前から気になってたんだけど、柚兄ってさ……」
本を目から三十センチ離して読んでいた柚兄が顔をあげる。
「なんだ?」
「……友達いるの?」
ゴホッ、ゴホッ、と激しく咳き込み始めた。
「……し、失礼な……」
「何故、柚さんに友達がいないと思ったんだ?」
「だって柚兄、小学校のころに私物の本が汚されて返ってきて激怒したらしいから。それで孤立したんだってよ。小学校時代はいなかったよね?」
「ま、まあ、それは……」
柚兄は顔をしかめながら肯定した。
「んで、今はいるの?」
「いるわ!」
「いるの!?」
驚愕の事実……。
「杏……さすがにそれは失礼だよ……」
「大丈夫大丈夫。兄妹だし。で、本当にその『お友達』は存在するの?」
「存在するわ!」
千代さんはクスリと笑って言った。
「ああ、なるほど。杏さんは、柚さんのお友達が架空の人間なのではないかと、疑ってらっしゃるのですね」
そうそう。柚兄に友達がいるとは思えないからね。
「で、誰?」
「なんで教えなきゃいけないんだよ……旅里冥、ってやつだ」
誰ーー。
「写真とか……持ってないよね」
「あるぞ」
え……なんで?
私たちが呆然としている間に、鞄からクラス写真を取り出した。
「こいつだ」
柚兄が写真の右端を指さす。
背がクラス一高くて、皮肉っぽく笑っている。正直言って、性格悪そう。
「……類は友を呼ぶ」
氷も同じことを思ったようだ。
「……柚さん。何故持っているのですか?」
そう、それそれ。なんで?
「クラス写真の返却日だったんだよ今日は」
まあ柚兄に『お友達』がいて良かったー。
とりあえず妹としては一安心です。