1 扉を開けるとき 前編 open the door
私の名前は水里杏。森浜市立森浜中学校の中学一年生。言えないくらい背が低くて、ショートボブ(おかっぱではない!)。
そして一番重要なこと。推理小説マニアだということ。
オタクの領域だと自負している。
勉強は……まだよくわかんないかな。運動能力が壊滅的だということは、昔からよく知っている。
私は学区的な問題で、皆とは違う中学校に行くことになってしまった。知ってる同級生が一人もいないという悲しい状況。森浜中はかなり問題のある学校。制服ダサい、校舎ボロい、校則キツい、個人的には遠い、部活動が強制、等々。
だから中学生になったらどっかの部の幽霊部員になって、放課後、図書室でゆっくり本を読む……。
はずだったんだけどね。
四月。
今は放課後の部活動体験の時間である。
で、私が向かっているのは学校の図書室。別に文芸部とか、そこで活動している部があるわけでもない。
率直に言えば、さぼっている。
同級生の誰よりも先に図書室に足を踏み入れたいという欲望に、されるがままにしてやってきた。
……あと、興味のある部活がなかった。
森浜中は教室棟と特別棟が九十度に交わっている構造。図書室は特別棟の一番端の最上階にあるので、すごい不便。どうしてこんな設計にしたのだろう。
図書室に到着した。
そろりと戸を開けたつもりが、グギュイイイイと断末魔の叫びが聞こえた。
「失礼しまーす……」
中には若い(のかなぁ……)司書の先生がいたが、私には気づかなかった。熱心に本を読んでいる。完全なる職務怠慢だ。こんなんで良いのか?森浜中。
図書室は結構広い。凸形になっていて、奥の方はなんだか暗くて見えない。
ほわぁ……。はわぁ……。恍惚の表情を浮かべ、にやにやしながら五十音順に物色する。うわぁ……やっぱ小学校とは違うわ……。
そうしているうちに奥の方に来てしまった。もう小説のコーナーではないのでテキトーに流し見る。失礼だが、誰が借りるんだろう。
すると、一カ所、不自然に本棚がないところを見つけた。
ん?
まさか、ここに死体が隠してあるとか!なんてねー。
と、思ってしまったのも無理はないだろう。(いや、無理がある)
なんとなく押してみる気分になった。その時は軽い気持ちで押しただけだった。あの時扉を開けなかったら、私の中学校生活、どうなっていただろう。
壁を押すと、向こう側へ引きずり込まれた。
???????
六畳くらいの部屋がある。机と椅子が置いてある。うん。何故壁の奥に部屋があるかはおいておくとして……。
人がいる。それも四人。生きてる。
「杏……ああ」
今、うめき声をあげたのは私の兄。水里柚、三年生だ。天パの髪の毛をわしゃわしゃとかき乱している。
「柚兄……?なんで?」
「それはこっちが聞きたいわ!」
「こっ……こっちも聞きたいわ!」
逆ギレされたのでキレ返してみた。
すると、ちょっと鼻にかかった声が聞こえた。
「柚さん……こいつ、誰です?」
こいつとは失礼な。威嚇しながらそっちを睨むと、碧眼の背が高い男子が立っていた。
柚兄が仕方なさそうに答える。
「……僕の、妹。水里杏。一年生」
「妹さんですか」
凜とした声の主は、三つ編みで眼鏡の女子。
「おお、一年生なんですねー」
最後の一人は、ニコニコしている黒縁眼鏡の男子。
「そ、そうです!水里杏です!柚兄がいつもお世話になっております……」
一応自己紹介してみた。
変人だらけだなぁ。自分が言えることじゃないけど。
「それより何ここ!?」
そうだったそうだった。忘れるとこだった。
柚兄がはぁ、と息をついて髪をかきあげた。
「退屈部だよ」