第34話
「いやねぇ思えば遠くに来たもんだとおもってねぇ」
「なるほどねぇ、色々みてきた旅人なわけか」
「ああ、まあなんだちょっと違うけどだいたいそんなもんさ」
「・・・」
「・・・」
そしてしばらくの沈黙がながれたのちに犬の方が口を開く。
「あれ? おまえさんひょっとして俺の言葉わかってる!?」
犬が驚いて顔を近づける、はたからみたら仲のいい飼い主と犬だが実際はあかの他人である。
「おお、落ち着けって近い近い、お前さんが美少女なら悪かないシチュエーションだが」
「おっとすまねぇ、みたところなんらかの術式を展開してるようすもないのに俺達犬の言葉を解してるようだったので驚いてしまったぜ」
犬が前足で顔を掻きながら謝る。
「わりぃな、俺の名前はルータンっていうんだが、兄ちゃんはなんてんだい」
「俺かい? テツっていうんだ、そこの丘の孤児院にやっかいになってるんだ」
テツがそういうとルータンと名乗った犬の頭と喉をワシワシと撫でまわす。
「しっかしモフモフだなおい」
「いやいや、いきなりなんだくすぐったいな」
そんなやりとりをしているとテツがちょっと考えてたずねる。
「なあ、なんもしてないのに犬としゃべれるのってそんなにすごいのか?」
「そうだな、すでに誰かに言われたかもしれないけどダイレクトに話せるやつは人間では希有だぜ?」
「やっぱり、そうなの最近目覚めたばっかりでいまいちすごさがわからなくてな」
「なるほど、目覚めたのか、なるほどないいかい1つ良いこと教えてやるよ」
ルータンが急に真面目なトーンの声でしゃべりだす。
「お、おいどうしたい? 急に?」
その声のトーンにルータンの方に改めて向き直るテツ。
「世の中には、そういう能力を持った人間を神の使い、あるいは神そのものだといって祀りたがる連中がいるからな、そいつらの厄介事に巻き込まれやすいから気をつけな」
ルータンがそういうと、テツが聞き返す。
「たとえば?」
「たとえば、そうだな俺のー」
ルータンが何か言おうとしたときに不意に子どもの女の子の声がそれをさえぎる。
「あー、ルーたんこんなところにいたんだぁ」
その声の女の子は青い髪で黒いローブを羽織り首からはブロンズで造られた木の根を模したような意匠が施されていた首飾りを掛けていた。
「ありがとうね、お兄ちゃんルーたんと一緒にいてくれて」
「お、おうルータンっていうのか可愛い名前だな」
「えへへへでしょう? リータンが考えたんだ」
そう言って無邪気に笑う女の子だが、どこか不穏な気配を感じる、なんだ目が笑っていないこういう場面は早く立ち去るにかぎる。
「そうか、こんな可愛いご主人様がいるんだから俺はそろそろ退散かな、じゃあな」
いそいで立ち去ろうとすると袖をグイっと捕まれる。
「ねぇお兄ちゃん・・・」
「お、おうなんだ」
何か嫌な予感がしつつも返事をするテツ。
「・・・ルータンとお話してた?」
その質問に身体を一瞬硬直させるが咄嗟に答える。
「おいおい、犬とお話できるわけないだろう? こっちが勝手にしゃべってただけだよ」
テツがそういうとしばらく沈黙があったのち・・・
「そうなんだ、ごめんね変な事きいちゃって」
「お、おう今度こそじゃあな」
「うん、またねお兄ちゃん」
そう言ってその場を去るテツであったが、少女の視線をずっと感じているのであった。
「・・・これはヤバいかもな」
ルータンはテツの背中を見て呟くのであった。




