第121話
シノブが削って造った岩のベンチでお昼を堪能しつつ空を見上げると、気持ちのいい空が広がっていて旅で疲れた心を癒してくれていた。
「青いねぇシノブさん」
「青いですねぇテツ様」
「そうだな、どこまででも走っていきてぇな」
「うむ、そうでごさるな」
着物姿の成人男性が横に座っている事以外は。
それは一時間ほど前、お昼にしようと村で購入した食材で造っていたランチを食べていた時である。
「はい、テツ様」
シノブが具材が挟まれたパンを切り分けてテツとスカーに渡すと水筒に入れたスープをそっとテツにわたす。
「はい、熱くなっていますのでお気をつけください」
「ありがとう、シノブさん」
「いえいえ、ほらスカーも」
「ありがとよ、シノブさん」
等々話ながら楽しく過ごしていると、どこらかカラスの鳴き声がカアカアと聞こえてくる。
「おや、カラスですね、動物を見ない程の岩山だと思いましたが、ちゃんといるようですね」
そのカラスはカアカアと鳴きながら上空を旋回しながらこちらの様子を伺っているようであった。
「うーん、これ欲しいのかな?」
テツが手に持っているパンと、上空を飛ぶカラスを交互に見比べるとつぶやくと、シノブの方をチラっと視線を向ける。
「少し不満ですが、テツ様がそうされたいのであれば、何かあれば私がどうにかしますので」
顔をかわいく膨らましてみせると、シノブが影から小さいナイフをとりだしてみせる。
「ありがとシノブさん、おーいそこのカラス、これ食べてみるか?」
テツがそういうと、その声が聞こえてきたのだろう、カアカアとひときわ大きく鳴くとこちらに降りてくると、その姿にシノブはナイフを構えるがテツがそれを制止する、そのカラスの姿は足が3本あって不器用にヨタヨタとこちらに向かってよろけそうになるとスカーがそれを優しく支える。
「ヤタガラスか、これは旅の幸先がいいな」
それを聞いてシノブが信じられないと言った顔で振り返る。
「この姿がですか? どうみても魔物の類いにしか見えないのですが、まぁ魔力は持ち合わせていないようですが・・・」
「確かにな、けど俺の世界じゃ神とか神の使いとか呼ばれてるぜ」
そういうとテツはヨタヨタとよってくるカラスにそっとパンを差し出すと、カアッと一鳴きしてパンをつつき始める。
「お、どういたしまして、たんと食べな」
テツがカラスに向かってそういうと、スカーがさすがにわかるかとつぶやく。
「しかし、飯あげた以上このままってわけにはいかないなぁ、おまえついてくる?」
「テツ様?」
シノブがそういうとテツが頷く。
「まぁ、神の使いとかいわれているけど、実際は仲間ハズレだろうなぁ、それにうまくエサもとれないだろうし」
テツがそういうとシノブはふう、と溜め息をついてカラスに近づき頭をなでる。
「カラスさん、一緒にいきますか? テツ様がそうおっしゃってますから」
シノブがそういうとテツの方に振り返り名前はどうするかとたずねてくるので、空をあおいで考えると答える。
「そうだな! やっぱりヤタガラス! それしかないな!」
テツがそういうと、カラスはカアカアっと声高く鳴くとまばゆい光に包まれはじめると一人の男性の姿をとりはじめる、それは着物を着て、腰に刀を差して長髪長身の美男子であった、髪と瞳は紫色で神秘さを感じさせていた。
その様子を見て三人がポカーンとしていると、男性はテツの前に膝まづき向上を述べる。
「テツ様、今回は名前を頂戴して恐悦至極、このヤタガラス三本目の足を刀とかえましてお守りしとうございます」
そういうとヤタガラスと名乗る男性は立ち上がり涼しげな笑みを浮かべるのであった。