閑休話 旅立つ前の事後編 第102話
「そろそろリハビリの時間も終わり、ちょっと汗ながしてくるわ」
テツが時計に目をやると、ブラウンとミュウとの談笑をすますとシノブに脇を持ってもらい歩きだすと、またなと手をふる。
「そうか・・・、はやく良くなるといいな」
「テツさん、リハビリ頑張ってくださいね」
その言葉に手を振って応えると間じゃ用の湯船に向かうのであった。
「あの・・・よかったのですか?」
「うん、ああなんというかなまぁ」
「そうですか・・・」
「わるいな」
「いえ・・・」
そう言うと看護師にテツを預けて部屋の手前で待機するのであったが。
「あの、看護師さんちょっと」
シノブはそういうと決意を固めた表情をして、看護師になにやら話をするのであった。
湯船で椅子に座らせて看護師さんがちょっとまってくださいと席を立つことしばらくー。
後ろから誰かが入ってきた気配がしたのでテツが後ろをふりかえるとー。
「お背中おながしします、テツ様」
看護服を着たシノブが立っていたのである。
「シノブさん!? ちょっと?」
テツが後ろを振り返ろうとすると、そのままシノブはテツの背中を押して、そのまま後ろを振り返させず背中を流し洗いはじめる。
静寂の中、背中を流す音がゴシゴシゴシと響く時間が過ぎる間テツの頭の中はグルグルと回っていた。
"あぇー、なんでシノブさんが!? 漫画くらいでしか知らないぞ!?"
等々考えているとシノブが口を開く。
「私ではだめですか? テツ様、ミュウ様を慕っていたのはわかっておりますが、私も・・・」
シノブの告白に頭がさらに回らなく中、一言やっと絞り出す。
「いつから・・・?」
テツのその言葉にシノブが応える。
「ガイア教の時、貴方は私の力を否定せず凄いって喜んでくださったでしょう、単純だと言われればそれまでなのですが、ブラウン様やマエダ様以外に言われた事はなかったものですから・・・」
シノブの答えにテツは頭をフル回転させる、頭の中を探る。
"やっぱりこのセリフか、並なセリフだけどこれしかないか"
「ありがとう、でも今は応えられないゴメン」
「いえ、こちらこそすみません、でも・・・」
シノブが一呼吸おいて間をおくと、それを気にしたテツが後ろをふりかえる瞬間、背中をバシンっと叩く。
「ハツネ探しの旅でかならず、貴方を振り向かせて見せます、そのためにも同行を願いでたのですから」
シノブはそういうと立ち上がり、痛がるテツにいたずらっぽく笑うと看護師さんを呼んで交代するのであった。
「いやー、しかしお兄さん青春してるねー」
看護師の男性がテツの身体を支えながら服を着させる時に笑いながら喋りだす、歳は50くらいの中肉中背のありふれた男性であるが、その笑みは嫌味等はなくむしろ爽快感さえあった。
「いやー、青春なんすかねこれ・・・」
テツが困惑気味にこたえると、ウンウンとうなずいてこたえる。
「青春も青春、ド青春じゃないか、いっつもテツ君の世話をしてくれる女の子、シノブちゃんっていったけ、アンタしか見えてない感じがスゴいするよ、そして肝心のアンタの方は違う人が好きって感じなんだろ? それこそド青春じゃないか、50とちょっと月日を重ねてきた俺がいうんだ間違いない、だからこそ大切にしてあげなよ?」
その自信タップリにドヤ顔する看護師を見て、何か頼れるモノを感じたテツ、ここ最近イロイロあってまいっていた心が少し軽くなった気がして、ありがとうと短く礼をいうのであった。
それからは少し心が軽くなり、毎日リハビリにいそしみ、退院が近くなった頃である。
「テツお前にやっとこれを渡せる」
ブラウンはそういうとテツに金の鎖をつけた銅のメダルを手渡す、それはハトが枝を咥えた柄が彫られていた。
シノブがそれを見てハッとする。
「ブラウン様これって・・・」
驚くシノブを見て頭にハテナマークをつけるテツ。
「シノブさん、これってそんなにスゴいの?」
その不思議がるテツを見て、何故か満足そうにうなずいて説明をしだすブラウン。
「いいだろう、教えてやるぞテツ、それは爵位を表すメダルよ、位ば男爵! 故に貴様は今日から晴れて貴族の仲間入りよ!」
その言葉と突然の事に一気に理解力を越えて頭から煙を吹き出す。
「うむうむ、頭から煙をだすほどウレシかったか、よいよい、まあ真面目な話、ハツネ探しの旅にいくなら爵位くらいは持っておかないとな、そのほうが情報も集まりやすい」
ブラウンが満足そうにうなずくと、テツに改めて頭をさげる。
「この度は我がメイドが迷惑をかけてすまなかったな、しかもそれを探させて」
「かまわねぇよ、こん中でまともに動けるの俺くらいだろ? 気にするな」
テツが軽くウィンクすると、ブラウンは安心したように頷く。
「なら、安心ついでにいいかい?」
すると足元から声がするので下を見るとそこにはシェパードのスカーが足元にすり寄っていた。
「おお、スカー久しぶりだなどうした?」
テツが屈んでスカーの頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾をふる。
「よぉ、刺されたって聞いて心配していたが、案外元気そうだな」
「あら、確かスカーでしたっけ? お久しぶりですね」
シノブがそういうと、スッと喉を撫でてやると嬉しそうに、クゥンとひと鳴きする。
「おっと、用件を忘れるとこだった、ハツネ探しの旅、俺も付き合うぜ」
「いいのか? お前たしか街のまとめ役だろ? いいのか?」
「かまわねぇよ、それにアンタといたら退屈せずにすみそうだし、後継者はちゃんといるからな安心しろ、それにこれはゼウの願いでもある」
テツがそれを聞いて聞き返すとスカーがああと頷く。
「ああ、自分はミュウから離れるわけにはいかないからとお願いされてな」
「そっか、ありがとな」
「ああ、まあそれは後でゼウに直接いってくれや、まあよろしく頼むわ」
そういうとスカーは、ワンとひと鳴きするのであった。