新生活4
わだかまりが溶けたあと、夕食の片付けをして、アランに明日の説明をした。
「アランにやって頂きたいのは、畑の整理です。畑の場所は…」
「わかります。窓から少し見えました。今までお一人での管理は大変だったでしょう」
そうなの!そうなのよ!大変で大変で、大変だった。とにかく大変だった。ソレーナと二人暮しの時でさえ大変だったのだ。分かってくれて嬉しい。
「とりあえず、明日の作業は畑のみです。管理が行き届いたら、多少放っておいても平気なので、その時にまた別のお仕事を頼みますね」
「分かりました。薬草の扱いはどうしましょう?」
先程の言い争いにも及ばないぶつかり合いは、多少なりとも二人の距離を縮めた。出会った頃は、とても遠慮していて、私を探っているような気配だったのだけれど、今は全く違う。なんか、信頼されている感じがするのだ。まだ一日しか一緒にいないから考えすぎだとは思うのだけれど、先ほどより遠慮がないというか、本当に対等な存在になれたと思うのだ。
「危険な薬草はありません。管理する薬草を表にまとめたので、これを参考にしてください」
字が分からなくてもいいように、頑張って絵を描いた。その横にはこの世界の字で説明をしている。読めたらの話だが。
「分かりました。とてもわかりやすい表ですね。見分けやすいように絵も描いて下さって、これなら問題なさそうです」
そう笑って、説明文を読む。どうやら文字は読めるそうだ。
「良かったです。基本は以上です。よろしくお願いしますね」
説明を終えた頃には、すっかり夜も更けていた。しまった…。まだお風呂入っていない…。アランには入らせたけど、もう湯も冷えているだろうし、暖め直すのもなんか面倒だ。仕方ない。水浴びでもするか。
「ときにイツキ」
「はい」
「あのお風呂というものはいったいどのような仕組みなのでしょう?」
「えと…、仕組みと言いますか…」
お風呂。お湯を沸かせ、体を清潔に保つだけではなく、心身の疲れを取る、日本のを代表するものだ。仕組みは知っての通り。お湯を沸かすだけ。ただ、この世界にはお湯の中に浸かるという概念がないらしい。これを作りあげた時はソレーナもたいそう驚いていた。お風呂が出来上がるまでどうしていたかと言うと、まあ、濡れた手ぬぐいで体を拭くぐらいだ。水浴び出来るところはあるのだが、往復2時間かかる距離にある。さすがにそれはきつい。さらに言うと、源泉ではなく、ただの冷たい湧き水だ。
「…。すみません。イツキにも言えないことがありますよね」
「言えないんじゃなくてですね、その…お湯を沸かしただけなのですが…」
アランは予想通りの表情をする。それもそうだ。お湯を沸かして浸かるなど、発想が奇想天外なのだ。例えるなら、そう。ケーキの中にダイブするような…。例えが悪かった。つまり、常識人ならそうそう思いつかない事なのだ。
「お湯に、私は、浸かった…?」
独り言のようにブツブツ呟き、考え込むアラン。きっとアランは私が水に何かの魔法をかけたのだと思っていたのだろう。それがまさか、水を熱したお湯に浸かっていたとは青天の霹靂だったろう。やっぱり言わない方が良かったのかもしれない。夢は夢のまま持たせた方が…。
「素晴らしい」
「はい?」
「素晴らしい…!何故思いつかなかったのでしょう!お湯に浸かるだけで、こんなに疲れが取れる、こんなにも癒される!」
アランの興奮する姿なんて初めて見た…。出会って1日だから、当たり前なのだが、どこぞの貴公子のような彼が、手を広げ、目をキラキラさせて。場が場なら、最も注目させるだろう。
「気に入っていただけで良かったです…」
目を逸らしつついうと、アランは満面の笑みでありがとうございますと言った。
ああ、これはやばいと思った。彼の笑みは、下手すれば町中の娘が卒倒するほど、美しかった。元々美形ではあるが、本当に美しいのだ。漫画があるなら、バラが飛び散りそうな、よくわからないキラキラが飛び出しそうな。そんなうつくしさだった。本当にあの値段で買えたのか疑いたくなってくる。この美形を手に入れるためにお金を積むご婦人や、貴族はごまんといるのに…。朝目を覚ましたら、全部夢で、また一からバイトを探さねば行けない現実が待ってるんじゃないかと不安になる。そうでなくとも、私が彼を……。やめよう。不安になったってどうしようもない。
「それじゃあ、また明日」
「はい、イツキ。また明日」
私たちは各自の部屋へと戻って行った
部屋に戻ったイツキ
「はっ!!!お風呂!!!」
明日の更新はお休みです。みなさん良い週末を