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和装女子は異世界で魔女になる  作者: エンジェルミート
8/21

新生活3

夕食は少し豪華に仕上げて、アランの部屋に向かう。


「アラン。夕食が出来ました」


扉の前で声をかける。するとバタバタと物音が聞こえて、ガチャりと扉が開かれた。寝てたのだろうか。髪が少し乱れている。だとしたら申し訳ない。


「夕飯を用意したので、一緒に食べませんか?」


一応聞いてみる。


「頂いてもいいんですか?」


「何回も言ってるじゃないですか、最低限の生活は保証します。そういう契約ですから」


そう言って笑うと、アランは顔を伏せる。


「いい匂いですね」


と一言呟いた。

その言葉が少しだけ嬉しかった。


食卓について夕食を口に運ぶ。豪華な食事といえど、品数は少ない。仕方ないだろう、未だに慣れないのだ。日本で祖母に仕込まれた技術はあまり通用しない。味付けも向こうとは全く違うのだ。加えて味噌も、醤油も、出汁もないとなれば、料理は絶望的。塩と砂糖しか使えない状況だ。まあ、その味も慣れたが…。


「口に合う味ですか?」


「…とても」


優雅にフォークとナイフを使い、夕食を噛み締めている。


「良かったです」


そうだった…。アランは美形なのだ。服は庶民的だが、無駄な動きがない食べ方はいったいどこぞの貴公子だ。きっと高等な教育を受けていたのだろう。テーブルマナーを全く知らない私から見ても、上品に食べるものだから。


「あの」


「…はい?」


口に運ぼうとしたスープは、アランによって止められた。


「イツキ様は魔女…なのですよね?」


「…魔女見習いです」


訂正するの地味に傷つく。


「失礼しました。ここにはイツキ様お一人でお住いに?」


なるほど、これは質疑応答タイムだ。いきなり買われて、連れてこられて、何も説明なしにはいかないだろう。


「いいえ、半年前に師匠、つまり魔女がいたのですが、亡くなりました」


「申し訳ありません…」


聞いたことを後悔するように、こうべをたれる。


「いいんです。もう半年前ですから。今日から、アランもいてくれることですし」


労働には困らない。


「イツキ様…」


「他に何か聞きたいことはありますか?」


「…」


「服装に関しては今は答えません。明日のことはこの後話します。今思いつかなくても、いつでも質問してくださっていいですよ」


着物に視線を感じたので、先手を打った。地球のことは話せないが、遠い故郷の伝統服、という設定にしておこう。


「ありがとうございます。イツキ様」


「…お願いがあるのですが、アラン」


「なんでしょう?」


心なしか、アランの目が輝いて見える。


「そのイツキ様というのはやめて頂けませんか?イツキでいいので」


もう日も暮れた。一日近く過ごしたのだ。最初は心を開いてくれるまで敬称に関してはスルーしていたが、やはり耐えられない。「様」を付けられるほど、私は偉くない!気を楽にして欲しい。敬称なんて仰仰しくてたまらない。


「なぜですか?イツキ様は私を買ってくださったご主人です。敬称を付けるのは当たり前のこと…」


「いいですかアラン!!!私達は主従関係ではありません!!!対等なんです!あなたは友達に敬称を付けるのですか!?」


主人と言われて、何かが爆発した。音を立てて立ち上がり、テーブルに身を乗り出す。


「私はあなたを権力で拘束することはないし、あなたを縛ることもしない。逆に、アランは私に文句を言ってもいいし、不満があるなら行動に起こしてもいい。私たちは対等なんです。対等でありたいんです」


だんだんと勢いをなくし、自分の席に着く。


「この世界の当たり前なんかに、私を置かないで」


勢いを無くした私を心配したのか、今度はアランが立ち上がって私の元へ来た。


「申し訳ありません。イツキ様、いえ、イツキさん」


「さんもいりません。敬語も…」


「では、イツキ、あなたも敬語じゃありませんか」


「わ、私はいいんです」


「そうなると、私はイツキ様と呼ぶ他ありませんが」


「ど、どうして!」


「敬語は性分です。お許しください。イツキ」


どうやら、アランは私よりも幾分か大人なようだ。

自分が恥ずかしい。ダ駄々を捏ねて、アランに慰められるなど…


「分かりました」


「イツキこそ、私に敬語は不必要では?」


「性分です。諦めてください」


せめてもの抵抗だ。先程のアランのセリフを借りた。

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