新生活
アランが我が家にやってきた。
街で買い足したものを片付けて、アランに我が家を案内する。案内するほどの広さもないのだが。
「さぁ、アラン。ここがあなたの部屋です」
かつて、ソレーナの部屋だった。
「このお部屋を頂いていいのですか?」
「はい。というか、残りの部屋がここしかないの」
一切散らかっていない部屋。ソレーナが死んで、私が頑張って掃除したのだ。アランに害のあるものは、多分…ない。なんせ、ソレーナは危ない魔法器具ばかり作っていたからだ。私もそれの扱いにたいそう苦労した。魔法石を作ればいいのに、発明家になってやる!と意気込んで、よく分からないものを作っては壊し、作っては壊し、いつの日だったかこの部屋の天井を突き破って半壊させたことがあった。
懐かしい思い出。
「イツキ様?どうかなさったのですか?」
「いえ、なんでも」
おっと思い出に更けている場合ではなかった。
「今日はもう遅いし、もう休んでいいですよ」
「いえ、今日から働かせてください」
いやもう充分働いてもらった。重い荷物持ってくれただけでも有難い。あれで半月は持つ。食い扶持が増えたから減りが早いかもしれないが。
荒れ放題の畑だが、どんな風に整理するのかをまだ全く考えてなかったし、指示もなしに整理してもらうのはちょっと怖い。場所を変えられたらたまったもんじゃないし、危ない薬草だってある。
「大丈夫です。私も準備があるので、今日はゆっくりしてください。お風呂沸かしておきます」
入浴の時間にしてはまだ早いが、疲れを取ってもらおう。明日から働いてもらって、徐々に慣れて貰えばいい。
「それじゃあ、後で呼びに行きますね」
私は安心させるように笑って、自室へ戻った。
作業椅子に座って、私は大きなため息をついた。
「やってしまった」
猛烈に心が重い。奴隷を買ってしまった。労働者を雇ってしまった。私まだ19よ!?成人してないのよ?いくら安かったとはいえ、目が合ったとはいえ!しかもこの国で生まれ育った訳でもないのに!頭を抱える。本当に大丈夫なんだろうか。いや、安全面はなんとかなる。だが…、まだ19の私が雇用主でいいのだろうか。
「……」
過ぎてしまったことは仕方ない。後悔してる訳では無いが、どうしようもない不安に駆られる。そうだ。この不安は、新しい何かを始める時に感じる不安だ。
一度深呼吸をして、気分を落ち着かせる。
大丈夫。大丈夫。
「ここで生きなきゃ行けないんだ」
この世界に慣れなきゃ行けないんだ。
「お風呂沸かそう」
新たに決意して、ふろ場に向かった