購入と見せつつ契約3
無事に契約を結んだ私達は、買い物を続けようと活気のある街に戻った。まずは食材だ。卵、肉、パン。貴重なタンパク源と炭水化物をありったけ購入した。今までは私一人で、荷物に限界があったが、今はアランがいる。なんて楽なんだ。一人増えただけでこんなにも変わるとは。やはり、労働力があると楽に思える。
「アラン、重くないですか?」
すこーし、多そうな荷物を持つアランに聞く。
「大丈夫です。イツキ様」
積み上げた荷物の隙間から、顔を覗かせて返答した。
「そう。もう少し頑張ってください。最後の買い物ですから」
最後の買い物は言わずもがな、アランの服だ。沢山荷物を持たせてちょっと可哀想だが、服を買うついでに、ご飯屋さんで美味しいご飯をたらふく食べてもらおう。アランが格安だったおかげで、懐はまだまだ余裕がある。
「おじさんこんにちは」
「へいらっしゃい。あん?嬢ちゃん旅のもんかい?ならいいのがあるよ」
「いえ、彼の服を見繕って欲しいんです」
「イツキ様!?」
アランは慌てて私を呼ぶ。予想だにしなかったのだろう。だが、いくら止めても譲れない。さっきからチラチラと視線を感じていた。もちろんこのローブからチラリと見える着物が原因だと考えたが、私への視線ではなく、後ろを歩くアランへの視線だった。本当は家に帰って、ソレーナの服をちょっと変えてアランに着せるつもりだったが、このままだと視線が痛い。お金にも余裕があるし、このまま服を買って、アランに着せて帰ろうと思ったのだ。そんなの魔法で解決すればいいと思うかもしれないが、魔法だってタダじゃない。魔法を一つ使う度、何かを代償にしなくては行けないからだ。
「ほーう。こりゃまた美少年だな」
全くもって同感だ。
「服一式、三コーデを買い取ります。彼に似合う服を選んでいただけます?」
「まっかせっとけ!」
店主は意気揚々と、裏に積んである服をひっくり返す。
「イツキ様!いけません!」
「どうして?」
「私は奴隷です!!服も靴も必要ありません!イツキ様の手を煩わせるほど、ボロボロではありませんし」
「私があなたにはしてあげたいんです。奴隷なんて言わないで。それにさっきからチラチラ視線を感じていたし。着てくれたら嬉しいです」
素直にそう言うと、アランは小声でありがとうございますと言った。
私の着物を貸してあげてもいいけど、この世界に存在しない服なんて着づらいだろうし、「貸す」なんて言ったらさらに萎縮されそうだし。
しばらく時間が経って、天幕の裏から店主が顔を出した。
「お待たせよ!これでどうだい!!」
店主が持ってきた三つのコーデは、どれも感嘆するものばかりだった。古着のくせにいい服じゃないか。
店主にお礼を述べて、お金を払い、早速、アランに一式着替えてもらった。
「こりゃたまげた…」
ちょっと店主、仕事に戻りなさいよ。
でも店主の言った通りだ。
「イツキ様…その…」
服を変えただけでこんなにも人間変わるものなのね。
「アラン、よく似合ってます!!」
興奮を抑えられず、アランの両手を握りしめた。
「とってもかっこいい!!!!」
地球にいた時だって、こんな人いなかった。いや、アランは元がいいのだろう。黄金に輝く癖のない髪と、すらっと通っている鼻。晴天の青空のような青い瞳と、穢れのない雪のような白い肌。アランが女性だったら、傾国の美女にでもなったんじゃないのかと思えるほどに…。
頬に刀傷が有るけれど…。
「やっぱりその傷も消してあげられたら良かったのに…」
本日2度目のセリフを吐く。
「いえ、イツキ様。私は今、この上なく幸せです」
その笑顔は、天使が微笑んでるかのようだった。嵐が去った後の空のような、色とりどりの花が一斉に咲き乱れるような、そんな優しい笑みだった。
「嬢ちゃんよ」
店主が私の肩に手を置いて囁いた。
「こんないい男逃すんじゃねーぞ」
余計なお世話だ!!!!!!
「ありがとうございました!」
失礼な店主に赤い椛をお見舞して、アランと共に帰路に着く。
その際、先程とは違う視線をチラチラと感じた。
どうあっても目立つのね…。
アランに気づかれないよに、小さくため息をついた。