バイト探し
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終わり、作業に取り掛かる。作業と言っても、薬草畑の整理や、薬草を摘んでポーションを作るだけなのだが、
「さすがに1人じゃ手が回らなくなったなぁ」
薬草放題の畑を見てため息をついた。
ソレーナが死んで半年。なんとか一人で薬草の手入れやポーション作り、鉱物を見つけてお守り作りなどで生計を立て、修行に勤しんできたが、それも限界に達している。
「バイトでも雇おうかな」
ひとり呟いて、そうしようと頷く。
「よし!そうと決まれば早速準備しなくちゃ!」
外出時には必ずローブをはおる。着物だとだいぶ目立ってしまうからだ。この世界の服を着ればいいのにとソレーナに言われたことがあったが、こればかりは譲れない。ちなみにこちらの服は、中世ヨーロッパのようなドレスを主体とした服だ。けれど、歴史の資料集とかで見る服とは少し違うかもしれない。なんというか、RPGのような武装服でもなく、かといってクリノリンを着用しているようなシルエットでもない。西洋ファンタジーに疎い私がどうこう言えたものでは無いが、地球のワンピース型によく似ている。まあ、私は着ないので関係ないのだけど。
ローブをはおり、お金などを持って森を出る。
「バイトを探すついでに食料品も買い足そうかな」
肉、卵、チーズ、パン。指をおりながら買い足すものを考える。久しぶりの街だ。街医者達に足りない薬草なども聞いておこう。その情報を元に、街や店で薬草を売る時に役立てているのだ。市場に出回っていない薬草ほど価値が高くなる。
「早くあの畑どうにかしないと」
考えるだけで頭が痛い。好き放題生えてる薬草畑。あれだと、おちおち修行もしてられない。
そうこうしてる間に街に出た。
「賑わってるなぁ」
まだ、午前中だと言うのに。
「さて、まずは紹介屋に行こうかな」
紹介屋。いわゆる仲介業者だ。求人情報を更新して、働き口を提供する。ソレーナと1回行ったことがあるだけだ。あそこの店は夫婦2人で切り盛りしている。そして、ソレーナに恩を感じているらしい。かつて、店主であるご主人が病に倒れ、ソレーナが救ったことがあるらしい。
店について、扉を開けた。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは」
「あらあら、ソレーナさんところのイツキさんじゃない!お使いかしら?ソレーナさんはお元気?あーそうだわ!この前美味しいお茶っ葉を頂いたのよ!お土産に持ってくださいね!」
噂のお茶っ葉の袋を渡され、店主の妻であるニーナさんに手を包まれた。
「今日はどんなご用事かしら?ソレーナさんの頼みならなんでも叶えて差し上げたいわ。あ、でも大抵の事はソレーナさん一人で出来ちゃうわね」
「……」
「あら、どうしたの?」
しまった…。ソレーナのしをしらない人がいる所に足を踏み入れるんじゃなかった。
魔女の死を一般人にこんな風に知られる訳には行かない。公表という形で知らされるのは次の秋の魔女会合だ。最近引きこもりがちでこんな大事なことも忘れていた。迂闊だった…。どうしよう。どうやってこの状況を乗り越えよう…。この優しいご人になんて言えばいい…。
「まあまあ、ニーナ。落ち着きなさい」
私が黙りこくってしまったからか、奥からこの店のご主人、エドガーさんが顔を出した。
「イツキさんも驚いているだろう」
奥から顔を出したエドガーさんは貫禄のある顔立ちをしていた。以前お会いした時と何一つ変わっていない。
「まあ、あなた。これが喜ばれずにいられますか?」
喜びを隠さないその声は、私の心に刺さった。
ごめんなさい。言えないんです。
「突然お訪ねしてすみません。特に用がある訳でもないんです。お二人のお顔を見たかっただけでして」
ソレーナの死をお伝えすることは出来ないんです。
「お元気そうでなによりです。以前師匠と来た時に、とても良くして頂いたので」
この世界が好きかと言われたら「いいえ」と答えるが、それでもここの人たちには少なからずとも情がある。ここは、さっさと退散しよう。
「まあ!なんて可愛いの!?ソレーナさんもこんな可愛いお弟子さんを持ってさぞ幸せでしょうね!」
「そんなことありませんよ。不出来な弟子です。お茶っ葉ありがとうございます。師匠に渡しておきますね」
「あら、イツキさんも一緒に飲んでくださいな。疲れが取れますよ?今度感想を聞かせてくださいね」
「ありがとうございます。美味しく頂きますね」
早口で言って、店を出た。
もう、会うことはないだろうと胸に決めて。そして、もうこんなミスをしないように心に刻んで。
ソレーナは街のみんなに愛されていた。国も彼女を重宝していた。尊敬する私の師匠だ。けれど師匠が居ない今、私は何も持っていない小娘。そんなことソレーナが死んだ時から知っていた。今までずっと彼女に守られてきた。それを再確認しただけだ
「バイトどうしようかなぁ」
紹介屋にはもう頼れない。別の紹介屋に頼んだとしても見つかる確率は少ないだろう。なんせ低時給重労働じゃあ誰もやりたがらないだろうし。
「はぁ」
街中で一人ため息をつく。この街で私は一人。
「なんで死んだのよ。ソレーナ」
「はい!らっしゃいらっしゃい!今日入った奴隷だよ!」
俯いて歩いていたら、いつの間にか奴隷市場に入ってしまったようだ。
いけないいけない。大和撫子たるもの奴隷市場に足を踏み入れるなど。
この世界では奴隷は合法的に扱われている。奴隷とはいえど、鞭で叩かれながら家畜同然に扱われる訳では無い。この世界は、奴隷は労働力として認識されている。奴隷商から一日借りて仕事をさせたり、期間を定めて仕事をさせたり臨時の労働戦力として重宝されるのだ。地球の派遣社員のようなものである。だが、奴隷は自分から仕事を選ぶことが出来ない。どんな仕事をさせられるかは、依頼者によるという訳だ。そして、奴隷と言われるぐらいだから売買もできる。金額はピンからキリまで様々だ。
派遣社員のような組織とはいえ、早くこんな所出よう。日本で育った私にはまだこのシステムは慣れない。
踵を返そうと振り向いた瞬間。ある奴隷と目があった。