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和装女子は異世界で魔女になる  作者: エンジェルミート
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第一章 異世界で着物女子

明日から学校が始まる。高校生活最後の年だ。大学はどうしよう…。進路説明会とか多くなるんだろうな。嫌だなぁ。毎日着物を着て過ごしていたいな。でも友達には会いたいな…。時間なんて進まなければいいのに。そしたらおばあちゃんも死ななかったのに…。


「…」


眩しい朝の陽気に私は目を覚ました。


「久しぶりに見たな。あっちの夢」


今日も今日とて、私、鷹島樹月は異世界で目を覚ます。ベットの向かい側には、祖母が遺してくれた着物が入った大きな桐箪笥。

体を起こし、寝間着を脱いで、昨夜用意した黄色の半襟の付いた襦袢をはおる。腰紐を結び、青の小紋の長着に袖を通した。


もう一度言おう。私、鷹島樹月は異世界で目を覚ました。そう、私は一年前、日本という場所からこのヴィラルカル国に桐箪笥ごと転移してしまったのだ。唯一の家族の祖母が遺してくれた着物と桐箪笥。日本では、休日には着物を着て過ごすのが私の習慣だった。けれど、祖母が亡くなってちょうど一年。一回忌を迎えた日、私は異世界へと飛ばされてしまったのだ。

私がいったい何をしたというのだ。大学生活に胸を踊らせ、祖母の死も乗り越えられそうだったのに、何故私がこんな、馴染みのない、西洋ファンタジーのような世界に飛ばされたのか…。全く神様というのは分からない。そもそも日本の伝統を愛している私に、西洋の街並みや服装、文化をどうしろというのだ。生まれも育ちも日本の私に適応能力を求めるな。


そうこう悪態を着いているうちに、身支度が完了した。

唯一の救いだったのが、この着物達だ。この西洋に強制に飛ばされても、日本の心を忘れずに居られる。姿見に映る自分を見て、今日も一日頑張ろうと意気込んだ。


下駄を履いて、階段を下りる。私が住んでいるところは、私を拾ってくれた魔女が住んでいた家だ。ここは深い森の中にあり、滅多に人が来ない。魔物なら頻繁に出てくるが、魔女の結界により一定距離を保っている。

私を拾ってくれた魔女。ソレーナ。お察しの通り、この世界には魔法が存在する。なんてファンタジーなんでしょう。私とは縁もゆかりも無い世界だったはずなのに。話は戻るが、魔女といえど人を呪い殺したりはしない。童話の悪役でもない。魔女とは、魔法を研究する、国が認めた研究者である。役に立つ魔法の発明、従来の魔法を進化、ドワーフやフェアリーの新種など、研究は多岐にわたる。そして、驚くべきことに、人々の生活にも魔法は当たり前のように存在する。地球のように、ガス、電気、水道、どれも通っていない。では、どうするのか。魔法石という便利なアイテムが普及しているのだ。人々はその魔法石により、日々の生活を営んでいる。そして、ソレーナはその魔法石を生産する魔女だった。


1階に降りた私は、魔法石を駆使して朝食を用意する。


忘れもしないあの日の出来事。私を拾ってくれたソレーナは、私に魔女の弟子ならないかと勧めてきた。もちろん断った。日本から来た私に魔法なんて使えるわけがない。そもそも、この世界のことを何も知らないし、馴染めない。出来ることならその魔法とやらで元の世界に戻して欲しいと頼み込んだ。しかし、それは不可能だとソレーナは言った。あの絶望といったらない。まるで、地面がぐにゃぐにゃになったような、自分の足が自分のものじゃないような感覚に襲われた。何もかも信じたくなくて、これが夢なんじゃないかと、森中を走り回った。途中で魔物に襲われ、喰われたら目が覚めるんじゃないかなと自棄になり、気を失った。けれど目覚めた場所はこの魔女の家で、信じたくなかったけれど、これが現実なのだと悟った。そして、魔女に弟子入りし、魔法とは何たるかを教わり、この世界に馴染んで行った。そして、ソレーナは死んだ。

半年前のことだった。


「もうここに来て一年過ぎたのね」


向こうはどうなっているのだろうか。行方不明扱いになっているのか、死亡扱いになっているのか。もう考えたところで何もできることは無い。ここで生きていくしかないのだから。けれど、この着物達が証明してくれる。私は日本人だったと。帰れない故郷に胸が痛むけれど、祖母が遺してくれた者達が私を励ましてくれる。そんなこんなで、今日も魔女見習いとして一日を過ごすのだ。


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