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かくして日々は特別であり続ける

寝坊の少年

作者: どこぞの街角

 まさに、“絶望の起床”と言えよう。


 目覚まし時計が課せられた仕事をとうとう放棄し、ふて寝を決め込んでしまったのではないかと、疑いと恨みの目を向ける。しかし、そいつは既に俺の起きるはずだった時間を過ぎてしまったことを、殊更に強調する様に、その指で指し示すだけだ。

 その指が、俺を嘲笑するために向けられた人差し指だと錯覚を起こすのは、俺がまだ寝ぼけているからだろうか。


 いやいや、そんなはずはない。

 予定時刻よりも一時間も遅くベッドから背中を離すことになるなんて、荒唐無稽な四方山話の類である。むしろ、河童や天狗のような妖怪の親類である。はずだ。


「あー……」

 眼を覆うように手を顔に乗せ、天を仰ぐ。俺が、何をやったっていうんだ。

 今、やらかしているのは寝坊だけど。

 矮小な俺を形容するようなしょうもないことを考えるぐらいには、不思議と俺は冷静だった。冷静というよりは、ただ感情が冷え切っているだけなのかもしれないが。

 もはや、死に絶えている。何故なら既に、予定が死にかけているのだから。

 

 カーテンから差し込む日差しが煩わしい。元気に声をかけあう鳥たちの微笑ましいワンシーンでさえ、陰鬱とした視線をぶつけてしまう。

 今後のことを思うと、「何か突然何かが爆発しねーかな」とか、偏差値の低空飛行を極めたような思考が脳裏を支配する。


 こんなことをしている場合ではないことなど、百も承知だ。今すぐ準備に取り掛かった方がいいことなんて、聡明叡智の真反対の座標に陣取っている俺でもすぐに分かる。

 けれども、この現時刻が、俺の身体の自由を奪う。


 携帯の通知音が、やけに恐ろしく響いた。

 悪い想像はどこまでも膨らんでいく。そのまま俺を乗せて、どこへでも連れて行ってはくれまいか。

恐る恐る、内容を確認する。

 普段あまり通知を口ずさまない俺の携帯が唐突に歌い出すときには、それは決まって悪い知らせであると、俺は経験則から学んでいる。

 そして今回も、分かってはいたことだが、その統計に準ずるものであった。


 再び、天を仰ぐ。

 約束の時間になっても、就寝時と変わらない天井がそこにはある。

 俺の命は、今日までかもしれない。

「必ず、帰るから――」

 約束の誓いか遺言か。むなしく布団に受け止められた俺のつぶやきは、車道を走る大型トラックの走行音によって、最後まで誰の耳にも届くこともなかった。


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