土地神様と悪役令嬢
とんと昔のことじゃったそうな。
ある所に悪役令嬢がおってな。
名をアレクサンドラ・レゲンデーアと言うそうじゃ。
何でもリュート国のアガラロ王太子の婚約者だったそうじゃ。
この悪役令嬢が、アリアンナ男爵令嬢を虐めたそうじゃ。
アガラロ王太子がえろう怒ってな。
卒業パーティーで皆の前で断罪したんじゃと。
「ワシの好とる女子に何してけつかるねん!!」
と、えろう怒ったそうじゃ。
そうしてな「顔も見とうない!!」と言ってな。
いくらアレクサンドラが、やっとらんと言っても聞き入れてもらえなんだと。
アレクサンドラは、城から囚人用の馬車に入れられて【妖魔の森】に捨てられたそうじゃ。
【妖魔の森】は霧が非道てな迷い込んだら二度と出られんダンジョンなんじゃ。
アレクサンドラ伯爵令嬢はえろう困ってな。
なんせ卒業パーティーのドレスのままじゃ。
魔獣のいる森にナイフ一本持っておらん。
しかも靴は踵の高いダンスシューズじゃ。
アレクサンドラは靴を脱ぎ捨て、ドレスを引き裂くと足に巻いたのじゃ。
それでてくてくと森の中を歩いたそうじゃ。
歩いても歩いても森は抜けることはできなんだ。
喉も乾いてお腹も空いてきたそうじゃ。
「うちは悪うない。うちは虐めなんかやってない」
アレクサンドラは疲れ果てて石の上に座り込んだんじゃ。
「もしもし……」
「?」
アレクサンドラは辺りを見回したが、だ~れもおらん。
「もしもしそこの嬢ちゃんや」
「ひっ!!」
声は彼女が座っている石から聞こえてきたのじゃ。
「すまんが。嬢ちゃんが座っている石をどかしてくれんかのう~」
アレクサンドラは慌てて石から飛びのいたのじゃ。
よく見るとボロボロのしめ縄が辺りに散らばり、苔むした石には何か魔法陣の様な物が刻み付けられておったが……
アレクサンドラは思わず石を蹴っ飛ばしてしまったのじゃ。
石はゴロゴロと転がっていき大きい木の当たるとパカン!! と割れてしもうた。
石があつた処からぼこりと腕が生えたのじゃ。
続いて頭が出てきて身体も出てきた、最後に足が出てきたのじゃ。
泥だらけの長い髪と髭と眉毛。やせこけた体。
ボロボロの着物。
「出たな!! 妖怪!!」
アレクサンドラはそこらにあった石を投げつけた!!
「痛い!! 痛い!! ちょ~痛い!! 止めるのじゃ~」
土塗れの爺は両手を上げて降参のポーズをとった。
「妖怪め!! うちを食べる気だな!!」
「食べへん。食べへん。ワシはこの大陸の土地神じゃ~」
「嘘つくじゃねえ!! どう見たって泥田坊じゃねえか!!」
「ほほう~嬢ちゃんや。お若いのに博識だがや~。東の国の妖怪を知っとるなんて気に入った。どうじゃワシと契約して神の使徒にならへんか?」
「神の使徒?贔屓目にみても貧乏神にしか見えへん」
「ハハハハハ。面白い女子じゃ。気に入った。それにおぬしどうやって【妖魔の森】から脱出するんじゃ?ここはワシを封印するためのダンジョンじゃ。ワシ以外何人たりとも出ることはできぬ」
「えっ?そうなの?」
「一晩中ゆっくりと考えるがええ」
いつの間にか爺は杖を持っていて、それを一振りした。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
目の前に城が出現した。
「これは東の国の城?」
アレクサンドラは爺に連れられて城の中に入っていったそうな。
狐の頭をした使い魔が、百人ほど二列に並んで二人を出迎えた。
頭は白い狐で赤い模様がある顔で、体は人間じゃった。
雄は紺色の着物を着て、雌は朱色の着物じゃ。
皆子供ぐらいの背丈だ。
「お帰りなさいませご主人様コン♡ よくお戻り下さいましたコン」
「さあさあお疲れでしょうコン。お風呂にお入りくださいコン」
雌狐に連れられて風呂に入りサッパリしたアレクサンドラは着物を着せられて宴会場に連れてこられたのじゃ。
そこには、海の幸山の幸の御馳走が並べられていた。
「こ……これは!!」
上座にさっきの爺が泥を落として白い着物を着ていて、ドヤ顔で座っていた。
泥を落としても貧相だった。
「泥だんごか!!」
爺と狐の下僕はひっくり返ったのじや。
「ちゃんとした御馳走ですコン!!」
「いやいや!! お花は、狐は化かすと言うとったぞ!!」
「ハハハハハ」
爺は笑いながら飯を食うた。
それを見てアレクサンドラのお腹が、くう~となった。
「ええ~い!! 毒を食らわば皿まで!!」
そう言ってアレクサンドラは御馳走を食べ始めた。
思い起こせば卒業パーティーから碌なものを食べていなかったのじゃ。
転移門を使ってあっという間に【妖魔の森】に連れてこられた。
その間水しか貰えなかった。
御馳走は美味しかった。
これまで誰かと一緒に暖かいご飯を食べたことがあっただろうか?
お后教育ばかりで家族とはすれ違い。王太子とも中々会えず。
寂しい人生だった。
そしてあの断罪である。
私の人生何だったのだ?
言われるままに流されて何一つ自分で選択することを許されなかった。
今初めて自分で選択出来る、いや選択しなければならないことに直面した。
アレクサンドラは考えた。
今は飯食って寝ようと。
考えるのは明日でいいと。
アレクサンドラはお腹一杯御馳走を食べると狐に案内されて貴賓室で眠った。
「眠ったようじゃの~」
貧相な神はボリボリとぼさぼさの髪を掻くと狐に聞いた。
「この世界はどうなっとるのじゃ?ワシはどれぐらい寝ておった?」
「三千年ですコン」
「亜人は各地のダンジョンに封印され。この大陸は、人間史上主義の女神ビッチリーナに搾取され、半分砂漠になってしまいましたコン」
「あの腐れ外道神が!! 己の世界を食いつぶし、ワシの世界まで侵略するとは!! 邪神め!! 許すまじ!!」
「でもご主人様の力は封印されていますコン。ビッチリーナとはまだ戦えませんコン」
「ビッチリーは今どこにおるんじゃ?」
「今は人間に化けて乙女ゲームごっこ遊びに興じておりますコン」
「乙女ゲーム?なんじゃそれは?」
「何でもビッチリーナが昔食いつぶした4649番目の星のゲームで、下町で育った男爵令嬢が学園に入学してハンサムで金持ちの高位貴族を誑し込んで逆ハーする遊びだそうですコン」
「あばずれが好きそうな遊びじゃわい」
「このままではこの星も食いつぶされてしまいますコン」
「ワシは神としての力を取り戻しこの世界を取り戻さねばならん」
「でも我々はこの【妖魔の森】から出ることは出来ませんコン」
「うむ。それにはワシに考えがある」
「あの聖女の血を引く娘ですかコン?」
「うむ。説得出来ればよいのじゃが……」
「……」
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「ふあぁぁぁ~よう寝た~」
「おはようございますコン」
「ん……おはよう……この布団木の葉になってないのね」
「なってませんコン‼ いつまでそのネタで引っ張るんですかコン。そう言えばとても東の国のことについて詳しいのですねコン」
「乳母のお花が東の国の出身で色々と昔話を聞かせてくれたんや。紙芝居まで作ってくれた。お花と乳兄弟の慎太だけは私の味方だった。変ね。親兄弟より心が通じているなんて」
「帰りたいかコン? ここから出たいかコン?」
「帰る所はもうないやろ。うちが王太子の婚約者でなくなった時点でレゲンデーア伯爵家はうちを切り捨てた。弟も私の護衛騎士だった者ですらあのアリアンナ男爵令嬢を信じた。十年以上一緒にいて半年やそこらの女の言うことを信じるなんて。それなりに信頼関係を築いていたと思ったのに……」
「それは仕方のないことじゃ」
いつの間にか神様が来とった。
「アリアンナ・ペダーソス男爵令嬢は人間じゃない。邪神ビッチリーナじゃ。人間には太刀打ちできんのじゃ」
「何ですて!!」
「いずれあの国はビッチリーナに食い散らかせられるじゃろう」
「そんな……皆が可笑しかったのは邪神のせいなんですか?」
「いずれ皆狂い死ぬじゃろう」
「どうしたら? どうしたら皆を助けられるんですか?」
「ワシの使徒になればええ」
「使徒?」
「そうコン。神の使徒になって皆を助けるコン」
「ワシと契約して魔法少女になってよ♥ きゅるりん♥」
「あっ!! 待つコン。帰らないでコン。主様も謝るコン」
「てへ♥ ペロッ♥」
「爺のてへっ♥ ペロッ♥ は可愛くないコン!! 止めるコン!! 益々怒らせたコン!! 皆止めるコン」
「お願いしますコン!! 帰らないで~コン!! 見捨てないで~コン!!」
わちゃわちゃときつねたちが、アレクサンドラを止めようとする。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
その時大地が割れて三S級の魔物が現れた!!
巨大なミミズだ!!
「あっ!! あれは!!」
「拙いコン!! 【城食らい】だコン!! 今の我々に戦う術は無いコン!!」
「ど……どうするの!!」
城の中に突入する【城食らい】はきつねたちを食べようと追い回す。
土煙が上がる。
城のあちこちが破壊され崩れる。
「くっ!! 仕方ない!! 一食一飯の恩義返さないといけないわね!! 貧乏神!! あんたと契約してあげるから力をおよこし!!」
「よし!! 分かった!! ワシの使徒となれ!! アレクサンドラ・レゲンデーア!!」
「えっ?」
彼女の身体が光、服が消え去り代わりに魔法少女の衣装が現れた!!
背中が大きく開き。たっぷり膨らんだ袖。ひらひらの三段ミニスカート。
編み上げブーツ。全てピンク色だ。
手には魔法のステッキ。ご丁寧に先はハート形だ。
「何これ‼ 私ピンク色は似合わないのよ!! それにピンクはアリアンナを思い出すから嫌!! 色チェンジを要求するわ!!」
「嫌じゃ~嫌じゃ~魔法少女はピンク色なんじゃ~!!」
「後で絶対殴る!!」
「ひいぃぃぃ~怖いコン!!」
「武器は無いの?」
「きゅるりん♥ 乙女の祈り♥ 星に願いを!! と叫ぶのじゃ~!! こう可愛く決めポーズをするのじゃ~!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ~!! 絶対しない!!」
【城食らい】は三人?に気が付いて襲ってくる。
ばしゃぁぁぁ!!
硫酸弾が三人を襲う!!
アレクサンドラは狐と爺を抱えると空に飛んだ。
ばしゃぁぁぁ!!ばしゃぁぁぁ!!
ジュジュジュッ!!
当たった所が溶ける。
次々と硫酸弾が飛んで来る!!
アレクサンドラはふたりを安全な所まで運ぶと下した。
「ううう……背に腹は代えられないわ!!」
再び彼女は舞い上がり【城食らい】を見下ろした。
そして詠唱を始める。
『きゅるりん♥ 乙女の祈り♥ 星に願いを!!』
魔法は発動した。
ドゴーン!! ドゴーン!! ドゴーン!!
隕石が【城食らい】に襲い掛かる。
シャレにならない数だ!!
もうもうと土煙が上がり。
【城食らい】が城と共に更地になる。
「やばい魔法コン!! まさに殺略だコン!! 鬼コン!!」
「いや!! それより他の狐達は無事?」
「無事コン!!」
「死ぬかと思ったコン!!」
「こわかったコン!!」
次々と狐達が土の中から出てきた。
「皆ケガは無い?」
「大丈夫コン!!」
「ケガは無いコン!!」
「でも城が滅茶苦茶だわ」
「大丈夫コン。また主様が作ればいいことだコン」
「それより魔法少女おめでとうだコン」
「はっ!! うっかり契約してしまった!!」
「ふぉふぉふぉ。」
アレクサンドラは辺りを見渡した。
霧が晴れていく。
美しい森が姿を現す。
「第一の封印が解けたコン。後四つの封印を解けば皆を救えるコン」
「あら?そう言えば、昔話風の語り口が元に戻っているわね。あれも呪いだったのかしら?」
「うむ。飽きたので元に戻したのじゃ。作者も大変じゃからの~」
「あんたのせいかい!!」
「ふぉふぉふぉ。これからもよろしく頼むの~」
「そう言えば神様の名前聞いていないわ」
「ワシの名か?ワシの名は、オタクの命大明神じゃ。タクちゃんと呼ぶのじゃ」
「わ~~コン!! アレクサンドラ様~~コン!! どちらに行かれるんですか~~コン!!」
「アレクサンドラ様~~コン!!」
「見捨てないで~~コン!!」
「いやコン。冗談じゃ無くてコン。本当にそう言う名前だコン!!」
「なお悪いわ!!」
スタスタと去ろうとするアレクサンドラを追いかける狐達と神様。
アレクサンドラ悪役令嬢が神の使徒となり四つの封印を解き亜人達を開放し。
女神ビッチリーナを倒して世界を救う物語は始まったばかりである。
どんとはらい
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人物紹介
★ アレクサンドラ・レゲンデーア 18歳
リュート国の元伯爵令嬢。【妖魔の森】に追放された。
そこで土地神様の封印を解いてしまう。
魔法少女となって各地の封印を解く旅に出る。
★ 土地神様 ?????歳
本当の名はオタクの命大明神という。土地神様と名乗っているが、本当はこの世界の創造神。
邪神ビッチリーナに封印され、ほとんどの力を失う。
★ アガラロ・リュート 20歳
リュート国の王太子。アレクサンドラを追放する。
邪神に操られている。
★ マリアンナ・ペダーソス 18歳
邪神ビッチリーナが化けた姿。乙女ゲーム大好き。
美形侍らすの大好き。結果星を滅ぼすことになる。
★ お花 37歳
アレクサンドラの元乳母で侍女。
東の国の出身。
★ 狐達
オタク神の使い魔。
子供の姿で顔が白い狐で赤い模様が入っている。
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2018/5/9 『小説家になろう』 どんC
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最後までお読みいただきありがとうございます。




