敗北を味わった後に
こういう時こそ、回復要員の出番である。
一家に一匹いれば…‥‥どうなのかな?
SIDEフレイ
……ゾンバルとの模擬戦の結果、フレイたちは敗北を知った。
なんというか、これまではごり押しのような事が効いたが、流石に相手が自分達より格上では不十分すぎるという事が、良く身に染みて分かったのである。
「バルブヒィィン」
「ごくっごくつ…‥‥ぷはぁ!!死ぬかと思った!!」
全身ボロボロであったが、ボルドの回復ミルクとも言うべきものを飲み、フレイたちは回復した。
「がーはっはっはっはっは!!少しやりすぎてしまったが、面白かったぞい!!セドリッカからの連絡を受けていたが、中々見どころはあると思えたぞい!!」
高笑いをしつつ、ゾンバルはドカッとその場に胡坐をかいて座る。
「よし!!紹介状ももらったし、今ので実力も見れた!!儂がお前の修行を付けさせる相手としてしっかり受けもつことに決めたぞい!!」
ぐっとサムズアップし、ゾンバルはそう言いながらセバーンが運んできたワイン一瓶を一気飲みする。
「という訳で、修行は明日から!!それまではとりあえず休憩するがよ、」
「油断大敵だこの糞爺ぃぃぃ!!」
「!?」
突如として、後方から走って来たのは、あの気絶させたはずの少女…‥‥リールである。
しかも、あの爆裂大槌はセバーンが没収していたはずなのだが、何故か彼女の手元にあり、其のままの勢いでゾンバルの下へ振り下ろす。
「年貢の納め時だぁぁぁ!!」
「ふんす!!意味はないぞい!!」
ぶぉんと振り下ろされた大槌に対して、ゾンバルは素早く身をひるがえし、回避する。
酒も入っているはずなのに、その身のかわし方はしっかりとしている。
「なにぃ!!オレの攻撃を!?」
「ああ、お前かぞい。リール。はぁ、女の子なのにどうしてこうも乱暴な口遣いになったのだろうかぞい」
「溜息を吐くなぁぁぁぁ!!元凶は糞爺てめぇじゃぁぁぁぁあ!!」
…‥‥何かこう、娘の不良化に頭を押さえる父親とその不良化娘の喧嘩のように見えてきた。
巻き込まれないようにしつつ、フレイたちはセバーンに尋ねかける。
「あの、今リールさんの方から聞こえましたが、ゾンバルさんが彼女に何かしたんですか?」
「したというべきか、何と言うか…‥‥」
歯切れがやや悪いながらも、セバーンさんは説明を始めた。
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SIDEセバーン
…‥‥あれはまだ、3年ほどの前の事でございましょうか。
主であるゾンバル様がある日、孤児を拾ってきたのです。
「がっはっはっはっはは!!面白い目をした奴がダンジョン内にいたから拾って来たぞい!!」
そう高笑いをしながら、持って来たのはひどく傷ついていた、幼きリールお嬢さまでした。
一瞬、わたくしめはゾンバル様がどこからか誘拐してきたのかと思いましたが…‥‥話を聞けば、全然違いました。
なんでもダンジョン内で、スライムの生首をどうやってとるか実験していた際に、あるパーティと遭遇したそうなのでございます。
そのパーティはいわゆる冒険者崩れというべきか、盗賊まがいの一団でして、ダンジョン内を暴れる馬鹿共だったそうなのです。
しかも、全くの他人という訳でもなく…‥‥ゾンバル様の親戚の方々でした。
いえ、ゾンバル様は悪人ではなく、親戚が腐れ外道なだけでありまして、どうもダンジョン内での不良の事故に見せかけ、その遺産を奪い去ろうとしていただけのようです。
まぁ、ゾンバル様は見事に返り討ちにした上に、証拠も集めて犯罪者として突き出しましたが…‥‥それはともかく、襲撃者の中にリールお嬢さまがいらっしゃったのでございます。
どうも違法奴隷として扱われていたようでございまして、とりあえず引き取った形です。
ゾンバル様はご兄弟がいらっしゃいますが、あいにく色恋沙汰はなく、独り身でして、そこでいっそのこと養子として育てることにいたしたのです。
…‥‥いやまぁ、ここまでならばただの良い話しっぽいですが‥‥‥うん、その、ゾンバル様は非常に残念なお方といいますか、脳筋といいますか、少女に対する扱い方を今一つわかっていらっしゃらず……
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SIDEフレイ
「‥‥‥で、分からないのであれば、いっその事ただ鍛え上げるだけでいいかも、と言う思考になったと?」
「そうでございます」
「そして、ダンジョン内に共に潜り込んだの?」
「それも、共闘と言う形ではなく、出来るだけ一人で戦わせて、ダンジョンの深層で強いモンスターを挑発し、それらをけしかけてでござるか?」
「その通りでございます」
…‥‥セバーンのその話しを聞き、フレイたちはしばし無言となった。
要は育て方が分からないので、鍛え捲る事にするという事にしてしまい、リールは相当苦労したようである。
「ただ、つい最近ようやくリールお嬢さまの身元が分かりまして、違法奴隷にされる前の両親の生存が分かり、現在は一家そろって仲良く暮らしているのですが‥‥‥」
「時々、発作的に当時の鍛え上げられた恨みをぶり返していると」
「そうなのでございます…‥‥」
なんというか、それはゾンバル自身の自業自得ではなかろうか。
いや、鍛え上げられたおかげで戦闘が出来るようだが、一人の少女がいらぬ力を押しつけられたというか、与えられてしまったようなもの。
望まぬことをされれば、それは恨みが貯まるだろうよ‥‥‥‥
「っと、そう言えばでござるが、リール殿の両親はこの件に関してはどうしているのでござるか?」
ふと、気になっていた質問をユキカゼがした。
「ああ、この件に関してはなんというべきか、リールお嬢さまの庫の発作を、まるでお爺ちゃんに甘える孫のようだと微笑ましく見守っているようです」
「大丈夫でござるかその両親…‥‥」
「頭、お花畑なの?」
「というか、まともでもなさそうなんだけど‥‥‥‥」
色々とツッコミどころがありつつも、気が付けばいつの間にかその争いは泊っており、リールが頭から地面に逆さで埋められており、ゾンバルは愉快そうに酒を飲んでいたのであった。
「ちなみに、これでリールお嬢さまは通算1567戦中1566敗1勝でございます」
「え?一回は勝てているじゃん」
「何があったの?」
「どうやらお嬢さまの入浴時に、ついうっかり入り込み、守るべきものが無かったところへ重い一撃を与えたようでございます」
……ああ、何があったのか予想がついてしまった。
何にしても、かなり根が深そうな問題だなぁ‥‥‥気にしない方が良いかもね。
リール
・ゾンバルの元養子、現在は元の両親のもとで生活。
・違法奴隷として働かされていた時期があり、そのうえゾンバルのせいで色々とトラウマレベルの事があって恨みあり。
簡単にまとめるとこうなのかね?次回に続く!
……ある意味その両親も見てみたいところ。お爺ちゃんにじゃれつく孫と考えればいいかもしれないが、襲撃をかける恨みの塊と書けばあっという間に印象が真逆に。




