臨時護衛道中 その2
その2なのに…‥‥
SIDEフレイ
……信頼というものは、裏切られた時ほどその大きさが分かる。
つまり、信頼がある人物程その衝撃は大きく、無いのであればそこまでのものではない。
そして今、目の前でその人物に対する信頼がどれほどのものだったかというのと‥‥‥‥
「何をやっていたんだ、副団長ギガマス!!」
「な、何もやっていないぞ!!俺様はただむさくるしいこの臭いを消すために、手元にあったお香を焚いただけで‥‥‥」
「言い訳が苦しすぎるだろうがこの馬鹿野郎がぁぁぁぁぁ!!」
怒声を上げ、騎士団長マッソンはその副団長の顔面に拳を叩き込んだ。
ドッゴォォォゥ!!
「ぎゅべぇぇぇぇぇぇ!!」
メリメリメリっと音が聞こえ、吹っ飛ぶ副団長。
2,3回ほどバウンドし、そのまま痙攣して動かなくなった。
護衛依頼2日目の朝。
今日は順調に進んでいたこともあり、午後辺りに目的地に到着するはずだったらしいのだが…‥‥騎士たちが日課の朝の訓練を少しだけ行うとかで、ちょっとだけ馬車を停めていた。
そしたら、ナビリンが何やら騎士たちの中でおかしな動きをする人がいるというので、少々考えて騎士団長を呼び、確認したところ、馬車から少しだけ離れたところで、皆の死角となる場所で副団長が何かを焚いていた。
それを見た瞬間に、騎士団長が一気に憤怒の形相となり、殴りかかったのだが‥‥‥なんだろうか?
(ナビリン、アレが何かわかる?)
【…‥‥鑑定できましたが、ちょっと不味い奴ですね】
なにやらナビリンにしては珍しく、深刻そうな声で返答してきた。
―――――――――――――――――――
『呪魔香』
見た目は小さなお香であり、焚いたところで常人には無臭のように感じられる。
だがしかし、モンスターや獣には嗅ぎつけることが可能であり、凶暴性を増し、理性を失わせた状態で引き付ける凶悪なお香。
一部の例外を除き、基本的に使用は禁止されており、各国の騎士とかには認知され、別名『モンスター・カーニバルモドキ発生機』、『悪魔のお香』などと呼ばれている。
モドキなのは凶暴化させた獣などを引き付けるからであり、やや小規模となるからである。
それでも被害が大きくなるのだが…‥‥
――――――――――――――――――
……本格的に不味い奴だった。
「って、そんなものを焚いてどうするつもりだったんだこの人は!?」
あの副団長も巻き込まれる可能性があるのに、なぜ自らそんな馬鹿な事をしたのだろうか。
「‥‥‥これか」
と、騎士団長マッソンさんがふっ飛ばした副団長の懐から何かを抜き出した。
「なんですかそれは?」
「どうも魔物避けのお香のような物だ。これを使って自分だけは抜け駆けして逃げようとしたようだが‥‥‥馬鹿かこいつは?これがあってもその呪魔香によって引き付けられたものには効果がないという話があるんだぞ」
「もしかして、それの使用で逃げようとしていたのでござろうか?そうだとすると浅はかすぎるような気がするのでござるが?」
「ああ、その通りだ。多分コイツ単独ではなく、誰かに命じられたか‥‥‥いや、今はそんな場合ではない!!総員警戒態勢に入れ!!」
騎士団長が号令をかけると、騎士たちが一斉にびしっと周囲の警戒を始めた。
「急いでこの場を去るぞ!!モンスター共が来る前に、さっさと逃げるんだ!!」
お香をその場に残し、急きょ馬車を発車させた。
騎士たちは馬に乗って駆け抜け、フレイは…‥‥
ダダダダダダダダダダダダダダ!!
「走って馬よりも速いってどういう事だよ!!」
「いえ、一応フラウの補助があるのでたいしたことありません!!」
「たいしたことあり過ぎるのだが!?」
騎士団長にツッコミを入れられ返答しつつ、フレイは並走して足で走っていた。
一応、「浮遊」のスキルもあるので飛んでいくこともできるが、それだと馬車や騎士たちに何かあったら間に合わない可能性もある。
そのため、自ら駆け抜けるのだが…‥‥そんなにおかしかっただろうか?
とにもかくにも、今は周囲の警戒をナビリンにフルで任せつつ、走り抜けるしかなかった。
【探知機能で感知!!先ほどの地点から追いかけてくるモンスターや獣の反応複数!】
【あわわわあ、何か大変なことになってきたの!】
【数が多そうでござるな…‥‥】
ナビリンの声に対して、フレイの中に入ったフラウとユキカゼがそうつぶやく。
【前方に警戒!!あちらからも引き寄せられている反応あり!!】
どうやらあのお香の香りは短時間で相当広がる物だったらしい。
このまま進めばモンスターや獣の大群に突っこむことになるようだ。
「うわぁぁ!!前方から大群が迫って来たぞ!!」
「くっ!!このままでは回避できねぇ!!」
前方から見えてきた土煙から、モンスターたちの接近に気が付いた騎士たちの声が上がる。
このまま避けたくとも、範囲が広くて回避が不可能だ。
「おい!!どうするんだ!!」
「騎士団長マッソンさん!!俺に考えがあります!!」
ダダダダダッと走り抜け、先頭にフレイは立った。
目の前からは迫りくるモンスターや凶暴化した獣の群れがあるのだが‥‥‥そこを突っ切るしか方法がない!!
「大軍を一気にふっ飛ばす!!フラウ、ユキカゼ、補助を頼む!」
【【了解(でござる)!!】】
「龍魔法‥‥‥『ボルケーノカノン』!!」
大群をすべて相手にするのではなく、その一部を、進行方向にいる奴らだけ消し飛ばせばいい。
とはいえ、それでも数が多いので、普通の魔法やスキルではどうにもならないと考えたフレイは、切り札でもある龍魔法をぶっ放した。
ジュゴズドォォォォォォォォォォォン!!
魔法が発動すると同時に、フレイの前に大きな魔法陣のような物が出現し、そこから一気に炎が噴き出した。
いや、炎というよりもドロドロに煮えたぎったマグマのような物であり、それが鉄砲水のごとく、一気に大群へ進む。
その勢いはすさまじく、進行方向から向かってきたモンスターたちを一気に飲みこみ、全てを焼き尽くすどころか、温度が高すぎるので融解・蒸発させていく。
そしてそのマグマのような物が消えた後には…‥‥何もかも蒸発し、焼け爛れた地面しかないのであった。
「ってしまった!!威力が高すぎて地面まで熱々にしちゃったぁぁぁぁぁ!!」
…‥‥失敗であった。
このまま進めば、焼け爛れた地面の上を走ることにより、馬車の車輪や馬の足が無事ですまない。
【そうでござる!!一旦出て‥‥‥】
フレイの体からユキカゼが飛び出し、氷の精霊魔法を発動させた。
「『氷雪脚』!!」
その瞬間、馬の足や馬車の車輪などに氷が張りついた。
「これで何とか持ちこたえることができるはずでごじゃぁぁあるぅぅ・・・・・」
「おっと、ユキカゼ無理するなよ!」
脱力し、ぐったりと倒れ込むユキカゼを抱え、フラウに手を借りてフレイは彼女のを体の中に戻した。
氷の精霊とはいえ、妖刀に憑かれて変質したのでユキカゼの持つ魔力は少ない。
そのため、一発氷の精霊魔法を使うだけで魔力切れを起こしてしまい、そのまま倒れてしまうのだ。
龍魔法を使ったフレイ自身も魔力はギリギリだが、どうも前回に比べて魔力の消費が抑えられていたのか、なんとか倒れるほどの者ではなかったが‥‥‥‥とにもかくにも、ユキカゼのおかげで何とか焼け爛れた大地をフレイたちは走り抜け、ギリギリ元の地面に戻ったところで氷が溶け切った。
そのまま安全な場所まで、駆け抜けていくのであった‥‥‥‥
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SIDE騎士団長マッソン
……副団長のやらかしてくれたところから、なんとか逃げ切った。
モンスターの気配は周囲に無く、一応安全なところまでこれたらしい。
「よし!一旦停まって休憩だ!!」
号令をかけ、馬たちの休息に入らせるとともに、騎士団長はフレイの元へ向かった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫です…‥‥結構やばかったけれど」
「主様、魔力がギリギリなのだから休むの」
先ほどの明らかにおかしい威力の魔法をみて、マッソンは純粋に心配していたが、息を切らして倒れ込んでいる以外は大丈夫そうである。
「よかった…‥魔力切れで倒れて、そのまま逝ってしまうこともある例があったから心配したが…‥‥」
それにしても、あの頭おかしいと言えるレベルの魔法は何だったのだろうか?
尋ねたいところではあるが、今の段階では聞けそうにない。
そもそも、聞いたところで不安になるような未来しかないので‥‥‥‥とりあえず今は、引きずって来た副団長の方へ彼は踵を返した。
「さてと…‥‥何をやってくれているんだ?この馬鹿は‥‥‥あ」
引きずっていた彼を起こし、その顔を見たところで、騎士団長はやらかしたと自覚した。
先ほどの焼け爛れた地面は、彼らの足は馬の上にあり、馬自身も足が精霊魔法とやらで守られていたから無事であった。
だがしかし、そんな精霊魔法はコイツにはかかっていなかったようで…‥‥少々お見せできない状態と化していたのである。
そのせいで話すこともできないようで、情報を聞き出そうにもどうしようもなかった。
「ちっ‥‥‥まぁ、良いか。どうせもうすぐで目的地だし、そちらで引き渡す。まだ息も意識もあるようだからいっておくが、今回のような馬鹿な事をしたことを考え、話せるように治療した後、拷問行きだからな!!」
騎士団長の怒声に、副団長は理解したのか、身体を震わせる。
とにもかくにも、今は疲れをとるために休むしかないのであった…‥‥
「あの魔法の事も聞きたいが、今は皆が休まねばいかないからな…‥‥なかなか面倒なことをしてくれたものだ」
お見せできないのは、書いたらちょっとグロクて、色々と引っかかりそうなのであやふやな表現にいたしました。
いやまぁ、殴った時点で相当ひどいことになっているのですが…‥‥
とにもかくにも、次回に続く!!
……不定期投稿だけど、新連載を始めました「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」。興味があれば、ぜひどうぞ。




