名付けの儀式と巣立ちの時
本日2話目!!
というか、ここまでが物語のプロローグでも良かったかもしれない。
――――――月日は流れ、ようやく俺は十二歳となった。
今日はこれから「名づけの儀式」の場へ向かい、そこでようやく俺に名前が付くのだ。
名を授かれば、そこでようやく巣立ちとなるそうで、そこからは一人で生きていくことになるらしい。
【ついでに、私の機能も解放されます】
(ナビリンの機能開放って、他に何があるんだ?)
【秘密です。楽しみは最後まで取っておくのが良いでしょう】
儀式の場へ向かうために、今俺は炎龍帝の背中に乗せてもらいながら、心の声でナビリンと会話していた。
飛行中は思いっきり空気の抵抗によって風の音がすごいことになっているが、この程度ならば炎龍帝の羽ばたきの風に比べればマシである。
ちなみに、この名づけの儀式によって名が出来ればナビリンの機能開放以外にも、別のモノが解放されるらしい。
「魔法が使えるようになる?」
「ああ、正確には魔法とは違うが‥‥‥とにもかくにも、名づけの儀式を終えた者は、自動的に龍魔法を扱えるようになるのだ。人間が通常使う魔法とは違い、こちらはなんというか‥‥そうだな、ブレスなどに近いものを扱えると考えればいいだろう」
儀式へ向かう前に、炎龍帝と交わした会話の内容を、俺は思い出した。
この世界、ドラゴン何てモノがいるのだから、魔法もあるだろうと考えていたら、少々細かい分類があるらしい。
――――――――――――
『魔法』
何もないところに、行きとし生ける者たちが自然に持つ『魔力』と呼ばれる力を消費することによってさまざまな事象を起こせる行為である。
魔力の量は個人差があり、さらには魔法に関しても才能が関係し、人によっては強大な魔法が扱えるものから、ものすごく地味な魔法しか扱えないものまでその差は激しい。
基本的に大事にされているのは、「才能」、「魔力」、そして魔法に対しての「想像力」である。
なお、この世界の人間は「詠唱」も大事だと考えているようだが、これはあくまで「想像力」の足りない部分を補うために生み出されたものであり、特に関係はない。
『龍魔法』
ドラゴンが扱うブレスに近い強力な魔法。膨大な魔力を消費する代わりに、人間が扱う魔法のレベルを圧倒的に超えたとんでもないものである。
ただし、ドラゴンの「名づけの儀式」参加者だけにしか扱えず、通常の人間が扱うことは不可能。やり過ぎれば島一つ吹き飛ぶので注意が必要。
なお、ドラゴンに翼が無いものやあっても小さいのに飛べている理由は、この龍魔法を自然に扱い、飛行可能になっているからである。ゆえに、名づけの儀式に参加していない幼きドラゴンなどは飛行不可能である。
『精霊魔法』
上記二つ魔法とは異なり、こちらは『精霊』と呼ばれる存在に力を借りて発動させる魔法。通常の魔法と異なる点としては、魔力の消費がなく、威力も大きすぎるわけではないが、ほどほどの都合のいい程度に発動可能。
ただし、精霊によっては強力な魔法を扱えるように変化させることもあり、いかにその精霊の力が大きいのか鍵となる。
過去にその精霊魔法目当てで精霊を乱獲しようとした者たちがいたが、精霊とはそう簡単に従わせられるような存在ではなく、怒りを買って、最後は全て滅亡させられたそうである。
『魔力』
魔法を扱う際に必要な力。この世の生きとし生けるものすべてに宿っており、その力の決勝は『魔石』とも呼ばれ、モンスターの心臓部にある事が多い。使えば消費するが、時間が経てば回復可能。ただし、急激な消費は一気に体を衰弱させて死に至らしめることもあるので要注意。
――――――――――――
色々と他にも細かい分け方があるようだが、魔法は扱ってみたいものである。
ただし、この名づけの儀式では龍魔法が解放されるわけだが、魔法に関しては‥‥‥これは本当に独学でやるしかなさそうだ。
本来ならば、人間に育てられればすぐに才能の有無を確認できるのだが‥‥‥今まで住んでいたところにはドラゴンしかおらず、だれも魔法の扱い方を教えられなかったのである。
ゆえに、この名づけの儀式終了後は巣立ち扱いになって、そこから世界を回って、独学で扱えるようになるまで誰かに教わるという選択肢もあるようだ。
楽しみだけど、とりあえず今は、俺自身の名前がどうなるか考えないとね。
そうこうしているうちに、名づけの儀式の会場へいつの間にか到着していた。
炎龍帝の背中から降りて、周囲を見渡してみたが‥‥‥ドラゴンだらけ。
炎龍帝のような炎のドラゴン以外にも、水に関係したドラゴンや、土に関係したドラゴンなどが多くおり、ほとんどがこれから名づけの儀式を迎える12歳のドラゴンらしい。
……って、案外多いな。もっと少ないものかと考えていたが、どうも違うらしい。
ドラゴンの繁殖力は人間に劣るとはいえ、一応名づけの儀式に参加するドラゴンの数はそれなりにいるそうだ。
まぁ、一度だけ0頭という記録はあったらしいが。それはそれで何があったのか気になる。
まぁ、何はともあれこの名づけの儀式の会場に皆が集まっていると、何かが会場の中心にある高台にとまった。
……全身が金属のような光沢を放つが、真っ白な、それこそ威圧感があふれるドラゴンである。
「おお、神龍帝が来たのか」
「神龍帝‥‥‥あれがか」
炎龍帝のつぶやきに、俺もつぶやいた。
赤子の時に、人の姿のような状態を見たことがあったが…‥‥ドラゴンだと、語彙が少ないから「スゴイ」としか言えないけど、本当に圧倒的なドラゴンというような雰囲気を纏っていた。
……詳しい話を聞くと、神龍帝とは、ドラゴンの中でも頂点に立つ、それこそ異世界もわたり、その世界でも神龍帝と呼ばれるような凄まじい力を持つドラゴンなのだとか。
その神龍帝を除けば、この世界にも龍帝は存在する。
炎龍帝、水龍帝、氷龍帝、木龍帝、雷龍帝、土龍帝、聖龍帝、邪龍帝。これら九つのドラゴンに加えて、今は失われたらしい三つの龍帝を合わせて、十二龍帝あったと言うのだ。
なお、その失われた三つの龍帝に関しては、詳しいことは分かっていない。
ただ、一つだけ言えるのは、その龍帝たちも凌駕するのが、あの神龍帝という存在なのだとか。
個人的にはその失われた龍帝たちも気になるが‥‥‥まぁ、これは後で調べればいいだろう。
何はともあれ、名づけの儀式は行われることになった。
この名づけの儀式、本来はそれぞれのドラゴンの頂点に立つ龍帝たちに名付けられるのだが、今回は神龍帝が名付けるそうである。
なんでも、特別サービスだとか…‥‥ドラゴンの頂点にいるような人(?)が、そんなサービスとか軽いノリで良いのだろうか?
いや、強者ゆえにそれだけ軽くやれるのかもしれない。
神龍帝の元へ、名づけをしてもらう列に並ぶ。
こう、ドラゴンがきちんと列を並んでいる光景というのは、ある意味レアであろう。
一頭ずつ丁寧に命名されていき、次々と己の名を決められて喜ぶドラゴンたちはその場から飛び立っていく。
まぁ、中には不服そうな顔をしているのもいるが‥‥‥こればかりは仕方がないだろう。
でも、その不服になる名前が「ジャキガン」とか「エスパー」とかなのは、同情したくなる。‥‥‥ネーミングセンス、大丈夫なのだろうか?
というか、ジャキガンって中二病の人が言うような言葉だよな?いやまぁ、名付けられたドラゴンの目がいかにもそれっぽいような感じがしていたけどさ、流石にそれはどうなのだろうか。
とにもかくにも、次第に列は前へ進んでいき、ついに俺の番となった。
「‥‥‥次は‥‥ほう。あの時の赤子か」
俺の姿を見て、すぐに誰なのか神龍帝は分かったようだ。
目を細め、しっかりと見てくる。
「大きく育ったようだが…‥‥だいぶ苦労もしているな。人体構成が少々人外の領域へ‥‥あいや、今のは聞かなかったことにしておくれ」
「ん?」
今何か、人外の領域とか言われた気がするが‥‥‥なんだろう、嫌な予感しかしない。
こほんとごまかすように神龍帝は咳払いをし、そして俺をじっと見つめる。
そして考えこむように手を前で組んで‥‥‥思いついたのか、口を開いた。
「そうだな‥‥‥あれから月日も経ち、無事に炎龍帝のもとで育ったということが分かる。燃え盛る炎のようなドラゴンの元で育ち、そこで無事に生きてこれたことを考えると、その炎に負けない強き魂を持つのが分かる。ゆえに、その燃え盛る炎の意味を持つ言葉の一つからあやかって、お前の名は『フレイ』としよう!」
「『フレイ』……か」
おそらく「フレイム」とかそういったところからとったのだろうけれども、まだましな名前になって良かった。
これがもっと中二病臭い名前とかだったら本気で嫌だったぞ。
とにもかくにもそうして名づけの儀式は終わり(一部ドラゴンは恥ずかしがって悶えていたが‥‥‥同情はするよ)、神龍帝はその場を去った。
単純に名付けていただけのようだが、ああ見えて実は結構忙しいらしい。
とにもかくにも、名づけの儀式が終わったということは‥‥‥‥ついに巣立ちの時が来た。
名づけの儀式が終わると、名を得たドラゴンたちは一頭、また一頭と巣立っていく。
彼等はどこへ向かうのか?それは、ドラゴンたちでもわからない。
ただ一つだけ言えるのは、それぞれが立派に育ち、いつの日か龍帝へ挑み、新たな龍帝となったり、もしくは一生を隠れ里のようなところで過ごしたり、故郷へ戻ってのんびりと生活することが多いそうだ。
なお、この世界ではドラゴンが生態系の頂点に立つ様なので、挑んでくるような猛者もいるらしい。
俺は……フレイという名を得たので、とりあえず炎龍帝の元を一旦去り、巣立つのである。
いろいろと死にかけたことがあるとはいえ、ここまで育ててくれた炎龍帝との別れは、どこか寂しい物がある物だ。
いやまぁ、時には腕をもがれかけたり、喰われて胃液で消化されかけたり、温泉でもっとゆっくり浸かれと言われてのぼせたりと‥‥‥‥あれ?
よく考えたら、そんなに良い思いではないような。むしろ殺意が湧くような。
何にせよ、ここまでの人生の中で、炎龍帝は俺にとって育ての親であり、また師匠でもあり、大事なドラゴンであった事だけは言える。
何度殺されかけようとも、それはあくまで俺を強くしたい目的があったとしても‥‥‥一緒に暮らしてきた家族だからね。
炎龍帝の前へ行くと、彼は寂しそうな声を出した。
「ついにお前が、私のもとを去るんだな‥‥。ドラゴンは人間よりも寿命が長いので、あまり時間なんて気にはしていなかったが、こうして巣立ちの時を迎えると、やはり寂しいものは寂しいものなんだな」
しみじみと、懐かしそうに炎龍帝がそうつぶやく。
「お前はこれより巣立ちを迎え、一人で生きていくことになる。そして、それは決して楽な事ではないだろう」
寂しさを振り切るかのように、厳しい声に切り替え、炎龍帝は言葉を続ける。
「だが、それでもお前はこのわたしが鍛え上げ、ドラゴンの名づけの儀式に参加し、そして名を得た者だ。お前は人間の中でも注目を浴びるほどの力を持つだろうが、それでも己の力に溺れることなく、鍛錬を欠かすな。どんどん強くなり、そしていつの日か、お前を育て上げたこの炎龍帝に挑め!!そして、その時こそ互いに血沸き肉躍る戦いを繰り広げろ!!」
ぐわっとこぶしを握り、そう炎龍帝は力説する。
……俺自身を、強敵として戦いたいらしい。
だが、それは闘争本能を満たすような事ではなく、もっと別の理由もあるそうだ。
それは、炎龍帝としての最後の戦いをふさわしいものにしたいらしく、それでいて最も強い子を育て上げたのだと言いたいらしい。
育てられた此方側の意思を無視しているようだけど‥‥‥まぁ、ここまで育てて、鍛えてくれたこともあるし、文句も言えない。
あと、その鍛え上げることで死にかけたことがあるから、むしろ殺意の方が湧くような。
「そうだ、冒険者となるからにはお前の姿をもっとましにしなければな」
ふと、炎龍帝がそうつぶやいたのを聞いて、そういえば俺の着ているのは特訓だといわれて狩りまくったモンスターから作ったものだったことを思い出した。
結構ボロボロというか、耐火性能が今一つだったから、何度ブレスで死にかけたことやら……
少々遠い目を俺はしたが、そうしている間に炎龍帝は龍魔法を唱えた。
すると、俺の来ていた衣服がしっかりしたものになった。
ちょっと驚きつつも、衣服のセンスは悪いものではない。
全体的に少々黒色に近い赤色で統一されており、軽いが防御力もあるのだと分かるような衣服である。
「これは最後の選別だ。性能としては単純に火に対する耐性を上げただけだが、それでも十分なモノだろう」
ふぅっと一息を吐いて、炎龍帝がそう告げる。
「さらにだ、巣立ちするドラゴンは自らの翼で大空へ向かっていくが‥‥‥生憎お前、いやもうフレイという名があったな。フレイ、お前はまだ飛行が出来ないから、特別に龍魔法の中でも転移させる魔法で、お前をこことは異なる場所へ飛ばそう。その地でお前は生き延び、そしていつの日か、この炎龍帝を超えてみせよ!!」
そう叫び、炎龍帝が魔法を行使すると、俺の体が赤い光に包まれ始める。
「これよりお前を、こことは違う地に転送する。さぁ、巣立ちの時を迎え、そして名をとどろかせていけ!!我が息子フレイよ!」
そう炎龍帝が叫ぶと同時に周囲が真っ赤になると同時に、俺はいつの間にか意識を失うのであった…‥‥
……フレイが転送された後、その場所から空を見つめる炎龍帝。
そして、彼等は気が付いていなかったが、そこから離れた場所で、その様子を神龍帝が見守っていた。
「‥‥‥ついにあの子も巣立ったか。どうなるかは楽しみだ。この世界の炎龍帝に育てられた、このわしと同じ転生者、フレイよ。お前の旅路は色々と波乱万丈となるだろうが、生きのびろ。そして、炎龍帝に挑むかもしれないが…‥‥このわしにも挑みに来ると良い」
そうつぶやき、神龍帝は異界への扉を開き、彼は自身の世界へ帰っていった。
後に残るのは、フレイが去ったので寂しさが限界を超え、大泣きをし始める炎龍帝だけであった‥‥‥‥
さて、炎龍帝の元から巣立ったフレイ。
彼は魔法によって転送されたのだが、こういう時に限ってついていない。
運命のいたずらか、はたまた神の思惑か…‥‥
なんにせよ、次回へ続く!!
ナビリンの機能開放などは、次回詳しくやります。