目指せやゴルティック山道中 その4
割と真面目な戦闘回。
強敵かな?
SIDEフレイ
「ふははは楽しませてもらうでござるよ!!」
刀を振りかぶり、襲い掛かってくる魔精霊レイラ(名の部分は自称らしいが‥‥‥)
フレイはかわすが、すぐ横の空気が切り裂ける音が耳に入った。
風を切る音……よりも、もっと具体的に言えば空気そのものを斬ったかのような鋭い斬り方だ。
「うわぁ‥‥‥これ完全に当たったらまずい奴じゃん」
【推定、当たれば三枚おろし確定】
【それ言わなくても分かるレベルなの!!】
ナビリンの言葉に対して、思わずフラウがツッコミを入れるが…‥‥それはどうでもいい。
今言えることは、とりあえず直撃=死亡確定であろうか。いくら炎龍帝との訓練などを積んでいたとしても、素手であんなのを相手にするのは分が悪すぎる。
というか、そもそも現在素手だし、真剣白羽取りとかできない限り正面から向き合うのはかなり不味いだろう。
あの魔精霊が素人ならまだよかったかもしれないが…‥‥素人目から見ても、明らかに達人の腕前である。
おそらくは妖刀に憑かれているから身体能力が向上しているか、もしくは刀そのものが動かしているのか…‥あるいはその両方なのかもしれない。
「かわしてばっかりでござるか!ほれほれ反撃をしてみるが良いでござるよ!!」
「そう言っておきながら、刀を振り回すのは意味ねぇだろ!!」
ずばずばっと空気が切り裂かれ、ギリギリのところでフレイはかわす。
だが、今の状況はどう考えでもじり貧というやつであり、このままでは敗北決定。
「何かいい方法がないものか‥‥‥あ」
そこでふと、フレイは思いついた。
「『炎龍帝の咆哮 (プチ)』!!」
本家本元にはかなわないが、軽い威圧を与えるスキル。
これでちょっとはひるんでくれればよかったのだが‥‥‥
「んー?なんでござるか今の大声は!!拙者にそんなものが効くと思ったでござるか!」
ずばっと目の前に刀を振り下ろしながら、全く効いた様子がないレイラはそう口にした。
‥‥‥効かない相手もいるのだが、今回は運悪くそれだったらしい。
魔精霊だからか、それとも取り憑いている刀の方がまだ精神的に上だったのか…‥‥可能性としては後者の方が高い。
「ちっ、だったらこれでどうだ!炎魔法『フレイムショット』!!」
ばぁんっと勢いよく、強力な炎の塊が打ち出された。
刀が相手ならば、こちらは魔法で応戦した方が良い。
「効かぬわ!!」
ズパン!!
「うそっ!?」
だが、問答無用で打ち出した炎の塊を相手は切ってしまった。
妖刀だけに、魔法を斬れるのか…‥‥これはこれで厄介な相手であろう。
…‥‥だけど、それと同時にフレイは恐怖を覚えず、少し高揚感を持ち始めていた。
いままで炎龍帝と訓練し、それ以降はあまり手ごたえの無い相手が多かったのだが…‥‥こうも数々の手を潰し、強さを感じさせてくれるのは‥‥‥楽しいのである。
「まあ、やられたら不味いけれど……なんかこう、久しぶりに好敵手に会った感じだ!!」
「ふむ、不利ながらもそう言い放つとは、中々の強敵でござる!!」
【主様が何やら生き生きし始めたの】
【苦戦しているとはいえ、ちょっと戦闘狂な部分が出てきたのでしょうか?】
フラウやナビリンが何やらつぶやいているが関係ない。
こういう不利な状況こそ、逆に楽しまなければ生きていけないだろう。
「とはいえ、遠距離での戦闘もできないなら……危険だけど、近距離で行くか」
ぐっと足を踏み出し、接近戦をフレイは仕掛ける。
「ふむ、懐に来る気でござるか!!」
真っ直ぐ突っこんでくるフレイに対して、レイラは刀を腰に据え居合切りのような構えを取る。
おそらくはこの一瞬で勝負を決める気だろうが‥‥‥‥いつどこで、誰が馬鹿真面目に正面から向かうと言った?
「『龍の怪力 (プチ)』!!」
「なにっ!?」
フレイが急に止まり、地面を殴りつけたことにレイラは驚く。
突っこんでくるだけの相手かと思っていただろうけれども、俺の狙いはこっちだ!!
地面が怪力によって砕け散り、一気に宙へ吹っ飛ぶ。
「今だフラウ!!」
【あ!?わかったの!!】
フレイの言葉に、フラウはすぐに理解した。
【『プチストーム』】!!
風の精霊魔法を発動させ、舞い散った地面の破片を巻き添えにして、一気にレイラめがけて解き放った。
「ぬっ!」
素早く反応し、刀を振るって破片を切り捨てていくレイラ。
だが、向かってくる破片を切り捨てていくからこそ、隙ができる。
「ここだっ!!」
破片に気を取られている隙に、フレイは素早くレイラの懐へ入る。
その事に気が付いたレイラは素早く刀を前に持ち、防御の構えを取るが…‥‥この刀で防御する瞬間を待っていた。
ばしいっ!!
刀の刃の部分を避け、持ち手の部分に手刀を当てる。
その衝撃で刀を彼女が手放した瞬間に、勢いをつけて柄の部分を足で蹴り上げる。
がっだぁぁぁん!!
勢いよく蹴り上げられた妖刀は宙を舞い、フレイはすばやくフラウに指示を出した。
(フラウ、頼むぞ!!)
【了解なの!】
意図を理解したフラウは、素早く精霊魔法を発動させ、風が吹き上げ、すぐにレイラがキャッチできないように更に刀を上へ運ぶ。
…‥‥ここまで上空に持ち上げたのも、次に使う技の威力が少々未知数ゆえに、地表に影響が出ないようにするためだ。
「それじゃ、本邦初公開!龍魔法‥‥‥『ボルケーノブレス』!!」
その瞬間、一気にフレイの目の前に大きな炎の、いや、熱量が高すぎて白い光を放つ塊が現れ、妖刀へめがけて飛んでいく。
ジュッボッガァァァァァァアン!!
そのまま妖刀に命中すると同時に、一気にその存在を溶かしきり、大爆発を起こした。
ズッゴォォォォォン!!
「うわっぶっ!?」
その大爆発の衝撃波はすさまじく、立っていることができずにフレイは地面に体を叩きつけられる。
レイラのほうも同様にひっくり返って、爆風に体を押さえつけられる。
木々が揺れ、其の衝撃波ゆえに潰れ、ひしゃげ、砕け、倒れていく。
…‥‥凄まじい大爆発が収まり、周囲を見渡してみれば、周辺は何もかもが地に伏していた。
あと、存在を忘れていた馬車が完全につぶれているが‥‥‥見なかったことにしたい。
レイラの方は、憑いていた器が無くなったせいかぐったりと倒れていた。
「‥‥‥やっべ、これ今後使わない方が良いな」
空中の方に大半の威力が持っていかれたとはいえ…‥‥まともに地上で扱えば確実に自身が危険にさらされるレベルのひどさに、フレイは顔を引きつらせる。
妖刀が魔精霊を操っていたのだとしたら、その妖刀を無くしてしまえばいいと思って、今回は動いたのだ。
だが、まともな炎の魔法では斬られるし、風の精霊魔法でも同様だと思って、ぶっつけ本番の切り札の予定であった龍魔法を行使してみたのだが‥‥‥
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『龍魔法』
ドラゴンが扱うブレスに近い強力な魔法。膨大な魔力を消費する代わりに、人間が扱う魔法のレベルを圧倒的に超えたとんでもないものである。
ただし、ドラゴンの「名づけの儀式」参加者だけにしか扱えず、通常の人間が扱うことは不可能。
原因としては、龍帝に名を付けられることによってその魔法を発動するための回路のような物が名前として形成されて組み込まれ、魔力を一気に流し込むことで倍増して発動する物だとされるからである。
―――――――――――
「…‥‥シャレにならんな。それなりの高さで爆発したけど、こりゃ下手すると大騒ぎになるかも」
【本来、ドラゴンが扱うような魔法なのですが…‥‥人間の身では危険が大きすぎるようです】
ナビリンがそうつぶやく中、ふとフレイは体の力が抜けるのを感じた。
「っ……あれ、なんかすごい脱力感が‥‥‥」
そのままばったりと倒れ、フレイは自身の体に力が入らないことに気が付いた。
【あ、主様!?どうしたのですの!?】
【‥‥‥「注意警報」発動確認。消費し続けて残り3分以内に無くなる場合に発動する機能なのですが、現在の魔力残量はほぼ0です。回復するまで‥‥‥‥】
フラウの慌てた声と、ナビリンの解説を聞きながらフレイは徐々に意識を失っていく。
どうやら今の龍魔法は相当な魔力を消費してしまうようで、残りがほとんどなくなってしまったようだ。
いわゆる魔力切れというやつで、フレイはそのまま気絶したのであった…‥‥
龍魔法。それはドラゴンの「名づけの儀式」に参加し、名を与えられたものにしか扱えぬ魔法。
人間の身で行使すれば、それこそ反動や負担が大きいのは分かっていたことだが‥‥‥やってみたかったのである。
それはともかくとして、魔力を限界まで消費してしまったフレイは魔力切れを起こし、倒れてしまうのであった。
次回に続く!!
‥‥‥妖刀が憑いているのなら、壊せばいいじゃんという安直な考え。一応、普通の魔法が通用しなかったので、常識を超えたけた外れの魔法で消し飛ばしたのはいいが…‥‥完全なオーバーキルではないだろうか?
少なくとも、刀の材質を考えると融解点を当の前に限界突破しているレベルだしなぁ‥‥‥




