目指せやゴルティック山道中 その3
今回、ちょっとえぐい描写があるかもしれません。‥‥‥それなりに控えめにしてます。
SIDE盗賊団モスキート
「いやっはぁぁぁぁ!!商人どもが逃げやがったぜうぃぃぃぃ!!」
「荷物を好きにできてしまうんだぜひよっほぉぉぉぉぉぉう!!」
「蹂躙の時間だぜぇぇ!!」
アフロだったり、リーゼントだったり、モヒカンだったり、挙句の果てにはスキンヘッドなどという多種多様な髪形をした不良集団にしか見えない者たちが、置き去りにされたいくつもの馬車の周囲を馬に乗ってぐるぐると取り囲んで回っていた。
彼らは盗賊団モスキートであり、この馬車を襲撃していた。
実は、彼らはある者たちから雇われ、とある人物の襲撃を目論んでいたのだが‥‥‥偶然にも近くを通っていた馬車を見つけ、その襲撃の前の肩慣らしとして襲ったのである。
体力をここで消費して良いのかという事だが、どうやらその相手は見かけはまだ幼い少年らしいので、そこまで本気でやらずとも大丈夫だろうと考えての事であった。要は後先を考えない馬鹿である。
そして、この馬車の護衛であろう冒険者たちと交戦し、その間に持ち主であった商人たちは全て逃げてしまったようだが…‥‥そんなことは別にいい。
無駄に殺す必要もなくなり、体力が温存できるのであれば問題ないと判断したのだ。
そして、護衛達が皆地に伏せ、所有者もいなくなった今、この馬車は誰のものでもない。
もう、盗賊たちが好き勝手奪い取れるものになったのだ。
「さぁ!!野郎共今こそ馬車の中を好き勝手荒らし、略奪しまくれぇぇぇ!!」
「「「「いやっふぅぅぅぅぅ!!」」」」
無駄にテンションが高い盗賊のお頭の掛け声に合わせ、仲間たちが雄たけびを上げ、今まさに馬車を蹂躙しようとしたその時であった。
バシュッツ
「ふぁ?」
何かが切れたような音がして…‥‥そして、盗賊のお頭は気が付いた。
馬車の上部が切り飛ばされていたことを。
その切り口はパッと見ただけでも見事なものであり…‥‥誰かが飛び出し、盗賊たちの前に立った。
「…‥‥ふむ、奴隷に紛れてみたのに、どうも悪党どもに出くわしたようでござるな」
「だ、誰だぜてめぇわぁぁぁぁあ!!」
何やらつぶやいたその者に対して、お頭は声を荒げた。
見たところ少女のようだが、この辺りでは見かけることがない衣服‥‥いわゆる東方の方で着られる着物というような物を着ており、黒目で長い黒髪をポニーテールのようにまとめていた。
腰には大きな鞘を刺しており、その手に持って居るのは剣ではなく刀と言った方が正しいであろう。
まだ年齢的には10代前半と言ったところだろうが‥‥‥発育も良さそうである。
「げひぃえっ?なんだ、綺麗嬢ちゃんが出てきたなぁ」
「良い体をしているじゃねぇか!!」
他の盗賊たちはその姿を見て下卑た笑みを浮かべたが、盗賊のお頭だけは真面目な顔になった。
あほで馬鹿な子分たちが多いのだが…‥‥その中でも、一応このお頭だけはそれなりに実力があった。
そして、その実力があったがゆえに、お頭は悟ったのだ。
(目の前のこの嬢ちゃん…‥‥明らかにやべぇ……)
盗賊として、そして実力を持った頭としての勘が、お頭の警報を鳴らす。
ここで迂闊に出れば、さっきの馬車の上部を切り捨てたのと同じように、目の前の少女は問答無用で盗賊たちを切り捨てるであろうと理解できたのだ。
「ひっはぁぁ!!お頭ぁ、何をこんな女にビビっているんやでぇ?一気にやればいいだろうがぁァぁ!!」
「そうだぜお頭ぁぁぁぁ!!いかねぇなら、先にいっちゃうぜぇぇぇ!!」
「ま、待て野郎ども!!」
お頭の静止も聞かず、目先の欲につられて子分たちは動き出す。
目の前の刀を持った少女へ襲い掛かり‥‥‥‥次の瞬間、赤い花吹雪が舞い始めるのであった。
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SIDEフレイ
「‥‥‥ナビリン、これってどういう惨状なの?」
【‥‥‥何というか、蹂躙劇ですね】
数分後、フレイたちは草陰に紛れて様子を見たが‥‥‥そこにあった光景は、何というか悲惨な状態であった。
辺りの木々はなぎ倒され……いや、切り倒されて地面に転がり、そして同様に人だったらしい物体も細切れになって落ちていた。
馬車があるのだが、屋根の部分は切り捨てられ、人影は二人しか立っていなかった。
「ぐ、ぐが…‥‥な、なんてやつだ‥‥‥」
「…‥‥拙者の主人探しの旅を邪魔するから悪いでござろう?」
一人は、黒目黒髪のフレイと同年代ぐらい…‥‥やや胸部がおかしいが、刀をかまえ、そしてその場に居たもう一人のスキンヘッドな男に突きつけていた。
その男の体はあちこちが切られているが、手足は繋がっており…‥‥何が起きていたのかは容易に想像がついた。
【‥‥‥あ】
そのやり取りを見ていると、ふとフラウが声を出した。
「どうしたフラウ?」
【あの子……多分、私と同族です】
「え?」
フラウと同族‥‥‥ってことは、精霊なのだろうか?
にしては、恐ろしく禍々しいものを感じさせるのだが…‥‥何か嫌な予感しかしない。
【鑑定してみましょうか?】
「ああ、頼む」
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名前:(自称)レイラ
種族:魔精霊
性別:女性
所持スキル及び称号にはロックがかけられ詳細不明。
状態:「妖刀憑き」「血狂い」「魔堕ち」
「妖刀憑き」
宿っている器が妖刀であり、憑いているはずが逆に取り憑かれてしまった状態。
「血狂い」
自身も知らず内に他者の血を求めてしまう状態異常。妖刀憑きとなったのが原因。
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…‥‥明らかにやばい奴だった。
「というか、妖刀って…‥‥あの手に持っているやつか」
【自称って‥‥‥何を持って付けたのでしょうか?こちらも鑑定いたします】
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『妖刀:爆雷丸』
遠い東方の地で、数百年前にドワーフの鍛冶職人が創り上げた名刀。
多くの戦場を幾多のも主によって使われ、その名をとどろかせたが、どこをどう間違ったのかある時から妖刀に変化し、血を求める呪われた刀となってしまった。
精霊がその事も知らず、器を求めて憑いてしまい、妖刀に多くの影響を受け、姿を得た。
‥‥‥主が現在不在であり、精霊が仮の主として出ているのだが、魔堕ちしてしまい容赦が無くなっている。
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「刀の方がやばい奴じゃん!!」
「っ!何奴でござる!!」
「ぐえっ!?」
思わずツッコミを入れたフレイの声に、魔精霊…‥‥自称レイラと名乗る精霊が刀をフレイの方へ向けた。
その拍子にスキンヘッドの男は運のいいことに刀の峰の部分で解放されながらも殴打され、気絶する。
…‥‥思わずその鑑定結果にツッコミを入れたのがあだとなって、気が付かれてしまったようであった。
「ふむ……何奴かと思えば、これはこれは、まだ可愛らしい少年が出てきたでござるな」
フレイの姿を見て、ニヤリと笑みを浮かべる魔精霊。
「何が目的で潜んでいたのかは知らぬが…‥‥お主も拙者の主探しの旅を邪魔するのでござるか?」
「主探しの旅?」
「うむ、拙者は主を求める刀…‥‥ただ、それは拙者と共に血を得るために暴れる者を探していたにすぎぬ……」
そう言いながら、刀を構えだす魔精霊。
…‥‥精霊本人がしゃべっているというよりも、どうも刀の方がしゃべっているようにしか見えないな。取り憑かれているようだし、刀の代弁として精霊が利用されているだけであろうか?
「‥‥‥しかし、お主は我が主にならないようでござるな…‥‥少年の血というのもまた一興……切り捨てごめんでござる!!」
そう言いながら、刀を構えた魔精霊レイラはフレイに向かって切りかかって来た。
「げっ!?」
行き成りの攻撃に、慌ててフレイはかわす。
「ふむ、今の斬りをかわすとは……面白いでござるなぁ!!」
「怖っ!!」
【明らかに堕ちてますね…‥‥妖刀の影響を精霊が受けて取り憑かれるとは、興味深いです】
【冷静に分析している場合じゃないの!!というか、同族がこうなっているのは見ていられないの!!】
‥‥‥‥どうやら、ゴルティック山へ向かう前に、この妖刀魔精霊少女と戦わねばならないようだ。
いやな予感どころか、大穴を当てすぎたようで、フレイは戦闘を始めるのであった…‥‥
魔精霊との戦闘。
フラウの時は器を失って、魔力欠乏が原因だったからまだ大人しかったけれども、今回はバリバリ妖刀に取り憑かれている凶悪バージョンです。
さて、勝てるかどうかは次回に続く!!
…‥‥この場合、刀精霊?それとも何か別の精霊?




