目覚めた精霊少女
こういう名無しが入ってくるたびに、名前を考えるのが大変である。
どの名前もいいけれども、やはり情を入れらるようにしたいからね。
SIDEフレイ
「‥‥‥う、ううん」
「あ、起きたか」
夕暮頃になり、室内がやや薄暗くなってきたころ、ようやく少女が目を覚ました。
鑑定の結果から精霊、ただし魔精霊と言う存在に堕ちていることがわかるが‥‥‥ようやく体力が回復したのだろう。
そのままきょろきょろと彼女はあたりを見渡し、フレイの方へ向いた。
「‥‥‥貴方、あのモンスターから助けてくれた人だね。私を、助けてくれてありがとう」
どうやらきちんと気絶前の記憶があるようで、ぺこりとお辞儀をしてお礼を述べてきた。
「ああ、別に良いさ。こっちはモンスターを討伐しようとさまよっていたところで、発見したからな」
見た目が美少女の女の子にお礼を言われると、ちょっとむず痒いが悪くない。
とりあえず、お礼を受け取りつつ、彼女から何故あのグランドバイコーンに追われてしまったのか、フレイは事情を聞くことにした。
鑑定結果から彼女は精霊だと分かったが…‥‥別に隠していることではないそうで、普通に自身が精霊であると彼女が明かした後、細かい説明をし始めた。
「私、本当はあるお墓に眠っていた道具に宿っていた精霊なの」
「お墓?」
「そう。大昔の、とあるお屋敷にあった箒。それに宿っていて、死後の財産として一緒に埋葬されて、ずっと寝ていたの」
埋葬されていた状態であったが、別にずっとそのままでも彼女は気にしていなかったそうだ。
精霊と言うのは自然のような存在でもあり、やろうと思えば宿る器を交換することで、いつでも外に出られるような状態だったからだそうだ。
まぁ、やる事が特になかったので、暇つぶしとして寝ていたそうだが…‥‥三日ほど前に、事態が一変した。
どうやらそのお墓が墓荒らしにあってしまったそうで、埋葬されていた供物……彼女を含めた多くの道具やお宝が、その墓荒らしの手によって持ち出されたらしい。
どこかで転売でもして儲けるつもりだったのだろうが‥‥‥そこで少々、困った事が起きてしまった。
「私が宿っていた箒、価値が無いと判断されて放棄されたの。で、せっかく墓から出られたということで、気分転換代わりに何か別のものに宿って、あちこちを見て回ってやろうかと思っていたのだけれども……」
そこで不幸が起きた。
彼女が宿っていた箒から抜け出そうとした時、偶然にもその近くにグランドバイコーンがうろついていたのだ。
地理的な話しから、どうもその近くには湖があったそうで、そこへ水を飲みに来たのだと考えられたが‥‥‥そこでグランドバイコーンに、彼女の存在が察知されたようなのだ。
バイコーンは処女を嫌うと言うが、その定義は種族を問わない。
しかも、その上位種であるグランドバイコーンはどうも性癖がサディスティックなところがあったようで、彼女に狙いを定めたそうなのだ。
慌てて箒から動こうとしたところ、勢いよく迫られ、まずは箒を踏み折られてしまったらしい。
箒に宿っていた彼女はそのまま外に出され、器を失った衝撃で、一旦肉付けというか、今の体になってしまったようだ。
で、その姿を見てグランドバイコーンがより興奮し、走って来たので逃げに逃げて、今に至るそうなのであった。
「何か器が無ければ、私休めない。魔堕ちしてしまったし、早くなんとかしないと…‥‥消えてしまうの」
魔堕ち状態は精霊にとって悪影響しかなく、最悪の場合狂ってしまうか、もしくは消滅してしまうらしい。
ゆえに、早く器が欲しいと彼女は訴えた。
「助けてくれた恩人に手間取らせるのは申し訳ないの。でも、何とかしてほしいの……」
布団をつかみ、涙ながらに彼女はそう言葉にした。
今はまだ精神的にもまともだが、徐々に蝕まれるのが怖くなってきたようなのだ。
とはいえ、そう都合の良さそうな器って…‥‥なにがあるのだろうか?
(保健室内にちょうど良さそうなのはないし…‥‥ナビリン、どうにかならないか?)
【どうにかなりますよ】
ちょっと悩んで相談してみたが、案外あっさりとナビリンは答えた。
【精霊が器にするものには特に制限がありませんからね。実体のある物に宿るのが基本的ですが…‥‥】
ナビリンが出した提案、それはある意味驚くべきものであった。
「‥‥‥えっと、名前が無い様だからなんといえばいいかわからない君に聞くけどさ」
「ん?」
「器って、何も物じゃなくても良いんだよね?要は精霊に取って休める場所を求めてという事なんだよね?」
「そうだけど‥‥‥まさか!」
フレイのその言葉に、精霊の少女は察したようだ。
まぁ、言葉を続けるが…‥‥場合によって、次に続ける言葉って色々と大丈夫かな?
「器が欲しいならさ、俺に宿るのはどうかな?どうせ体を乗っ取るというわけでもなさそうだし、そういう話があると聞くよ」
「‥‥‥人間の貴方に宿ればいいと?…‥‥確かに可能だけど、本当に良いの?」
要はフレイ自身の体に、彼女を宿らせる。
その方法をナビリンが提案したので、フレイはそれなりに和らげた表現で尋ねたが‥‥‥どうも本当に可能らしい。ちなみに、授業中に精霊についての事が出て、ちょっとその例があったようだが‥‥‥いかんせん、そこはよく聞いていなかった。ナビリンがよく聞いていてくれて助かった。
「ああ、別に良いさ。見ず知らずの、まだであって間もないけれども、ここで会ったのも何かの縁。手助けできるならしてあげたいしね」
安心させるためにそう口にすると、少女はしばし思考が停止したような顔になり…‥‥次の瞬間、ぶわっと滝のような涙を流し始めた。
「す、スイマセン……助けてくれたばかりか、器になっていただけるなんて、申し訳なさすぎて、もうなんとお礼を言えば良いのかわからないの…‥‥。でも、良いのならば、やらせていただきますの!」
ドバドバと涙を流しながら、感涙にむせ詫びつつそう口にする精霊の少女。
「あ、でも……宿らせてもらうのなら、名前が無いと宿れないのですの」
「え?そうなの?」
「最初の器なら良いんですけれども、次からは名前が無いと自由にできなくて……本当はその器の名前を仮にして、使用する予定でしたが、貴方が器になってくれるのなら名前を借りるのは申し訳なさすぎるのですの!そこで、器になってもらう前に、名前が欲しいのですの…‥‥」
なんというか、精霊が器を変えるのにも苦労があるようだ。
とはいえ、名前を考えると…‥‥
(代表的なものだと、ウンディーネやサラマンダー、シルフ、ノームとかがあるけれども…‥‥この子ってどう見ても半透明の少女だし、イメージが違うんだよなぁ)
こういう時に、ネーミングセンスが欲しくなる。
ナビリンに尋ねてみたが、こればっかりは自力で考えてと言われ…‥‥フレイは悩みに悩む。
「精霊だし……それっぽいものだと‥‥‥あ、そうだ」
そこでいい案が思い浮かび、フレイはポンッと手を叩いた。
「『フラウ』って名前でどうかな?」
ここまでの不幸を笑い飛ばせるようになってほしいかもと考え、「笑う」という言葉をもじって変えただけだが…‥‥どうだろうか?
「『フラウ』‥‥‥うん、良いですの!これからその名前でよろしくですの!」
気に入ったようで、ぎゅっと抱き付いてきたかと思うと、精霊の少女…‥‥フラウの体が輝き、フレイの中に溶け込むように入っていった。
【あ、入ってきましたね】
【‥‥‥!?なんか先客がいましたの!?】
ナビリンの声に続けて、フラウの声が頭の中に響いてきたが‥‥‥‥まぁ、後の事情説明はナビリンに丸投げしよう。
とにもかくにも、一旦精霊の器になったフレイは、少々説明下手なのを自覚しているので、ナビリンに丸投げをするのであった。
「と言うか、精霊を気軽に入れちゃったけれども、特に問題はないよね?」
【大丈夫です。許容量を超えなければ爆散しませんからね】
…‥‥そういう重要そうな情報は、もっと早くに言ってほしい。と言うか、まずそこまで精霊を体の中に入れることはないと思うのだが。
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SIDEフラウ
……私は今、大変驚愕している。
あのバイコーンから助けてくれた少年が、自ら器になってくれて、感謝しきれないほどの想いを出だしていたのだが‥‥‥まさか、その少年の体内に先客がいたとは、誰が予想できたのだろうか。
【って、妖精じゃないようですけど、誰ですの?】
【私の名前はナビリン。この主、フレイのナビゲーションと言う名の相談役であるスキルの一種です】
【そうなの‥‥‥先客としているようですし、先輩と呼んでいいですか?】
【別にいいですよ。ただ、私はしょせんスキルの一種ですし、そこまでかしこまらなくとも良いです】
話しかけてみたが、思った以上に優しそうな人……いや、スキルである。
とはいえ、人格があるということから、心もあるのだろうし…‥‥精霊としてはまだまだ若輩である私にとって、どうしてもこの今いる宿主の中にいる先客の方には、敬意を持ちたい。
とにもかくにも、どうやら奇妙な共同生活が始まりそうなのは…‥‥楽しみである。
フラウはふふっと、そう笑みを漏らし、これからの生活に希望の光があふれたように感じたのであった。
精霊のフラウが仲間になった。
炎龍帝を倒す目標の手助けに精霊の力は使えそうだが…‥‥どういうのがあるのかな?
気になりつつも、次回に続く!!
……寄生に思えるけれども、ちょっと違う。フラウはただ単に休める場所としてフレイの体の中を拝借しつつ、手助けをする。フレイは彼女の器になる代わりに、精霊の力を借りたい時に借りさせてもらうつもり。
互いに悪いことはなく、良いことで一致しているのである。にしても、フレイとフラウって少々名前が被るな‥‥‥間違えないように注意しないとね。




