何も戦う必要はない
案外普通かも。
――――――ドラゴンの目から逃れ、何とか後方についた後、フレイたちはあのドラゴンが引き返してくる可能性を考えていた。
そして、その対応策を思いつき、実行することにした。
「何も戦う必要性はない……と言うか、負ける戦いにはいきたくないからね」
「かと言って、これはどうなのだろうか‥‥‥」
「まぁ、理論的な事だしいんじゃないかしら?」
「しかし、これじゃぁ結構遅いねん」
「とはいえ、こうでもしないといけないからなぁ‥‥」
ぶつぶつと言いながらも、フレイたちは今、ダンジョンの壁際をほふく前進しながら進んでいた。
背中には適当にそのへんの土を削って乗せて目立たないようにして、極力静かに移動しているのである。
‥‥‥あのドラゴン、ジャキガンはまともに相手すれば、今のメンバーでは勝利はない。
だがしかし、わざわざ戦わずとも、こうやって低姿勢で極力目立たないように行けば見つからずにやり過ごせるはずである。
何しろ相手の目線はフレイたちよりも高いので、それよりできるだけ下にいれば死角にはいり、気が付かれずに行けるはずだと思ったからである。
ズシン……ズシン……ズシン……
「グゴガァァァァァォォォォォ!」
っと、噂をすれば影が差すというように、引き返してきたらしいドラゴンの足音が聞こえてきた。
一旦皆は動きを止め、自分たちはただの地面のふりをして黙り込む。
真横をドラゴンがきょろきょろしながら通っていくが‥‥‥案の定、追いかけている時とは違ってすぐに視線に入らず、見つからずにいら立つようなそぶりを見せながら、奥へ向かって行った。
通り過ぎるまでわずか数分ほどであったはずだが…‥‥とても長い時間を感じたようにフレイたちは思った。
そして、無事にやり過ごせたことで、皆はほっと安堵の息を吐くのであった。
その後、全速力でフレイたちはダンジョンを脱出した。
やり過ごせたとはいえ、このままいてはまた鉢合わせになる可能性がある。
そうなれば当然やばいので、一旦ここからできるだけ離れたほうが得策だということになったのだ。
ダンジョンから出て、さらに安全を確保できそうな距離にまで行けたところで、一旦彼らは休憩を取った。
「ふぅ、何とか助かったなぁ‥‥‥」
「ああ、ああやって背中に土を乗せて、低姿勢で移動する案をしたフレイのおかげだ。助かったよ」
「ええ、死ぬ思いだったけれども助かったのが嬉しいわね」
それぞれが安堵の息を吐きつつ、今回の目的を思い出した。
「そう言えば、ダンジョンについての調査報告は結局どうするんですか?」
「そうだな‥‥‥あのようなドラゴンがいる以上、定着してしまった可能性を考えると、おいそれとその情報を出せないな」
「そうやねん。ドラゴンちゅうのはどのようなものにしても、厄介な存在やからなぁ。その鱗や血が希少ゆえに狙う輩も多いんやけど、生半可な輩が挑めば周辺に被害が尋常ないほどでてしまうんやで」
何処の世界にも実力不足なのを認めず、無謀にも強大な敵へ向かい、そのしっぺがえしを周辺に押し付けてしまうような奴がいるらしい。
ゆえに、今回のダンジョンに関しても、あのドラゴン……ジャキガンがまだ住み着いたと確定していないとはいえ、見つけた以上報告するのは余りよろしくないそうだ。
「となれば‥‥‥学園長に報告だが、あまりやりたくないな」
悩みながらサブローがそう言った。
「どうしてですか?」
「うちの学園長、守銭奴と言うか、儲け話には弱いからな‥‥‥何であんなのが冒険者育成学園の学園長をしているのかが疑問だよ」
‥‥‥なんかすごい不安になる言葉であった。
とにもかくにも、パーティ「春風が吹く」の卒業試験としては、このまま報告しに行かねば意味がない。
ついでに、ここまでともに行動してきたからその学園にも入れるようにしてもらうためにも、フレイは動かねばならない。
しかしながら、今はあのドラゴンに追いかけられた疲れを癒すためにも、しばし野宿をしなければいけないのであった…‥‥
‥‥‥不安になるような言葉がありつつも、学園へ向かう彼らについていくフレイ。
さてさて、冒険者になるためにも必要な事だろうけれども、何やら雲行きが怪しそうだ。
なんにせよ次回に続く!!




