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月の涙  作者: 燐麗
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第一章

 辺りは暗い闇の中。どこを見ても暗いだけ。

 その中にディアンは立っていた。

 ここはどこなんだ。

 少し前に進んでみる。けれども何もかわらない。闇が広がっているだけだった。

 音も風も何もない空間。

 ディアンは混乱していた。

 なぜ俺はここにいるんだ。

 いったい何が起こっているのかわからなかった。呆然と立ち尽くしていると目の前にうっすらと光の玉が現れた。

 何だろう。

 だんだん光が大きくなる。それとともに光も増してくる。

 先程まで暗闇だった空間にみるみる光があふれ出した。

 あまりの眩しさにディアンは目を細める。

 よく見るとその光は女の形に変わっていく。手、足、顔とだんだんパーツがはっきりとしてくる。少しの時間でそれは完全に女の形になった。

 誰だ。

 心の中でつぶやく。

 こんなわけのわからない事態にたたされているのに、もうディアンは冷静になっていた。

「あら、はじめまして。ディアン」

 目の前の光、いや、女がしゃべった。それにはさすがにディアンも驚いていた。しゃべるなんて予想外のことが起こったのだから。

「お前は誰だ。なぜ俺の名を知っている。」

 ディアンは冷たく言い放った。

「そんな冷たい言い方しなくてもいいのに。私は、エレンです。女神といったところかしら。なぜあなたの名前を知っているかって?話が長くなるからいちいち説明するのは面倒だわ。機会があればそのうちきっと話すわ。」

 笑顔でそういった。

 ディアンはじっとエレンを見つめていた。

 なんだか前にも会ったことのある感覚。

 なぜだろう。

「お前、俺と前に会ったことあるか?」

「えっ。な、な、何いきなり。さ、さぁ。わからないけど。」

明らかにエレンは焦っていた。

 これはなにかあるな。でもまぁいい。

「それで、俺に何か用があるからここにいるんだよな。」

「あっそうそう。ディアンに用事があったのよ。」

「何だ。」

 すると、今のいままで笑顔だったエレンが急に真剣な表情に変わる。

「ディアン、これから私の話すことをよく聞いて。」

 さっきとはまるで別人のようだった。

「あなたは愛を見つけなさい。」

 いきなり不思議なことを言った。

 しかしそれでもディアンは冷静だった。表情一つ変えないで言葉を返す。

「俺には愛なんてもの必要ない。」

「いいえ。そんなことないわ。これからのあなたにとってとても必要になってくるの。」

「なんでそんなことがわかるんだ。」

 はっとエレンは息を呑んだ。

「あ、あ、あら。なんでもよ。そう、なんでも。そ、そんな気がするだけよ。」

 どうやらエレンは隠し事や嘘が苦手のようだった。こんなに言葉をつまらせているなんてわかりやすすぎる。ディアンはもう問わないことにした。

「まぁとにかく、あなたは愛を見つけて、知らなきゃいけないの。」

「そんなことできるわけないだろ。」

「あなたならできるわ。大丈夫よ。あなたはあなた自身のやり方で愛をみつければいいの。きっとすぐに見つけられるわ。」

「そんなわけ・・・」

「じゃぁ私そろそろ行かなくちゃ。」

 初めて会った時にみせた笑顔でそう言った。

「おい。待てよ。」

「私はいつもあなたの傍で見守っているわ。たとえ見えなくてもいつでもね。私の言った言葉忘れないでね。」

 そう言ってエレンは消えてしまった。

 それと同時に目の前に光景が急にかわった。

 今度はなんだ。

 すると、ディアンは仰向けになっていた。今の自分の状況がわからない。

 いったいさっきからなんなんだ。

 ディアンは考えた。 

 なぜ今、自分は仰向けになっているのかと。

「もしかして、さっきのことは夢だったのか?」

 独り言のようにつぶやく。

 夢だとすると今の状況に納得がいく。さっきのは夢で今、自分が目覚めてベッドの上に仰向けになっている。そう考えたほうが一番合理的だった。

 でも本当にそうだったのか。夢にしてはあまりにリアルだった。エレンと名乗る女神。そしてエレンからのあの言葉。

“あなたは愛を見つけなさい”

 鮮明に覚えていた。

 愛なんてとっくの昔に捨てている。ディアンは愛すること、愛されることなんて忘れてしまっていた。今はただ“依頼”をこなしていくだけ。自分の感情は奥深くに閉じ込めている。

 そう・・・そんなものは俺には必要ない。

 仰向けの状態のままそんなことを思った。

 ゆっくりと起き上がるとやはりいつもの風景。

「やっぱり夢か。」

 きっと昨日は疲れていたからだ。だからあんな不思議な夢をみたのだ。

 ベッドから降りて、何事もなかったかのように身支度をする。

 けれども何かが引っかかって忘れようにも忘れられない。

 幼い頃の記憶のないディアンにとってエレンは懐かしい存在に感じていた。

「そんなことはもういい。そろそろ行くか。」

 ディアンはぼそりとつぶやいて奇妙な割れてしまったような形の月長石のネックレスをつけて部屋をでた。



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