チャンス
女神シヴに、堂々と『世界征服』を宣戦布告する姉妹。
当然、シヴの形相は変化する。
「……本気なの?」
獲物を今にも食い殺す様な、鋭い眼光で姉妹を睨みつける。
地平線のかなたまで逃げ出してもおかしくない、殺気が辺りに広がる。
だが、姉妹はそんな事などお構いない様子で答えた。
「当然じゃん!せっかく理想の世界へ来たのに、自分達の思う世界にしないでどうするの?」
「そうそう。それに、他人の下に付いて暮らすなんて、論外にも程があるわよ!」
迷いの無い答えだった。
シヴ自身が、聞いたことを間違いだったと思うくらいに、姉妹の目は真っ直ぐ向いている。
「そう・・・・・分かったわ。たしかに、この世界でどんな生き方や道を選んでも、全ては本人の自由だしね。でも、分かってる?あなた達の考えは、この世界に住む全ての存在を敵に回すって事なのよ?」
再度シヴは、鋭い眼を光らせる。
だが、姉妹は再び答える。
「あったり前よ!そんな事にビビる、あたし達じゃないわ!」
「当然ね!それに元々、あたし達2人意外は、全員敵みたいなもんだから!とことんやってやるわよ!」
これ以上聞くのはヤボね。
シヴは一呼吸する。
「分かった!そこまで、言うならもう何も言わんよ。こうなったら、あたしもあなた達の生き様を最後まで見させてもらうわ!」
そう言ってシヴは、空中へと浮かび上がっていく。
「あ、そうそう。あなた達2人で突っ走るんもえぇけど、さっきからずっと放置されとる『僕さん』にも、少しは気にかけてあげなさいよ?アレでも、あなた達に全てを捧げた存在なんじゃけね」
シヴは、最後に「また会おうね」と言い残して、その姿を消した。
「あ、そう言えばずっと忘れてた」
姉妹は、放置していたスチュワード の方に視線を向ける。
スチュワード は放置されてもなお、美しい姿勢を保ったまま頭を下げていた。
ユメコは、はぁ~と溜息を大きく吐きながら口を開いた。
「とりあえず、まずは情報収集ね。この世界の事は全く分からないわけだし・・・スチュワード !この辺りに街はあるの?出来れば、あたし達みたいな存在のいない国がいいんだけど」
スチュワード はゆっくりと頭を上げ答える。
「それならば、うってつけの国がございます」
--ルミエル王国。首都ルミエル。
この世界の24ヵ国ある国の中で、もっとも小さく平凡な国。
この国の王と市民は、全てこちらの世界の存在者だ。
だが、その中でもルミエルの国王はもっとも権力が弱く、実質24ヵ国の国の中で最低の弱者王国と呼ばれたいた。
更に不運な事に、この国は数日前に王が病で亡くなっていた。
しかも、王の正当な世継ぎは、たった1人の王女のみ。
今この国は、その王女の王位継承について様々な問題を抱えている最中だった。
首都ルミエルに着いて1時間弱。
スチュワードが、この街の住民に聞き込みをして分かったのは、その情報だった。
だが、姉妹にとっては、最高の情報と状況と言えるものだ。
街の中央に配置された、噴水の前に腰を掛けながら、姉妹はこれからのスケジュールを考える。
「マジでヤバイわこれ・・・」
「ユメコ様、何か問題でもございましたでしょうか?」
「あ、違うよスチュワード?このヤバイは、良い方のヤバイだから!」
ユメカのフォローに、スチュワードは頭を傾げる。
「ほんとヤバイわ。いえ、ヤバイどころじゃないくらいにタイミングが良すぎるのよ!けっこうな時間と労力を覚悟してたけど、これなら一気に行けるわ!」
予想以上の展開に、ユメコは声を震わせた。
「じゃ~やっぱりユメコはあっちのやり方で行くんでしょ?」
「もちろんよ!ユメカも成功者の秘訣覚えてるでしょ?」
まぁねっと、余裕の笑みを浮かべるユメカ。
「成功する者は、決して小さなチャンスとタイミングでも見逃さない」
ユメコとユメカは立ち上がった。
「この国の王位継承は、あたし達がもらうわ」