夢は大きく
--呪い
その言葉を聞いて、良い思いをする者はまずいない。
呪いは、対象となる者に害を与え、最悪の場合は死を意味する。
そんな恐ろしい言葉を使うのは、魔女や黒魔術師と言った、悪役気味た存在ぐらいだろう。
「・・・・・・今何て?」
唖然とするユメコ。
言葉は出なかったが、ユメカも同様の表情だ。
「ん?じゃけえ呪いを掛けたの!この世界に来た人達は、必ずこの呪いに掛けるってルールなんだよね!」
平然と笑う、女神シヴ。
美しく、華麗な存在の彼女から絶対出るはずのない『呪い』と言う言葉。
それをシヴは、平然と当たり前の様に姉妹へ告げる。
初対面の人間から、いきなりグーパンチをされたかの様に、ユメカとユメコの表情からは生気が抜けている。
何故?どうして?何で?何がどうなっている?
ただただ、困惑の疑問が2人の頭の中で何度も交差する。
「呪いって・・・・・・何なのよ・・・」
震えながらユメコの口から言葉が漏れる。
「あ、まさか死んじゃう呪いとかだと思った!?大丈夫大丈夫!呪いって言っても、そんな害のあるもんじゃ無いけぇさ!」
笑いながら、答えるシヴ。
その返答に、姉妹は少しだけ表情に安心が戻る。
だが、直ぐに表情を固くし、再びシヴに質問する。
「じゃ、じゃあどんな呪いを掛けたの!?あたし達に!」
「んー別に教えてもえぇけど、そんなに知りたい?」
「あ、当たり前じゃない!害が無くても、呪いを掛けられてるのよ!?どんな呪いが掛けられてるのか分かるまで、この先一生安心して眠れないわよ!」
「んーじゃあ教えるけど・・・知ってもどうにもならないけどね」
必死な表情で汗を流すユメコ。
平然と、どこかダルそうな表情で頬を掻くシヴ。
そして、はぁ~溜息を吐いたシヴは、ユメコとユメカの方に視線を向け言った。
「--元の世界。つまり、あなた達の住んでいた現実の世界に2度と戻れない呪いよ」
周りが静まり返る。
聞こえるのは、ゆっくりと流れる風の音だけだ。
ユメコから離れていたユメカが、ゆっくりとユメコの横に歩み寄り、片方の手を強く握った。
それに対し、ユメコもユメカが握るその手を強く握りしめる。
2人の表情は非常に暗かった。まるで、これから死を迎えるかの様に顔を下に向けている。
「・・・・・・ユメコ」
「・・・・・・ユメカ」
『やったーーーーーーーー!!!!』
・・・・・・。
再び周りが静まり返る。
先ほどとは逆に、呆然とした表情を見せているのはシヴの方だ。
両手を取り合い、大はしゃぎしている2人を目の前に、ポカンと口を開けた。
「えー・・・えっと、聞いてもえぇかな?」
「え、何シヴ?」
「まだ何かあるの?」
ジャンプしながら、歓喜のダンスを踊る姉妹。
「いや・・・何やろ。あなた達の反応がちょっと意外過ぎて。ここまで喜んだ子居らんかったからさ・・・アハハ」
額に汗を流しながら、初めてシヴは困惑の笑みを浮かべた。
だが、無理もないだろう。
本来なら、呪いを掛けられた者が喜ぶなど有り得ない事だ。
しかも、姉妹に掛けた呪いは『元の世界に2度と戻れない』ものだ。普通の人間なら、突如異世界へ迷い込み、もう2度と自分の居た世界へ戻れないと知れば、当然それ相応のショックを受けるはずだ。
だが、目の前の姉妹は違う。
シヴが今まで見てきた者の反応の光景、それを遥かに覆す光景が今目の前で起きている。
この姉妹は一体何者なのか?シヴは困惑しながらも、少しの不安が過ぎっていた。
そして、恐る恐る姉妹へ聞いた。
「あなた達・・・何でそんなに喜んでるの?」
その単純な質問に、姉妹は簡単に答える。
「え?何でって、当たり前じゃん!もう元のあんなつまんない世界へ戻らなくていいんだよ!?」
「ほんとそれ!呪いって聞いたときは正直ビビっちゃったけど、こんな最高の呪いなんてないわよ!」
子供が親からおもちゃを買ってもらって喜ぶかの様に、姉妹の声は高鳴り、満面の笑みを見せていた。
それでも、まだ納得のいってない表情のシヴに、今度は姉妹が問いかけてきた。
「あ!ちょっと聞きたいんだけど、この世界には、あたし達みたいな人間って他に居るの?シヴの話からだと、あたし達とシヴだけって訳じゃなさそうだったからさ!」
「そうそう!それ聞いとかないと、これから大変だもんね!」
再び目を丸くするシヴだったが、今度は目を1度閉じ、そしてゆっくり開いて本来の女神と言える冷静な表情に戻し、ゆっくりと口を開いた。
「えぇ、もちろん居るわよ。でも、全部話したら長くなるから、直接送るわ!」
シヴは、2人の額にベールの光に包まれた手を伸ばした。
そして、掌から光が放たれ、姉妹の頭の中に何かの言葉が飛び込んだ。
--世界の説明
●この世界は、全て夢によって生み出される。
●この世界には、大きく分けて2つの存在がある。
1つが、この世界に元々存在する者。
2つが、他の世界からこの世界に導かれた者。
●この世界は、現在24ヶ国の国が存在する。その内の13ヶ国が、他の世界から導かれた者の国である。
●この世界で生きるには、2つの道がある。
1つが、他の国に従い属して生きる道。
2つが、己で自国を作る、又は他の国を奪い、国のトップとして生きる道。
●この世界での力は、己自身の夢により生み出される。その力は自国であるほど力を発揮できる。
●この世界での戦いは、国のトップ同士での夢対決で決まる。
●この世界での夢対決は、勝負を挑まれた側の自国で対決する。
●この世界で、対戦により1度でも敗北した国は、その生涯を勝利した国へ捧げ属す。
●この世界での、全ての夢の根源は、女神が握る。
--世界での唯一の禁止
●リンゴを口にすること。
--以上、頭の中に直接流れ込まれた後、2人は意識を戻した。
「どう?話すより簡単だったでしょ?」
ゆっくり2人の前から手を引きながら、シヴが聞く。
姉妹は、うずうずしながら、お互いの顔を見つめている。
何かまたとんでもない事言うのだろう。シヴはそう直感し、一言。
「感想は?」
姉妹は大きく腕を天に上げ、そして大きく振りかぶってシヴに指差し答えた。
『夢は大きく世界征服!!』