シヴ
「――スチュワードと申します」
その名前に若干の違和感を感じたユメコだったが、直ぐに思考を切り替えて言った。
「じゃあ、スチュワード。これはどう言う事なのかしら?」
目の前に広がる景色を指差してユメコが問う。
スチュワードは少しの沈黙の後、ユメコの後ろに居るユメカの方に視線を向ける。
「ユメカ様が・・・先ほどの入り口を開けて下さいましたので、私共はここへ入ることが出来たのでございます」
またか。
ユメコは、目を細めながらスチュワードを睨む。えするのであれば・・・。
ユメコは、スチュワードの元へと全力で走った。
「もしかして・・・ここは、あたし達の世界なの!?」
額に汗を流しながら、強い眼差しを向けるユメコ。
「半分正解で、半分不正解でございます・・・ユメコ様」
スチュワードの答えに、ユメコは初めて心から納得した。
そうだ。半分正解なら、ユメカの言葉と今のこの場所に変わった現象は納得がいく。
だが、最初の落下中に見た景色や、今この場所から見える様々な風景は絶対に不正解だからだ。
つまり、自分達の考えは半分が正解で、半分が不正解。
スチュワードの返答は、100点満点の返答だろ。
そして、問題なのは残り半分の不正解。
「じゃあこの・・・・・・」
「そこから先は、私ではなく、あちらの方からご説明がございます」
言葉を遮り、スチュワードが手を向けた方向にはユメカが居た。
いや、正確にはそのユメカの背後に立つ1人の女性に。
なんと言う美しさ
誰もが一目見ただけでそう言葉を漏らすであろう美貌。
年齢は、ユメカとユメコとさほど変わらない感じではあったが、圧倒的に品格が桁違いだった。
床にまで伸びた、黄金に輝く長髪。神秘的な服装に身を包み、片方の手は、ベールの光に包まれたように輝いている。
まさに女神。
ユメコは、ただただ見とれながらも、この人物がこの世界の謎を全て知る者だと直感で感じていた。
「あらあら、そんな所で座られていると、せっかくのお召し物が汚れてしまいますわよ?可愛いお嬢さん」
まさにその美貌に相応しい、美しい声だった。
女神は、呆然と地面に座っていたユメカに手を差し伸べ、そっと自分の正面に立たせた。
遠くからでも、ユメカが顔を赤面にし見惚れているのをユメコにははっきりと分かった。
女神は、美しい足運びで近付いて来る。
ユメコの心臓が、どんどん高鳴っていく。
そして、女神がユメコの前で立ち止まり、ニコリと笑った。
「ようこそ!私とあなた達の世界へ」
ユメコとユメカは目を見開いた。
今何と言った??
そう言う表情だった。
女神の言葉に遅れて、ユメコが口を開こうとした時だった。
唇に、柔らかく、そして白く美しい人差し指が止まる。
「その前に・・・・・ふー」
女神が大きく呼吸を吐き出した・・・その後だった。
「話するんやったら、堅苦しい挨拶は無しでいこ!私、シヴ!よろしくね!」
唖然。
ユメカとユメコは、言葉が出なかった。
「ん?どしたの?堅苦しい話し方より、こっちの方がえぇと思ったんじゃけど?何か変だった?」
変すぎるだろ。
2人は心の中で、ぐっとその言葉が口から出るのを押さえ込んだ。
不思議そうな顔で、2人をキョロキョロと見回す女神シヴ。
そして、内心を不安いっぱいにしながらユメコは口を開いた。
「あ、あの・・・シヴさんの・・・その、話し方は一体何処で?」
「え?シヴでえぇよ?んーちょっと知り合いにこんな話し方をする子が居てさ!その子に始めて会った時に、人と話する時はこの喋り方のが1番って言われて、教えてもらったんよ!」
「は、はぁ・・・・・・」
ユメコは絶対それは違うと思う。と心の中で呟いた。
「じゃあさ!じゃあさ!シヴはこの世界の神様なの?」
一気に空気をぶち壊すかの様に、ユメカがシヴの横まで駆け寄り、馴れ馴れしい態度で話しかける。
「んー微妙に違うかな?何て言うんじゃろ・・・この世界は私だけのものじゃないしね・・・」
え??と、2人は一気に顔の表情が変わった。
そして、シヴはそんな2人にサラリと、笑顔でその言葉を口にした。
「あ!2人には『呪い』を掛けとるから、もう元の世界には戻れないからね!」