北の大臣
豪華な馬車が、街灯の光が照らす街道を駆け抜ける。
外は、街中の光が照らす時間帯になっていた。
そんな馬車の中には、中年太りした男が1人。
高級な衣服に、所々に輝きを放つ宝石を宿した指輪。
まるで餅の様に丸く膨らんだ頬に、今にもボタンが弾け飛びそうな膨れた腹。
ルミエル王国北の領土の責任者、北の大臣だ。
北の領土は、主に食物の栽培と管理。
牛・豚・鳥を含めた家畜の飼育に、小麦や新鮮な山の幸の農業活動がメインだ。
それら全てを管理する北の大臣は、ちょっとした実業家でもあり、自分が管理する領土から取れた食材を使って、街で多数のレストランを経営している。
王族や貴族向けの高級レストランや、庶民でも親しめる格安のレストランなど、ルミエル王国の90%以上の飲食関連は、北の大臣の手で回されていた。
それゆえに、彼はこの様な体系であるのだ。
「全く、あのエルフの2人には毎度の事ながら頭に血を上らさせられるわい」
不機嫌そうに窓の外を見つめる北の大臣。
ぐう~!!!!!
馬車の中に、突如大きな音が響き渡る。
「いかんいかん、わしの腹の虫もどうやら機嫌が悪い様だな」
そう言って、音の出所の大きく膨れた腹をさする。
「おい!馬をもっと早く走らせろ!わしの腹はもう限界だ」
承知しました。の返答と同時に、鞭の音と共に馬車のスピードが速くなる。
「今夜は楼牛のステーキに、西の大臣から貰ったワインで一杯いくとするか!あの忌々しいエルフの王女と女王の件を、わしの胃袋で憂さ晴らししてやる!」
北の大臣の笑い声と共に、馬車は勢いよく街の外へと駆け抜けていく。
北の大臣の屋敷は、国の中央街から数キロ。北に位置する場所にあった。
山に囲まれた雄大な農場や牧場の先に、レンガで統一されたゴシック様式の建物は、一際目立つ。
妻に1人息子、執事、使用人、メイドやシェフを含めた総勢20名が暮らす大豪邸だ。
屋敷の前に着くと、玄関の門の前に年配の執事が立っていた。
馬車が止まるのと同時に、執事は華麗な動きでドアを開け、北の大臣の帰りに深く頭を下げる。
「お帰りなさいませ、旦那様」
深々と頭を下げる執事に、軽く手を上げる大臣。
「夕食の支度はもう出来ておるか?わしの腹はもう限界でな・・・妻と息子はどうしておる?」
少し言葉を詰まらせながら、執事が答えた。
「はい、夕食は既にご用意出来ております。奥様とお坊ちゃまも既にお食事を。ですが、少々問題がございまして・・・」
思わず、ハンカチで額を拭う執事。
「ん!?一体なんだと言うのだ?率直に申せ!」
「は、はい。実は、本日お坊ちゃまのご友人が来られておりまして・・・今、奥様とお坊ちゃまとお食事をされている最中でございます」
なんだ。と、大臣は薄い表情で返す
「チャゴの友人とは珍しいな。だが、友人と食事をしているのが何か問題でもあるのか?」
「い、いえいえ。ただ、ご友人とおっしゃられても初めてお会いする方々でして・・・それに、とてもお綺麗な女性のお2人と容姿端麗な執事の方達でしたので」
ほー。
北の大臣はニヤニヤしながら、少し生えた髭を触る。
「チャゴめ・・・わしの知らぬ間に女子を家に迎えるようになっておったとわ。しかも、綺麗な女子2人とは・・・よし!わしも直ぐに案内せい!」
北の大臣は、執事に命じ駆け足で走る。
大臣の頭の中には、食欲など忘れられていた。
今頭にあるのは、綺麗な女子2人の存在のみ。
北の大臣の裏の顔で、彼は非常に『面食い』であった。
屋敷のメイドもしかり、経営するレストランのウェイトレスも全て自分が選抜するほどだ。
当然、自分のお気に入りに手をつけるのもその理由の1つだ。
ハァハァと、運動不足が丸分かりの息を荒立てながら、小走りと共に大きな頬と腹が揺れる。
そして、目的の食卓の間のドアの前に着く。
ゴクリと生唾を飲み込んだ後、大臣らしく姿勢を正し、貫禄を交えた声を上げる。
「わしだ!入るぞ」
執事の手によって扉が開かれる。
そして、大臣は言葉を無くした。
目の前には、黒いドレスと白いドレスを着た、絶世の美女・・・ユメカとユメコの2人が待っていた。




