第一話 その始まりは唐突に
よろしくお願いします
その日は、あまりにいつも通りな朝から始まった。
ぱっぱと朝ご飯と弁当を作り、特に親しくもないクラスメイトの某と朝偶然出会ったからと一緒に登校し、面白くもない授業を所々船を漕ぎながら聞き、陸上部で適度に汗と日頃のストレスを流す。
どうしようもないぐらい普通な日常。おそらく、こんな日常がこれからも続いて行き、高校三年間も終わって行くのだろう。
梅雨明けの太陽は日没も近いというのにギラギラと焼きつくようだ。明日からの弁当は塩分を多めにしないとな。
俺、紫香楽康太はエナメルに自分のジャージを詰め込みながら思いを巡らせ、荷物をしまい終えると、先輩方に挨拶をして学校を後にした。
突然だが、俺は知らない街を歩くのが好きだ。いつもとは違う世界の中に一人きりの自分がいる。そう考えると、孤独感と興奮とが合わさったえもいわれぬ気持ちになる。
だから、俺は時々知らない道を通って帰る。その日も、そう、俺はいつもの帰り道からそれ、細い路地を通ることにした。
人一人やっと通れるだけの道幅でブロック塀がせまっている。一昨日の雨の名残か、湿った雰囲気が俺を包む。なんとも、心地よい。
俺が、こうして感傷に浸っているとーーー
ジャリッ。
後ろから乾いた音がした。
反射的に俺は振り向いた。
いや、振り向こうとしたが、できなかった。
俺が振り向くよりも早く、俺の口に布のような物が当てられ、俺は意識を失ってしまったのだから。
〜〜〜〜〜
「…った!…せ……だ!」
どこからか、声が聞こえる。
「…う…る?…て……のか?」
ひどく、頭が痛い。ズキズキと奥の方から痛んでくる。
考えるのが、怠い。自分が仰向けになって、寝ている。それしか分からない。
「…っこ…うしゃ……と…」
あれ、俺、今までどうしてたんだっけ。ああ、そうだ。いつも通りの一日を終え、最高の至福に浸っていて、そしてーーー
「…いに…がく…にも…」
段々頭の痛みがなくなってきた。自分の意識が覚醒していくのを、やけに早く感じる。
そしてーーー
「勇者様の召喚に成功したのですね!!」
バン!と扉を開ける音がした。俺はまどろみから目を覚ます。
そして、唖然としてしまった。
そこはジメジメとした裏路地などではなく。
目を開けた俺の視界に飛び込んできたものは、
石で囲まれた部屋。シルクハットのようなものをかぶったマジシャン風の男。まるで御伽噺にでてくるような甲冑を被った兵士。
そして、満面の笑みで俺を興味深そうに見つめる、ドレスを着た女の子だった。