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1.太陽の花のように

 それはまだ空気が冷たい春のはじまりでした。冬の眠りから覚めた草花があちこちで顔を出し、光を求めて太陽を見上げます。庭の花壇には鮮やかな黄色い花が咲いていました。ちいさな太陽の花です。


 おまえはほかの誰でもない、わたしと太陽に祝福されて生まれた――


 産まれたての赤ん坊を胸に抱いて、母親になったばかりの若い娘はその我が子にこう名付けました。太陽のようにあたたかく、そしてかわいらしくなるように。“カレンデュア”と。





 カレンデュアは父親の顔を知りません。最初からいなかったのか、途中でいなくなったのかもわかりません。母親に訊いても教えてくれませんでした。それでカレンデュアがかなしい顔をすると母親はこう言いました。

「カレン、おまえはさみしがることなんかなにもないの。だっておまえはちいさな太陽の花カレンデュアなんだから。ほら、外に出てごらん。花壇の上に黄色いお花がたくさん咲いているでしょ。おまえの名前はあのお花からもらったのよ。カレンデュアは明るくてかわいらしくてみんなに愛されてる花なの。おまえもきっとあのお花のようになれるわ。だからうつむかないで上を向いてごらん。太陽がおまえを元気にさせてくれるはず。おまえはちいさな太陽の花“カレンデュア”なんだから」

 それからカレンデュアはかなしくなると

「わたしはちいさな太陽の花カレンデュアなんだから」

 自分をそうはげましました。

 花壇に咲いたカレンデュアの花たちはまるで兄弟のように愛しくて、カレンデュアは毎日かかさず世話をしました。

「きれいよ、カレンデュア。今日も咲いてくれてありがとう」

 水をやりながら花たちにそう話しかけると、葉や茎に付いた雫が日光を反射してキラキラひかり、それを見るとカレンデュアは笑顔になりました。

「まるでキラキラ笑って喜んでるみたい」

 そんな風に見えたのです。

 夏がはじまる頃になるとそんな“兄弟”たちともお別れです。そして秋に種を蒔き、翌年の春あたらしい顔と対面します。でもそれは「おかえり」でもあり「はじめまして」でもあるのです。カレンデュアにとっては。


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