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ときめき弾ける出会い

※主人公はノーマルです



 入学式も無事終了して、労いの場が設けられた。お疲れさま、と差し出された苺ミルクを早速飲む。水窪先生は「手が冷たいな、温かいものにするか?」と聞いてくれたが、やんわりと断った。ちょっとだけ目を細めた先生は、何かを言いたげにしていたが結局は口に出さずに他の生徒の様子を見に行った。


「(…うむ、うまい)」


 半日労働の労いにしては安っぽい、と捻くれた考えの人もいるだろうが、高校生には十分な報酬だと思う。ぬくぬくと飲んでいると、ニヤニヤした幼なじみがまたもデリカシーの無い発言をする。


「甘いモノばっか飲んでると太るぞー」

「その分動くからいいんですよーだ」


 肩を軽く叩いて睨み付ける。女性のタブーに踏み込んできやがりましたよコイツ。…そこまで考えてから、既視感を覚える。この一連の流れは──。


「こら。女の子に体重の話をしちゃあいけないよ」


 ね。と相槌を求めるように私にウィンクされると、いけない方向のときめきを感じる。高鳴りの正体を確かめようと、音源に目を向けると──美しすぎて目が眩んだ。そこにいらっしゃる方こそ宝塚系の麗人で、素敵なハスキーボイス、すらりと伸びた手足に見合った長身を持っているにも関わらず、実は可愛らしいものが大好きらしい一面を持ったヒロイン、生徒会副会長の「百合林(ゆりばやし)一弥(ひとみ)」様である。本来よりちょっと早めに彼女の登場シーンが来たようだ。ついでに、私の言動が変な理由は一弥様の加護が「女性誘惑体質」だからだ。メロメロになってます、…でへへ。


「おや、大丈夫かい?」


 黙り込んだ私を心配してか、一弥様が顔を覗き込んでくれた瞬間、パトスが弾けた。一弥様の魅力値(対女性限定)は百パーセントオーバー!


「…うう」

「!大変、鼻血が…」


 目を見開いた一弥様が私の鼻へ白いレースがついたハンカチをあて、抱き締めてくれる。わたわたする私を「落ち着くまで、隠してあげる」と、優しく諭してくれる手は…悲しみを帯びていた。本当は普通に彼女らと接したいのにうまくいかないな、と。


「(…大変なんだなあ)」


 そっと見上げてみると、一弥様は笑っているのに…心は苦しそうだった。私の視線に気づいて、一弥様が「ん?」と首を傾げてなあに?と目で問うてくる。魅力値二百パーセントオーバー!何だこの可愛い人!止まる気配の無い鼻血を何とかしようと、眉間に皺を寄せようとして──冷たい声がこの空間を切り裂いた。


「何だ、騒々しい」

「おや、御幸(みゆき)か」


 包み込むような一弥様の声に比べて、全てを切り裂くような鋭さと冷たさを持ったその人の声に、ときめきが収束していくのが解る。視界に入ってきた金の瞳が、眩しかった。


「…ん?」


 厳しさを帯びたその人の目が一弥様に抱き締められている私を映すと、更に厳しく歪められた。


「百合林、何を遊んでいる」

「違うよ御幸。これは彼女の尊厳を守る大事な行動だ」

「相変わらずお前の発言は理解しかねる。そんな女の尊厳を守る事に何の価値があるんだ」

「それは聞き捨てならないよ御幸、人類皆平等だ」


 私の頭上で一弥様と御幸──作草部(さくさべ)御幸(みゆき)生徒会会長が冷戦を始めた所で、体が後ろに引っ張られた末、誰かの胸に行き着く。誰かは解るので顔を見ずに、私の代わりに彼等の間に立ったヒメコの背中を呆然と見つめた。


「俺の幼なじみを馬鹿にしないで下さい!」

「…何だ貴様は」

「二年D組姫野湖太朗です!あいつはあなたにとって関係ない人物だろうけど、優しいし楽しい奴だし面倒見てくれる良い奴なんだ!」


 あなたの価値観で決め付けないで下さい!と最後にヒメコが言い切ると、頭上で静かに同意する声がした。そこで律との距離感に気付いて、さり気なく離れる。


「ありがとう」

「ん。気にするな」


 名残惜しい気配には気付かないふりをして、喧騒の中心人物を見る。睨み合っていたが「フン」と会長が鼻をならして、去っていく。自然界ならば先に目を反らした方が負けだが、…今回は会長が相手になるのも面倒だと言わんばかりに見逃した形になったようだ。去りぎわ、視線が合った会長が一瞬だけ目を見開いた気がしたが、気の所為であろう。いや、そう信じたい。


「済まないね、御幸も悪い奴じゃないんだ。ちょっと頭が固くてね」


 一弥様否、百合林先輩も会長の後を追い掛けるようだ。駆り出されたメンバーを労ってから、私に「ハンカチは遠慮なく使って」と笑いかけてくれる。中途半端に関わった所為で大変な思いをさせてしまったと、笑顔の下に隠れる後悔が見えてしまう。けれど、私から彼女にかける言葉はきっと響かない。彼女の加護は、それだけ同性に対して影響力があるから。ありがとうございますと心を込めて言っても、彼女の曇りがちな心に晴れ間は見えなかった。

 去る前に、ヒメコと私をどことなく羨ましそうに見る彼女は、普通の女子高生にしか見えなかった──。



***



 ついでに。帰り道でヒメコと律の二人に感謝していた後、ヒメコがフラグをちゃんと回収していた事を知った。こっそり「分析」を展開すると、六色の好感度バーの内五つに伸びが見られる。…選択肢に間違いが無いのも素晴らしい。他のステータスを確認すると、最後のヒロイン登場シーンで追加会話判定基準の「教養」が少し足りない事に気付いた。これは最初の水窪先生のホームルームで寝てしまった関係であろう。


「ヒメコ、明日は何をするの?」

「へ?図書館に行く予定だけど、どうしたんだよ急に」

「ううん。聞いてみただけ」


 変なノブ。と笑うヒメコが本当に恐ろしかった。休日コマンドは平日コマンドとは違い、外出や休息、デート(好感度一定以上)、ゲームなどが選べる。今回は「教養」パラメーターが上昇する「外出」の「図書館」をヒメコは選んだ訳です。…パラメーター不足を補う選択肢を天然で拾う奴は、真の攻略王に違いない。

 鼻血で汚してしまった百合林先輩のハンカチを見て、申し訳なくも思う。ハンカチを汚してしまった事も大事だが、彼女はヒメコに関わった所為でヒーローの「水窪祥乃」先生と深く関わるようになってしまう。一弥様をロリコンの毒牙から守りたい、と願うのは彼女の加護が未だ私に作用しているからであろう。


「(凄いぞ百合林先輩…)」


 ときめきパトスはまだまだほとばしっているようだ。ヒメコと律から後々、上の空でおかしかったと指摘されるまで私はずっとスキップしていた事に気付かなかった。

 追記しておくと後日、一弥様のファンクラブ(全員女性!)からは睨まれたりせず、一緒に活動しないかと誘われた。…取り敢えず保留しときました。何となく寂しい気は…しませんよ?



真剣に百合要素注意と書くべきか悩んでいます

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