いらっしゃい、新入生!
新キャラ大量発生1。
校門を通り抜けてくる新入生は、皆これからの希望に満ち溢れた表情をしている。親と一緒に来る者、一人で来る者、状況はそれぞれだが前向きな足取りは見ていて微笑ましく思う。クラス発表掲示の前でキャーキャー騒ぐのも、恒例の事なので温かく見守る。…つもりだったが、動かないと次々と訪れる人の邪魔になってしまうからそうも行かなくなった。
「入学おめでとうございます、新入生の方はこちらの用紙をご参照下さい。入学式は進んで左手の体育館にて行いますので、確認が終わり次第、速やかに移動をお願いします!」
声を張り上げて誘導するも、中々人の波は解消されない。興奮した人たちを落ち着いて誘導するのは難しい事だ、と痛感する。掲示板や入学式看板は写真スポットでもあるから、中々上手くバラけて行かない。…まあ、ここは焦らずじっくりと構えていくしかない。彼等にとっては高校生活の始まる大事な日なのだから。落ち着いて対応すると、自然と流れはよくなって行った。気持ちの有り様もあるのかもしれないが、プリントも残り数枚になって人も疎らにしか残っていない。
「すみません、コイツと僕の分の二枚下さい」
「はい、どうぞ。入学おめでとうございます」
新たに現れた美少女のような可愛らしい容姿の小柄な少年と、薄ら笑いを浮かべた眼鏡の少年の二人組へとプリントを手渡す。まだまだ着慣れないブレザーには、固さが取りきれていないようで何処か懐かしい。…この二人組も悪夢のヒーローだったと記憶している。腹黒インテリと脳筋、と兄が言っていた気がする。
「すみません先輩!僕の名前が見つかりません!どうしたらいいでしょうか!」
プリントと掲示板を見比べて、小柄な少年の方が私へと話を振ってきた。長い睫毛に隠れた大きな瞳は潤んでいて、まるでチワワのようであった。開始数秒でギブアップとか早すぎだろ、と内心思いつつも「そうなんですか」と返して、プリントへ目を移した。
「この学校は男女別の五十音順に出席番号が並んでいるから、自分の名字の頭文字で探すと早いですよ」
「僕、諏訪湊です!」
助言したつもりだったが、小柄な少年──諏訪君は敬礼を私にしながら名前を教えてくれた。つまりは「探せ」と?苦笑を全力で押さえ込んで、クラス分けに目を通す。
「…E組のようですよ」
指を差して教えると、やったー!と諏訪君の雄叫びが響いた。鼓膜がじんじんして痺れる。そうしている間に、両手を握られた。
「ありがとうっす先輩!助かりました!さ、行こうぜ知可!」
「はいよ。…ありがとうございました、先輩」
体育会系らしく勢いの良いお辞儀をした諏訪君、軽く会釈したインテリ眼鏡君らの背中を見送る。ゴーイングマイペース過ぎて、嵐のような二人だとしみじみ思う。そんな彼らのヒロインも曲者なのは解る気がする。ぶりっこツンデレ「藍堂昴」と孤高の美少女「兵藤涼風」の二人もまた、個性的なのですよ…。前者は一番に校門を潜り抜けて颯爽と体育館へ向かったが、後者はやっとこさ到着した様子である。人目を気にする様に周囲を見渡しながら歩いてきた。
「入学おめでとうございます、こちらのプリントをどうぞ」
「…ありがとう」
けして見せない手、人に触ろうとしない手こそが彼女のルートの主題だ。ギャルゲーらしく現実味ゼロの髪色の子ばっかりの中、爽やかな藍色のロングヘアーを持つ彼女は割と好ましく思っている。だって美少女なんですよ!兄の最萌だったんですよ!逃げる様に私を見もせず、あらぬ方向へ走っていく彼女はちょっとどう表現していいか解らないけど…。兄はおっちょこちょい美少女サイコー!って叫んでました。話を戻すが、彼女が向かった先では、きっとヒメコとの出会いが待っている筈。これでヒメコがまだ会っていないヒロインは後二人、か。舞い上がる桜吹雪を見つめながら、これからの事を思って私は目を伏せた。
***
桜の花びらが風にのって、踊り狂う。それらはやがて空高くまで舞い上がり、屋上で揺れ動く影を包み込んだ。暫らくすると影は光に飲み込まれ、空気に融けて消えて行く。
「入学おめでとう…」
消え入りそうな儚い声は音となる前に、空気と一体化して──何も聞こえなくなった。
現在のヒロイン登場状況1、村石香織、2、泉希理恵、3、藍堂昴、4、兵藤涼風。残すはあと二人です。