ちまちまバッドデイズ
重い筆をスラスラ動かしてくれる神キャラです。
決意したはいいが具体的にどう動けばいいのか解らないまま、数日が過ぎた。何でか解らないけど、この何日かの間で小さな嫌がらせが起きた。
思い当たる節はいくらでもある。ここの所顔面偏差値が高い面々と接触しているのだから、普段から接触の機会を伺っている方々が黙ってはいないだろうな、とは思っていた。
「(面倒そうな相手だな。足跡のつきにくい地味な苛め方をしてきている)」
古典的だが見た事の無い上履きに画鋲、カーディガンの釦が不自然にとられ、キーホルダーの腕をとられ、朝礼に向かう混雑の中で「生意気」とか囁かれたりするなど…正直苛ついた。
何より、カーディガンの釦は乱雑に取られてしまっていて、毛糸が解れてしまった。弁償してくれ!
ネチネチやられると精神的に落ち込みたくなるが、それよりも焦れったいやり口に我慢がならない。
「(くっそー!)」
今日も置き勉してあったペンケースからシャーペンが一個なくなっていた。どうせなら丸ごととっちまえよ!と言いたくなる地味さである。
置き勉しないで持ちかえれ?重いし面倒だし、苛めに屈したみたいで自分としては好みじゃない。
そう考えながら、ぶちぶち草を乱雑に抜く。草に八つ当たりするなんて矮小な人間だなあと自分を振り返っていると、目の前に影が出来た。
「貴女は言われた事を直ぐに忘れてしまうようですね。慈しみを持てと私は言いませんでしたか」
大袈裟に呆れたポーズをとり、煌びやかなその人は「どうしたのですか」と問い掛けてきた。
「委員長…」
「草も生きています。懸命に生きている彼らを私達の都合で抜くのです。そのことを心に留めておくように」
「はあ…」
凄く素敵な話をしてくれているのは解るのだが、正直苛ついて心の余裕が無い時に聞いていられない。
適当な返事をしてから「しまった」と気付く。
「何ですか、その腑抜けた声は。返事ははっきりなさい」
「…ところで委員長」
「──返事は?」
「はい…」
宜しい、と頷く委員長にホッとしたのも束の間。青空のように爽やかで綺麗な瞳に微笑みを添えて、爆弾が投下された。
「正座二時間を半分に縮めましょう」
「えっ!?」
「貴女はどうにも慈しみの心と集中力が足りないようですから、みっちりと再指導させて頂きます。異論は有りませんね?」
美形の笑顔でごり押しは卑怯だと思います。げっそりしている私以外、どうして「流石日生さま…!なんてお優しいの」状態になっているんだろうか。
勿論「いいえ」なんて言えませんでしたよ!ゲームの「はい」以外許されない選択肢に出会った時のような、強制力感じましたよ!
返事を聞いて満足したように去っていく委員長を見てから、例の如く友人が戻ってくる。
「志信って日生委員長に近付きたい願望あったりするの?」
「違ーう!」
誤解を解こうと声を上げたら、またもや友人の姿は無かった。あるのは──日生委員長の笑顔。
「静かになさい。三十分追加しますよ」
「すみませんでしたー!」
土下座したが、結局時間は延長された。
***
少し早く草むしりが終わって、説教モードの日生委員長に引き摺られて行く。
荷物の関係上、気遣って我がクラスで説教をしようとしてくれたが、吹奏楽部の人達が先に使っていた為断念した。
楽器の音が行き交う中、日生委員長が私の荷物を取ってきてくれる。その後、空き教室を求めて再び引き摺られた。
「(…吹奏楽部が教室を使ってたなんて知らなかったなあ)」
「──練習に二年の教室をわざわざ使うなんて珍しいですね」
「そうなんですか?」
「ええ」
不思議そうに委員長は顎に手を置く。
「楽器の保管庫は四階です。運ぶ時間と楽器の重さを考慮すると、三階にある二年の教室をわざわざ選択肢に入れるなんて、非効率的ですね。四階にある一年の教室が通例です」
「成る程、即!帰宅部貫いていたので知りませんでした」
「…後輩の力になれたようで何よりです」
やや半眼で呆れたような目で見られたが、その後は苦笑に変えて日生委員長は進み始めた。
そのスマートな背中を見て「腰細いなあ」とか「お尻小さいなちくしょー」とか、阿呆な事を考えていた時。
ふと、違和感を感じた。
「(音があまり響いていない?)」
二年のクラスで吹奏楽部が使用しているのは、我がE組だけのようだ。殆どのパートは四階を使用しているのであろう。三階には侘しい音しか響かない。
…部活動で使うんだったら他学年も他クラスも関係なく、使用出来る。ましてや、吹奏楽部は割と遅くまで活動しているから下校も遅い。
──あれ?もしかして?
「ちまちま野郎は…」
「言葉が汚いですよ王司君」
──ちまちま野郎は、もしかして?
「先輩!私用事が出来ました!帰らせて頂けませんか!」
「却下します。私を納得させられる理由があるならどうぞ、教えて下さい」
流石に確証も無いことは言えなかったし、苛めの加害者探しなんて更に言えなかった。
軽くため息を吐いて「申し訳ありませんでした…」と、頭を下げる。
「本当に何も無いのですか?」
「はい」
「そう、ですか」
小さく、小さく何かを呟いた。聞こえなかった私は首を盛大に傾げたが「行きますよ」と、気を取り直して歩きだした先輩による熱いご指導を受けて、その違和感を忘れてしまった。
帰る時にはもう音は何も聞こえなくて、吹奏楽部の人たちは撤収したようだった。
──音の無い静かな廊下は何処か寂しくて、不気味だった。
「…王司君」
「なんですかこれ」
「趣味で育てている植物の実です。気が向いたら持ってみて下さい」
「ありがとうございます…」
別れ際、植物の実を貰った。正直どう扱えばいいのかさっぱりだが、…折角貰ったのだから大事に保管してみることにした。
植物図鑑を出して調べようかと思ったが、ヒメコが家に来たのでやめてしまった。結局、先輩から貰った実は鞄のポケットに入ったままになってしまう。
──ずぼらですみません。
先の展開に悩み、書きにくいなあと思っていたのですが。
日生出すと滅茶苦茶進行するわ…。ただし、本来の消化分には届かずに暴走するのが難点だったりします。
主人公が姫野と話している時同様、フリーダムになっているのも書き易さに拍車をかけています。