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交錯していく


お久しぶりです。

少々海外に行っていまして、更新が滞りました。



 爪って雑菌とか一杯付いているんだよな、と手首の赤い傷痕をみて思う。くっきりと刻まれた傷痕を見て、作草部先輩の言葉が如何に自身にとって本気な話であったかが解る。まあ、私は理解出来ない領域だが。

 村石香織さんは非加護者で、作草部先輩の幼なじみだった。昔は将来を語り合ってまで居たのに、村石さんが非加護者だと解った瞬間、作草部先輩の親が関係を切り捨てた──って話だった。昔の約束に縋り付いている村石さんに、ヒメコは関わっていくのである。

 ヒメコが誰を選ぶのかはまだ解らないけれど、どうなる事やらとため息を吐いた。そして、作草部先輩から逃げて教室に戻ったら、なんて悪夢か。今回だけは映像鑑賞の日で、視聴覚室へ移動せねばならなかったのだ!


「(くっそー!)」


 本鈴が鳴るまではセーフだが、視聴覚室は今居る本棟から別棟へ移動せねばならない。

 教科書などは友人が持って行ってくれたらしく、書き置きが残されていたので、身一つでひたすら廊下を駆ける。

 次は水窪先生の授業で、出欠席には特に厳しい教論だ。だからこそ必死に駆けた。

 しかし、無情にも本鈴は別棟に入った瞬間、鳴り響いた。


「ひぃ、ふぅ…お、終わった」


 今の私は「燃え尽きたよ、真っ白だよ」と言いたい位悲壮感を感じている。結局間に合わなくて、会長を恨むしかない。

 全力疾走してきて苦しい。でも報われなかった私を嘲笑うように、涼しい足音が近づいてきた。


「どうした王司」


 目に入ったスーツが通りすぎそうになって、立ち止まる。資料を抱えた水窪先生が息を荒くしている私を、心配してくれているようだ。


「授業に遅刻しました。申し訳ありません」


 荒い息を無理矢理整えて、水窪先生に謝る。すると、大小ある中で軽そうな資料を水窪先生は渡してきた。


「…資料運びを手伝ってくれた者を遅刻とは言わない」

「すみません、ありがとうございます!」


 なんていい先生なんだ!ロリコンなのに…!一弥様のヒーローなのに!

 何を考えているのかは解らないが、寛容値が表示されたら絶対マックスに近いよ今の先生。いつもなら、容赦なく遅刻扱いにしますからね。


「今後は気を付けるように」


 ポン。軽く肩を叩かれ、水窪先生は歩き始めた。普段の授業態度が悪くないからか?とか、理由を考えていると、歩みは自然と遅くなる。後ろを振り向く先生に気付いて、慌てて距離を取り返した。



***



 授業中、水窪先生と一緒に現れた事を友人に散々からかわれた。態度は厳しいものの、ルックスの為に女生徒には人気がある先生だから、羨望の視線が凄いのなんの!

 おまけに授業後も「手伝ってくれるな?」なんて、近付いて来ないで下さい!


「…え、えと」


 しどろもどろに後退していると、急に後ろから手を引かれた。


「王司志信!」

「泉さん?」


 綺麗な髪は乱れ、息も荒く顔も真っ赤な後ろにいる人物を見て「またか」と思うよりも先に「大丈夫?」と声が出た。

 水窪先生も「泉か」と、普段中々見ないであろう泉さんの必死な姿に面食らっているようである。

 ここまで全力で来たのであろうか?苦しいわ!と泉さんの心の叫びが聞こえる。


「すみません先生、泉さんが…」

「そうだな、ついていてくれるか?」

「はい」


 頼んだ、と優しい声をかけて水窪先生は教材を抱えて去っていく。クラスメート達の視線も気になるが、取り敢えず無視して彼女を椅子へ座らせた。


「…で、どうしたの?泉さん」

「聞かせて王司、…志信ッ」


 苦しそうに歪められた表情と口が、精一杯の気持ちで私に真実を求めていた。


「アタシの運命の人に、婚約者…はいるの!?」

「──いえ、いませんが」


 あまりの突拍子も無い内容にビックリしつつも、否定する。ヒメコは婚約者がいるような富裕層ではないし、親の約束って素敵エピソードもなかった筈だ。

 私のはっきりとした否定に「そうよね」と、俯いている泉さんは小さくこぼした。


「助かったわ王司志信。指輪は運命の証では無いのね、ふふ」


 それだけ言い捨てると、次の授業がある為に彼女は早々と去っていった。

 素早く去っていく漆黒を暫く目で追っていて、やっと思い当たる。

 ──今のは村石さんのイベントの一部ではないか、と。本来の流れとして、村石さんはなくした指輪探しを泉さんへ依頼していた。だが、彼女の婚約者の指輪をヒメコが持っていると知った泉さんは──誤解をして隠蔽してしまうのだ。


「(でも、「今」の泉さんは交流のある私に確認をとった。もしかしたら展開が変わるかもしれない)」


 誤解が解けるのはヒメコが泉さんの加護を知るまでだ。必要パラメーターになるまでは最低でも一ヶ月はかかってしまう。

 その一ヶ月で村石さんは作草部先輩に怒られて、縁を切られてしまう。彼女が悲しんでいる所へ、間男ならぬヒメコが現れる──村石さんの恋愛イベントはこんな感じだった筈。

 ヒメコが持っている事を村石さんは知らない。ヒメコも、村石さんのものだとは解らない。私も、本来ならば解らない筈だけど…。


「…どうすればいいんだろう」


 自分の知らない道を選択するのは怖くて、知らない振りをして悲しむ人を置き去りにするのもつらくて。

 閑散とした視聴覚室で一人、目を閉じた──。




次の話を書いたら人物紹介をアップしようと思います。

次の話は「隠し」に関しての話になる予定です。

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