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なろう的童話シリーズ

召喚された勇者と魔王

作者: 風木守人
掲載日:2012/07/14

「君を殺そうとする国なんて要らない」

深紅の戦火と黒煙が窓の外を埋め尽くしている。

少年の顔は、笑っている。


「けれど、貴方が裏切っては……」

「いいよ。わざわざ関係もないのに魔王を倒したんだ。文句は言わせない」

「しかし……」


塔に幽閉されていた姫の目に涙がにじむ。ああ、私の事を助けてくれる人がいたんだ、と。

ギュッ、と純白のスカートの裾を握った。

痛覚が、現実に彼女を引き戻す。


「本当に……」

「本当に助けてくれるのですか?」

「王国を敵に回してしまうんですよ!!?」


「そうだね」

「そうだけど……なんていうかさ、もうやっちゃったし」

「ここで断られたら、僕、一人になっちゃうんだけど……」


少年は照れたのか目をそらし、手を姫に差しだした。

「どこまでも、どこへでも。いつまでも、いつであっても、一緒にいましょう」

姫は少年の手を取った。


少年は勇者だった。

この世界とは、別の世界から来た勇者だった。

魔法がなく科学があり、魔物が居らず魔王が居らず、王国ではなく民主主義の国に生まれた。


王国の主たる王は言った。

「そなたは勇者だ。勇者は、魔王を討つもの」

はした金、その辺に落ちていそうな木の棒、鉄製の鍋のフタを渡され、町の外に追い出された。


どうやら、自分はお払い箱にされたらしい。

そう、少年は理解した。理解して、泣いた。

どうやって自分がこの世界に来たのかも分からない。つまり、帰れない。


自分の事に精一杯で、少年は近付いてくる少女に気付かなかった。

「あの、すみません」

少女の謝罪に、少年は嗚咽の声を何とか抑えた。


長い金髪、青い瞳、白い肌。

少女がこの国の姫であると気付くのに時間はかからなかった。

「貴方は、勇者様なのですよ」


純粋な姫は、ただの少女のようにそう言った。

その言葉は何より強く、少年の胸に突き刺さった。必要としてくれる人がいる。

「ああ。今僕は一体どんな顔をしているんだろうか」


「笑っていらっしゃいます」

姫はそう言って笑う。

少年はその笑顔に少しだけ元気づけられた。


「僕は魔王を倒しに行く」

「はい、私も微力ながらお手伝いさせてください」

少年は驚いた。


聞けば、他力本願な勇者召喚という解決法が、姫は気に食わないのだという。

「自分の国は自分で護りたい。まして私はこの国の姫なのですから」

少年はそう言ってくれた姫に感動すら覚えた。


「貴女ような方のいる国ならば、僕も護りたい」

そう少年は言った。

声は小さすぎて姫には届かなかった。


そうして二人は魔王のいる城を目指して旅を続けた。

その半ば、馬に乗った伝令が姫の下に駆けつけた。

「国王様が病に倒れられました。もう長くありません。城にお戻りください」


姫は驚いた。

驚いて泣いて、それでも迷う。

少年を一人にしてしまっていいものか。


「行っておいで」

少年はそう言った。

「僕は旅をして強くなった。もう一人でも大丈夫だ」


それは本心ではなかった。

それが本心でないとは姫も分かっていた。

しかし、姫は少年の優しさに甘えた。


「はい、私は後から追いかけます。ご武運を」

「それより早く、僕は君に魔王を倒したって報告しに行くよ」

内容は違えど再会を誓い合い、二人は別れた。


少年は魔王の城に着いた。

魔物の大群が少年を迎えた。

少年は魔物を薙ぎ払う。


百の魔物を斬り、千を倒し、万を打ち破った。

少年は魔王と対面した。

「来たか、勇者よ」


少年は魔王の姿に目を見張る。

魔王は人間の姿をしていた。

「俺を倒したところで、お前に明日はないぞ」


「何が言いたい」

「いずれ分かるだろう。分からぬ方がよいが」

魔王はそう言うと立ち上がった。剣を抜く。


少年も遅れて剣を抜いた。

「若き勇者よ、悪とは何だ。何のため、どこにある?」

「僕の目の前に、お前がいる」


少年は剣を振り下ろす。

しかし魔王もさるもの。熟練した身のこなしで受け流し、斬り返す。

十、二十と斬り結んでも勝負はつかない。


つばぜり合いから弾き合い、次の瞬間にはまた交錯する剣と剣。

互いの剣筋は銀の糸のよう。

走る衝撃の余波が、城全体を揺らす。


しかしこの均衡も、まばたきする間に崩れ去る。

「これで……どうだ!!」

少年渾身の一撃が、魔王の剣を弾き飛ばした。


「ここまでか……」

少年の剣が、魔王へ、一閃。

魔王はついに、少年によって討ち取られた。


少年は剣を杖のようにして城を出た。

そうして次の日には馬を駆り王国へ。

姫の下へと急いだ。


「待っていたぞ、勇者」

しかし王国に帰ると、王は代わっていた。

それは先王の親戚。


王は死んでしまった。

そして、姫は王を謀殺した罪で幽閉されている。

それを聞いた少年は、新しい王を冷たいまなざしで眺めた。


「これからも我が国に仕えてくれ。まずは、この城で休まれよ」

「姫様はどこでしょうか?」

「……」


「僕には姫様が先王を殺したとは思えない」

「そして、先王がいなくなれば次に国を担うはずだったのは姫様だ」

「あなたは、どうして玉座に座っているのですか?」


少年の問いに王は冷たく言い放った。

「まだ利用価値があるから生かしてやろうと思ったが、我慢ならん。やれ」

王に仕える騎士が、少年を囲う。


「姫はどこだ」

少年が剣を一振りすると、十の騎士が吹き飛んだ。

「化け物め……」


王は恐ろしくなって逃げ出した。

少年は王になど構わず、居並ぶ騎士を薙ぎ倒し、姫の幽閉されている塔を聞き出した。

少年は邪魔するものは斬り捨てて、姫の待つ塔を目指した。


階段を上るのも面倒で、少年は塔の窓まで跳び上がる。

鉄格子を斬り、少年は手を姫に差しだした。

「どこまでも、どこへでも。いつまでも、いつであっても、一緒にいましょう」


少年は戦火を背に、姫にそう言った。

姫は少年の手を取った。

そうして二人は一緒に逃げだした。


魔王を倒した勇者には、誰も勝てない。

王は悩んだ末、一計を案じた。

「新たな勇者を召喚する」


一方、少年と姫は奇しくも魔王の城に居座っていた。

魔王の残した莫大な書物から、少年のいた世界に帰る方法を探すためだ。

その過程で、驚くべき事が分かった。


魔王が元は勇者であった事。

魔王とは、人々の恐怖の対象であり、その恐怖から魔物は生まれる事。

だからこそ、魔物は魔王を護ろうとする事。


そして、少年たちが当代の魔王になってしまった事。

それを証明するかのように、世界には再び魔物がはびこるようになった。

帰る方法は、まだ見つからない。


月日は流れ、魔王の城に一人の少年が現れた。

「魔王はどこだ」

勇者だった少年は、魔王として少年と対峙する。


先代魔王の気持ち、言葉の意味、単純すぎた自分。

すべてを噛みしめて、しかし少年は戦う。魔王として。

少年が負けては姫の命も危うい。


十、二十と斬り合うが、実力は伯仲する。

しかしある時、勇者の放った鋭い一閃が、少年の左腕を跳ね飛ばす

「終わりだ、魔王」


続く一撃を少年は残る右腕で受けた。

しかし、力が足りず、吹き飛ばされる。

少年の体が、壁にめり込んだ。


その時、大きな揺れとともに壁が崩れ落ちた。

それを皮切りに魔王の城の崩落が始まった。

前回と今回の戦いで、城に限界が訪れたのだ。


城は崩落した。

そこから出てきた者は誰もいなかったという。

魔王と相討った勇者の事は、王国に美談として伝わった。


その物語は英雄譚として語り継がれていく。

ただの美談としてねじ曲げられ、子供たちのあこがれとして、もてあそばれる。

都合のいい物語として、語り継がれていくのだろう。


「ねえ、このおはなしほんとー?」

とある家で、とある子供が、とある英雄譚を指して、母親に聞いた。

「どうなのでしょうね?」


母親は青いまなざしを細めた。肌は白く、髪は金色だ。

「あなたはどう思います?」

「さあな。そういうこともあるんじゃないか?」


父親はそっけなく答える。

「けど、勇者も魔王も死んだなら、誰にも本当の事は分からないだろうな」

彼には、左腕がなかった。


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