本日も、お憑かれさま。
微ホラー。ちょっとエロい。グロはないけどちょっと残酷シーンあり。
以上にご注意の上お読みください。
あと本格ホラーに期待しないでください!
ではどうぞ。
「た、ただいま……」
ぎい、と古ぼけた家の扉が開く。母以外に家族は居ないし、その母は恐らく金持ちの彼氏(の内の誰か)の所に居るので、本日も稲川慧都は誰も居ない家に帰ることになった。
しかしその母が美貌を駆使して生活費及び学費を稼いでくれるのだから文句はない。むしろ思春期の彼女にとって口うるさい母が家に居ないことは幸運だろう。
――だが。
がたんと音を立てて、触れてもいない下駄箱の扉が揺れた。
慧都は肩をびくりと震わせ、ひ、と密やかな悲鳴を洩らす。震える手で玄関の電気を付け、ローファーを脱いで揃えて置く。
小走りにリビングに向かうと、廊下の照明が勝手に点く。慧都はますます柳眉をへの字に曲げて、泣きそうになりながら奥のドアを開ける。
「……っ!?」
ちなみに稲川家のリビングはダイニングを兼ねたタイプである。
――出したばかりのコタツの上に、できたてほやほやの料理が用意されている。母は大抵泊り込みで、帰る事もあるとはいえ大抵朝である。だから、作れる筈もない。
これ自体はもう、慣れたものではある。しかしそれでも、怖いものは怖い。
ことりと音がする。
ゆっくりと、震えながら横を向く。そこには――
「ひっ……!」
真っ赤な字で、おつかれさま、と書かれた姿見。
その足元に落ちているのは恐らく口紅である。家では節約を心がける母がそんな事をするはずも無い。
固まっている慧都の肩に、ぽん、と手が触れる。
鏡は何も映っていないのに、確かに、触れている――
「きゃぁああああああ!」
そう。中学生にしてほぼ1人暮らしという幸運を得た慧都は、変わりにここ数年、幽霊に悩まされていた。
慧都は父親を知らない。母は1人で出産し、命名する権利は彼氏たちにオークション形式で売りつけたと聞いている。筋金入りの守銭奴である。慧都は密かに、そもそも母にも分からないのではなかろうか、と思っていた。
つまるところ、この家に頼れる者はない。
「いやあぁあぁやだやだやだっ、やめっ、や、いやあああ!」
部屋の隅に蹲って悲鳴じみた泣き声を上げていると、ぽんぽんと背中に何かが、というか手のようなものが優しく触れた。優しかろうと乱暴だろうと、等しく怖がらせるだけだが。
「ひ……う、……ぅ……も、や、やだぁ……うぁあああっ!」
耳元にふぅ、と息が吹きかけられる。やや生温かい。
これでも一応、隣家に迷惑をかけたくないので叫ばないようにはしているのだ。しかし生来怖がりである彼女には土台無理な話である。
幸いな事に両側の家の住民はあまり帰ってこないのだが、いつ怒鳴り込まれるか戦々恐々としている。怖がりの上に小心者だった。
まさか霊能力者など呼べはしないし、母に相談するのも妙だし、家を出る勇気も皆無だ。
何をするにも度胸が無いから、日々耐えるしか無いのだ。幸い、危害は加えてこない。
暫くして少し落ち着くと、のろのろと立ち上がって自室に戻っていく。ぱちんぱちんと勝手にスイッチのオン・オフが切り替えられる事にはもう流石に慣れた。まだいい方だ。
部屋に戻り、中に入って鞄を床に投げ出し、自分はベッドに体を投げ出す。背後で勢いよくドアが閉じ、ばあんと音を立てた。
「ひいっ」
何故か勝手にテレビの電源が入り、チャンネルが次々と変わっていく。それぞれの番組から聞こえる声が繋がって1つの言葉になる。
はやくきがえてごはんたべよう、と言っていた。
「わかっ、わかった、わかったからぁぁぁ」
泣きべそをかきながら制服を脱ぎ、上着とスカートを壁に掛ける。ネクタイを取り、震える指先でワイシャツのボタンを上から外そうとする。
――下側から、ぷつぷつと勝手にボタンが外されていき、するりと胸元を何かが撫でた。
「いいいやぁあああぁぁぁああっ!!」
逃れるように身をよじってベッドに背中から転がると、ますます見えない何かはエスカレートする。ぷちんと最後のボタンが外されると同時に、がちりと体が固まった。金縛りである。
声も出せないまま目を瞑ると、ぺろりと舌のような、濡れた生温かいものが首筋を這う。
「いっ……」
するりと肩からワイシャツが離れる。中途半端に腕を通しているせいで、ますます身動きが取れない。必死に眼を瞑って耐えていると、くい、と下着の肩紐を何かが引っ掛け、離す。
ぱちんと音がして、僅かに痛みが走り、硬直が解けた。
危害は加えてこないが、幽霊らしきものはよくセクハラを仕掛けてくる。風呂やトイレで何かされた事はないものの、着替えに手を出されるのは最早日常茶飯事である。
涙目で部屋着に着替えると、転げ落ちそうになりつつ階段を降りていく。転びそうになるたびに見えない手に支えられるので、おちおち転んでもいられない。
セクハラに精を出すこの幽霊は、同時に慧都に対して異様に過保護だ。帰宅すると、毎日欠かさず食事も作ってある。気づかないうちに掃除と洗濯までやってある。
また、過保護さと意地悪さと同じくらいに独占欲も強いようだった。
以前、オカルト部に所属する先輩(男)に相談した事がある。かなり親身になって聞いてくれて、家を少し見てくれるというから、見た目の割に単純な慧都はその先輩を家に招いた。実のところ、善意を下心が上回っていたが、慧都は全く気づかなかった。
その時ばかりは幽霊は激怒し、一分とせず先輩は落下物を五つほど頭に直撃させ、腹痛でトイレに篭り、出されたお茶は勝手に倒れて体に思い切り掛かって火傷し、眼鏡にヒビが入り、おまけにズボンの後ろが破れ、間抜けな姿を晒しながら逃げ帰った。
その日は執拗なセクハラに泣かされる破目になり、二度と男は連れ込まないと決めた。
しかし連れ込まなければいいという物でもない。
同級生に告白され、断りきれずに付き合った事があった。色気のあるようなことは皆無で、精々手を繋いで一緒に帰る程度のものだったが――今度はその相手が、心霊現象に悩まされる事になった。
家でも学校でもポルターガイストに脅え、夜も眠れないらしく、みるみるうちにやつれていった。1週間ほどで別れを切り出され、元々乗り気でなかった慧都はあっさり了承した。
どうやら彼は出張営業までするらしい。
以来、慧都は告白された事はない。稀に怖いもの知らずがやって来るが、断る前に目の前にカッターや植木鉢が落ちてきて諦めた。
というか、告白どころか友達もいない。幽霊か悪魔に取り憑かれていると実しやかに囁かれ、遠巻きにされ、毎日元気に孤立している。
「い、いただきます」
溺愛されているのかは不明だが、とにかく独占したいらしい。女は気にかけないようだが、男は絶対に近寄らせない。
しかし何をされても慧都は怖いとしか思えない。一応感謝もしてはいるが、いかんせんアプローチの仕方が怖すぎる。言葉が通じないから物を使って意思を伝えてくるが、ホラー映画も顔負けのメッセージなのである。例としては、“テレビの砂嵐の中に文字を浮かべる”などだ。
今日も食事は美味しい。それだけが救いだ。
手を合わせていただきますと言わないと、もれなく悪戯をされる。だからそのあたりはしっかりする。もちろん他の挨拶もきっちりせねばならない。
食べ終えてごちそうさまと手を合わせる。食べられる量ぴったりを用意してくれるので、残す事はない。健康のことも考えたメニューのおかげで、健やかに成長している。
胸は一向に育たないが。
そのあたりは違う手段で成長させようとしているのかもしれない。
食器を洗うのは流石に自分でやっている。勿論示し合わせた訳ではないが、母が朝晩と家に居た頃はやっていたから、習慣になっているのだろう。
洗い終えて戻ると、いつの間にか赤い字は拭われて消えている。慧都はびくびくと震えながら皿洗いを終え、コタツに潜りこんで震える体を温めた。
指先まで冷たい。ぬるま湯で皿洗いをしていたにも関わらず、だ。
(こわい……)
しかしこの幽霊が居ないと殆ど生活水準ががくりと下がる。
そう思うと、複雑な気持ちであった。
◆
変化が起きたのは、中学3年生になって数ヶ月――15歳の誕生日だ。
誕生日の朝、代わり映えしない気分で眼を覚まし、どこからか聞こえた「おはよう!」という声にごく普通に「おはよう」と返しそうになって、慧都はベッドから転げ落ちた。
衝撃のあまり、だ。
「きゃあぁあああああ!」
遅れて悲鳴を上げる。部屋の中を見回すが、姿はない。ベッドと壁の間の隙間に細い体を滑り込ませ、がたがたと震える。そしてベッドの下の男の怪談を思い出し、パニックになりながら飛び出て下を覗き込むと――背中をつうっとなぞる指のような感触。
「いいぃいやああぁぁああ! ――いったああああい!」
飛び上がった。そして脛をぶつけてベッドの上に転がって悶絶する。その背後から、愉快げに笑う声と共に、「大丈夫?」と心配する声が掛かった。
日曜、誕生日の朝の出来事である。
「誕生日おめでとう! ハッピーバースデー、慧都。君と出会って3年目、やっと可愛い声で返事してもらえると思うともうドキドキしてたまらないよ! 悲鳴もとっても可愛いんだけど、やっぱり、ね? ほら、ケーキ食べよう? 君の好きなチョコレートのケーキにしたんだ」
立て板に水の勢いとはまさにこの事だろうか。ハイテンションだがぼんやりした声で、しかもどこから聞こえているのかよく分からない。耳に心地よい低めの声は男のもので、漸く幽霊の性別が判明した。
しかし慧都は震える手でフォークを握り、もはや蒼白な顔で震えている。
声だけ聞こえて姿が見えない状況。明るい声だが、やはり恐ろしいものは恐ろしい。
「手作りだよ? 毒とか入ってないよ? 慧都、そんなに怖がらないで。それとも食べさせてほしい? 僕はぜひとも口移しで食べさせてあげたいなあ!」
「いいいいいいですそんな」
震える手でケーキにフォークを沈めていくと、嬉しいのか楽しいのか、くすくすと笑い声すら聞こえる。まったく恐怖のバースデーである。
「どう、おいしい?」
(味がわからない……!)
ふわふわのスポンジの食感しか分からなかった。
その日から、不気味極まりないメッセージは無くなった。
代わりに、耳元で喋っているのか遠くで喋っているのかも分からない、ぼんやりとした美声が聞こえるようになる。
不気味さは減ったとはいえ――むしろ、こちらの方が性質が悪かったが。
「おはよう! 今日も可愛いね、慧都。ああ、寝癖が付いてるよ、直してあげるね! それにしても本当に可愛いなあ、キスしていい?」
「ひっ」
「ああごめんね無理強いする気なんて無いんだでも本当はもっといろいろしたいんだよ? 幽霊だからね。うっかり乱暴なことまでしてしまいそうなんだ、祟ったり呪ったりね? ごめんね、でも幽霊だからね? いつもそうなんだ。たまにドアが開きにくいでしょ?」
「……っ」
つまりいつでも監禁できるという事だ。
慧都はがたがたと震えながら再び布団に潜り込もうとして、阻止される。布団は勝手に折りたたまれ、体がびきりと意思に背いて固まり、寝巻のボタンがテンポよく全て外れた。
あれよあれよという間に寝巻を脱がされ、下着だけにされた事を恥ずかしがる間もなく制服を着せられ、髪を整えられ、半泣きである事以外はいつも通りの慧都が完成した。
「うーん完璧。可愛いなあ、めちゃくちゃ可愛いよ! こんな気の強そうな見た目してて、すっごく怖がりだもんね。そんなところもマジ天使! エンジェル! むしろ妖精!」
声が聞こえるようになったため、恐怖に羞恥がプラスされてますます青くになったり赤くなったりと忙しい。
声だけとはいえ男性なのである。自慢ではないが異性との交流は手を繋ぐのが最高到達点だった慧都にはとてつもなく羞恥を煽られる行為だった。
あるいはそれが目的かもしれないが。
「卵は半熟が好きだよね? 知ってるよ、君の事なら何でも!」
朝食もしっかり用意されていた。慧都は涙を浮かべつつも、言葉通りしっかり好みに合わせて作られた食事を食べた。以前より恐怖度は減ったが、別の方向に怖い。
食べ終えた所ですっと目の前に現れたのは弁当箱である。慧都はもはやどうしてこんな事態になったのだろうと他人事のように考えた。それももう何度目だか分からない。
それでも彼は、睡眠を邪魔したりはしないし、風呂やトイレは覗かない。
材料さえ買っておけば勝手にやりくりして、しかも好みに合わせ、健康も考えたメニューを毎日三食分作ってくれる。掃除や洗濯も毎日やってくれる。それでいて、週末などにはきっちり慧都にやらせる。飴と鞭の使い分けが上手だった。
しかも、普段は唯一話せる相手でもある。まだ恐怖を拭えずにいるものの、いずれ話せるようになりたいと慧都も少し思い始めた。ほんの少しだが。
それはほんの僅かな心境の変化。けれど、とても大きな一歩でもある。
いってらっしゃいと声がして、カタカタと物が揺れる。
以前ほどの恐怖を感じていないことを自覚していない彼女は、人影のない家の中にいってきますと声を掛けて、学校に出かけていった。
中学3年の冬、ごくあっさりと県内の公立高校への推薦入学に進路を定めた彼女は、相変わらず幽霊に過保護に世話をされつつ受験への気合を入れた。
推薦とはいっても筆記試験はある。更に言うと、とてつもなく苦手な分野である対話、つまり面接試験があるのだ。慧都は男性と喋るだけで戦々恐々としてしまう。怖いというか、幽霊に何かされないか心配で、だ。
せめて面接官が女性だったらいいな、と思いながら普段の数倍の時間を掛けて勉強する。
「慧都、おつかれさま! 夜に何か食べるのはあんまりよくないからね、夜食は出せないよ。本当にお腹が空いてるなら別だけど」
「……う、い、いい、べつに」
最近はどもりつつも若干喋れるようにはなった。相変わらず恐怖にびくびくしてしまうが、それはもう仕方ない。
「はい、ココア」
受験が近いからか、最近はマシンガントークも控えめだ。怖い悪霊がちょっと善い悪霊にランクアップしただけだが、それでもいい方向には向かっているようである。
1月某日。ついに推薦入試の試験日で、慧都はがちがちに緊張しながらも朝食を食べ、緊張した時用にお菓子まで持たされ、ついでにカイロを握らされて家を出た。
この時ばかりは幽霊の存在がありがたい。初めて自分で電車に乗ったが、付いてきて耳元で助言してくれるので失敗は無かった。
(うわ、わ、人、人多い……)
幸いにも、友人がいない分しっかり勉強してきたため内申に問題はない。英検や漢検だってちゃんと3級以上だ。部活や生徒会はやっていないが、とりあえず学校を休んだことは無い。
……休んだ後にノートを見せてもらう知り合いがいないから、死活問題だったのである。
「頑張ってね」
外であるから、ほんの小さな囁き声しかしない。けれどそれでも、心強いことは変わり無い。
背中や頭を撫でられ、慧都はリラックスした状態で試験に臨めた。
一週間後、合格が発表された。もちろん慧都も合格である。
白い頬を染め、つんとした釣り目を潤ませて喜ぶ様子が大変愛らしく、既に発表会場でばしばし視線を集めていたが、本人は全く気づいていなかった。
「おめでとう! よかったね、合格だ! これで春までのんびりいちゃいちゃできるね!」
「い、いちゃいちゃは……」
「え、だめ? だめなの?」
「だめでは、ない、けど……よくもない」
拒めるようになったのも進歩である。
尤も、しっかり拒否しているかと言われれば微妙だし、結局揚げ足を取られてセクハラされるのは変わり無かった。
◆
入学を控えたある日の事である。
慧都は久しぶりに、幽霊以外での恐怖を味わう破目になった。
「手は縛っておけ」
やや遠くから、少しくぐもった声がした。細い手首を無遠慮な手付きで掴み、後ろで強めに縛る。締め付けられて少し痛い。
「足もだっ、ノロノロすんじゃねえ!」
縛った者は下っ端なのだろうか、先ほどの声の主が怒鳴りつけている。今度は足首を縛られ、身動きの取れないまま歯を食いしばる。
帰宅途中、路地裏に引きずり込まれて数分後である。
要するに――誘拐されていた。
犯人達にとっては幸運なことに、幽霊が離れていた時の出来事だった。
(……どれくらい、かかるかな……)
幽霊が来ないとは考えられない。絶対に来るだろう。
しかし食事を作って家で待ち構えるためにか、帰宅途中はあまり側に居ないのだ。それでも数分ごとにいったり来たりとしているらしい。そのからくりを聞いた時には火事にならないかと心配になったものだが、今はただ自分の不幸さに驚くばかりだ。
(まさか離れた途端に誘拐されるとは……。でも、何のために?)
身代金目当て、あるいは慧都自身が目当てなのか。後者でもおかしくはない容姿だが、慧都はごく自然に前者の可能性が高いな、と思った。身近にとてつもない美女が居るせいか、自己評価が低いのであった。
母はそこそこ金を持っているが、家の様子から分かる筈はない。という事は彼氏たちとの関係を知っているのだろうか。
(隠し子だと思われてる……? まあ、それならありえるかな。金持ちだらけだし)
たまにはこの頭も冴えるものだなあ、と慧都は少し自我自賛しつつ恐怖に震えていた。
幽霊よりマシだが、それでも怖いものは怖い。けれどまだ泣いていない所からして、恐怖に耐性が付いたようであった。
抱き上げられた時、思いがけずその手に嫌悪感を感じ、なんとも言えない気分になった。……普段幽霊にセクハラされても、嫌悪はない。ただ恐ろしいだけで。
車のシートらしきものに寝かされて、ドアが閉じる。そしてエンジン音が耳に届き、車が走り出した事を悟った。
(……おじさんだから?)
声から想像するしかないが、とりあえずそう結論付ける。
慧都はただ車に揺られてじっとしていた。体育の成績の良し悪しと、大人の男に反抗できるかは全く別の話なのである。そもそも両手足を縛られて抵抗できるような人間は、最初から捕まりはしない。
今更ながら、あっさりと路地裏に引きずり込まれた事を後悔する。せめて悲鳴を上げればよかったが、平均より軽く細い慧都を拉致するのは簡単だったことだろう。すぐに口と目を塞がれて、何がなんだか分からなかった。
慧都の体感時間で数十分後、車が停まった。口には布を詰め込まれてガムテープを張られ、声は出せない事も無いが、どうせ呻き声になってしまうだろう。
一応母には「もし誘拐されたら黙って待ってなさい」と言い含められている。聞かれれば母の携帯(の予備)の番号を言って、住所はダミーのものを言えとも。
再び抱き上げられ、どこかに下ろされる。更に、遠くで電話する声がした。
「――稲川啓二だな? お前の娘を預かっている」
そして慧都はその言葉に、思考が停止した。
稲川啓二。――常々、名前が似ていると思っていた俳優だ。40代ほどで、色気のある演技に定評があるらしい。
一応、母親の彼氏たちの名前は把握している。挙げろと言われれば少し難しいが、名前を聞けば分かる程度には覚えている。だから同姓同名はありえない。
「慧都ちゃんだったか? 大人しくしてるぜ、写真でも送ってやろうか。……そうか。じゃあ――」
男は電話の向こうの相手に対して、かなり強気の姿勢を取っていた。若い俳優やアイドル程では無いが、スキャンダルもそれなりに回避したいのだろう。
(え、え、え……えええ?)
しかも、どうやら了承している様子で、慧都は混乱した。
誰だか分からないし、誰でもいいやと思っていた父親が、思いがけないところで見えた。
けれどテレビでよく見かけるが、容姿は少しも似ていないし、縁を感じることなどできない。
まだ近所のおじさんが父親だと言われた方が理解できる。
「――いいな? 絶対に1人で来い。通報したらこいつを殺す」
そう言って、電話が切れる気配。
(……なんなの?)
確かに一刻も早く助けてほしいとは思うが、影も形も見えなかった父親に突然来られても困るし、どう接していいのかも分からない。
まだ母親の彼氏に助けられた方がマシである。
その時だった。
ぷつんと音がして、視界の暗さが増す。ガタガタと高いところにある窓が揺れたかと思うと、がしゃんと何かが割れたような音が連続して聞こえ、怒声と悲鳴が響き渡る。
「おいっ、何だ!?」
「うわっ! で、電気が――」
そして視界を遮っていた布が取り払われるが、目の前に人の影はない。
助けにきてくれた、と安心しかけ――その場の様子に、思わず悲鳴を上げかけた。
「――――っ!」
ホラー映画そのものの光景。
ガラスは全て割れ、青白い手が大量に侵入してきている。蛍光灯も全て割れて、代わりに青い火の玉が飛び交っている。部屋にあったであろう物は部屋の中を飛び回って犯人たちに容赦なくぶつかり、おまけに影から黒い手が生えて彼らの足首を掴んでいた。
「うわあああああぁぁあああああ!」
絶叫する犯人たちの頭上から、ばしゃあと液体が落ちて来た。覚えのある臭いが僅かに鼻に届き、灯油だ、と気づく。慧都の顔が蒼白になった。
(や、やりすぎ……!!)
火の玉は容赦なく男たちに襲い掛かった。あっという間に燃え上がり、火達磨のまま、まるで踊るようにもがき、暴れる。
あまりにもリアルな死の気配を目の前にして、ぞくりと背筋が粟立つ。
こんな時に限って、一言も喋らない幽霊が恐ろしくてたまらない。
(なんで……っ)
どうして、こんなものを見せるのだろう。
怖がりで小心者だと分かっているはずなのに、どうしてこんなに怖がらせるのだろう。
なんだかんだでここまで耐えていたのに、涙が零れた。
その時――入り口のシャッターに、車が突っ込んでくる。慌しく飛び出してきたのは、テレビの向こうにしか見たことの無かった、男。
「やめろっ、玲二! やめてくれっ……!!」
慧都は、この人は映画かドラマを撮影しに来たんじゃないだろうか、とすら思った。
芝居がかっている訳では無いが、芝居じみている。スクリーン越しになら何か感じるかもしれない言葉に、今は頭が付いていかない。
何もかも、画面の向こうのように思えた。
しかしその言葉に、ぴたりと静寂が戻る。
ガラスは元通りになり、青白い手も、火の玉も消え――男達は、ほとんど無傷で気絶していた。幻覚だったのだろう。
玲二。それが、幽霊の名なのだろうか。
「あは、は、ははははは、遅かったね! 遅かったなあ、本当に。でも賭けは僕の大勝利だよね、あははははは! ねえ、慧都、もう知っちゃったよね。この人、君の本当の父親なんだ!」
口を噤んで眉を顰めた稲川啓二を他所に、狂ったような哄笑が響く。
(わ、かんない、何なの……)
本当にしてほしい事だけはしてくれない。それは今更だが、この状態で不安を煽ってくるのは本当に理解できない。
「慧都、ねえ、知りたい? この人のしたこと。フライデーあたりに垂れ込んだら最高だよね! 強姦と監禁に殺人かな? あはははは! 兄の奥さん妊娠させるとか、すごいなあ!」
「違うっ、違うっ、私は……!!」
もう、何ひとつ耳に入ってこない。
俯いてぐすぐすと泣いていると、手首と足首の紐が解かれ、自由になる。袖で涙を拭っても、溢れるものは止まらない。
その手をそっと退かして、ガムテープをゆっくりと剥がされる。唾液がすっかり染み込んだ布をずるりと引き出して、見えない指先が零れたものを拭った。
「……ば、かぁ」
ほとんど無意識に零れた言葉。幽霊はくすくすと笑いながら慧都を抱き締めて、すうっと離れていった。
心細さに顔を上げた時、叫び声が耳に届く。
「――慧都ーっ!!」
轟音と共に、突っ込んだまま止まっていた車が更に押し込まれた。その後ろから黒塗りの丈夫そうな車が飛び込んでくる。出てきたのは小太りの中年男と、赤いワンピースにコートを羽織った、相変わらず派手な慧都の母親、都子である。
「無事!? 犯されてないわよね!? 怪我は!? ああっ、あたしの可愛い慧都がこんな目に――って」
都子は慧都を抱き締めてそう言った後、漸く棒立ちになっている稲川に気づいた。
一瞬目を見開き、般若もかくやという形相で睨みつける。慧都は都子のそんな顔を見るのは初めてだった。
「――二億で名前付けさせてやったのに、今さら何!? あたしと娘に近寄ったら罰金一億円って言ったでしょう、とっとと首釣れ! 本当ならあんたがテレビに映って慧都の目に入る事自体腹立つのに我慢してやってんのよ! ふざけないでっ!!」
「お、おかあさっ」
「ああっ慧都ごめんね今度から学校は送迎付きで――啓二っ、あんたはとっととあたしの目の入らない所に行けっ、早く! 慧都、本当に大丈夫? あのクズに手出しされてない? されてたら情け容赦なくフライデーに垂れ込むわよ」
言う事が幽霊と同じである。
慧都は複雑な気持ちになりながら、久しぶりに母親に縋りついて泣きつつ、とぼとぼと帰っていく稲川の背中を見た。
はたしてあの車は動くのだろうかと思いながら。
「ああ、もう……よかった、無事で。怖かったでしょう? もう帰りましょうね、慧都。――路善さん、後始末お願いしていいかしら? できれば警察に頼りたくないの」
「勿論だとも。今日はゆっくり休みなさい」
路善と呼ばれた中年男は、慧都にどこか愛嬌のある小さな目を向けた。母親の彼氏であるならある意味父親かもしれないが、どちらかと言うと親戚のおじさんのような雰囲気である。
「慧都、パパよー。ちゃんと愛想売っときなさい」
「あ、うん……えーと、ありがとうございます」
まるで赤ん坊に言うような言葉だ。冗談なのだろうが、律儀に頭を下げた慧都に向かって、路善は愉快げに笑った。
「いやあ、こんなに可愛い子が娘になったら私も嬉しいな。まあ、望みは薄いだろうが」
「今のところはね。悠二よりいい男がいないんだもの」
悠二。その名前が誰を指すのか、慧都にはなんとなく分かってしまった。
ますます強く母親の背中を抱き締めると、あら、と都子は面食らったように声を上げる。
「珍しいわね。もう、甘えん坊さんなんだから! 今日は一緒に寝る?」
こくんと頷く。相変わらず子供扱いどころか赤子扱いされているが、久しぶりに触れた母親は温かく、いい匂いがした。
「あら、ご飯出来てるけど……作ったの? 上手になったわねえ」
「……えーと」
「まあいいわ、食べられる? 食欲無いなら無理しなくていいわ」
説明せずに済んだ事がありがたい。慧都は靴を脱いで、少し汚れた制服を部屋で着替えてから一階に降りた。
都子は慧都をそのまま成長させて、更にきつくしたような容姿をしている。年はもう40近いが、その容姿に衰えは全くといって見つからない。
写真で見比べても化粧と髪形くらいしか変わらないのだから、本当に容姿に恵まれている。
「話すと15禁になるから今まで話さなかったけど、聞きたい? あなたの父親の話。もう15歳だものねえ」
「……うん」
しっかりと2人分用意された食事は、気分の沈んだ今でも食欲をそそる香りを放っている。
ゆっくりと口に入れる。母の味よりも食べ慣れてしまったその味は、慧都の好みから外れたことはない。
暫く、黙って2人で食事をする。食べ終えると、今日は都子が食器を流しに持っていった。
(……あんまり聞きたくもないんだけど、でも、聞いた方が、いいよね)
深呼吸して、手を床について背筋を伸ばす。すると左手に、温かく、少し大きな手の感触が触れた。
ありがとう、と小声で言う。耳元に、どういたしまして、と囁き声が返ってきた。
先ほどまでの恐ろしさの反動か、優しくされるとそれがとても温かく感じる。
母親は戻ってくると、こたつに入って溜息を吐いた。
「あたし、実は未亡人なんだけど」
「えっ」
そして話は、衝撃の一言から始まった。
慧都は知らなかったが、都子の旧姓は児玉といった。
都子は大学卒業後すぐ、稲川悠二という男と結婚した。ごく普通の恋愛結婚で、嫁姑問題もなく、居候の少年とも本当の姉弟のように仲がよかった。
ただ、少し奇妙な家柄だった。古くから続く家系で、家もとても大きかった。しかし、都子の触れられない部分がいくつかあり、変に思っていた。
それでも、幸せだったのだ。
ところが、悠二は体が弱かった。夫婦の営みはあったが、子供も一向に出来ない。そんな頃に、家を出ていた義弟・啓二が戻ってきて――都子に、惚れてしまったのである。
彼は若く情熱的で、そして強引極まりない男だった。悠二が病気で寝込んだ隙に都子が体調を崩したと偽ってほとんど監禁状態に置き、幾度も抱いた。そしてついに妊娠させたという。
そのまま妊娠した事実だけが伝えられる。当然ながら、ついに悠二の子が出来たのだ誰もが喜ぶ空気の中、啓二はわざわざ医者を呼んでまで都子を部屋に閉じ込め続けた。義姉を心配する弟の顔をして。
悠二はその頃ますます床を上がれなくなった。その年の風邪は妙に根強く、妊婦にうつさないようにと別の部屋に寝ていて、会うこともできない。
「……こ、怖い……通報しないの?」
「色々面倒になるから、示談にしてやったのよ。それに、懲役如きで償ったつもりになられるより、爆弾抱えたまま生きてる方がきついと思わない? 俳優だしね」
こちらはこちらで恐ろしい。震え上がった慧都をからかうように言って、話を続けた。
その行為は巧妙に隠されていた。だが、1人だけ――屋敷に居候していた、玲二だけが気づいたのだ。彼は親戚だが、両親が亡くなったために屋敷で暮らしていた。
高校生だった彼は聡明で、明るく人懐っこい性格だった。都子は日々、彼の見舞いだけを楽しみにしていたのである。
悠二の子を生むのだとばかり思っていた姉貴分が、まさか啓二に酷い目に遭わされているとは思っていなかった彼は、ショックを受けた。混乱故か、あるいは若さ故か、怒りに任せてぶつかって、そして――
「殺されたわ。多分」
「多分、って……」
「だって朝になったら冷たくなってて死因不明って、もうあからさまじゃない。でも誰もあいつが殺したなんて思わないし、私だって言えなかった。……あなたを殺すって脅されたからね。ここだけの話、あの家ってなんか呪術とかそういう物に関係あるらしいし」
何時になく儚げな表情をした母に、ごくりと唾を飲む。
啓二の子でも、やはり都子の子供なのである。都子は捨てることが出来なかった。随分と膨れた腹の中で、元気に蹴り付けてくる我が子を、殺そうなど出来ようか。
そうしている間に、悠二も亡くなった。病気のせいだと聞いた。
生まれた娘を抱え、都子は家を出た。啓二に啖呵を切り、義父と義母には「この家には思い出が多すぎてつらいから」と頭を下げた。夫と弟分の思い出、そして忌まわしい義弟の記憶から逃れるようにして、啓二からぶん取った金で家を買った。
けれど都子はその金だけで生きていく気にはなれなかった。しかしどの会社でも採用してもらえず、歯痒い思いをした。既に啓二が手を回していたのである。
そんな中で、路善に出会った。
「……あの人?」
「そうよ。まあ、彼氏じゃなくて恩人よ。そもそもあの人、立たないもの」
慧都は頬を染めて目を逸らす。からからと軽快に笑い、都子は更に続ける。
路善はとある会社の社長だった。あまり大きな声では言えないが、既にそれなりの金を受け取っていたから、都子を不採用にした。だが、そこまでして採用させたくないのは何故なのか気になって、会社ではなく個人的に、自宅の家政婦として雇ったのである。
都子の話を聞いた路善は、快く手助けをしてくれた。
といっても都子自身が努力し、それを援助するという姿勢は崩さなかったが。
それから都子は形振り構わず、路善のコネを使って色んな金持ちと付き合った。啓二が何らかの手段で自分の動向を知る事が出来るとも分かっていたから、あてつけでもある。
「そういう訳よ。分かった? ま、今思えばもっとマトモな方法があったんだろうけど、これはこれで楽しいし」
「う、うん……」
思ったよりヘビーというか、何かの映画のようである。しかも18歳未満お断りの。
都子は十五禁と言ったが、しっかり細かい所まで語ってくれたので、慧都は途中赤くなったり青くなったりする破目になった。特に、妊娠云々のくだりで。
「本当に、酷い男だわ」
「……でも、電話聞いて、すぐ了承したみたいだけど」
「そりゃあそうよ。ここであんたが死んだら、ますますあたしに嫌われるものね?」
いっそ清々しいほど自信に満ち溢れた言葉に、慧都は苦笑する。
「そういう訳だから。まあ、あんたの父親は路善さんか悠二だと思っときなさい」
「うん」
話が終わる。よく似た笑みを向け合って、都子は慧都の頭をそっと撫でた。
父親が誰だろうと、都子の娘である事は変わり無い。慧都は父親に関しては気にしない事にした。――それ以外は、まだ気になるが。
その日は一緒に寝て、更に数日都子は家に居た。
「なんだか、視線感じるわね、この家」
その視線は過保護な幽霊――都子の亡くなった弟分であると確信しながらも、結局慧都は何も言わなかった。
いつも通りの日常が戻ると、都子が居る時には隠れていた幽霊がまた騒ぐようになった。
以前と殆ど変わらない様子に、慧都もまた、おっかなびっくりに反応する。
変化したのは、慧都が名前を呼ぶようになった事くらいだろうか。
玲二さん、と控えめに呼べば、彼は嬉しげに笑い声を上げた。
稲川家の日常は、今日も騒がしく過ぎていく。
◆
高校の入学式を終えて数週間。慧都は三年間友達のいなかった事もあり、思うように人付き合いが出来ず、結局あまり変わらなかった。
元々、根っからの小心者なのである。人に話しかける事は死ぬほど苦手だ。
しかもどこから流れたのか、中学での悪評(?)が広まっているようで、話しかけられる事が少ない。最初は何人か男が近づいてきたものの、あっさり玲二に撃退されて尻尾を巻いて逃げた。更にそれが噂を助長する。
(あんまり変わってないじゃん……)
相変わらずの扱いに涙したが、もう開き直って孤高の人を気取っていた。
唯一仲が良いのは、勧誘を断りきれずに入ったオカルト研究部の1年生、刈田美佳だ。幽霊部員が多数を占めるこの部で、唯一活動している部員である。
彼女は慧都に極めて好意的だった。玲二なりのサービス精神なのか、慧都が来ればたまに心霊現象が起こるからである。
「慧ちゃんカワイー」
「心が篭ってないよ……」
「超可愛いから、幽霊呼んでー」
「……れ、玲二さーん」
ガタンと音がして背後で物が落ちた。呼んだ本人が1番びっくりしているが。
「ひぃっ!」
「見てなかったああああ!」
美佳はふわふわの天然パーマにくりんとした目の、これまた可愛らしい美少女である。
見た目だけは両方素晴らしいのだが、如何せん中身が残念なコンビであった。
梅雨が始まった頃、慧都は16歳になった。今年もまたケーキが用意してあり、クラッカーの代わりにラップ音がして危うく飛び上がりそうになった。
「ハッピーバースデー慧都! ハッピバースデー慧都ー! あはははは、やっと16歳だね! 結婚しようか! ジューンブライドだよ!」
「……む、無理じゃないかなあ」
空笑いをしていると、つん、と頬を突付かれる。
「愛の前に不可能は無いよ!」
「そうかなあ」
そもそも好きとか言ってないし、という言葉は仕舞いこんだ。
その夜、ベッドに潜りこんでから、慧都はふと疑問が沸いた。
どうして母や稲川啓二ではなく、自分のところにいるのだろうか、と。
「……玲二さん、いる?」
「お呼びかな!」
「ひきゃっ」
思いがけず近くで聞こえた声に、びくりと肩が跳ねた。けれど宥めるようにその肩を撫でていく手に、ほっとしてしまう。
「玲二さんは、どうして私のところにいるの?」
「可愛かったから!」
「……え、えーと、もうちょっと経緯とかを」
玲二は少し考え込むように、うーん、と言う。そして慧都の唇をぷにっと押して、言った。
「キスさせてくれたら教えてあげる!」
「ふぇっ」
慧都はばっと身を引いて、体をぎゅっと丸める。
困ったように眉をへの字にして、顔を真っ赤にする。くすくすと笑う声が聞こえ、慧都はからかわれた、とますます恥ずかしくなった。
「か、からかうの、やめてよ……」
「やだなぁ、本気も本気、超本気だよ。キスしていい? 大丈夫だよ、そんなにディープなのかます気無いからね。はじめてだよね? はじめてじゃなかったらちょっと怒るなあ」
ちょっとではすまなそうな気がする。慧都は半ば投げやりに、がくんと頷いた。
「……いいよ」
「ん?」
「き、き、キスして……」
枕に顔を押し付けながら言う台詞ではない。
「え、マジ?」
面食らったように言われ、慧都は「やっぱ今の無し」と叫ぼうとした。しかし意思に反して体が固まり、ごろんと上を向かされる。
「ひっ、い、いいやあああっ、やだあ!」
「どうしよう、可愛い……可愛いなあ、もーほんとエンジェル級。もうやばい、下半身が」
「いやあああぁぁんぐっ」
上げた悲鳴が飲み込まれる。何も見えないのに触れる感触だけがあり、慧都はほとんどパニック状態のままとりあえず目をぐっと瞑った。ぽろりと涙が零れ落ちる。
「そう、目を閉じて、鼻で息してね。大丈夫大丈夫怖くない全然怖くない口からありったけのラブ&ラブ注いでるだけだから! ピースなんていらないよね! たまのヤンデレはスパイスかもしれないよね! ああ、可愛いなあその顔!」
慧都はもう何を言っているのか全く分からなかった。唇をぴったりと押し付けているにも関わらず、その声は普段と変わらない。
いつの間にか金縛りは解けていたが、今度は全く力が入らなくなった。
「舌も入れてないのにこんなにとろんとした顔しちゃってかわいいなあ! じゃあ僕の話をしてあげるけど、この分だと途中で寝ちゃうかもね!」
「……ねない」
疲れたように慧都は宣言した。溜息を吐いて、ゆっくりと横を向いて丸まり、目を瞑る。
――だから、うっすらと月光に浮かび上がる青年の影には、気づかなかった。
「僕はね、最初はもちろん啓二さんに取り憑いてたんだ。悪い事指摘されて殺されるなんて、理不尽すぎると思って」
どこか感情を押さえ込んだような静かな声。いつもと違う事に驚いて目を開こうとすると、ふわ、と夏用の薄い布団が目に押し当てられる。
「でもあの家って霊能者の家系なんだよね。だからバレないように死ぬギリギリまで痛めつけるのが精一杯。しかもゴキブリみたいに回復するし」
精一杯というか、十分ではないだろうかと慧都は思った。
「もうちょっとで呪い殺せるかなーと思った所で、あの外道が身代わりの術を使った訳だ。……まさか悠二さんに呪いをそっくり移すとは思わなかったよ。元々体が弱かった悠二さんは、あっさり亡くなってね。……まあ、成仏はしたみたいだけど」
(……ええー)
どう反応していいか分からず、慧都はぐったりした。とりあえず稲川啓二に同情の余地はないな、と改めて思う。
「それから都子さんが家を出て。その時点じゃまだ啓二さんに取り憑いてたけど、君が中学に上がった頃にふと君を見てみたくなって来てみたら、これがもう可愛いのなんのって! 雷に打たれたような気分だったよ! あんな奴の娘だと思ってたのに、一目惚れってヤツかな? だからね、あいつと賭けをしたんだ。君がノーヒントで啓二さんが親だって気づくかどうかね」
「……何を、賭けたの?」
「賭けたって言うか、まあ条件を付けただけだけどね。向こうが勝てば僕はあいつに手出ししない。……で、まあ、僕が欲しいものなんて、決まってるよね?」
とてつもなく嫌な予感がし、慧都の背筋に震えが走った。
「……ま、まさか」
「慧都が死んだら僕が貰っていい権利!」
「ひきゃああああああ!」
本格的に悪霊らしい言葉に、慧都は悲鳴を上げた。
「一応親に義理通そうと思ってね? あの人とは会話できたから。都子さんは感じ取れる程度だから無理だし、悠二さんは死んじゃったからね」
「だ、だ、だからって」
「親! 公! 認! うわあいい響き! もうこれ許婚って事だよね!」
布団ごとぎゅっと抱き締められて、ごろんと玲二が転がる。慧都は悲鳴を上げてあわあわと手を動かすが、簀巻き状態では何の抵抗にもならなかった。
そうして夜は更けていく。
いつしか疲れて眠りについた慧都の額を、さらりと僅かに透けた掌が撫でる。
慧都は気づかなかった。――啓二が勝てば、手出ししない。けれど玲二が勝った今、本人から手出しが許されている、ということに。
底知れない色をした瞳がじっと慧都を見詰めて、やがてすうっと部屋の外に消えていく。
梅雨に入ってからは珍しく、晴れた日の夜だった。
翌朝目を覚まし、慧都はぼんやりしたまま着替えまで終えた所で、そういえば玲二がちょっかいを掛けてこないなと気づいた。
平和でいいが、それはそれで不安になる。
(……成仏した?)
とんとんと階下に下りていく。これで食事が用意されていなかったらうっかり泣くところだったが、きっちりと用意してあった。
テレビを付けると、朝から稲川啓二が出ている。といっても、写真だが。
「行方不明……?」
どうやら行方不明になったようだ。一昨日くらいに見た時には、逮捕寸前だった気がするが。
玲二がいない。
啓二が行方不明。
思わず頭の中で2つを線で繋ぎ、慧都は首を横に振ってその考えを振り払った。
流石にないと思いたい。いや、物凄くありえるのだが、できれば無いと思いたかった。
幸いと言っていいのか、今日は休日である。暫くそのままぼうっとテレビを眺めていると、ドアの開く音もせずに、ただいま、という声だけが耳に届いた。
慧都は立ち上がって出迎えようと思ったが、よく考えたら見えない相手に出迎えは必要ない。なので再び座りなおして、玄関側に背を向けたまま「おかえりなさい」と控えめに言った。
「ふふふふふふふ。だーれだっ」
「んむっ!」
すると後ろから腕らしきものが回り――視界が、閉ざされる。
「……え?」
慧都は思わず閉じてしまった目を薄らと開き、視界がまだ暗い事に驚く。
そして後ろから笑い声が聞こえ、そのまま引っ張られて倒れこんだ。
「れ、玲二さん」
「何かな!」
「……なんか、か、体が?」
「あはは、啓二さんの魂食べてきたからかな?」
笑いながらとんでもない事を言われたかと思うと、ぐるりと視界が回る。
そこには、見覚えの無い青年が居た。
さらさらの茶髪に、悪戯っぽい瞳。どこか甘い顔立ちは、その声のイメージにぴたりと合う。
年は慧都より上である事は確実だが、やや童顔だ。
あまりの衝撃に、慧都の頭は直前の言葉を忘れた。
「れ、いじ、さん?」
「わーいいなあすっごいいいよ慧都にじろじろ見られるの最高にいい!」
ムードも何も無い。慧都の背中に腕を回してがっちりとホールドし、玲二はぐりぐりとその頭に頬擦りしたり嗅いだりしている。
慧都はそんな変態行為も気に掛からない程に衝撃を受けていた。
「ねえ、もっと見て! ずっと僕だけ見ててね? 他の男の人なんて見ちゃ駄目だよ、そしたらどうしようかな、とりあえず目はいらないし、ついでに足もいらなくなっちゃうね!」
「ひ、ひいいいいやああああ!」
「でも眼球まで舐め回したいくらい可愛いから、目が無いと困っちゃうなあ。今のうちに舐めておいていい?」
「ひきゃああぁあああっ!!」
じたばたと暴れるが、全く意味を成さない。慧都から触れるとすり抜けてしまうのだ。
易々と押さえ込まれ、ぺろりと目の脇を舌が這う。それどころかするりと頭をすり抜けていき、頭の奥で匂いを嗅ぐような音がして慧都は絶叫した。
「きゃあああぁぁぁああああ!」
「慧都の脳みそ美味しそうな匂いがする!」
「いやああぁぁああああああ!」
せめて生きた人間だったらよかったのに――色んな意味で。
慧都はそう思いながら、いよいよ気絶するのであった。
姿が見えるようになった玲二に、慧都はまるで思春期が遅れてやってきたような有様だ。
父親を避けるようになる年頃、といった感じである。
「だ、だからね? 寝室には、は、入らないでって」
「そんな事言うと、キスしちゃうよ」
「へ? え、えええ!?」
しかしこの通り、避けても避けても無謀なので、案外早く慣れた。といっても一ヶ月は掛かっているのだが。
無駄に美形で無駄に爽やかなので、羞恥心は二倍である。親の居ない間に家でいちゃつくという背徳感も手伝ってか、とてつもなくどきどきする。
「まあ何もしなくてもキスはするんだけどね!」
「ひどっ……ん、っ」
言葉では嫌がっても、玲二の目には段々と慣らされて自分好みに育っていく少女の姿がたまらなく愛らしいとしか思えない。控えめにも応えてくるあたりが、特に。
16歳になり、少しずつ色気が増していく。セクハラの甲斐あってか胸も少しずつ成長して、この前下着のサイズが1つ上がった。少女が女へと変わり、蕾が花開く過程をじっくり見つめていたい。玲二の思考は大体そんな感じである。
ちなみ熟し、更に老いてゆく様子すら余裕で見ていられる。慧都であれば。
とてつもなく粘着質な愛情であった。
◆
「最近友達がねー、うるさくて。他校の奴なんだけどー」
「友達?」
「いたの? みたいな聞き方しないでよー、いたよ一応! 男でね、今はヤンキーだけど前はあたしのパシリだったんだよ」
「……えー」
「元は同級生全員のパシリだったんだから。助けてあげた訳だよ」
「助けるって言うのかなあ」
「言うんじゃない?」
やや薄暗いオカルト研究部の部室で、昼休みを過ごす。そんな日常も定番となって久しく、美佳と慧都は友達の居ない者同士良好な関係を築いていた。
漸くオカルト以外の話題でも喋れるようになったので、幾分まともに見える。
「中学で空手初めてねー、高校入る時に絡まれたりなんだりしてあっという間にヤンキーになっちゃったらしくて、びっくりびっくり」
「……いや、いいの? それ」
「あたしが口出しする事じゃないしねー」
「いや、止めてあげようよ、美っちゃん……」
普通の友達づきあいが久しすぎて、美っちゃんと呼ばされる事に疑問すら抱いていない。美っちゃん慧ちゃんと呼び合う2人は高校生としては異色かもしれない。
しかし慧都はこれがデフォルトだと思い切り勘違いしていた。長い孤立期間の弊害である。
「なんかね、慧都のことを話したらそんなやつと付き合うなって怒られて、意味わかんないから逃げたんだけど」
慧都は微妙な顔をして美佳を見た。
どうも勘違いされている気がする。名前だけ聞けば、慧都の名はどちらかと言えば男だ。
(好かれてるんじゃないかな……)
流石にストレートに言うのは憚られる。
だから慧都は、ちゃんと女だって紹介しておいてね、とだけ言っておく。
他人の事には嗅覚の働く慧都であった。
夏休みに入って数度目かの部活の日のことである。オカルト部は実質部員2名でありながらも元気に活動し、普通の部活を知らない慧都は文句も言わず参加している。たまに心霊スポットに連れ込まれて泣きを見たが。
思った通り――というか、慧都にしてみればもう忘れかけていたが、美佳から「なんか付き合う破目になっちゃった」と気の抜けるような報告がされた。
(普通の女子だ……)
慧都を上回る恋愛経験の無さで、かなりどぎまぎさせられているようだ。
その状態なら普通の女子にしか見えない。
どうやら向こうはとことんストレートに力押しで来たらしい。美佳も案外素直な性格なので、下手に搦め手を使うよりも効いたのだろう。
やっと報われたらしいヤンキー青年に思いを馳せていると、首筋に軽い痛みが走る。
「ひっ」
「え、何どうしたの今幽霊何かしたの何何何何!?」
物凄い勢いで食いついてくる美佳に空笑いを返した。
他人の恋人だろうが、他の男の事をちらりとでも考えてはいけないらしい。
恋とは人をああまで変えるものなのか、と思うと慧都は変な気持ちになる。
胸の奥がむずむずするような、あるいはつきんと痛むような。
そういう時、決まって思い出すのは玲二のことだ。
さすがの慧都にも分かった。
家に向かって歩きながら、ほんのりと熱い頬を手で覆う。
(ああああもうっ……!!)
胃袋を握られ、甘い言葉を囁かれ続け、独占欲をむきだしにされ。ついでに恐怖心によるストックホルム症候群、つまり釣り橋効果もあるのだろうか。
一応、誘拐された時にも助けてくれた。怖かったが。
もう腹を決めるしかない。――慧都は臆病な割に、決断が早いタイプだった。諦めも早いが。
そして家に辿りつくと、慧都は表情を引き締めて、玄関の前に立ち、扉を開けた。
「ただい――きゃあっ!」
ぐいっと伸びてきた腕に引きずり込まれ、覚悟が一瞬にして霧散した。
悲鳴を上げると、背後で勢い良く扉が閉じる。カタカタと周囲の物が地震でも起きたように揺れる。電気も付いていない暗い玄関に、漂ってくる冷気。
思いもよらない状況に固まっていると、唇が塞がれた。
「な……んっ、……!」
一言も発さずに、ただ唇を吸われ、口腔をまさぐられ、逃げる舌を乱暴に引きずり出される。少し痛みを感じるほどの強さで舌を噛まれたとき、慧都の目から涙が伝った。
(なに、な、何なの……?)
訳も分からないままぐるりと回転し、玄関マットの上に押し倒される。反射的に腕を突き出そうとすると、床から黒い腕が生えて押さえつけられた。
「――っ!」
口付けられたままで視界が暗い。後頭部が冷たい床に押し付けられて痛い。
靴を脱がされ、ついでに靴下までむしり取られる。裸足になった足を、黒い手ががっちりと掴んで床に縫い付けた。
(な、なんで、こんなこと、するの……!)
恐怖に眉を顰め、ぽろぽろと涙を零したとき、ようやく唇が離れていった。
ぼんやりと、横に浮かんだ青白い炎に照らされた玲二の表情は、笑顔。
「その顔でいい」
恐怖に脅えた表情をじっと見つめる。その目には熱さも冷たさもなく、混沌とした何かが渦巻いているように見えた。
「怖がってるうちは僕のことしか考えないからね。最初から、期待なんてしていないんだ。嫌がられようとどう思われようと僕は君に取り憑くし、死んだ後はずっと縛り付けるだけだから。――でも、他の男を見ることだけは許せないよ、慧都。嫌ってもいいし、僕のものにならなくてもいいけど、他の男なんて見ないで。ねえ、そうなったら僕がどうするって言ったか、覚えてる?」
慧都は答えなかった。
言われた事をゆっくりと飲み込み、混沌とした脳内が落ち着いた後、あまりの理不尽さに頭が沸騰しそうになった。
思わず、怒鳴る。
「……うるさいっ!」
玲二が驚愕し、目を見開いた。黒い手の力が緩み、慧都は易々と抜け出して体を起こす。
そして情けない顔のままで、恐怖を上回った憤りに任せて怒鳴る。
「どうしていっつも強引なのにそんなこと言うのっ!?」
「え? あ、いや」
「そんなに嫌われたいなら世話なんてしなければよかったのにっ!! ち、中途半端なことするからっ、わ、わ、わたっ、う、ううぅっ」
しかし憤りは長続きしない。小心者だからか、他人を怒鳴りつけるという行為に物凄く心労が溜まるらしい。しかもすぐに泣く。
「け、慧都っ」
「……だいっ、たい、いつ私がっ、他のひとなんて見たのっ」
慧都からすればまずそこが疑問だ。玲二が何故突然あんな様子になったのかは経験上分かっているが、自分がいつ他の男性にそういった目を向けたのか、全く心当たりがない。
「せ、せっかくっ、かえ、ったら! 言おうとっ、思ってたのにっ」
泣きながら鞄を引っ掴むと、階段を駆け上がっていく。「ばかあああ!」と捨て台詞を吐きながらその姿が消えて、ばあんと扉を閉める音がした。
「え……何、何を!?」
我に返って叫び、玲二はその後を追いかけて壁をすり抜け、最短距離で突っ込んでいった。
数分後、あの手この手で言葉を引き出されてぐったりとしている慧都と、嬉しげに纏わり付く玲二の姿があった。
愛情を煮詰めて砂糖を大量に突っ込んだような声で囁かれ続け、ますます精神が磨り減っていく。耳を押さえると逆に手をすり抜けてダイレクトに声が響いて、腰砕けになる。だからもうだらんと手を投げ出してうつ伏せにベッドに転がっていた。
もういっそ精神攻撃と言った方が相応しい。
「ああもう慧都ってば照れちゃって可愛いなあ、でも息できてる? 窒息しちゃうよ? 死んだらそれはそれで早めに全部僕のものになるって事だけど……ああっそれもちょっと良いかも」
部活を終えてそれなりに空腹だった筈なのに、それすら分からなくなる。
玲二は蕩けきった表情で慧都を抱き上げると、流れるような動作で脳天、額、頬、唇、と口付けていく。そして横向きに抱いたまま立ち上がる。
「ご飯食べて、一緒にお風呂に入って、それから好きなだけいちゃいちゃしようね!」
「やだぁ……」
涙目や半泣きの域を超え、本気で泣いていた。
いくら好きだろうと耐え切れなかったらしい。しかし泣くのは逆効果にしかならなかった。
「そんなに可愛い顔してると、もう食べちゃいたくなるよ? 我慢できないよ? いいの? 空腹状態で朝までオールナイトしちゃっていいの?」
しれっと朝まで拘束する事を宣言している。慧都はぶんぶんと顔を横に振り、そのまま階下に降りていった。
その夜、慧都がどんな目に遭わされたのかは想像に任せるとして。
彼女が厄介な幽霊に取り憑かれ、そしてこのままずっと憑き纏われることは確かである。
いかがでしたでしょうか、幽霊らしからぬ幽霊のお話。
年末にホラー映画見ちゃったので新年早々こうなりました。
某映画で幽霊が人体をすり抜けた時にがっつり視界が赤くて、なんか新鮮だなあと思いつつ。
好きな子の内蔵なら愛せる系の変態に仕上がりました。
どうしてこうなった! どうしてこうなった!
でもなんか、ちょっぴり不完全燃焼気味な気もします。
勢いで書くとこうなるよ!
でも反省はしてるけど後悔はしてないよ!
ここからうらばなし。
●名前の由来
今回は明記しませんよ!
稲川は言わずもがな某氏から。三名とも似てます。あと悠二・玲二でユウレイ。寒い。
残りはそれぞれホラー映画からだったり。都子は慧都の都からですが。
あと美佳の元ネタは男。そのまんまミカだけど
●稲川家
霊能力者っぽい家系。一応悠二が跡継ぎだった。
現当主は啓二だったが、スキャンダルと行方不明のせいでもう後が無い。元々玲二が引き取られたのも予備的な意味だったのに死亡。本当に後が無い。
そしてそんな事情がある中で家出られた都子さんがすごい。
多分今頃血眼になって捜索中。
●キャラクター編
○稲川慧都
・見た目はクール系、キツめの美少女。
・貧乳。背は平均ちょっと下。
・怖がりで小心者。幽霊系もゾンビ系も妖怪系も満遍なく怖い。
・頭はいいけど単純なところがある。
・常になんとなく近寄りがたい雰囲気が出ている。実はただのビビリオーラである。
・この年で母親に反抗心ゼロ。反抗期? なにそれおいしいの?
・怖がりなのにオカルト研究部。でも本物を知ってるから逆に怖くない……という訳では無い。
○稲川玲二
・見た目だけは王子様系美形。
・生前は頭が良く明るく元気だった。
・死後は色々とやばい人に。
・基本的にS。変態。ちょっぴりヤンデレ。
・でも別に慧都相手ならMにもなれる。
・思い込みが激しい上に、幽霊になってから感情の押さえが効かない。
・年々進化していたように見えるが、実は玲二が変化しているのではなく、慧都の方が成長しているため。
○稲川都子
・きつい感じの美女。悪女っぽい。
・ビッチ。
・金持ちの彼氏を大量に抱えていたが、今は6人くらいに絞っている。「他に彼氏がいてもいいよ」な人だけ残したらしい。
・実は高学歴。就職せずに結婚したときもったいないコールが起きた。
・やたら若々しい。ギリギリ三十代。
・娘に甘い。家に帰れなくても誕生日には毎年プレゼントを郵送。
○稲川啓二
・手段を選ばない強引俺様系。だった。
・でも流石に兄と居候を殺したことは後悔したらしく、都子が出て行くのは止め切れなかった。
・未だに都子(と慧都)に未練タラタラ。写真めっちゃ見てる。持ち歩いてる。
・そしたら気づかれました。ちなみに犯人は元マネージャー。
・末路は言わずもがな。魂パクッといかれました
○稲川悠二
・お兄ちゃん。啓二に比べれば平凡顔。
・元々は玲二も啓二も弟分として可愛がっていたのにこの仕打ち。
・温厚で心優しいが怒ると怖い人。
・大学で都子のハートをがっつり打ち抜いた。
・優しい顔して実は狼(都子談)
○路善社長
・小太りの中年。汗っかき。
・女好き。でも侍らせるだけで特に手は出さない。
・路善は苗字。
・独身。
・慧都を見て思った事:おじさまって呼んでくれないかなー
○刈田美佳
・ふわふわした感じの美少女。
・中身はオカルトマニア。
・幽霊部員だらけだったオカルト研究部に入部。
・噂を聞いて勧誘し、断りきれない慧都をがっつりゲット。実質部員2人。
・クオリティの高いホラーもいいけど実はB級ホラーの方が好き。
・ある意味玲二にとってはキューピッドである。
○ヤンキー君
・不憫。
・元パシリ。
・「慧都」という名前を聞いて普通に男だと勘違い。
・ベタすぎる事情から美佳に恋している。
短編集におまけがあります。
よろしければどうぞ。