彼女のデート相手が「五条悟」だった件について。〜夏油推しの俺、今日から最強になります〜
初めて書くので文章がおかしいところがあるかもしれませんが、面白いと思ったら評価してもらえると励みになります。よろしくお願いします。
白地に花柄のワンピースを体に当てた小春がこちらを振りむく。
「優斗、これどう思う?」
伺うように小首をかしげた。けれど漫画に夢中になっていた俺は、少しだけ視線を流した後、「いいと思う」と素っ気なく答えてしまった。
「もう! ちゃんと見てないくせに!」
たいして見ずに『ながら返事』をしたのだから当然怒られる結果となる。漫画をテーブルに置いて、しばらく反省を演じることにした。
自分のファッションにすら興味がないし、ましてや女子の流行りなど知らない。そもそも俺に意見を求める事が畑違いだと思ったが、口に出せば火に油を注ぐようなもの。ごくりと言葉を飲み込み、気まずさからテーブルの上のポテチに手を伸ばした。
「これもいいけど、白って太って見えちゃうからなぁ」なんてぶつぶつ言いながら服を選んでいるが、一体どれだけの時間を洋服選びにかけるつもりなのだろう。
「デートってなに着るか悩むよね。……彼の好みも分かんないし」
「でッ……!!?」
喉にポテチが張り付いてナチュラルな発音ができない。ぼそっと呟いたその言葉に目を白黒させてしまう。
小さい頃からずっと一緒だった幼馴染からの、突然の『デート』発言。つまり、『彼氏がいます』という青天の霹靂とも言える事実に目を見開く。幼馴染の小春とは長く一緒にいるが、彼氏の「か」すら感じることはなかったのだから当然だろう。
姿見と睨み合いっこする小春を盗み見ながら、ペットボトルのジュースを喉の奥へ流し込む。
その時、閉まっていた部屋の扉が開き、スポーツバッグを下げた俄来が「わり! 遅くなった」と謝りながら部屋に入ってきた。
すると散乱した服を小春が慌てて拾い出したが、耳が真っ赤になっているし、やけにテンパっている。普段とは違う様子に、俺は違和感を覚えた。
「こんなに散らかして、何やってんの?」
入ってきた俄来も一緒になって服を拾い出した。俄来は中学に入ってからの友達だ。
「もしかして、明日の準備?」
「う、うん。ちょっとね」
俄来の手から洋服を奪い取った小春は、隠すようにクローゼットへ押し込んだ。振り返るなり何事もなかったかのように、「来るの早かったね」と俄来に話しかけている。やっぱりなんだか不自然だ。
「あ、それ可愛いね」
俄来がカーテンレールにかけられている洋服を指差した。
「え、そう?」
「うん。小春ちゃんにすごく似合うと思う」
その言葉が嬉しかったのか、掛けられた洋服を手に取った小春が頬を染めながら、「でもねー」などと言い体に洋服をあて、俄来に意見を求めた。
その様子を一人ポテチを食べながら眺めた。目を合わせて微笑みあう二人がお似合いのカップルに見える。小春も俄来も大切な友達だというのに、嫌でも二人のことを勘繰ってしまう。
ーーもしかして付き合っているのだろうか。
その疑問まで辿り着いた途端、今まで感じたことの無い感情が心の中を渦巻いた。モヤモヤとした得体の知れないもののせいで、ものすごく気持ちが悪くて仕方がない。
その時、テーブルの上に無造作に置かれたスマホが震え、手に取った小春が部屋から出て行った。俄来と二人っきりになった部屋で、俺は拳を握り締めソファから立ち上がる。
「……こ、小春と付き合ってるのか?」
緊張のせいか、声が少しだけ上ずる。
「え?」
俄来の表情が一瞬強張ったことに気づいた。どうやら直感は当たっていたらしい。長い付き合いの俺より俄来を選んだ事が悔しくて、次々に涙が溢れ出る。みっともないけれど、肩が揺れ、嗚喘まで漏らしてしまう。
小さい子供のようにボロボロと泣いているというのに、あろうことか俄来は腹を抱えて笑いだした。
「なっ!! 何がおかしいんだよ!」
泣いている人間を前に、余裕の笑いを平然と向けてくる俄来が憎らしい。けれども俺の気持ちを知るよしも無い俄来は、目尻に溜まった涙を指で拭きながら答えた。
「いや、小春ちゃんとは付き合ってないよ」
「……へ?」
予想していなかった言葉に、口から間抜けな声が漏れる。
「気づいてなかった? 小春ちゃんはアニオタなんだよ」
ーーアニオタ。
つまり、オタクのこと。
小春の事はなんでも知っていると思っていただけに、衝撃がでかい。
「……なっ! なんのだよ!」
「呪術廻戦だよ。最近よくその手の話題話すだろ?」
パッと机に並べてある漫画に目をやる。そういえば最近「くらえギョッケン!」などと言い、俺の肩を叩く時があるし、手荒れした時は「ほら、宿儺の指だよ」なんて顔をニヤつかせて見せてくる事もあったっけな。
展示会では釘崎野薔薇の格好をして見にいったらしく、腰まであったロングヘアを肩まで切ったのはその為だったのか。飛んだ勘違いを俄来へぶつけてしまった恥ずかしさで、顔が熱を帯びる。けれどなぜかほっとしてしまう自分もいた。
「俺が小春ちゃんと付き合ってないって分かって安心したか」
「し、してねぇよ!」
「相変わらずわかりやすいな。優斗は小春ちゃんのこと好きなんだろ?」
その言葉でみるみる全身が熱くなっていく。この得体の知れない感情の正体を俄来がずばりと言い当てたらしい。
「な? 良い加減、認めろよ」
俺の肩に腕を回した俄来が、顔を覗き込んでくる。整っている顔立ちのせいか凄みがあるし、有無を言わせない感じが少し怖い。
「う、うん。 す、すすすす好き……」
ものすごく噛んじゃったけど、素等に自分の気持ちを認めた。
すると不思議なことに、今まで見えていなかった「好き」という感情が、自分の中でどんどん膨らんでいくような気がした。
「ちゃんと気持ち伝えろよ。誰かに取られる前にさ」
「う、うん」
気づかせてくれた俄来には感謝だ。
けれど一つ疑問が残る。昨日やその前の日だって俺に呪術廻戦の推し活を話すタイミングはあった。なのにどうして俺には話してくれなかったのか。二人の間に隠し事はないと思っていただけにショックが大きい。
「……どうして俺にだけ言ってくれなかったんだろう」
ぼそっと拗ねた疑問をぶつけると、俄来は苦笑いをしながらソファに深く座り込んだ。どうやら何か知っているようだ。
「俺も呪術廻戦が好きなの知ってるよな?」
「知ってるよ」
俄来の部屋にも漫画がずらりと置いてある。確か先に呪術廻戦を読み始めたのは俄来からで、その後小春も漫画を全巻揃えた。借りればいいのになぜ買ったのだろうと疑問ではあった。
「優斗は呪術廻戦の中でも、夏油傑が好きだろ」
「うん。そうだけど」
「だから小春ちゃんは優斗に、推しである五条悟の話はしなかったんだよ」
「……どういうこと?」
全く意味が分からない。夏油傑が好きというのが、小春の何に繋がるというのだ。怪訝な目を向ける俺に、俄来が小春のバッグからひょっこり覗いているアクリルスタンドを指差した。
「ほら、あれが明日、小春ちゃんがデートにいく相手」
「……えぇ! アニメのキャラとデート行くってどういうこと!?」
「推しなんだって。幼馴染だろ? わかってやれよ」
幼馴染だから分かれと言う理屈はめちゃくちゃだ。推し活すら受け入れ難いと思っている俺には限度がある。ましてや存在すらしないアニメのキャラと2次元デートをするという心情についていけない。
「それに、小春ちゃんの中では五条悟と夏油傑の派閥があるんだよ。だから夏油傑派の優斗には隠してたんだろ」
知らぬ間に俺は小春の中の派閥争いで対峙していたらしい。勝手に作られた派閥争いに巻き込まれた被害者だというのに、小春に対してどこか釈然としない思いを抱いてしまう。
「明日は五条悟のアクリルスタンドを持って、聖地巡礼に行くんだってさ」
「聖地、巡礼まで……」
とてもついていける話じゃなかった。けれどこのまま小春が誰かに奪われてしまうのは嫌だ。唇を噛みながら、本棚に綺麗に並べられた「呪術廻戦」の11巻を指で捲り、0.2秒の領域展開シーンを食い入るように見つめた。
(俺は、人間味が強い夏油傑が好きだけど……)
でも、俺の好きな小春が五条悟が好きだと言うのなら、今日から俺も悟が好き。好きな人の好きは全部全部好き。単純だけれどそれが『恋』だ。
「どうした?」
俄来が心配そうな顔で覗き込んできた。
「お、俺」
そこから先の言葉がなかなか言い出せない。
「うん?」
「俺っ……!!」
そう言いかけた時、部屋の扉が開き、近くに立っていた俺の小指にドアが勢いよく当たる。あまりの痛みにしゃがみ込み、小指を両手で覆い声にならない唸り声が漏れた。
「ごめん! 大丈夫!?」
しゃがみ込む俺に小春が顔を覗き込む。ふわんと甘いシャンプーの香りに胸が高鳴る。やっぱり俺は小春のことが大好きだ。絶対誰にも取られたくないし、自分だけのものにしたい。
「だ……、大丈夫」
そうだ。別にこれぐらい平気。少し血が出てるけど。
「本当に? 血が出てない?」
見せてと言わんばかりに足を押さえる俺に手を重ねてきた。全身の血液が耳に集まっているんじゃないかと思うぐらい、耳が熱い。好きな人に心配されるってこんなに嬉しいものなのか。
その時ふとある言葉を思い出す。それは呪術廻戦の第1巻での五条悟の名セリフだ。受けを狙ってぶちかますことにした。
「大丈夫。僕、最強だから」
思わず小春の目が丸くなり、吹き出すように笑い出した。ドン引きを免れた上に、笑ってくれたのだ。この最高の流れのまま次の作戦へと移行する。
「明日、俺も行っていいかな」
「え? どうして?」
きょとんとした顔をする。
「俺も、五条悟が好きだからっ!」
ずいぶん都合がいいとソファに座る俄来に思われているかもしれない。だけれど五条悟も好きなことは事実だ。ただどっちが好きかと聞かれたら夏油傑ってだけで。
すると小春が顔を赤くして微笑んだ。
「うん。すごく格好良いよね。五条先生」
恥ずかしげに頬を染めながら身をよじらせ、潤んだ瞳に思わず見惚れてしまう。
ーーダメだダメだ!!!!
五条悟を思い出してこんな麗しい表情をしているだけで、断じて俺に向けられたものではないのだ。頭を横にブンブン振り回し、脳内の不純をかき消す。
悶える俺の足元で、「げ……。優斗の小指腫れてる」とか、「うそ! 救急箱とってくる!!」などと怪我の心配をする声がBGMのように聞こえてくるが、今の俺には知ったこっちゃない。
まずは、小春が推す五条悟より格好いい男にならなきゃいけないのだ。ポケットから素早くスマホを取り出すなり、人差し指を下から上へと忙しく動かす。
「よぅっし!!!」
ホットペッパービューティーで美容室の予約ボタンをポチる俺だった。
読んでくださり、本当にありがとうございました!




