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5話

多少修正しました

高宮のお嬢とひょろ男(仮)の勝負は一方的なモノになっている。

ひょろ男は必死に魔法を唱えるが、高宮のお嬢はそれを風や水の障壁で軽々と防ぎきる。策を弄して高宮のお嬢に攻撃を届かせようとするも、それすらも意に返さず全て防ぐ。

それの繰り返し

ひょろ男は魔力が少なくなってきたようで、疲れた顔をし、徐々に魔法の威力が落ちてきている。それに反して高宮のお嬢はまだまだ余裕そうな表情だ。

まぁ、そらそうだわな。高宮のお嬢は防御魔法についてはわからんが、魔力値に関してはこの学院内でもトップクラスだ。

そんな奴が守りに徹すれば相手は魔力と精神力を消耗していくだけだ。

見方によってはえげつねぇ戦法だな……

などと腕組みをしながら欠伸混じりに試合を観戦していると、ひょろ男が火の玉を放つと同時に膝をつく。どうやら魔力切れのようだ。飛んでいった火の玉は高宮のお嬢の風の障壁により、容易く防がれる。


「止めっ!!」


防ぐと同時に教師の声が演習場に響く。勝者は…言わなくてもわかるだろう。

高宮のお嬢は軽く息を吐くと、風の障壁を解除する。

その瞬間、同じように観戦している人混みの中から、不意に僅か、並の奴なら気付かない程僅かだが、魔力の流れが一点に集中するのを感じる。魔法発動の前兆だ。

な…こんな人の大勢いる中で魔法を放つつもりか!?

迂闊だった。こんな目立つ場所で高宮のお嬢に実害を与えはしないだろうと、高をくくっていたのが仇になった。

高宮のお嬢は今障壁を完全に解除している。もう一度障壁を構成するにしても間に合いそうにない。


放たれる前に術者を潰すか?

ダメだ、人が多すぎて術者を特定できない。何より間に合いそうにない。


詠唱妨害(スペルインターセプト)?ダメだ、魔力が微弱すぎて干渉できない。じゃあ、どうする?


「しゃあねぇか…」


嘆息混じりに呟きながら、高宮のお嬢目掛け一気に駆け出す。

周りの連中が何か言っているが、気にしない。

標的と術者の大体の位置が分かってりゃ防ぐのは容易いんだよ!

俺が高宮のお嬢の位置と、術者の位置との直線上の位置に到達する瞬間、魔法が放たれる。

人混みの隙間から飛来してくるは雷撃の矢、下級雷魔法『ボルトアロー』

俺は雷撃の矢を迎え撃つように跳躍し、飛び蹴りを放つ。


「ッ!!」


タイミングはギリギリ。蹴りが雷撃の矢に当たった瞬間、全身を駆け抜ける痺れと、脚の皮膚を焼く痛みが俺を襲う。

ま、全然問題ねぇがな。

俺は着地すると、すぐさま術者を捜すべく意識範囲を拡大させ、気配を探る。魔法を使用した者は使用した魔力の残滓をその身に纏う。普通の奴なら気付けないその残滓を、ちょいと特殊な俺は察知することができる。


「……チッ、逃したか。」


もう既に先程の場所には魔力の残滓を感じられなかった。軽く舌打ちし、とりあえず再び演習場の端へと戻ることにする。なんかここにいたらめんどくさそうだし…


「待ってください!!」


歩き出した所で呼び止められる。


「あ?」


振り返ると、心配そうな顔をしている高宮のお嬢の姿が。


「白神…貴方、足が…!」


「足?…あぁ。」


言われて視線を下に下げていくと、俺の足がパッと見大変なことになっていた。

エネルギーである雷を生身で防いだためか、制服のズボンの膝から下はボロボロになっており、脛のあたりは火傷を負い、ジュクジュクと焼け爛れている。


「…あぁ、俺のズボンが…」


「気にするところはそこではありません!!足が酷いことになっていますよ!?」


「こんなん酷いどころか怪我の内にも入んねぇよ。それより酷いと思うのはこの学院のセキュリティーだと思うがね。なぁ、先生?」


「……」


チラリと教師を見ながら教師は憮然として黙っている。恐らく理解しているから反論も何もしてこないのだろう。

中級魔法でも傷つかなかった俺が下級魔法で傷ついた。それも誰も気付けない程の微量の魔力でだ。そんな魔力操作技術と意志力を持つ奴が生徒に危害を加えようとしたのだ。相手が外部の人間だろうが、内部の人間だろうが、もしも高宮のお嬢に危害が加わっていたら、この学院の教職員の責任問題となっていたところだろう。俺がいたから良かったモノを…

魔法の威力とは魔力と意志力の掛け算だ。さっき潰した、えぇと……鳳の分家の奴が放った中級魔法は、意志力が弱いから俺にダメージ一つ与えられなかった。それでも中級魔法だ。下級魔法とは歴然とした差がある。しかし先程の襲撃者は意志の力によりその差を無くした。それ程の術者がこの学院には潜んでいる。

まぁ、下級魔法で上級魔法に匹敵する程の意志力を持つ化物もいるぐらいだから別段驚きも臆しもしねぇが…(親父、宗主、師匠)


「先程の輩は、俺達教職員が責任を持って捕らえる。俺がいながら、すまなかった…」


教師が俺に頭を下げてくる。こんな態度を取られても正直面倒なだけなので、手をヒラヒラと振りながら気にすんなと言っておく。

高宮のお嬢も俺に何か言いたげだったが、突然舞を先頭にワッと生徒たちが高宮のお嬢の周りに群がる。彼女の身を案じてのことだろう。

やれやれ、人気者だねぇ。さてと、俺はさっさと退散するかね。調べ事も見つけたしな。

俺は教師に保健室に行ってくるとだけ伝え、群がる人をスイスイと避けながら、人混みから抜け出し、演習場を出る。




「あぁ、それじゃあこの学院で雷属性の魔法が使える教職員を絞ってくれ。後、替えの制服を届けて貰えると助かる。それじゃあ頼む。」ピッ


携帯の通話終了ボタンを押し、携帯をポケットにしまう。

現在俺は保健室に向かうべく廊下を歩いていた。正直、報告と調査依頼を出す為、人気の付かない所に来たかっただけなのだが、保健室に行くと言った手前、足に何かしらの処置がされていない状態で戻ったら怪しまれると思い立ち、とりあえず火傷の手当てでもしてこようとしている訳だ。



「ふぅ…流石に危なかった……」


俺は高宮のお嬢を守れたことに軽く安堵しながら、先程の出来事を思い返す。

俺は俺が魔法を使えるということは、なるべく相手に知られたくはなかった。だからあえて俺は魔法を使わず生身で相手の魔法を防いだ。魔力量からして下級しか放てないことは予測できていたし。

しかし、まさか力を抑えていたとはいえ、俺の『纏い』を貫くとは思わなかった…


『纏い』それは俺が名付けた体質のようなもので、俺は無意識の内に常に体の内側から全身に魔力障壁を張っており、魔法に対する抵抗力が異常に強くなっている。言わば俺は魔力の鎧を常に身に纏っている状態なのだ。ちなみに魔力の密度により強度操作可能。


中級魔法程度なら防げると思ったが、見誤ったか。

まぁ、貴重な情報は得られたから良しとするかね。

そう、相手は雷属性の魔法が使える。この情報だけで大分犯人を絞ることができる。今までの撃退された護衛やらは、戦闘時の記憶を失っていたようでわからなかったらしい。それにしても資料や高宮のお嬢の証言によれば、今まで魔法による危害は加えてこなかった筈だが…何か目的があるのか?まさか俺を試したのか?それとも……


「待ってください!」


突如背後から聞こえてくる声に、思考をぶったぎられる。

振り返るとそこには心配そうな顔をした高宮のお嬢の姿が。あれ?既視感。


「あ?どうした。」


「先生に貴方が今保健室に向かっいると聞いて、追いかけてきました。」


「随分と物好きなこって。」


「今治療を…」


高宮のお嬢の腕に魔力が集中し、淡い水色に光る。回復魔法でも使おうとしているのだろう。

俺はそれを手で制す。


「いらねぇよ。こんなもん、舐めときゃ治る。」


「…舐めるの…ですか…?」


高宮のお嬢は口に手を当てながら俺の火傷をした箇所を見て呟く。

その目は真剣そのものだ。

あぁ…冗談の通じない人種ですか…面倒な。流石に俺は傷を舐めて怪我を治療しているとは思われたくないので、冗談だと言おうとしたら、突然高宮のお嬢が跪いて、その綺麗な顔を火傷に近付けてくる。


「…何してんの?」


俺は火傷をした足をヒョイと高く上げ、高宮のお嬢の奇行を阻止する。


「何って、貴方は傷を舐めて治療しているのでしょう?その火傷は私が原因でできてしまったのだから、私が舐めて治療しようと…」


…あぁ、マジで面倒くさい。

思わず口にしてしまいそうになった言葉を辛うじて飲み込み、代わりに溜め息を吐く。とりあえず誤解を解くべく、未だに跪いている高宮のお嬢の手を掴み立ち上がらせる。


「はぁ、冗談だ、冗談。流石に舐めては治さねぇよ。」


「冗談、ですか?」


不思議そうに首を傾げる高宮のお嬢に、再び溜め息を吐く。

いや、不思議そうにされてもリアクションに困るんだが…


「そ、冗談だ。さっきも言ったが、こんなもん怪我の内に入んねぇよ。気にすんな。」


「しかし…!!」




「それに、俺は魔法が使えないからな…魔法にはあまり頼りたくねぇんだ…」


自嘲気味にそれっぽいことを適当に言っておく。

本音は、俺の纏いは補助魔法や回復魔法に対する効果も阻害してしまう。効果が薄いのを見たら高宮のお嬢はまた俺を怪しむだろう。いや、中級魔法を生身で防いだ時点で怪しんでるかもだが、まぁそんな面倒はごめんだからな。


「すみません、いらぬお節介を…」


高宮のお嬢が俺に頭を下げてくる。俺は手をヒラヒラと振りながら冗談混じりに言っておく。


「お嬢様が俺みたいな一般市民にいちいち頭下げんな。あんたは、『あんな魔法も防げないなんて…この使えない愚民が!!』とか『あら、愚民でも盾代わりぐらいにはなるのね。』ぐらい言っときゃいいんだよ。むしろ謝るぐらいなら言え。」


「そ、それはちょっと…」


「じゃあ気にすんな。」


そう言って、さっさと保健室に向かうことにする。舞が来たらまた面倒そうになるし…まぁ、それはそれで面白そうだからいいが…


「フフフ」


どうでもいいことを考えていると、高宮のお嬢が笑う。


「…どうした?」


「いえ、優しいのですね、白神は。」


「は?」


突然何を言っているんだこのお嬢様は?


「どうした、藪から棒に。」


「いえ、ただそう思っただけです。」「…妙なこと言うねぇ、高宮のお嬢は。」


「…その呼び方は何ですか?」


若干不機嫌そうな顔になる高宮のお嬢。…何故だ?


「ん?あぁ、俺が勝手に使わせてもらってるアンタの呼称だ。」


「私は貴方と同じ学生です。そのような呼び方は止めて下さい。」


あぁ、そういや高宮の爺さんが、特別扱いを嫌う〜的なこと言ってたな。


「ふむ…なら何て呼ぼうか……」


高宮のお嬢がワクワクしたような目でこっちを見ている。期待に応えてやりたい所だが、さて…

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