4話
主人公初戦闘!しかし、主人公は圧倒的に強い設定なので戦闘は短め
「…ひどい目にあった。」
「自業自得だろ。」
演習場にて俺は男子の隊列の中で、がっちりした体格の男性教師の無駄に長い説明を聞き流しながら、舞によってダメージを受けた首をさする。
「ったく。あんの馬鹿力が…名家の女ならもっとお淑やかになれってんだ。」
「何か随分と親しげな感じだな。舞ちゃんもお前の名前聞いて妙な表情してたし。実は知り合いだったりして?」
俺に近い場所並んでいる翼が質問してくる。
バカの癖に妙な所で鋭いな…
「別に。俺は基本的に初対面の相手にでも馴れ馴れしいからな。クラスの連中ん時もそうだったろ?鳳が妙な表情をしてたってのは知らないが…」
「ふ〜ん。」
とりあえず適当に誤魔化しておくことにする。翼もそれ以上は聞いてこず、気付いたら教師の説明は終わり、瞑想の時間に入っていた。
翼は周りの様子を見て慌てて目を瞑り、俺も静かに瞳を閉じる。
瞑想とは簡単に言えば運動前の準備運動のようなモノだ。精神を落ち着かせ、へその少し上に位置する丹田に存在する魔力の泉を、全身に染み込ませるように広げる。
こうすることにより、魔力を全身に流す血管のような機能、魔力回路の流れを良くすることができ、魔法の使用をスムーズにし易くなる、魔法の基礎中の基礎だ。
「止めっ!!」
教師の掛け声で皆目を開ける。そして、次の指示を待つ。
「よし、今日は模擬戦をしたいと思う。」
教師の声に嬉しそうにする者と落胆したような者がいるのがわかる。
嬉しそうにする者は、攻撃魔法などが得意な者で、落胆している者は攻撃魔法などが苦手な者。ちなみに近くで歓喜している翼は前者で、俺は後者だ。まぁ、俺はどうせ雑用だがな。
「今日は少し趣向を変え、生徒同士での模擬戦をする。」
「趣向を変える?」
「あぁ、前までは先生相手の模擬戦だったんだ。やっぱ先生は強くてさ〜、戦り合った後立ててた奴なんて数えるほどしかいなかったからな。」
俺が何となく疑問に思い呟いた所、翼が説明してくれる。
「へぇ、お前はどうだったんだ?」
「いやぁ〜、ボッコボコにやられてさぁ、なんとか先生に一撃入れた所で力尽きちまった。」
俺は教師の方に目を向ける。上手く抑えられてはいるが、その身からは並々ならぬ魔力の波動と、歴戦の猛者の如き風格を感じる。
確か翼は雷属性しか使えなかった筈だが…あの教師から一撃?やるねぇ、翼。
俺は内心で翼を賞賛する。
そんなことを考えていると、周りの人間がゾロゾロと移動を始める。
「みんなどこ行くんだ?」
「模擬戦の見学の為演習場の端に移動してるのよ。」
俺の問いに答えたのは翼ではなく女の声だった。振り返ってみると、そこには村園女史が立っていた。
「もう、先生の説明聞いてなきゃダメじゃない。」
「アンタか、あの教師の説明は無駄に長いんだよ。」
「それでもみんな聞いていたわよ?」
「俺は『不』良だからな。聞いていてもどうせ雑用ぐらいしかしねぇからいいだろ。」
「ハァ、本当に何も聞いてないのね…この模擬戦は全員参加よ?」
「……あ?」
全員参加?魔法が使えない設定の俺に天才達と混じって模擬戦をしろと?
「…あぁ、頭が腹痛なんで保健室に…」
「行かせないわよ?」
俺が退場しようとすると、再び首根っこを掴まれる。
「そのまま一歩でも踏み出してみなさい。その痛めている首が大変なことになるわよ?」
「…イエス、ユア、ハイネス」
くそ、人の弱みに付け込むとは…これだから大人は…!
ズドォン!!
俺と村園女史がそんなコントじみたことをしていると、突如爆音がきこえてくる。模擬戦が始まったようだ。ちなみに俺達は未だ避難していない。
それはつまり…
「お〜お〜、俺らがまだいるのにようやるねぇ。翼はさっさと逃げたらしいが…」
「ちょ、もう始まって!?って、何で君はそんなに悠長にしてるのよ!!キャッ、爆炎がこっちまで!!」
「障壁よろしく。アンタなら大丈夫だろ。か弱い生徒を守ってくれよ先生。」
「そんな図太い精神してる子のどこがか弱いのよ!あぁ、もう!『清らかなる水よ、荒々しき邪悪を祓いて我らを包み込まん。アクアラビリンス』!!」
村園女史が呪文を唱え魔法を発動すると、俺達を中心に半球形の水の結界が展開され、荒れ狂う炎を全て防ぎきる。
…やるねぇ、あれだけの力をまだ余力を残して防ぐとは、こんな若ぇ女でも一流を名乗るに相応しい程の力だ。
「ま、どうでもいいか。」
俺は炎が収まると同時に演習場の端へと移動する。村園女史が何やら言っていたが、それは無視する方向で。
余談だがさっきの爆発は舞がしたものだそうだ。
*
「次、白神 煉夜と烏丸 茂!!」
しばらく翼とクラスの連中と談笑しながら模擬戦を観戦していると、教師に名前を呼ばれる。どうやら俺の順番が回ってきたようだ。
「あぁ〜、白神ドンマイ。」
「あ?」
クラスメートの一人が俺を哀れむような視線で見てくる。
「あの烏丸ってのは鳳の分家の人間で、なかなかの実力者なんだ。」
性格は最悪だけどな。と最後に吐き捨てるように付け加えるクラスメート。
ふむ、烏丸ねぇ…そんなのいたようないなかったような…まぁ、いい。
俺は首を回したりしてストレッチをしながら歓声飛び交う中演習場の中央へと向かう。そこには教師とニヤニヤとこちらを見ながら笑っているチャラい男がいた。その顔を見て俺は苦々しい記憶と共に思い出す。
こいつが烏丸…あぁ、昔俺を虐めてた連中のひとりにいたな、こんなの。
「来たか。もうわかっているとは思うが一応ルールを説明する。勝負は相手が気絶したり負けを認めた時点で終了とする。では2人ともこれを…」
教師が簡単にルールを説明すると、俺と烏丸にある紋様の入ったバッジを手渡す。
「これは一定以上の魔力を受けると魔除けの作用が出るバッジだ。これが発動した時点でその者の負けとする。それじゃあ両者準備を…」
そこまで説明すると、教師はその場から離れる。
俺はとりあえず念入りにストレッチをし、体をいつでも動けるようにしておく。
「へへへ」
「…何だ?」
何やら烏丸がこちらを見ながら笑っているので、なんとなく聞いてみる。
「いや、お前魔力はあるのに魔法は使えないんだってなぁ?」
「あぁ、その通りだが…それが?」
「いやなに、昔ウチの一族にもそんな奴がいたのを思い出してな。」
うん、俺だね、それ。
「…へぇ、あの鳳家にも俺みたいな奴がいたんだな。軽い親近感持てるぜ。」
「いや、あいつは例外中の例外だ。なにせ、宗家の人間の癖に8属性の1つも使用できなかった無能だからな。ま、そいつは既に国外追放されちまったがなぁ。ギャハハハハハ!!」
「兄上を馬鹿にするな…!」
「ひっ…!」
烏丸が何かを思い出したかのように大笑いする。すると、会話が聞こえていたのか、舞の突如として放たれた怒りを具現化させたような魔力の奔流に、烏丸は短い悲鳴を上げ後ずさる。
そういやアイツ何気に俺に懐いて慕ってくれてたな…俺が褒めたり頭撫でたりすると顔真っ赤にしてたのが何なのかわからんかったが…
などと感慨深く思い出を振り返っていると
「始め!!!」
教師の模擬戦開始を伝える声が聞こえてくる。
それと同時に気を取り直した烏丸が魔法の詠唱に入る。こちらを侮っているのか、その詠唱は嫌に遅く、長い。どうやら中級魔法を使用するようだ。
俺を練習台にでもするつもりか?ふむ、どうしようかねぇ…目立ちたくないしワザと負けようか…いや、例えこんなままごとの模擬戦であろうと、鳳に屈する訳にはいかないな。
俺は軽く息を吐き出し体を半身にし、構える。
そこで詠唱が終わったのか、烏丸が魔法を発動する。
「ハハハハ!!喰らいやがれ無能者ぁ!『アースクエイク』!!」
地面から巨大な土の槍が次々と現れ、こちらに向かってくる。
普通に考えるなら魔法の使えない俺にこれを避けることはできても、防ぐすべはない。そう、普通なら。
「こんなもんか。」
俺は足下から現れる巨大槍に鋭く蹴りを叩き込み破壊する。
『なっ!!』
驚愕する烏丸。いや、周りの教師を含むギャラリーも驚いているようだ。
それはそうだろう。魔法での攻撃は下級魔法であっても、人が人を攻撃する何倍もの威力を秘めている。中級ともなればその威力は例え未熟者が扱うと言っても、重火器とも比べても遜色はない程だ。
それを生身で破壊したのだ。
ま、俺はちょいと特殊な体質のお陰なんだがな。それにしても…
「鳳って言っても所詮は分家か。」
俺は挑発するように肩をすくめ嘲笑する。
それを見た烏丸は顔を真っ赤にし、怒りを露わにする。
「マグレで調子に乗るなよ無能者がぁぁぁぁ!!『彼の者を焼き払…』!!」
「おせぇよ。」
再び詠唱を唱えようとする烏丸に一気に距離を詰め、首筋に手刀を叩き込み意識を刈り取る。更にだめ押しとして地に沈む相手の頭を思い切り踏み抜く。
「…やりすぎたか?」
地面に血溜まりを作りながらピクリとも動かない烏丸を見て呟くと、次の瞬間大歓声が演習場を包み込む。
「あ?」
「すげぇじゃねぇか煉夜ぁ!!」
「うぉ!」
突然の大歓声に呆然としていると、翼が俺にのしかかるように飛びついてくる。俺は前のめりに転びそうになるが、そこは鍛え抜かれた俺の足腰。危なげなく踏みとどまる。
「あの烏丸相手に圧勝かよ!なぁ、烏丸をぶちのめしたあの技は何だ!?何か武術でもやってたのか!?なぁなぁなぁ!?」
「だあぁ!!鬱陶しいわボケぇ!!」
「ぐはぁ!!」
俺は体にへばりついてくる翼の腹に肘を叩き込み振り払う。
そして、保険委員か何かに連れて行かれている烏丸を後目に演習場の端に移動することにする。少々頭を踏み抜くのはやりすぎたかと、念の為教師の方に目を向けると、こちらを見て黙って頷いていたから多分大丈夫だろう。
演習場の端に戻ってくると、クラスメートや知らない奴やらに囲まれ、先程の翼のようなノリで質問責めにあった。やはり無名の魔法が使えない人間が、分家とはいえ名家出身の魔導師に勝つのはやはり凄いことらしい。俺からしたら全力を出す価値もない三流魔導師に勝ったところで何も感じないのだが…飛び交う火の粉…いや、小虫を振り払った。そんな感じのことでしかない。
とりあえず、周りの連中を適当にあしらいながら模擬戦の観戦をすることにする。
中央に見えるのは、眼鏡を掛けたひょろい男と、身に纏う雰囲気が明らかに違う黒髪の美人さん。俺の警護対象である高宮のお嬢。
…勝負にならねぇなこりゃ。
などと思いながら腕組みをしながら念の為辺りを警戒しておく。
「始め!!」
そして、高宮のお嬢の模擬戦が始まった。