2話
魔法の説明とかその他諸々グダりましたが、ゆっくりしていってね!
さぁて、思ったんだが授業中って激しく暇じゃね?
などとペンを弄びながら思い、教卓で長々と何かを説明している教師を無視し、天井をぼんやりと眺める。
正直名門というから、俺でも多少苦戦するようなことを勉強しているのかと思ったら、予想に反してそれほど難しいモノではなかった。
現在は一限の授業で、復習か何かは知らんが、魔法についての説明をしている。
魔法とは、人の誰しも大なり小なり持っている力、《魔力》をこの世界に充満している生命の源にして万物を構成する力の源である《マナ》を媒体にし、様々な現象を引き起こす力のことをいい、才能によって使える者と使えない者に大きく差がでる。と言っても、この世界の大半の人は魔力値が低く、ろくに魔法を使える人などほんの一握りだ。また、才能はあるのに魔力が無かったり、魔力はあるのに才能が無い人などのような人間も多くいるので、世界はよくできているとつくづく思う。
魔法の種類は現在確認されているので火、水、木、風、大地、雷、光、闇の8つあり、魔力の素質により使える属性の数は限られる。普通の奴なら一つ。凄い奴で二つ。天才と呼ばれる奴で三、四つ。それ以上は最早人の域をを超えた化け物と言ってもいい。ちなみに俺の親父と、鳳家の宗主がこの化け物に属されるが…
つーか、こんな内容この学園にいる奴全員知ってる筈だっての。ついでにいうなら俺の使える魔法はこの8系統のどれにも当てはまらない特異中の特異なのだが…まぁ、それはまた今度にしておこう。
つーか本当に魔力重視で生徒を集めてんのな…などと周りの連中から感じる強い魔力を心地よく感じながら、この学園に少々呆れていると、不意に視線を感じる。それも近くから。
何気なくそちらの方に視線を移すと、俺の警護対象が探るような、怪しむような目でこちらを見ている。大方俺をストーカーかどうか疑ってんだろうが…まぁ、いいや。
暇だし前に貰った資料と俺の主観的感想を照らし合わせてみるか。
名前、高宮 優奈
身長 155㎝ (案外無いな。毅然とした態度のせいか、身長はもう少し高く見える。)
体重 〜〜(プライベートにより報告できません。)
スリーサイズ 83・57・81(こちらは報告しますw着痩せするタイプらしく、普段はもっとスレンダーに見えるな。俺の読みだとこいつ、美乳だな…)
容姿端麗、頭脳明晰、の才色兼備で、魔力値は158300と、世界を回っていた俺でも中々見れない程の数値を誇る。魔法属性は水、光、風。補助魔法と防御魔法を得意とするが、攻撃魔法は苦手…と。性格は明るく礼儀正しい。…俺に挨拶返さないし、さっきから不躾にこっち見てるこいつが?そういや高宮の爺さんが精神的に〜とか言ってたな。まぁ、どうでもいいが……
キーンコーンカーンコーン。
などと思考していたら授業が終わった。
それと同時に俺はクラスの連中に囲まれてしまう。
なんだコイツら?…ハッ!まさか、俺を締めにきたのか!?「ようよう、転校生さんよぉ、お前最近生意気なんだよ!」的な感じでか!?俺転校初日ッスよ?なんも生意気してないッスよ?
ま、やるってんなら殺ったんぞコラ!
「ヒィッ!」
集団の先頭の男が、俺の妙な雰囲気を感じ取ったのか、悲鳴を上げる
…冗談なのに普通に怯えられた…これは傷付く…
少々ブルーになるも、すぐさま気持ちを切り替え、雰囲気を和らげる。
俺の特殊技能のうちの一つ。「雰囲気操作」
まだ成人にもなっていない俺が、昔依頼で大人に紛れて、ある大物人物が開いたパーティーに潜入したことがあった。
普通なら体格や顔、声でバレるだろうが、そこで編み出したのが、この「雰囲気操作」だ。どんな人間にも雰囲気というものがある。俺はそれを利用して、何気ない仕草や動作、口調、気配、感情などをコントロールし、雰囲気を未熟な子供から成熟仕切った大人のモノへと変化させる。
己という存在を完全に理解し、心身共に完璧にコントロールでき、尚且つ世界を周り、様々な人間を見てきた俺だからできる芸当。
今回もそれを使用し、俺の雰囲気を温和で優しいモノへと変化させ、周りの空気に溶け込む。
人間とは単純な生き物だ。表面上でしか物事を捉えられず、その裏に潜む本性を理解できない人間が大半だ。だからこそやりやすいのだがな…
「なぁなぁ、お前使用できる属性何だ?」
集団の中から浅黒い肌をした金髪の美形の男が出てきて質問してくる。
あぁ、これはあれか。本とかでしか無いと思っていた質問タイムか。
いきなり魔法について聞かれるとは思わなかったが…
「あぁ〜、俺まだ使える属性無いんだわ。」
「え?お前魔法使えないのにこの学園来たのかよ!?」
「まぁな。つっても、俺は異常なまでに魔力が高いらしいからな。それを買われて来たんだ。」
「へぇ〜、どれぐらいなんだ?」
周りも少なからず興味がある面持ちだ。
言ってもいいモノか…いや、ここで言わないと無駄に怪しまれる可能性があるな…しゃあないか。
「…200000。」
『に、200000!?』
驚くギャラリー。そりゃそうだ。この世界全体で魔力100000超えの人間は四桁程しかいない。200000となれば更に少ないだろう。隣の席で迷惑そうにしていた高宮のお嬢も驚いたような表情でこちらを見ている。にしても、ざわざわうるせぇな、黙らすか。
「んな驚くなよ。確かにすげぇ数値だろうけど、魔法使えなきゃ意味ないだろ?宝の持ち腐れなんだよ、俺は。」溜め息混じりに自虐気味に話す俺(演技)。その俺の姿を見たギャラリーは口をつぐむ。(計画通り)そして、皆哀れむような目でこちらを見てくる。
…んな目でこっちみんなよ、多少罪悪感が出てくる。俺はこいつらに2つ程嘘を吐いたからな。
一つは無論、俺が魔法を使えないということ。
もう一つは…っと、高宮のお嬢がどっか行っちまった。
一応追いかけとくか?でも面倒だし…
「気にすんなよ!俺も何かあれば協力してやるからさ!あ、俺は桜木翼ってんだ。よろしくな!」
浅黒金髪…桜木がいきなり俺の肩を組んでくる。
そして、周りの連中もそれに便乗していろいろと気遣いの言葉やら何やらいろいろ言ってくる。へぇ、こんな名門校だとエリート意識が高い奴ばかりかと思ったが、そういう訳でもなさそうだな。それにしても…うん、こっちのが面倒そうだな…高宮のお嬢でも追ってみようか…
「じゃあさ、それ地毛か?」
「ん?あぁ、これは一応地毛だ。元々は黒髪だったがな。」
桜木が俺の髪を物珍しそうに見ながら聞いてくる。今まで書き忘れていたが、俺の髪は白色です。昔の経験のストレスかどうかは知らんが、気がついたら白髪になっていた。ちなみに今の俺の姓である、「白神」の由来はこの髪からきている。
「へぇ、じゃあなんで白髪に…」
「悪い、便所行ってくるわ。また今度な。」
この質問責めを面倒に感じてきた俺は、桜木の質問をぶったぎって、適当な理由を付けて席を立つ。
そして高宮のお嬢の後を追うべく教室から出ていった。
*
「さて、俺の警護対象は…と。」
俺は廊下を歩きながら高宮のお嬢を捜す。
正直こんな時間からストーカーが出ると思わないが、万が一ってこともあるし、何より対象の周辺状況を把握しておいた方が立ち回りしやすいだろうと思っての行動だ。
まぁ、中休み程度でできることなんざ限られているがな。
そんなことを考えながら歩いていると、警護対象の後ろ姿が見えた。
その後ろ姿は教室にいた時よりも確実に明るい雰囲気を放っている。俺は対象の影で見えないが、もう一つ気配を感じる。
お、いたいた。っと、誰かと話しているのか?
俺は気配を消し、さり気なく対象に近づく。
これじゃあ、俺がストーカーみたいだな…などと自嘲しながら、対象の様子を見てみる。
対象は教室で見た冷たい印象とは真逆の明るい笑顔で、相手と談笑しているようだ。
友人…それもあの様子じゃあ相当な信頼関係の…親友ってやつか?
相手はどうやら女子のようで、黒髪をポニーテールで纏めているのが印象的な勝気そうな美少女だ。俺にとってそれはどうでもいい。何より特筆すべきはその魔力の強大さ。
高宮のお嬢にも勝るとも劣らない程の魔力か…
その相手に多少の興味を持った俺はその相手の姿をしっかりと確認し、少々驚く。何故ならその相手は俺の昔の記憶の中にいる1人の少女と酷似していたからだ。というか、間違いないだろう。俺とあいつタメだし。
それはかつて、俺がまだ鳳の姓を名乗っていた頃、宗家なのに無能な為に蔑まれていた俺の数少ない味方の1人。俺の妹のような存在、鳳 舞がそこにいた。
「そこにいるのは誰!?彼の者を焼き払え!!『ファイアーボール』」
「おっと。」
少しだけ思考していたら気付かれたらしく、飛来してくる火の玉を俺は避ける。火の玉は壁に施されている魔封じの紋様に直撃し、消失する。どうやら一瞬驚いた時には気配が乱れてしまい、気付かれたらしい。
ふむ、俺もまだまだだな。それより気付かれたなら長居は無用だ。
俺は再び気配を完全に消し、その場から素早く立ち去った。
まさか舞があそこにいるとはな…考えてみたら当たり前のことだな。ここいら、いや、世界中探したところでここ並に設備から何から何まで揃ってる学校ってのはまずないだろう。と、なると咲夜と雅也もいるのかね…まぁ、別段問題でもないがな。
しかしいきなり魔法を使ってくるとは…お転婆で短気なところも相変わらずらしいな…
苦笑しながら、久々に見た妹分の姿に心が和んだ俺がいたのであった。