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21話

1ヶ月以上待たせてしまって申し訳ありません!バイトやら何やらでリアルが忙しくて……言い訳乙。

さて、今回はテイストを変えてしまいましたが、とりあえず注意点。

・質より量だぜ!

・後半のグダリ方www

・何気に初めての主人公無双

・意味の分からない説明


……ここまで……ここまで長くするつもりはなかったんだ……ただ、興が乗りすぎて結局纏めきれなくて、グダグダになってしまったんだ……

まぁ、これらの注意点を許容できる心の広いお方はどうぞ〜


伏線とも言えない伏線を仕込んだオマケがあります!

それは星が綺麗な夜の出来事であった。

ある国の国境ギリギリに存在する山の奥深くにその館はあった。

まるで城かと思えるほどの大きな館だが、山奥に存在するというのに全く浮いていなかった。寧ろ周りの空気に溶け込んでいるかのように、自然に聳え立っていた。

これは魔法による効果で、外部からの目を遮断しているのである。

館の中庭らしき広い庭園には、全身を武装した人たちが巡回しており、屋敷内や、屋敷外にも似たような人たちが数多く存在している。その数はおよそ400。これだけの数の人が入り切るのだから、この館がどれぐらい広いかは、聡明なる読者諸君なら大体理解できるだろう。そして、その広い館を約400人もの人が警備しているということは、この館には余程大事な何かがあると推測できる。

それは人か、物か、それとも両方か……

なんにせよ、ここまで厳重な警備体制なのだ。普通なら鼠一匹忍び込もうとはしないだろう。

そう、普通なら……

次の瞬間、広大な館を包み込むように、辺り一面が灰銀色に支配された。

突然の出来事にざわめく兵士達。

そこへ独りの来訪者……否、襲撃者が現れた。

その襲撃者は、門番の人間を魔力で創り出した剣や槍などの武器により刺殺し、固く閉ざされた特殊合金でできた巨大な扉を、無造作に蹴破った。

上級魔導士の魔法すら耐え得る扉はいとも簡単に吹き飛ばされ、警備を巻き込みながら館の壁に突き刺さる。


「な、なんだ!?」

「敵襲か!?」

「敵の人数、戦力、共に不明。しかし、門番及び門を突破した力は危険と判断。これより応戦体系に入る。速やかに持ち場に着け!」


司令官らしき男がどこかに連絡しながらも指揮を取る。突然の襲撃に兵士達は慌てていたが、その指示を聞いて我に返り、すぐさま迅速に動き始める。この辺りの動きは流石と言えよう。

兵士達は素早く陣形を組み、門から現れるであろう襲撃者を警戒しながら待つ。

全員が魔力を極限まで練り上げ、詠唱を呟きながらいつでも魔法が放てるよう全員が備える。

姿を現した瞬間一斉射撃を仕掛け殲滅するという魂胆なのだろう。

兵士達は未だ姿を見せぬ襲撃者の動きを見逃さぬよう、じっと門を見ながら唯待ち続ける。

瞬間、空が瞬いた。

それを視界の端に捉えた兵士達は、無意識に空を仰ぐ。

すると、星が一斉に落ちてくるかのように、数多の刀剣が地上へ降り注いだ。


「な、なんだこ、グアァッ!!?」

「ふ、ふざけるギャァアッ!!」

「落ち着け!すぐに防御魔法、グファッ!?」


舞う鮮血が、星々が瞬く夜空を妖しくも美しく彩る。

串刺しになる人々。

地を染める血煙。

沸き起こる怒号、阿鼻叫喚。

そんな中、襲撃者はようやく門の敷居を跨ぎ、悠然と敷地内への侵入を果たす。

襲撃者は、鋭い銀色の目に返り血を浴びた紅白斑模様の髪をした、16〜18ぐらいの少年だった。

その出で立ちは些か異常で、高級感溢れる紺色のブレザーを着崩した形で着用した格好は、この空間には場違い以外のなんでもない。頭の斑模様が無かったら、どう見ても学校帰りの不良学生にしか思えないような姿である。

だが、その身から放たれる強大な殺気と威圧感。そして、纏う高密度の灰銀色の魔力は、明らかに常人の其れではない。

強すぎる殺気と威圧感は物理法則を超え、空気は軋み、地面に皹が入り、風が凪ぐ。

身に纏う魔力は空間を呑み込み、この場を少年の独壇場とする。


「目障りだな……」


月明かりに照らされた少年……白神煉夜はどこまでも無表情で無感情に呟く。いや、僅かにだが陰りを孕んでいる。しかし、その陰りは多くの命を奪った罪悪感などの感情ではなく、ただこれだけの人数を相手取るのが面倒だ、といったような怠惰な感情だった。

煉夜が緩い動作で腕を振るう。それだけの動作で、空中に数多の刀剣が創りだされ、雨霰の如く空を舞い、次々と命の灯を無情に吹き散らしていく。

地に伏せる骸の数は既に三桁を超え、その光景は死々累々と呼ぶに相応しい。

煉夜は着々と増え続ける骸を視界の端に収めながら、広大な庭園らしき場所の奥にあるこれまた広大な、城と見違える程の洋館を見据える。


「あの館のどこかに神剣が……」


そう無感情にボソリと呟くと、彼は骸を踏みつけながら館へと歩き出す。

最早その場に、煉夜を遮るモノは何も無い。

体の所々に返り血を浴び、灰銀色の強大な魔力を纏う少年の姿は、まさに魔王と呼ぶに相応しい姿であった……


さて、前話と大分テイストが違うが、これは別に主人公である煉夜の過去話、というわけでも何でもない。ちゃんと前話からの続きの話である。

何故前話まで学院にいた彼が、このような場所で虐殺紛いの事をしているのかというと、事の発端は鳳咲夜と対話の後の出来事にあった。


鳳咲夜との対話後、彼は晩飯に何を作ろうかと考えながら、無駄にでかい校舎を出て寮へと向かっている途中、突如ポケットの携帯から設定していない為に無機質な着信音が鳴り響いた。現在所持している携帯は使い捨て用なので、基本的に自分から掛ける時にしか使わない為、鳴ることはまずない筈なのだが……その携帯に着信音が鳴ったので、彼は一瞬怪訝そうな顔をする。

しかし、心当たりを見つけたのか、すぐに得心がいったような顔になる。


十中八九アイツだろうな……俺この携帯の番号誰にも教えてねぇし……


煉夜は軽く息を吐き、若干げんなりしながらも、携帯を取り出し、通話ボタンを押して耳に当てる。


『やぁやぁ久し振りだねぇ、神域』


聞こえてきた声は、男にも女にも、大人にも子供にも聞こえる不思議な声。

それに煉夜は予想通り、と内心で呟きながら応じる。


「あぁ、久し振りだな。あんたが俺に高宮龍之介からの依頼をくれた時依頼だったか?」


『うん、だから一週間と三日17時間31分以来だね』


「……『情報屋』殿は相も変わらずのようで……」


煉夜が辟易しながら呟くと、情報屋と呼ばれた人物は、ヌフフフフフと奇妙な含み笑い洩らす。

この声の主は、本名容姿年齢性別出身一切不明の謎の人物。通称『情報屋』

裏の世界では知らぬ者はいないとされている程有名な存在で、通称の通り情報を売る仕事を生業としている。

対価を払えば文字通りどんな情報でも正確且つ最新のモノを提供しており、魔導士かどうかもわからないのに『全知(ぜんち)』という二つ名があるほどだ。

実際にその情報力は凄まじく、煉夜は彼(?)がある組織に売った情報により罠に嵌められ、死にかけたことが多々ある。その為、彼の敵に回したくない相手ランキングTOP3に見事ランクインしていたりする。ちなみに残り二人は、揃って天壌之位の魔王なので、そんな化物二人と同列に扱われる彼も、やはりある意味では化物なのだろう。


「それで、何のようだ?まさか雑談するためだけに俺の所に連絡してきた訳じゃあねぇよなぁ?」


『まぁ、アタシは雑談でもいいんですけどねぇ。お察しの通り仕事の依頼だよ……と言っても、君からしたら随分と温い依頼かもしれないけどね』


仕事と聞いて煉夜は、少しだけ気持ちを引き締め、仕事時の表情に切り替える。


「内容は?」


『某国の国宝である神剣『アルカナム』の奪還。加えてそれを奪ったテロリスト達の皆殺し』


「ほぉ……」


以来内容を聞いて、煉夜は興味深そうに目を細める。

神剣『アルカナム』

それは神より与えられたとされる、振るった対象の事象を否定する能力を持つ神剣……もとい魔剣。噂程度にしか知らなかったが、それがどれほど危険な物かは理解できる。

振るうだけでありとあらゆる事象、現象を否定し、無かったことにできるのだ。

持ち主次第でなら、一国を消し去る可能性すら否定しきれない。

そこまで考えた所で、ふと煉夜はあることに気付く。


「つーかそういうのを取り返す仕事は、その国の騎士団の管轄の筈じゃあ……」


『公にしたくないんでしょうよ。テロリスト如きに国宝である神器を奪われたなんて知られたら、国の面目丸潰れですからねぇ』


情報屋からの返答を聞いて、煉夜は呆れた様子で息を吐く。


「神剣を取り返すためなら、その程度の恥は安いものだと思うがな。で?期日は?」


「明日の朝までに」


「……そらまた随分急な……」


無茶とも取れる要求を受けて、煉夜は苦笑する。

そんな彼を無視して情報屋は説明する。


『神剣は今日奪われて、明日テロリスト達が世界に向けて、電波ジャックするという情報を得たんだよ。

随分と前から準備していたんだろうね。神剣を奪ってから電波ジャックを準備するまでの動きが迅速だし、どうやら騎士団と軍隊の一部も絡んでいるようだ。

あの国は政治は腐りきってるし、アルカナムは神から与えられし剣だからねぇ。それでアルカナム片手に国に反逆しようとか言われようモノなら、間違いなく多くの宗教家の人間達や民衆はクーデターを起こすだろうね』


「お前なら電波ジャックぐらい阻止できるだろ」


『アタシは情報屋。受け持つ仕事は情報の提供と、お得意さんへの仕事依頼だけだよ』


「……そうだったな。ま、何にせよそれを阻止する為に、俺に話しが回ってきたって訳ね……クハハ、なら差し詰め俺は、正義を邪魔する悪役って訳だ」


『じゃあアタシは参謀役って所でしょうかね?』


軽口を言い合ってお互いに笑う。話の内容は決して笑えるものではないのだが……

一通り笑いあった所で情報屋は場所などの連絡をし、そのまま連絡を切った。

煉夜は通話の切れた携帯をしばらく見つめた後握りつぶし、適当に放り投げる。そして、首をゴキゴキと鳴らし、空を見上げる


「さぁて、久方振りの真面目な仕事だ……しっかりとこなそうか」


星に語りかけるようにそう呟き、煉夜は氷のような冷たい微笑を浮かべると、闇に溶けるようにその場から姿を消した。


そして、ある特殊な方法により海外へと移動し、現在に至る。


神剣の奪還さえなければ一瞬で塵に還えしてやるのだが……面倒だ


億劫そうに煉夜は息を吐く。

そう、彼は真面目にやっているが本気ではやっていない。

何故なら本気でやってしまえば、この山程度跡形も無く消し飛ばしてしまうからだ。

単純な皆殺しの依頼であれば、日頃のストレスを込めてそれぐらいやっても良かったのだろうが、今回の依頼は奪還も含まれている。

神剣とまでいうのだからそう易々と壊れやしないだろうが、そんな憶測で本気で館ごと破壊し、アルカナムも壊してしまった、なんてことになったら目も当てられない。

だからこのようにチマチマと兵士たちを潰しているのだ。

鬱陶しそうに息を吐き、次々と湧いて出てくるように現れる兵士を一方的に蹂躙しながら進んでいくと、ある時を境に突然兵士が現れなくなる。

それに煉夜は内心首を傾げる。

情報屋の情報では、この館には427人の人間が存在するらしいのだが、庭園に現れた兵士の数はどう見てもその人数を下回っているからだ。


情報屋の情報に間違いは無い。ならば逃げたか?


そこまで考えるが、内心首を振り己の考えを否定する。いや、空間支配エリア・クエストで創られた法則の一つである『空間内の人間は空間外に出ることも連絡を取ることもできない』は破られていない。と、なると……


「罠か……」


ぼそりと呟く。

恐らくは扉や窓などの、館への進入経路に罠を張っているのだろうと予測する。

だが彼は確信に近い予想をしながらも、堂々と入り口である館の扉の前まで歩み寄ると、小細工は無用と言わんばかりに鬼殺しによって強化した脚で蹴り破った。

そして、派手な音を立てながら吹き飛んだ扉に続くように、館内のとても広いエントランスに足を踏み入れる。それと同時に、彼目掛けて殺到する色取り取りの猛威。彼の予想通り、庭園にいた兵士からの連絡を受けた兵士達が待ち構えていたのだ。

その圧倒的なエネルギーの塊は、着弾した瞬間に力を撒き散らし、出入り口を壁ごと木っ端微塵に破壊する。

外の兵士達が殺られた段階で、館の被害などを度外視し、確実に殺す選択を取ったらしい。力の余波により立ち上った煙が破壊された玄関口を隠し、襲撃者の生死が判別できない。

兵士達は警戒しながらも煙が晴れるのを黙って見守る。

だが


「……やったか?」


沈黙に耐えかねたのか、兵士の一人が呟く。

それを聞いた兵士達は動揺する。

何故ならその台詞は、『やれていない』フラグなのだから。

そして、建てられたばかりのフラグを回収するかの如く煙が晴れ、そこから無傷の煉夜の姿が現れる。


「クソッ!化け物め!!」


兵士達は先程のフラグのお陰(?)か、襲撃者が無傷で現れたことに対して、特に驚きもせず再び魔法を放とうと魔力を練り上げる。

しかし、煉夜が軽く目を細めカッと見開くと、見えない力の波動が兵士達を襲い、兵士達はまるで大型トラックに衝突したかのように弾け飛ぶ。


『拒絶の衝動』


魔力を波動に創り変え、無属性の衝撃波を広範囲に放つ広域攻撃魔法。

『無辺の裁き』に比べると殺傷能力は低いが、出の速さと範囲は上回る。

その一撃により、エントランスにいた兵士の大半が吹き飛ばされる。

しかし、兵士達は国相手に国宝たる神剣を奪い取った集団なだけはあり、先程の一撃を躱した猛者も存在する。


「固まるな一網打尽にされるぞ!散らばって全方位からの魔法によって殲滅する!」


『了解!』


階段や違う部屋から次々と増援が現れ、リーダー格らしき男の指示を受けると、生き残った戦士達は蜘蛛の子を散らすように展開する。

その動きは一見バラバラに見えるが、その実しっかりと連携されており、隙の無い陣形となっている。

唯のテロリストにこのような動きは到底不可能。ならばこの兵士達は、情報屋が言っていた一部の騎士団なのだろう。そう煉夜は予想を付け、再び『拒絶の衝動』により殲滅しに掛かる。

だが、発動を察すると同時に、兵士達はすぐ傍の兵士と2人1組ないし3人1組になると、防壁魔法を発動し、衝撃波を防ぐ。

兵士達は大きく吹き飛ばされるものの、衝撃波を五体満足で防ぎきった。

それに煉夜は内心で感心する。

館全てを破壊せぬよう威力を大分抑えてはいるものの、彼らは複数人とはいえ天壌之位たる魔王の一撃を防いだのだ。それだけで彼らが相当な訓練を受けた猛者だと言うことを見受けられる。

ならばと、煉夜は殺傷能力の高い『無辺の裁き』を発動させ、空間に槍や剣、刀などの武器を創り出す。

だが、リーダー格の男が発射させてなるものかと、煉夜目掛けて猛スピードで特攻する。

その思い切りの良さと、特攻の速度に煉夜は虚を突かれ、男に射程距離内への侵入を許してしまう。

このチャンスを逃してなるものかと、男はその手に持った魔法剣にありったけの魔力を注ぎ込み、振りかぶる。


「その首、貰ったァ!!」


魔法により灼熱の炎を纏った剣が、視認できないほどの速度で振るわれる。

絶対に回避できないタイミング。それも全身全霊の一撃。

男は勿論、周りの兵士達も勝利を確信する。

だが、今まさに切り伏せられようとしている煉夜の瞳には、動揺も焦燥も恐怖も映っていない。

あるのは、自分の間合いに入ってきた男に対する賞賛。

そして、瞳の奥から僅かに顔を覗かせたどす黒い狂気。

それを見た瞬間男は、背中を突き抜ける強烈な悪寒に襲われ、本能的に限界を超えるほどの力を剣に注ぐ。

だが、その刃は突如現れた半透明な壁に阻まれてしまう。

全力の力と魔力を注ぎ込んだにも関わらず、ビクともしないほど強靭な防壁。

それに男は驚愕し、すぐさま体勢を立て直すべく距離を取ろうと下ろうとする。

が、背後にも壁があるようで、つっかかる。

そこで男は気付く、それは壁ではないことに。


「な、なんだこれは!?」


そのリーダー格の男は、突如出現した半径2メートル程の、謎の文字らしきものが多量に書き込まれた半透明な球体に捕らわれていた。魔法剣で破ろうとするも、振るえるほどのスペースが無い為、本来の威力が出せない。そして、煉夜が無造作に指を鳴らすと同時に、その球体はジワジワと小さくなっていく。

無論、男は小さくならない。

徐々に狭くなっていく空間に、男の胸中に焦りと迷いが生まれる。

魔法を放とうにも、こんな狭い空間で魔法を放ったら、その威力で自分が消し飛びかねない。

例え賭けに出て魔法を放ったとしても、この球体は自身の全力の一撃を容易く防いだのだ。そう簡単には壊れはしないだろう。

男が迷っている内に球体は無情にもどんどんと小さくなっていき、男の体は嫌な音を立てながら徐々にひしゃげていく。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


響き渡る脳髄を直接揺さぶるような叫び。

体が軋み、潰され、破壊されていく音。それらが奏でる不協和音。

目の前で繰り広げられるスプラッターな光景。そして、その様を最早興味すら示さない冷たい目で見つめる白髪銀眼の悪魔。

それらは屈強なる戦士たちの精神を打ち砕くには充分な材料だった。

煉夜は空間に恐怖が満ちたことを感覚的に察すると、再び指をパチンと鳴らす。

すると、急激に球体が縮まり、ベキュッ、と不気味な音を最期に男はピンポン球サイズにまで圧縮される。その球は、灰銀色から濁った不純物だらけの赤色へと色が変わっていた。

兵士達は現状を理解できていないかのように、その球体を呆然と見つめる。

赤濁の球体は力無くコロコロと転がっていき、煉夜の足にぶつかって止まった。

彼は球体を感情の篭らない目で一瞥すると、煙草の火を足で消すかのように無造作に踏み潰した。

先程までの強度が嘘のように球体は容易に潰れ、ブヂュッと不快な音と共に、足の間から明らかに球体の体積を無視した夥しい量の赤い液体が流れ出る。

それと同時に巻き起こる狂騒。

ある者はリーダーが殺されたことに怒り、ある者は先程の光景に恐怖を抱き、ある者はその圧倒的力の前に絶望する。

向かっていく者もいれば逃げ出す者、諦めて立ち尽くす者も出始め、その場は混迷を極め始める。しかし、少年の力はその混迷すらも呑み込む。

創り出しておいた武器の数々を射出し、逃げ出そうとしていた者や、向かってくる者達を刺殺、或いは足止めすると、今度は先程とは規模が違う巨大なドーム状の反球体の空間内に、兵士達全員を捕える。


「最初からこうすればよかったか……」


空間内から聞こえてくる喧騒を無視して、煉夜は無感情にそう呟くと、瞳を閉じて『把握グラスプ』を展開。館の構造と、潜んでいる人間。そして、アルカナムの在り処を探る。


「……見つけた」


しばらくした後煉夜は目を開けると、目の前に『ゲート』を創りだす。

そして、目的地に向かうべく足を踏み入れ、その際に無造作に指をパチンと鳴らした。

煉夜が去った後のエントランスには、不気味な赤濁色をしたピンポン球サイズの球体だけが残った。



広い部屋に一人の男がベッドに腰掛け、静かに目を閉じていた。

金色の髪を短く刈り上げ、彫りの深いハンサムと言う単語が似合う容姿。一目でブランド物だと分かるグレーの上質なスーツを着用し、そのスーツの上からでもわかる逞しい肉体。そして腰には、普通の人ならまず常備していないであろう、黒鞘に金と銀の装飾が施された西洋剣が差されてある。この男の名はウィルズ・カレイン。国宝である神剣を国から奪ったテロリストの筆頭である。

だ彼はテロという反逆を起こしているが、別に悪人と言うわけではない。寧ろ彼のことを知る人に問えば、全員が彼のことを善人と答えるだろう。

そんな彼が何故テロを起こしたのかというと、それは彼の正義心からの行動だろう。

貧困に喘ぐ民衆。育ち盛りなのに働く、もしくは盗みを行う子供達。そして、そんな民衆の苦労を無駄にする国の重鎮達。彼はそんな国の現状に酷く悲しみ、彼は国を変えようと決意した。

寝る時間を削って仕事をし、私物を民に恵み、国を内側から改革しようと必死で努力をした。

だが、彼は内側からいくら頑張ろうと、国はまったく変わらなかった……否、悪政が更に悪化していった。

その現実に彼は絶望した。どれだけ努力しようと所詮は個人でしかない。国という巨大な組織を変えるには至らなかったのだ。

それからしばらく彼は悩んだ。どうすれば国は良くなるか、どうすれば腐った国を直せるのか。

悩みに悩みに悩んだ末、彼はクーデターを起こす決意をした。内から直せないのなら、外から直すしかないと考えたのだ。

そこで目に留まったのが、神剣『アルカナム』だった。

神から授けられたとされる聖なる剣。それは宣伝には丁度良い代物だと彼は考えた。

そこから彼は密かに動き始めた。

仲間を集め、緻密に計画を立てることから始まり、長い月日を掛け、誰にも悟られぬようゆっくりと、だが着実に計画を進めてきた。

騎士団の人間に接触したり、情報を集めたり、比較的マトモな国の重鎮を取り込んだりと、彼は計画の為に動き回った。

そして遂に昨日、油断しきった国の守りを崩し、象徴たる神剣『アルカナム』を手に入れたのだ。

明日クーデターにより革命が成され、あの国は生まれ変わる。

そんな希望と期待と確信が彼の胸中に湧き起こった。

だが、あと少しで手が届きそう、という所に突如現れた謎の刺客。

自分達の計画を阻止せんと立ちはだかる破壊者。

十中八九国に雇われた傭兵か何かだろう。

あの国はくだらない見栄とちっぽけな誇りを矜持とする国だから、騎士団の出動はまず無いことはわかっていた。そんなことをすれば、騎士団本部に情報が知れ渡り、国宝を奪われたという恥が知れ渡ってしまうからだ。

だからこそ彼は、奪ってからすぐにクーデターを起こせるよう計画していたのだが……


「クソッ……!後一歩の所だというのに……」


予想を遥かに超える国の対応の早さに、拳をキツく握り締め苦々しく呟く。

本来ならアルカナムを持って逃げるなり救援を呼んだりすべきなのだろうが、この灰銀色の空間のせいか、外と連絡が取れない上に脱出もできない。加えて、刺客は未だに館内で猛威を振るっており、迂闊に行動することもできない

腰に差さっている西洋剣……神剣アルカナムをこの灰銀色の空間に試してみたが、激しい眩暈と頭痛に襲われ、何も起きなかった。どうやら何かを対価に払い、その対価に見合った物しか否定できないらしい。

退路は絶たれ、現状を言葉にするならば、まさに八方塞がり。何をするにしても高いリスクが付き纏ってしまう。

尤も、彼は元より逃げ出す気などサラサラない。

この計画に自分の身がどれほど重要なのモノかは理解しているが、自分の想いに共感してくれた同志を残し、一人だけ逃げるなど彼には到底できる筈がなかった。

それに、昨日犯行を実行したにも関わらず、どういうことか既に此方の居場所がバレてしまっているのだ。今から逃げ出しても手遅れだろう。


「どうすれば……」


頭を抱え、ウィルズは涙を流す。

自分がこうしている間にも、同志は次々と屠られていっている。

それなのに自分は何もできない自分の無力さに哀しくなる。

本音を言うならば今すぐにでも加勢したい。同志がむざむざ殺されるくらいなら、自分も共に立ち向かいたい。彼はそう心の中で絶叫する。だが、それはできない。

謂わばウィルズは最後の砦なのだ。

例えこの館にいる427人が死んだとしても、自分とアルカナムが残っていれば、まだ反逆できる余地はある。しかし、自分が殺されアルカナムを奪われたら、その時点でゲームオーバー。

国は変えられず、此処から更に数百年は悪政が敷かれ続けることになってしまうだろう。

そうならない為にも、彼らはウィルズを全身全霊で守り、戦っているのだ。危険な真似などできようはずもない。


「すまない……同志達よ」


苛立ち、焦燥、悲哀、不安を涙と共に体外に出し、心の中で懺悔しながら冷静さを取り戻そうと努める。

しばらくそうしていて、その甲斐あってか彼は大分冷静さを取り戻した。否、負の感情に強引に蓋をして、感情を誤魔化したのだ。

そこで、多少冷静になったウィルズはある不可解なことに気付く。此処にいる同志の殆どは騎士団や軍隊出身者で、少なくとも皆自分より遥かに強い。

そんな彼らがたった一人に一方的に蹂躙されているのだ。400人以上いるにも関わらず、だ。

俄かに信じがたいことだが、逐一報告されてくる情報全てに敵は一人と言われているので、信じざる得ないだろう。

だが、そんな芸当が人にできるのであろうか?

400人以上いる訓練を受けた人間を正面から一方的に蹂躙するのだ。魔導士の一位の人間ならばできなくもないであろうが、それでも一方的に蹂躙、というのは不可能だろう。

それは明らかに人外の所業である。


「まさか……」


そこでウィルズはふと嫌な噂を思い出す。

それは、各国を渡り歩き気紛れに依頼を請けて活動している、フリーの魔導士がいるという噂だ。

それだけなら別に何ともない噂だろう。そもそも、その程度のことなら噂にすらならないような内容だ。

だが、この噂が広まっている大きな理由が一つある。

それは、その魔導士が天壌之位だということだ。

何せん目撃情報が少なく、しかもその情報も曖昧な為信憑性は薄いが、もしもあの国がその天壌之位を雇ったとしたら?もしもその天壌之位がこの館にきていたとしたら?

そう考えれば辻褄が合う。合ってしまう。

そうなれば対抗手段が無い。

相手は一人で国を滅ぼせる力を持つと謂われている超常の存在。

400人少々の人数で勝てる筈も無い。


「パパァ〜……」


ウィルズが思い悩んでいると、隣の部屋の扉がゆっくりと開き、幼い金髪の少女が目をクシクシと擦りながら歩いてきた。

少女の名はメリル。彼の娘にして、今亡き妻の忘れ形見だ。

この少女は本来ならこのような場所にいていい存在ではないのだが、違う場所に置いておいた時、もしも人質に取られた時の危惧を考え、連れてきたのだ。


「……どうしたんだいメリル?怖い夢でも見たのかい?」


ウィルズは己の感情を押し殺し、先程までとは打って変わって優しい笑みでメリルに尋ねる。

彼はどんな時でも娘の前では優しいパパなのだ。


「うん……」


「どんな夢だったんだい?」


「皆がいなくなっちゃう夢……」


娘の言葉を聞いて彼は一瞬最悪なビジョンが脳裏に浮かぶ。しかし、不安をかき消すように頭を左右に振ると、彼はメリルを抱きしめながら、優しく頭を撫でる。


「大丈夫だよ、メリル。私はいなくならないから……私はお前のそばから離れないから……」


そう言って額にキスを落として、メリルを寝室に戻すことに。

娘をベッドに寝かしつけて、眠ったのを確認すると、彼は一息吐く。

そして、娘の寝顔を見て微笑み、今度は頬にキスを落とす。


「安心しなさい。私の命に代えても、お前だけでも逃がしてやるからな……」


ウィルズはそう心に誓い、子供部屋の扉を開けて自室に戻ろうとする。


……だが


「国家反逆者、ウィルズ・カレインだな?」


「ッ!?」


子供部屋から自分の寝室に戻ってみると、そこには血が混じった斑模様の、白髪に鋭い銀色の眼をしたブレザー姿の男が立っていた。


「貴様、何者だ……」


神剣『アルカナム』の柄に手を当て、警戒しながらウィルズは男に問う。

問いながらもウィルズは理解していた。この男こそ、国からの刺客であると。


「知る必要があるのか?」


男……煉夜はウィルズの問いを一蹴し、身に纏う魔力の密度を上げる。

それに反応し、ウィルズは腰から神剣アルカナムを抜き、子供部屋の扉を守るように構える。煉夜はその男の反応に僅かに目を細めるも、特に気にする様子も無く、腕をダラリと下げ体を半身にし構える。

緊迫した空気が2人を包み込む。

2人は動かない。

片や絶対的な実力差のために迂闊に動けず、片や何を考えているのか分からない無表情で、相対している存在を観察している。


「何故我々の前に立ちふさがる!」


その張り詰めた空気を破ったのはウィルズだった。


「貴様とてわかっているだろう……あの国の腐敗した政治を……上の連中は民衆から税を搾り取り私腹を肥やす。民衆は重すぎる税に貧困に喘ぎ、今日を生きるのにも精一杯。奴らは民衆を家畜か何かかと思っている!そんな奴らから国を救うことが私の使命なのだ!」


「……」


「邪魔をするなよ少年!!

散っていった同志達の為にも、私はやらねばならぬのだ!!

貴様に人の心があるというならば退いてくれ!!

私の……我らの悲願を妨げるな!!」


剣を突きつけ吼えるウィルズ。

それに煉夜は一言で答えた。


「どうでもいい」


「何!?」


「俺からしてみれば、そんなことなど所詮他人事。お前の国の事情など知ったことではない」


「ならば何故国の肩入れをする!?」


「答える必要があるのか?」


「貴様ァ!!!」


再び問いを一蹴。

その答えにウィルズは激昂し、煉夜目がけて切りかかる。

先程戦ったリーダー格の男に比べると、速度は遅く動きも雑だ。しかし、得物が凶悪な性能の為、煉夜は防ごうとはせずに、斬撃を躱す。躱す。躱す。

いくらこの寝室が広いとはいえ、所詮は個人部屋。戦闘をするにはあまりにも狭い。

にも関わらず、煉夜はその狭い空間の中をまるで舞踊のように立ち回り、一撃必殺の斬撃を全て舞うように躱していた。

攻撃が全く当たらず、焦りを見せ始めるウィルズ。

それを見逃す煉夜ではない。

『無辺の裁き』を発動し、創り出された十数本の刀剣が空を舞う。

ウィルズは瞬時に躱しきれないと判断し、アルカナムを振り回し、致命傷になり得る剣を否定する。しかし、その際に頭痛と眩暈が彼を襲い、防ぎきれなかった五本の刀剣がウィルズの両腕と右肩、腹部、右足を貫き壁に縫い付ける。


「ゴフォッ!!」


ゴポッと血を吐き出し、ウィルズは力なくアルカナムを取り落とす。

明らかに致命傷。放っておいても5分もしないうちに絶命するだろう。

煉夜はウィルズには目もくれずに取り落とされたアルカナムを拾い上げ、その剣身をしげしげと見つめる。

そして、一通り見た後に剣身を指先でなぞると、灰銀色の帯がアルカナム全体を包み込む。


空間魔法『解析(スキャン)


その名の通り対象の性能や機能、構造、概念などを詳しく解析する『探査(サーチ)』の上位互換魔法。

それにより本物か否か剣の解析を進める。

そして、しばらくした後解析を終えると同時に帯は溶けるように消えた。


「どうやら本物のようだな……なら、後はお前を消すだけだが……」


そう呟き視線をアルカナムからウィルズに移すと、まるで処刑の介錯人のように、アルカナム片手に煉夜は張り付けにされているウィルズに近付く。

ウィルズは血が足りないのか、虚ろな視線で煉夜を見る。


「パパァ〜……?」


そこへ騒ぎを聞いて起きたのだろう、メリルが再び顔を出してきた。


「なるほど、何かを守るように立ち回っていると思ったが、そういうことか……」


煉夜は僅かに納得がいったような顔をすると、進路をウィルズからメリルに変更する。


「丁度いい。試し斬りでもさせてもらおうか……」


それに気付いたウィルズは完全に覚醒し、痛みを無視して叫ぶ。


「待ってくれ!私はどうなってもいい!だからその子だけは!その子だけは!」


「パ、パ……?」


しかし、煉夜の表情は微塵も揺るがない。

無情に、非情に宣言する。


「この子供の生を……存在を全てを、否定する……」


その宣言に呼応するように、アルカナムは神々しい白き光を放ち始める。

煉夜は一瞬その光を感慨深そうに見つめた後、まるでウエディングケーキを切るかのような緩やかな動作で、アルカナムを振り下ろす。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


部屋にいっそう強い光が剣身から溢れ、その光が収まる頃には、その場に何も残っていなかった。


「ア、アァ……」


「ほぅ、予想以上に使い勝手は良いようだ。

精神力が大きく削られるのがネックなようだがな……」


「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


獣のような慟哭。

館全体を震わせる悲鳴。

愛する我が子を消されたことによりタガが外れたのだろう。

ウィルズは体に刺さった剣を強引に引き抜くと、煉夜目がけて獣のように突進する。

それに気付いた煉夜は、興味深そうな目をしたまま動こうとしない。

どうやら剣の戒めを破った男の行動に興味を持ったらしい。

そして射程距離。

ウィルズはアルカナムに向かって手を伸ばす。


「フン……」


その行動を見た煉夜は先程の態度を一変し、期待外れだと言わんばかりにアルカナムを無造作に放った。

ウィルズはそれを掴むと、煉夜に向けて憎悪と殺意に塗れた視線を向ける。


「貴様の全てを否定する!!」


宣言してアルカナムを大上段に構え、激情のままに振り下ろす。アルカナムは白い光の軌跡を描きながら、煉夜の頭目掛けて突き進んでいく。

防御や魔法す無効にする一撃。

喰らえば天壌之位と言えどただではすまない……しかし


「……その否定を、消去(・・)する」


そう静かに呟き、煉夜はアルカナムの剣身を片手で受け止める。

白銀の波動を纏った手で……


「な、に……!?」


その目の前で起きた事態に、男は有り得ないモノを見た、といった風に目を剥く。

当たり前だ。

絶大な威力を持つ……否、振るえば無敵に近い力を誇る神剣アルカナムが、止められたのだ。それも素手で。


「選択をミスしたな……」


驚愕に慄く男を無視して、煉夜は疲れた様子で溜め息を吐く。

煉夜の体から白銀色の光が溢れる。その光はアルカナムが放つ光と類似しているが、神々しいアルカナムの光とはまるで違う。その光に宿るモノは絶対的な虚無感。

それを身に纏う煉夜の姿は、ウィルズには死神に見えた。


「いくら天壌之位の魔王が化物じみた力を持っていようとも、所詮は人間。頭を割られれば死ぬ、心臓を貫かれても死ぬ、病でも死ぬ。そこの所は他と何も変わらない」


淡々と言葉を紡いでいく。男を責めるかのように


「故にお前は剣から抜け出した瞬間、俺を殺りに来れば良かったのだ。その方がまだ勝機があったものを……」


ウィルズは絶望したような表情のまま動かない。

どうやら悟ったらしい。

もう詰んでいることに……


「しかしお前は俺を殺すことよりも、その剣を優先した。俺の喉元に手が届いたにも関わらずに、だ……」


ウィルズは大きな間違いをしていた。

いくら神剣を手にしようとも、相手は魔道の最高峰に君臨する存在。殺れるチャンスがあるならなりふり構わず殺りにかかるのが最良の選択なのだ。しかし、男は神剣の性能を過信し、固執しすぎた。

だが、神具を持っている程度で天壌之位と対等になれるのであれば、彼らは世界中からここまで畏怖されはしないだろう。


人がどれほど神具に頼ろうと、どんな策を練ろうと、己が力を貫く絶対強者……それが天壌之位。


人の領域を超えし超越者……それが魔王。


その超越者たる魔王は、この時初めて明確に表情を変える。

それは笑み。

口の端を裂けたように吊り上げた、邪悪な笑顔。

その笑みに呼応するかのように、纏う白銀の波動が静かに鳴動し、彼と男を中心に周辺の物が消滅していく。


「滑稽だな。お前はあれほどの激情を見せておきながら、娘の仇よりもその剣を選んだというのだから……」


嘲笑しながら煉夜はアルカナムから手を離し、男の額に指を突き付ける。


「さて、俺も朝には学院に向かわねばならぬのでな。早々に終わらせるとしよう……」


笑みはそのままに煉夜は静かに呟く。すると、身に纏っていた白銀の波動が、渦を巻きながら突き付けた指に収束していく。


「お前の存在を……その魂の一片までも消去する」


そして、死刑宣告を告げると同時に、白銀の波動が男を包み込む。

次の瞬間その場には、アルカナムだけが残った。



「あぁ~疲れた」


軽くストレッチをしながら俺は『ゲート』から学院の敷地内に足を踏み入れる。

現在の時刻は午前3時。当たり前だが生徒達は寝静まっている時間帯の為、辺りは静まり返っている。

任務は勿論成功に終わった。

久々の真面目な依頼だったが、無事に終了して何よりだ。

内心で軽く安堵し、流石に返り血を浴びたままの訳にはいかないので、空間魔法により体中の汚れをなくす。

本当はシャワーでも浴びたい所なのだが今は何よりも眠いので、自分にリミッターを掛けるとさっさと寮に向かって歩きだす。

そこで、なにやら人の気配と魔力を察知した。


こんな時間に誰かいるのか?


普段の俺ならスルーしたであろう。

しかし、久々の依頼で多少気持ちが昂ぶっていたのか、なんとなく気になってしまった俺は、その気配のした方向に足を進める。

すこし歩いて行くと、敷地の比較的隅にある庭園に辿り着いた。

目立たない場所にあるため、この場所には初めてくる。


いいサボり場になりそうだな……


そんなことを考えながら周囲を見回すが、気配の人物は見当たらない。

咲き誇る草花を無視して更に歩を進めていくと、茂みの奥から気配を感じた。

その茂みの奥を見てみると、草木に囲まれたなにやら広い空間があった。

こんな場所があったのか、と感心しながら除いてみると、そこには月光に輝く美しい銀色の髪を靡かせ、槍を使って舞う女がいた。

格好はライダースーツと軽鎧を混ぜたような機能性重視の服(?)を着ており、その手には淡い青色の槍が振るわれている。

恐らくは魔法で出した槍だろう。


この光景に少しばかり興味を持った俺は、気配を消してしばらく眺める。


……なかなかの錬度だな。体術だけなら間違いなく舞より上だ。


しばらく観察して、その槍捌きに感心する。

だが、俺は感心と関心以上の感情を銀髪に抱いていた。

それは上手く言い表すことはできないが、あえて言うならば共鳴感(シンパシー)

何故そんな感情を銀髪に抱いたのかは自分でもわからない。

そんな感情を抱いてしまったからだろうか。俺は半ばノリで銀髪へと歩みを進めていた。

その拍子にカサカサ、と足下の草が音を立てる。

その瞬間銀髪は素早く音源から距離を取り、槍を構える。


「誰だ」


「泥棒でs…うおっ!?」


問いに応えるように茂みから某大泥棒三世よろしく登場したら、いきなり槍を突き出されたので、それを体を反らして避ける。

……どうでもいいが、某大泥棒三世って何だろうか……電波か?


「危ねぇな。一歩間違えれば串刺しだぞ?」


「黙れ不審者……」


「不審者て……俺は一応此処の生徒なんだがね……ほれ、制服着てるし」


着崩した紺色のブレザーの襟を引っ張りアピールする。

しかし、女は揺らぐことなく槍を構えたまま俺を見据えている。


「おいおい、まだ警戒してんのか?こんな一介の男子生徒に」


「一介の男子生徒は、そんな濃密な血の匂いはしない……」


その言葉に反応して、片眉が僅かだがピクリと動く。


この女、血の匂いがわかるのか……一応匂いは消した筈なんだがな


内心で驚きながら女を観察する。

美しく長い銀髪に整った容姿。すらりとした長身。引き締まってはいるが出る所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいる芸術品のようなプロポーション。

そこまで見た所で、あることを思い出す。


……あぁ、購買で羽柴とタメ張ってた、騎士団長ロイ・レインハーツの妹か。いずれ接触しようとは思っていたが、まさかこんな形で接触するとは……


「お前、何者だ?」


妙な巡り合わせに軽く感心していると、銀髪は問いながら体を少しばかり沈め、魔力を練り上げる。

答えなければ穿つ、という態度がありありと見える。さて、どうするか……素性明かしたら面倒なことになりそうだし、はぐらかせる雰囲気でもない


じゃあどうするか?


そこで、一瞬思考を深め


……伸すか


考えるのも面倒になってきたので、強攻策を取ることに。


「そう殺気立つなよ。

名乗ればいいんだろ?」


笑みを浮かべながらそう言うと、俺はゆっくりさり気なく、足取りを気取られぬよう静かに銀髪との距離を縮める。

そして、ある程度距離が縮まった所で、殺気を一気に解放する。


「ッ!?」


銀髪はそれに反応して後方に大きく跳び退く。

だが、次の瞬間に俺は殺気も気配も消し去り、銀髪の背後に音も無く回り込む。

いきなり膨れ上がった殺気が気配諸共消えたことにより、銀髪は俺の姿を見失ったようで慌てて俺を捜すが、その姿は最早隙だらけ。

がら空きの後頭部に手刀を叩き込む。

銀髪は声も無く糸の切れた人形のように崩れ落ち、それと同時に槍も粉々に砕け散る。予想通り魔法で創られた槍だったらしい。


やはり錬度はそれなりでも実践経験には乏しいようだな……あの程度で冷静さを欠くなんてな……


銀髪を見下ろしながら、一つ息を吐き出す。

しかし、このまま放置しても気が付いた時面倒そうになるので、今後の為に念を入れておくことに。

眠ったように気を失っている銀髪の近くに屈み、頭を鷲掴みにする。

そして、ゆっくりと魔力を注ぎ込み、魔法を展開する。


(ギアス)


簡易版の『空間支配(エリア・クエスト)』のようなモノで使い方はいろいろとある。

俺は主に、殺してはならない対象に対する口封じの手段として用いたりしている。

今回は対象の優先順位の、最優先事項を書き換える能力をしようすることに。


『5分前の記憶を忘れることを優先する』


この能力は対象の持つ優先順位の最優先に位置している事柄の、優先度の強さによりその効力を変える。例えば対象が確固とした意志で『勉強する』ことを優先させていたのならば、この魔法で『遊ぶ』ことを最優先に書き換えることにより、対象は確固とした意志で『遊ぶ』ことを最優先してしまう、といった感じだ。

デメリットは相手が精神的に弱っている状態か、無防備な状態でないと使えないということだが、気絶しているから問題無い。

銀髪は随分と熱心に鍛錬をしていたから、優先順位と優先度は高いと見てもいいだろう。

しかし、それはあくまでも予測でしかないので、俺はちゃんと確認すべく起きるまで待つことに。

シチュエーションは深夜の散歩に来た俺は、たまたま倒れている銀髪の女子を発見し、介抱した……ってな感じにしようか


などと、成功していた場合に怪しまれないような設定を考えながら星空を見上げ座して待つ。

その際に体から血の匂いを完全に消し去る。


……まぁ、失敗していた場合は……最悪記憶が飛ぶまで殴rっと、起きたか。


少々危ない思考に突入しかけた所で、女は呻きながらゆっくりと瞼を開ける。

予想以上に早い覚醒。

さて、どうなっているか……


「ここは……」


「お、やっと起きたかい」


しかし、手はいつでも放てるようにしながら、体を影にして銀髪の視界から隠しておく。また襲われたら素早く無効化するためだ。

銀髪はしばらくボ〜っとした様子で辺りを見回し、その後ハッと我に返り俺から素早く距離を取る。


「貴方、誰……?」


よし、呼び方がお前から貴方になってる。

どうやら成功らしい。

俺は内心安堵しながら、両手を上げて不審者ではないことをアピールする。


「そう身構えなさんな。

俺は散歩をしていたただの男子生徒だよ。散歩の途中であんたが倒れているのを見かけてな、差し出がましいが介抱させてもらった」


我ながらいけしゃあしゃあと……


「倒れて……?どういうこと?」


俺が伸しました。

とは流石に言えないので、しらばっくれることに。


「いや知らんよ。つーかあんたは何してたんだ?」


「……貴方には関係無い」


明確な拒絶。

俺をまだ警戒しているのか、それとも隠す理由でもあるのか……

まぁ、どちらにせよ下手に掘り返そうとしたら面倒事になりそうなので、素直に引き下がることに


「そうかい。なら聞かないでおこう」


そう言って俺は尻についた土を払って立ち上がる。


「んじゃ、あんたが起きたことだし俺は戻るとするかね」


そして、長居は無用と手をひらひらと振りながら立ち去ろうとする。


「待って」


しかし、呼び止められたので立ち止まる。

首だけ動かして銀髪の方を見てみると、銀髪は無表情のまま頭を僅かに下げる。


「お礼を言い忘れていた……介抱してくれてありがとう」


「はいはい、どういたしまして」


「私は1−Cに在籍しているフィリス・レインハーツ。

この借りはいつか返すから、困ったことがあったらいつでも訪ねにきて……」


受けた恩は恩で返す、か。流石は騎士団長の妹、お堅いねぇ……まぁ、返してくれるってんなら素直に受けておこうか。

……返されるようなことしてねぇけど……


「ま、困ったことがあったらな」


そう言って手をヒラヒラと降り、今度こそその場を後にした。


そういや俺名乗ってないな……まぁ、いいか

おまけ:『そっくりさん?』


依頼終了後の煉夜と情報屋の会話


「依頼完了〜。アルカナムは送っといたから、俺の口座に振り込みよろしく」

『ハイ毎度〜。やっぱ楽すぎたかな?これならもっと難しいやつを頼めば良かったかな?』

「まぁ、久々だしこんなもんだろうよ。あぁ〜ダリかった〜」

『相変わらず仕事中とのギャップが凄まじいね……』

「まぁねぇ、素の状態で仕事しちまうと余計なことしちまうからな。それの防止法なんだよ、あれは」

『アルカナムを相手に渡すのは余計なことだったと思うのですが?』

「興が乗っちまってね……って、毎度思うがどっから見てんだよ……」

『ヌフフフフフ、企業秘密ですよ』

「お〜、怖ぇ怖ぇ。怖いから俺はさっさと寝る。つーわけでじゃな〜」

『あぁ、待ってください』

「ん?」

『聞きたいことがあるんだけど、君って君と鳳雅也君の二人兄弟だよね?』

「あぁ、そうだが?」

『じゃあここ最近海外へ出たりは?』

「いや、今日が久々の海外だな。それがどうしたんだ?」

『いや、それがね?この前ある国で君そっくりの人がいたんだよ』

「俺そっくり?」

『うん。尤も、歳は二十前半から中盤あたりで、髪は君より長かったし身長も向こうの方が高かったから別人かと思ってたんだけどね……あまりに似ていたがら足取りを探ろうと思ったんだけど、足取りがキレイサッパリ消えてしまうし……』

「あいつまた来てんのかよ……」

『知り合いかい?』

「知り合いっつーか……同種?同族?分身?」

『歯切れが悪いね』

「あいつとの関係性は俺自身知らんのよ」

『ふ〜ん、まぁいいや。久々の未知との遭遇の予感がするねぇ……調べがいがある』

「まぁ、頑張ってくれやんじゃ」ピッ


以上、オチも何もないおまけでした。

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