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19話

さて、クリスマスも終わり大晦日。皆さんは如何お過ごしでしょうか?

作者は野郎だらけのパーティーと洒落込んでおります。徹夜30年耐久桃鉄は地獄のように思えますが、頑張っていきます。


さて、今回もややシリアスっぽいのが多数あります。

そして今回、満を持して鳳雅也の登場回です!

書き終わってから気付いたんですが……




雅也の外見と名前が合っていません……orz

幼い頃から仲の良い友人の名前を勝手に拝借したモノが『雅也』なのですが、それが仇となりました……

下手をすれば弟を『雅也(まさや)』から『(みやび)』という名前に修正するかもしれませんが、そこはどうしましょうかね……まぁ、とにかく本編をどうぞ


後書きはおまけ話です。

時は少しばかり流れて、現在は鍛錬場にて魔法授業の真っ最中。

今回の内容は500kgにも及ぶ大岩をどれだけ高く持ち上げられるか、といったモノだ。

これは魔法の火力の底上げ、魔力操作技術と応用力の強化を狙った内容らしい。

勿論、魔法が使えない設定の俺は雑用に回っている。

とは言っても、そんな大岩を鬼殺し未使用の俺じゃあどうすることもできないので、基本的に教師連中が大概のことをやってしまっている。

なので、皆が実技に勤しんでいる様を、少し遠くから胡座をかいて見学している。

当初は、大岩を純粋な火力で持ち上げたり、多量の水を火で瞬間的に気化させ、水蒸気爆発を起こして大岩を飛ばしたり、土を操って植物を急激に成長させ持ち上げたりと、催し物を見ているようでなかなか楽しかったのだが、二番煎じが多くなってきたのでマンネリしている。

端的に言うと飽きた。

しかし、フケる訳にもいかないので、欠伸を噛み殺しながら見学を続けている訳だ。

さて、朝サボる気満々だった俺が何故こんな面倒且つ退屈な場所にいるかというと、それは学生の悲しい宿命だとでも言っておこう。

俺は普通の授業なら、内容を粗方理解している為サボっても問題無い。

少し前にあった国語、物理、数学の小テスト全て90点超えだったしな。

しかし魔法授業だけは違う。俺は魔法が使えないことになっているため、サボってしまえば成績が取り返しがつかなくなる。

それだけなら別段問題無い。だが、知っての通りこの学院はこの教科に力を入れている。

他の教科がどれだけ優秀でも、この教科で酷い成績の者は留年する可能性があると言われている程だ。

伊達に魔法の超名門校で通っているだけのことはある。

校則や規則は緩いのに、こと魔法に関しては非常に厳しい。

昨日寮に戻った際に三年の羽柴から聞いた話だと、中等部、高等部一年で基礎を付けておかないと、ニ年から一気にキツくなるとのこと。

高中等部内で一番退学者が多い学年は高等部ニ年生らしいから、相当なモノなのだろう。

数日前も魔法授業をサボろうとしたが、その場に舞がいて本当によかったと思う。


……俺、来年以降大丈夫なのかねぇ……

まぁ、いざという時は高宮の爺さんに何とかして貰うとしよう。


そんな他力本願全開の思考をしていると、誰かが俺に意識を向けているのに気付く。

その方向に首だけ動かし目を向けてみると、少し遠くから神妙な顔をしてこちらを見ている舞と目が合った。

舞は俺と目が合ったことに気付くと、何か迷った風に視線をさまよわせる。


何だあいつ?


怪訝に思いながら様子を見ていると、少ししてから舞は意を決したように再び俺を見据えると、黒のポニーテールを揺らしながら此方に歩を進めてきた。


「白神……」


「何か用か?随分と熱い視線で俺を見ていたようだが……」


いい退屈凌ぎが来たと口元に笑みを浮かべながら、傍まで歩み寄ってきた舞に冗談混じりに尋ねる。

しかし、舞の表情は固いまま。


ん?普段なら顔を紅くして怒鳴る、殴るぐらいはしてくる筈なのだが……


「少しいいか?」


「何だ?」


「……ここじゃ難だから向こうで」


少し歯切れ悪くそう言うと、舞は鍛錬場の隅にある少し錆び付いた非常用扉を指差す。


「あ?今授業中だぞ」


自分で言っておいて難だが、説得力が微塵も無ぇな……


「構わない」


「構わないって、優等生の台詞じゃねぇな……」


堅物の舞が堂々と授業放棄とも取れる台詞を吐いたことに若干驚きながら、俺は呆れたように苦笑する。

しかし口では軽口を叩いているものの、俺とて理解している。

舞の様子が明らかにおかしいことを……

予想としては咲夜辺りから俺のことを聞かされたか……

今朝の咲夜の様子についてか……

それともその他か……

一瞬の思考。

しかし、すぐにそれを放棄する。


考えても答えが出る訳じゃない。

それに、俺には関係の無いことだ。

ただ退屈を凌げるならそれでいい。


そう結論付け、俺はゆらりと立ち上がり返答する。


「まぁ、退屈だったから別にいいがな」


「そうか。なら此方に来てくれ」


素っ気なくそう言って、舞はさっさと先を歩いていく。


「はてさて、どうなることやら……」


せめて面倒事じゃなければいいが……


俺は誰に言うでもなくそう呟くと、舞の背中を追った。



「で、こんな所に呼び出して何だってんだ?雰囲気からして告白なんつー甘々な展開ではなさそうだが……」


ポケットに手を突っ込みながら、気怠げに舞に尋ねる。

しかし、舞は何も答えない。

俺に背を向けたまま微動だにもせず、ただじっと佇んでいる。

その今朝といい現在といい、ツッコミどころかリアクションも無い舞に流石に怪訝に思った俺は、再び声を掛けようと口を開く。

その瞬間だった。

舞が突如凄い勢いで振り返り、スカートを翻しながら鋭い上段回し蹴りを放ってくる。

ちなみに下にはちゃんと短パンを履いている。


貴様ァ!何故スパッツじゃない!?


別にスパッツ好きというわけでもないが、何となくそんな憤りを覚えながら、俺は体を反らし鼻先数センチという所で蹴りを躱す。

蹴りが起こした風で、前髪がふわりと舞い上がる。


体術も怠ってなかったようだな。いい蹴りだ……じゃなくて


「随分と熱い返答だなぁ、おい」


「手合わせ願う」


俺はポケットに手を入れたまま、薄く笑いながら距離を取る。

しかし舞はお構いなしに懐に潜り込んでくる。


「だが断r……」

「フッ!」


舞は俺の返答を無視して舞は拳を打ち出す。

姉に引き続きお前もか!

心の中でツッコミながら、腰の入った鋭い上段突きを、流れるように流麗な足運びで躱す。

しかし、躱されることはわかっていたのだろう。

俺が躱すと同時に、もう片方の手から顔面目掛けて拳が繰り出される。

しかし、その一撃は確かに鋭いが、ある不純物が混じっている。

それを感じ取った俺はポケットからスルリと手を抜き、その拳を掴み取る。


「ッ!」


「……何だ、この雑念に塗れた拳は?」


まさか止められるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開く舞に、俺は少しばかり責めるような口調で問う。

しかし、舞は俯き押し黙るだけで何も答えない。


「こんな迷いだらけの拳で手合わせ、ねぇ……随分と嘗められたものだな」


そう、先ほどの拳に混じっていた不純物とは『迷い』のことだ。

コイツは何やらそれなりに大きな迷いを持っている。

その迷いが、先程の一撃を錆び付かせたのだろう。

でなければポケットから手を出すという無駄な造作をした後から拳が掴めるものか……いや、できるかもだが……


「……すまない」


力なく俺の手から拳を引き抜くと、顔を俯かせながら謝罪してくる。

俺としては謝罪よりその理由を聞きたいので、特に気にすることもなく続ける


「……まぁ、それはいい。

で、何をそんなに迷っているんだ?

俺を呼んだということは、俺に何かしら関係していることなのだろうが……」


「………」


「だんまりか……時間の無駄だったな」


そう気怠げに呟き、俺はさっさと踵を返す。

結局暇つぶしにもならなかったか……


「ま、待ってくれ!」


肩透かしを喰らって胸中で若干苛立っていると、背後から少々切羽詰まった声で呼び止められる。

それに俺は振り返らずに足を止める。


「お前に、聞きたいことがある……」


「何だ?」


感情の込もらない声で聞き返すと、舞は躊躇するように舞は口篭る。

その煮え切らない態度に軽く呆れてきた俺は、無言で戻ろうと足を踏み出す。

それに気付いた舞は、慌ててその勢いのまま聞いてくる。


「お前は!……兄上、なのか?」


後半は尻すぼみながら紡がれた問い。

その言葉に俺は再度足を止める。


……やはり咲夜から聞かされていたか。


内心で溜め息を吐きながら、俺はどう答えたものかと思案する。

しかしその後、舞の口から予想だにしていなかった名が出てくる。


「昨日雅也から話を聞いた。お前が兄上だと……」


出てきた名前に俺は思考を一時停止させる。


雅也だと……?

あいつとはまだ会っていない筈だが……


そこでふと脳裏に過ぎる光景。

先日の昼休み、リアル鬼ごっこの最中にぶつかりそうになった中等部の少年。

顔はよく見えなかったが、途中まで俺と同じ動きをしていた……


まさかあいつが……?


「それに先程の足捌き……日向さんと兄上が使っていた『舞闘の型』と同じだった」


俺の思考をぶった切っての更なる言及。

徐々に勢いづいてきた舞に内心で舌打ちをする。


チッ、よく見てやがる。これは俺のミスだな……


『舞闘の型』

それは流麗で舞うような動きで攻撃を躱し、その流れのまま必殺の一撃を叩き込む、俺が愛用する戦闘の型の一つ。

ダンスや舞踊、能楽などの重心移動や足運び、体捌きなどの技能は、美を追求した結果なのだろうが、無駄な動きが少なく隙が無い。

それに目を付けた親父……日向は、独自にそれらの技を研究し、己の扱う武術と組み合わせることで編み出したのが、この舞闘の型だ。

尤も、俺は日向からこの型の基礎を徹底的に叩き込まれはしたが、それからすぐに追放された為、この型の本筋を知らない。

その為、俺は実践でこの型を独自に磨き上げ、多少オリジナル要素が強い似て非なるモノへと昇華させたのだが……


やっぱ基本的な足捌きは本家と一緒だからな、流石に気付かれるか……

つーかコイツ、それを調べる為に手合わせを願ったのか?

なら俺は見事思惑にハマったという訳だな……情けねぇ


「答えてくれ白神。お前は本当に兄上……鳳煉夜なのか?」


自分の浅慮さに内心で頭を抱えていると、舞は真相に足を踏み入れんと切実に問うてくる。

それに俺は……


「さてね……お前はどう思う?」


肯定も否定も示さない。


軽い気持ちで聞いてきたならば否定してやっただろうが、どうやら本気の様子なのであえて選択肢を与えてやる。


俺を鳳煉夜だと受け入れるか。

俺を他人だと拒むか


恐らくコイツは、もう俺が鳳煉夜だと気付いている。

僅かだが、俺を見る目が6年前と同じなってきているのが見て取れる。

だが、それを頭と心では理解しようとしていないのだろう。

外見、性格、口調、雰囲気、あの頃と全てが違う俺を、鳳煉夜とは認めたくない……

しかし、自分のどこかで俺が兄だと訴えている……

だから迷っている。


『兄貴分』としては拒んで貰いたいと思う。

今の俺という存在を直視して傷ついて欲しくないから……

だが、『俺』としては、どちらに転んでも面白そうだからどうでもいい。

兄として俺を受け入れるなら、変わり果てた兄の本質を見せてやろう。

他人として俺を拒むなら、俺も他人として扱ったやろう。

さて、今の舞の瞳には俺がどう映っているかな?


そんな思考をしながら俺はただ答えを待つ。

しかし、答えが出ないのか黙り込んだまま動く気配の無い舞に、この分だと時間の無駄だと判断し、


「何をそんなに迷っているのかは知らんが、他者が何と言おうと、結局は自分で見て自分が感じたことが全てだろうよ」


それだけ告げて、再び歩き出す。

背後の気配は未だに動く様子を見せない。


「悩め悩め。悩み抜いて自分が納得できる答えを出せばいい。

答えは自分の中にしかないんだからな」


その気配に助言代わりにと、呟きを風に流す。


さて、あいつはどんな答えを出すのかねぇ。

俺を受け入れるか、それとも俺を拒むか……少しばかり楽しみだ


知らず知らずのうちに笑みを浮かべながら、俺は一人鍛錬場の中へと戻っていった。

ちなみにこの後、外に出ていたことがバレて、俺だけ村園女史から説教を受けたのは言うまでもない。

これが優等生と不良の扱いの違いか……




更に時が流れて昼休み。

お嬢の舞の様子に対する詰問から逃れ、バカ、真面目、天才トリオと昼飯を食おうと屋上へ向かっている時のことだった。

俺はトイレに寄った為、先に行った三人より遅れて遅れて廊下を歩いていると……


「おい待てやコラ」


「あ?」


背後からドスの利いた声が向けられる。

振り返ってみると、そこには柄の悪い生徒が3人立っていた。

緑色のリボンを見るに、3年生だろう。


「何か用か?」


「てめぇだな?最近調子に乗っている白髪ってのは」


オイ待てイントネーションがおかしいぞ


「随分とでかい顔しているらしいな」


「魔法も使えねぇ落ちこぼれの分際で」


……あぁ、これはアレか。

会長が言ってた俺を気に食わない奴らか。

ダリィなぁ、オイ。

まぁ、スルーしてもいろいろと煩そうだし、適当に相手して適当に撒くか。


「お〜、怖ぇ怖ぇ……それで?」


「あぁ!?」


「もう一度言うが、何の用だ?」


口元には相変わらずの笑みを、しかし声は若干トーンダウンさせ威圧するように尋ねる。

別に殺気を出した訳でもないのだが、やはり前回の模擬戦の噂が耳に入っているのであろう。

男達は臆したように後退る。

しかし、人数の差に気付いたのだろう。

今度はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。


「いいのかよそんな態度とって」


「お前自分の置かれてる状況わかってんのかよ」


「落ちこぼれが俺達にかなうと思ってんのかよ」


……激しくめんどくさいな、コイツら。

選択ミスったか?スルーしときゃよかった……

さてどうしようか。

まともに相手しても面倒なだけだし、適当にあしらうか。


「あーハイハイ、おたくらが有利な状況にいるのはわかったから、用件をさっさと言え。

こちとら腹へってしょうがねぇんだよ」


「その減らず口、いつまで叩けるかな」


「俺達が先輩としてお前を躾けてやるよ」


そう言って魔力を練り上げる3バカ。

それによりギャラリーがにわかにざわつき始める。

しかし、恐々としながらも誰も動こうとしない。

怖くて動けないのか、それとも何やかんや言っても好奇心に勝てないのか……恐らく後者だな。

使えないギャラリーに溜め息を吐き、とりあえず目の前の3バカを対処することに


「別に構わねぇがやるんなら覚悟しろよ?

戦り合ったら俺の負けは確定だろうが、腕の一本は貰っていくぜ?」


そう言って笑みを深め、脅すように片手をパキリと鳴らす。

いや、こいつらレベルなら片手一本でも軽くあしらえるが、そんなことをしたら流石に目立つので、謙虚になっておく。

これで退いてくれるなら僥倖。本当に来るってんなら、まぁそれでもいいさ。

袋にされてやる代わりに宣言通り腕の一本はへし折ってやろう……

まさに一触即発。

しかし、その空気は突如として破られる。


「兄、さん……?」


柄の悪い野郎同士で睨み合っているこの場に、明らかに不似合いな綺麗なボーイソプラノが響く。

その声のした方に顔を向けてみると、呆然とした様子で俺を見ている少年の姿が。

髪は明るい茶髪で肩口ぐらいで切りそろえられ、顔はぱっちり二重で人形のように整っており、最早女顔とかそういうレベルじゃなくて完全な美少女。それもお嬢や舞クラスの。

体躯は少しばかり小柄で160後半といった所か。

制服は中等部の男物を着ているが、それでも美少女にしか見えない不思議。

これなら会長が実は男でしたー、なんて言われた方が納得できる。

まぁ、そこはどうでもいい。

問題はあの少年は何故俺を見ながら兄さんと言ったのか……


そんなのは愚問か。

流石に流れで理解できる。

アイツは……


そこまで思考すると、少年が男達を無視して俺の目の前まで駆け寄ってくる。


「お久しぶりです、兄さん……」


そして俺の実弟、鳳雅也は少し涙ぐみながら俺に挨拶してくる。


まずは挨拶から、か。相変わらず礼儀正しいねぇ。

もっと少年らしくはっちゃけてもいいと思うが……それより、何故咲夜といいコイツといい何故俺を俺だと認識できるのだろうか……


そんな疑問を抱きながら、とりあえず否定から入る。


「HAHAHAHAHA、何を言ってるのかな少年?俺は君の兄さんでは……」

「この匂いは兄さんのモノで間違いありません!」


おぉっと、匂いときたかぁ……流石に予想の斜め上をいかれたぜ。

つーか犬か貴様は。

イメージは犬耳を生やして、尻尾をパタパタさせながらじゃれついてくる雅也。目線は涙目で上目使い。

うん、これなら世の中のお姉さん……いや、外見が外見だからお兄さんも大量虐殺できるな。

そんなどうでもいいことを考えながら、これ以上否定しても無駄だと咲夜からの経験で悟り、とりあえず再開の言葉を弟に掛ける。


「いろいろと言いたいことはあるが、まぁいい。

見抜かれたんならしょうがねぇ。

久しぶりだなぁ、弟よ。しっかり成長しているようで兄は嬉しく思うぞ」


そう言って今の俺には似合わんが、優しく微笑みながら頭を撫でてやる。

たった一人の兄弟だ。久々に会えたならそれなりに嬉しいさ。

俺がゆっくりと頭を撫でていると、堪えきれなくなったのだろう、俺の胸に飛び込んでくる。

それを柔らかく受け止め、胸で泣く雅也を慰めるように頭を撫で続ける。

開き直ったせいか妙に昔のような行動ができる。

……だが


「ハイ、優しいお兄様タイム終了~」


そう言って、俺は雅也を突き放すように遠ざける。


やはり俺を昔の俺のままだと勘違いされちまったら悪いからな。とりあえず一線を引いておこう。

そうすればいずれ見ることになるであろう、俺の歪んだ本質を見ても、必要以上に傷つかなくて済む。


「兄さん……?」


涙目のまま困惑したような、少し悲しそうな表情をして此方を見る雅也に、思わず苦笑が漏れる。

涙目で身長の関係により上目使い。これに犬耳と尻尾を生やしたら、先程の俺の妄想通りではないか。

実際、周りを見てみれば野次馬の連中が、男女問わず鼻血を流しながら膝を付いている。

まぁ、そんな変態どもは華麗にスルーして、俺はさっさと歩き出す。

そして、未だ困惑した様子の雅也とすれ違い様に


「俺を、昔のような感覚で接していたら痛い目見るぞ?」


と、忠告を残してそのまま立ち去ろうとする。

しかし


「待てやコラァ!!」


先程までずっと空気だった3バカの一人に、背後から肩を掴まれる。

つーかずっと待っててくれたのか?兄弟の再会に水を差さないでくれて有難うよ。

そう心の中で感謝をし、俺は振り向き様にその感謝の心を手刀に込めて、男の首筋に鋭く叩き込んだ。

男は狙い通り糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。


「おい、どうした!?」

「しっかりしろ!!」


他2人がそれを見て慌てる。

その隙に俺はさっさと屋上へと向うことにした。


さて、図らずも今日一日で、この学院内の鳳一族主要人物全員と、いろいろイベントがあったわけだが……どうするかねぇ……


廊下をのんびり歩きながら、今朝、魔法授業、つい先程を思い出して思わず溜め息が出る。

まぁ、とりあえずの問題は放課後だし、それまでのんびりさせてもらうとしよう。

そう楽観的に方針を決めると、俺は廊下を曲がり屋上へと続く階段を上りはじめた。


ちなみに、昼休みの光景を見ていた一部女子により、『煉×雅』などと騒がれ俺の男色疑惑は強まったのだが、これはどうでもいい余談だろう。

考えたくもない。

昼食時の会話

『議論』



翼「だーかーらー!巨乳こそが最強なんだって!!

あの大きな双丘は男の夢とロマンが詰まった禁断の果実なんだって!

何故それをお前は理解しない!」


渚「まったく、それは此方の台詞ですよ。

胸というのは大きければいいというものではありませんよ。

未熟な果実を連想させる、手に収まる程度の慎ましいサイズ。そして芸術品の如き美しさと儚さ……

貧乳こそが至高です」


元「お前らは食事中に何て会話してんだ……

大体胸なんてのは中間ぐらいが丁度いいんだよ。そう、高宮さんぐらいが丁度……」

ピロリロリ〜ン

煉「よし、録音完了」


元「!?」


渚「まぁ、あんなむっつり野郎は放っておいて、お前はどうなのですか、白髪?さっきから傍観を決め込んでますが」


翼「煉夜は勿論巨乳派だよな!」


煉「はぁ、お前らまるでわかっちゃいねぇな……

まず大きさ云々なんてのは二の次三の次なんだよ」


渚「ほぅ、その心は?」


煉「まずは感度、次に張り、形、最後に大きさだろうが」




全員「…………」




渚「なんでしょう、一気に俗っぽくなりましたがこの説得力は……ですが貧乳は譲れません」


翼「何か深ぇなぁ〜、革命っつーのか?こういうの……でも巨乳が最強なのは変わりないがな!」


煉「ま、楽しめれば何でもいいんだがな、俺は」


元「一人の意見だけなんか浮いてるぞ!つーかそんなことより白神!その携帯をこっちにYO☆KO☆SE!!」




……昼休みは騒がしく過ぎていく。

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