17話
前半シリアス後半ほのぼのといった風に仕上げてみました。
途中何かおかしなノリになりましたが、
川´_ゝ`)b<何、気にすることはない。
どうでもいいことですが、自分は主人公である「白神煉夜」を鳥海浩輔さんで脳内再生しながら執筆作業に勤しんでいます。
やっぱイメージは大事だと思うので…
皆さんは煉夜はどんな声が合っていると思いますか?
「鳳には、戻らない…?」
咲夜が慄きながら譫言のように呟く。
その普段は滅多に崩れることの無い表情は、今は目を見開き呆然としており、動揺のためか目が揺らいでいる。
対する俺はというと冷静…所か自分でも分からないほどおかしなテンションになっていた。
何故かは知らんが目に見えて狼狽している親愛なる姉貴分を見て、俺は悪戯が成功したガキのような心境になっているのだから。
恐らく今の俺の顔は、随分と愉快気に歪んでいることだろう。
そして改めて自覚する。
俺は…『白神煉夜』は壊れているのだと
「どういうことですか…お前は外武錬での修行が終わって帰ってきたのでは…」
咲夜は声を震わせながら、小さな、今にも消え入りそうな声で俺に聞いてくる。
いや、聞いてくるというよりは、無意識に口から出た、といった方が正しそうだ。
俺は見当ハズレなことを言っている姉貴分に聞こえないように、溜め息混じりに呟く。
「修行、ねぇ…一応そういう事になってたんだったか」
この咲夜の様子を見るに、予想通り舞と同じく外武錬をそのままの意味で理解し、その本質までは理解していないようだ。
まぁ、当然と言えば当然か…才能ある奴には何ら関係の無い話だからな…
外武錬とは、未熟者が鳳の姓に相応しい実力を得るために海外修行に行く…ということで通っているが、その実は鳳の名を汚す無能者を戸籍から抹消し海外へ捨てる…要するに、態の良い追放という意味。本来、鳳宗家の人間には縁の無い話なのだが、俺はこのことを昔から知っていた。親父…日向や俺を虐めていた連中、俺を蔑んでいた大人達から口々に言われたからだ。
この話を聞かされてから、俺は一層努力した。下手をすれば明日は我が身なのだから…結局無駄な足掻きではあったが…
「あ、ああ、そういうことですか。まだ修行が終えていないから、まだ戻らないということなんですね…?」
昔のことをしみじみと思い返していると、どこか縋るような、彼女らしくない声音で、咲夜は俺に問いかける。
その瞳には、一杯の不安と一抹の期待が込められていた。
「曲解するな現実を受け止めろよ、あんたらしくもない。
言ったはずだ。二度と名乗るつもりはないと」
しかし、俺はそれを冷たく一蹴する。
彼女の端正な顔が一層悲しげに歪む。
この反応や今までの反応を見ると、俺がどれだけ想われていたかがわかる。
それは素直に有り難く思う。
だが、俺の心は微塵も揺るがない。
もう決めたことだから。
白神煉夜として得て、背負ったモノを棄てるわけにはいかないから。
「…そんな…何故なのですか…!?私や舞、雅也がどれだけ貴方が帰ってくるのを心待ちにしていたことか…」
「………」
咲夜はキッと俺を睨み付けると、哀切と激情を静かに吐き出す。
その哀しみは彼女自身のモノだが、その怒りは妹や弟分の為に怒っているかのように見えた。いや、実際あの二人の為に怒っているのだろう。彼女は自分の為ではなく、他の人の為に怒る人だから…
「…教えてください…何か、理由があるのでしょう?」
俺が黙ったままでいると、冷静さを取り戻したのであろう咲夜が、どこか気遣うように声を和らげて聞いてくる。
しかし、声に反してその眼光の強さは変わらない。寧ろ強くなっている。
その目は、納得いかない理由だったら説教しますよ?と、言外に語っているようだった。
咲夜の説教はとにかく長い。更に疲れる、精神的に。
強い魔力を垂れ流しにしながら長時間の説教。それも少しでも気を抜いた瞬間、強烈な殺気が飛んでくるオプション付き。
いやぁ、思い出すと鬱ってくるねぇ。ま、今なら耐え切れる自信がある…いや無理ですねハイ。
それにしても、こんな状況下でもこのお気楽さ…我ながら常識ねぇな…
俺も随分と図太くなったものだ…と内心苦笑し、本当の理由を話す気はないので、それっぽいことを言っておく。
「理由か、そうだな…いろいろとあるが、とりあえずは俺が鳳に相応しい人間じゃねぇからだ」
「それは努力すれば…」
「実力の問題じゃない。本質の問題だ」
「本質…?」
俺の言葉に咲夜は怪訝そうに眉を顰め、首を傾げる。
俺はそんな咲夜からの視線をスルーし、物思いに耽るように天井を仰ぎ見る。
先程の言葉、適当に言ってみたことだがあながち嘘でもない。
捨てられてから6年間…見知らぬ地に身一つだけで放り出された俺は、孤独に耐えながら日々を生き残るために歪み、ある事件により全てを失い狂い、力を得る為の師匠の鍛錬により壊れてしまっている。
現在こそ少し前までの俺に比べれば丸くなっているが、『白神』となってから今まで、ある目的の為に数多の人間を利用し、裏切り、この手に掛けてきた。そして、そのことに感慨を抱いたことは無い。まさに外道と呼べる生を歩んできた俺は、本来なら日の下でこんな平和な生活をしていい人間ではないのだ。
「まぁ、なんだ。つまりだな…」
未だに怪訝そうな顔をしている咲夜に手っ取り早く現実を見せるべく、学生としての俺ではなく『神域』としての俺でもない…嘗て咲夜達と遊んでいた頃のような、何も着飾らない『ただの煉夜』として答える。
「…昔の俺とは、違うということだ」
「ッ!?」
すると、咲夜は目を見開き、怯えるように後ずさる。その拍子に手に持っていた書類を落としてしまい、紙片が床にバサバサッとばら撒かれてしまう。しかし彼女はその事には全く目がいっていない様子で、俺を見るその顔には、驚愕と恐怖と困惑が混ぜたような、不可思議な感情が浮かんでいる。
昔の俺とは存在自体が変わったかのように違うからな…戸惑うのも無理は無い、か……
俺はそんなドン引きしている咲夜の姿に少しばかりの虚しさを覚え、そんなことを無意識に感じている自分に自嘲する。
俺自身、自分がどんな雰囲気を醸し出しているのかわからない。
だが、師匠と初めて出逢った時に「こんな根から歪みきった少年は初めて見る」と言われたなのだから、碌なモノではないのだろう。
俺はそこまで思考し、溜め息を吐くと、雰囲気をいつも通りに戻す。
「ま、そういうわけだ。
その様子を見るに、理解したようだし話はこれで終わり、っと」
そう言って俺は、未だに此方を恐々と見つめる咲夜を気にせず落ちた書類を手早く集め、彼女に手渡そう…と考えるが、今俺が渡そうとしても応じてくれなさそうなので、適当に机の上に置いておく。
「さて、もう用もねぇから俺は帰らせてもらおうか。
じゃあな、副会長」
そして、手をヒラヒラと振りながら、さっさと帰路に付くことにした。
残された彼女は、俺を追うことも声を掛けることもせずに、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
……あ、口止めしとくの忘れてた。
…まぁ、いいか。それより明日辺り、俺は赤髪眼鏡に殺されるのではないのだろうか…?
ふとシャレにならないことを考えてしまい、俺は背筋に寒気を感じた。
*
静寂……
誰もいなくなった生徒会室は、先程までの楽しく暖かい空間が嘘のように冷たくなっており、耳に痛いほどに静まり返っている。
その中で私は一人、何をするでもなく唯呆然と立ち尽くしていた。
煉夜がこの部屋から出て行ってから、大分時間が経つ。
それなのに先程の出来事が尾を引いていて行動できない。
これで鳳の時期宗主なのだから情けない。と、少し自嘲する。
しかし私にとっては、それ程までに衝撃的な出来事だったのだ。
凛々しく、逞しくなって帰ってきた可愛い弟分の煉夜。
昔に比べ外見、口調、雰囲気が大きく変わっていたが、一目でわかった。姉ですから。
煉夜が鳳に戻ってくる。また昔のように共にいられる。そのことを考えるだけで私の胸は躍った。
しかし、その弟から予想だにしてなかった決別の言葉。
最初は何を言っているのか分からなかった。
絶対に戻ってくると、その為に帰ってきたのだと思っていたから…
私は怒った。私達に何も言わずに出て行ったのに、今度は戻らないとぬかす弟に。私達の心配をなんとも思っていないような弟に、私は怒りをぶつけた。
彼は表情一つ変えずに黙っているだけだった。
表面上では何も気にしていないかのような、余裕の表情
しかし、私にはそれが痛みに耐えているかのように見えた。
考えてみれば彼は昔から、辛いことを一人で抱え込むような子だったから。
それを見て冷静になった私は、理由を聞いてみた。
彼は自分は鳳に相応しくないからと言った。
本質が昔の自分とは違うと…
そして、そのとき一瞬見せたあの表情…
意識的にやったのか、無意識にやっていたのかはわからないが、彼は無邪気に微笑んでいた。
昔、一緒に遊んでいた時のように何も着飾らない素の表情で。
しかしそれは、私が知っている温かく柔和な笑みではなかった。
様々な負の感情を詰め込みすぎて、表情では表現しきれず歪んでしまったかのような笑み。
焦点の合っていない、壊れたような透明で虚ろな瞳。
その銀の瞳の奥に微かに見えた、呑み込まれそうになる程どす黒い狂気の光。
そして、身に纏う冷たく禍々しく、それでいて儚げな雰囲気。
最早そこにはあの頃の面影が微塵も感じられなかった。
私はその時、煉夜に恐怖した。
弟が全くの別人…それも狂人になってしまったかのように思って…
もう私の大事な弟分であった煉夜はいなくなってしまったと思って…
目の前の男は弟ではないと思ってしまって…
しかしその後に見せた彼の顔…
結果はわかっているのに期待して、でも結局期待通りにならなくて、わかっていたのに…馬鹿馬鹿しい…と、期待した自分を自虐するかのような、諦観した笑み。
それを見て私は己を強く恥じた。
何が家族だ。
何が姉だ。何が愛しき弟を間違えるはずがないだ。
いくら煉夜の言うとおり本質が変わっていようとも、彼が私の弟分で、家族であることには変わりなかった筈なのに…
あの表情と雰囲気を見るに、煉夜が海外で何かあったことは間違いない筈だ。
きっと辛いことがあったのだろう
きっと哀しいことがあったのだろう
きっと深く傷ついたのだろう
それらを優しく受け止め、分かち合い、労わってやる。それが姉として…家族として私がやれることではなかったのか?
それなのに私は……
「…明日、煉夜に謝りましょう…そして、外武錬で何があったのか聞かせて貰いましょう…」
後悔していても始まらない。なにより、このまま煉夜と疎遠になってしまうなど考えられない。
私は胸に手を当てギュッと拳を握り、そう決心すると、明日の段取りを考えながらとりあえず書類を届けにいくことにした
*
…シンプルに肉じゃがにしようか…?いや、作り置きのできるカレーも…いやいや、今俺の口は和を求めているからやはり…
夕焼けが辺りを優しく照らす帰り道。
俺は校舎から寮に向かって学院の敷地内を、今晩の飯は何にしようか…と、考えながらのんびり歩いていた。
「煉!」
「ん?」
そこへ、どこからか今や聞き慣れた俺の愛称が呼ばれる。
声のした方向に視線を向けると、少し離れたとこから、純白のワンピースの上からカーディガンを着た私服姿のお嬢が、此方に向かって小走りで近寄ってくる。
俺は足を止め、お嬢を和食で表すなら…などと、アホなことを考えながらお嬢を待つことに。
「奇遇ですね。制服姿ということは、まだ帰っていなかったのですか?」
「……桜餅」
「え?」
「いや、なんでもね。(桜餅は和菓子だな…)ま、いろいろあってな。そういうアンタはなにしてんだ?」
「私は夕食まで時間があるので散歩を。舞は雅也君に呼ばれたらしく、何処かへいきました」
「へぇ、そうかい」
雅也か…そういえば此方に来てから一度も会っていないな。どれぐらい成長しているのやら…
「ところで煉、どうかしたのですか…?」
弟がどれほど成長しているかを予想していると、お嬢が心配そうに聞いてくる。
「ん?なにがだ?」
「いえ、なんとなく貴方が暗い気がしたので…」
「…気のせいだろ」
お嬢の言葉に一瞬ギクッとするが、表情は微塵も揺るがせずに答える。
お嬢は嘘を見抜くことはできないのに、偽りの雰囲気などを見抜くことには長けている。
なんともないと思っていたが、どうやら予想以上に、先程の出来事が後を引いていたらしい。
やれやれ、自分では未練が無いと思っていたのだがな、情けねぇ…
「そうですか?まぁ、煉がそう言うなら大丈夫なんでしょう。ただ、何かあったら言ってくださいね?微力ながら力になりますから」
「…まぁ、そんときゃよろしく」
絶対にありえないと思うがな。
「ところで煉は、夕食はどうするのですか?よろしかったら、私と一緒に食べませんか?」
「お誘いは嬉しいが…残念ながら、俺は自炊派だ」
現在進行形で献立考えてるしな。
しかしお嬢は俺が自炊派なのが意外だったのか、驚愕を露にしている。
「えぇ!?自炊派だったんですか!?だって前までは食堂で…というか煉、料理できたんですか?」
「あの時はあんたの警護役だったからな。俺は本来自炊を好む。ちなみに料理の腕は和洋中なんでもござれだ」
「そう、ですか…」
目に見えて肩を落とすお嬢。
「何だ、俺と一緒に食いたかったのか?」
「ハイ…折角できた舞以外の友人ですから…」
あぁ、そういえばマトモな友人が舞しかいなかったんだったか、この子…
それを断るのもなんか可哀想な気が…
「へぇ、なら一緒に食うか?俺の部屋で」
「え、いいんですk……」
「ま、無論冗談だがな。野郎の部屋に学院のアイドルの一人を連れ込むなんざ、後が怖くてできるかよ。んじゃ、俺は飯作んなくちゃいけねぇから行くわ」
する訳が無ぇよ。俺はそんなんで同情するほど高尚な精神の持ち主でもないんでな。
そう言って俺は笑いながらさっさと寮に向かって歩き始める。
何かを建ててクラッシュしちまった気がするが…まぁ、気のせいだろう。
だから背後から強い悲しみの念を感じるのもきっと気のせいなのだろう。
あぁ~、明日辺り舞も襲撃してきそうだな~
などと気怠げに考えながら、俺は今度こそ帰路に着いたのだった。
やっとそれらしいフラグクラッシュができました…
次こそ絶対ギャグ中心に書きたいです。
サブキャラの見せ場も書きたいですし、雅也も早く登場させたいですね。
 




