16話
遅れて本当にすみませんでしたぁぁぁ!!
楽しみにされていた方、本当に申し訳ありません。
言い訳させて貰うと、自分も学生の身なので、テストという厄介極まりないモノの策略を受けていたんですよ…
これからは、再び週一投稿目指して頑張りたいです。
今回は新キャラ一人追加で少々シリアスがあります。そして、いろいろと滅茶苦茶です…
最近主人公のキャラが不安定と言いますか、自分の思い描いているモノと違うと言いますか…どこかで修正したいですね…
まぁ、とりあえず、ゆっくりしていってね!
また後書きにアンケートがあります。
「あれ、咲夜?会議って今日だったかね?」
「何を言っているのですか…会議の日程を決めたのは貴方ではありませんか。
皆生徒会室にて貴方を待っているのですよ?
貴方はもっと生徒達を率いる者としての自覚をですね…」
「あぁ〜、わかった、わかったっての。
はぁ、やれやれ、君の姉は真面目すぎると思わないかい?」
顰め面で説教を始めた咲夜に会長は苦笑しながら、この場からどう逃げようか画策していた俺に視線を向けてくる。
咲夜は説教を続けている為か、俺の存在には気付いていないようだ…まぁ、俺が魔力を感じて反射的に気配を薄めたってのもあるのだろうが…
それはいいとして、逃げる機会を失った俺は、会長の問いに気怠げに答える。
「知るか。ただ、今回の件は10:0であんたが悪ぃな」
「あらら、あたしへの擁護は無しかい。お姉ちゃん想いだねぇ〜」
「俺は事実を述べただけだ。それと、俺は副会長の弟じゃねぇ…」
「会長、聞いているのです……煉夜ぁ!」
会長との会話の途中で、俺の存在に気付いたのであろう咲夜は、瞬間、表情を顰め面から一変、嬉々とした表情で俺に抱きついてくる。
一瞬躱そうかと迷ったが、後が面倒そうなので素直に抱きつかれることに…
ふむ、ちゃんと成長しているようだな…どこがとは言わないが……
「弟…じゃないなら、今現在その咲夜に抱きつかれている君はなんなんだい?」
「さてね…俺が聞きたい」
折角なので、姉貴分の成長を身を持って確認していると、会長がニヤニヤしながら問うてきたので、適当に答える。ちなみに咲夜は俺に抱きつくのに夢中になっているらしく、聞こえていないようだ。
昔なら、はっきりと『弟』と答えられたのだろうが…
そんなことをふと考えて苦笑する。
しかし俺自身、鳳に戻る気はもう微塵も無い。
咲夜に俺の存在が完璧にバレていると、その情報が舞や雅也、鳳家に伝わり何かと面倒になりそうなので、他人の振りをすることに…
「役得だが…オイあんた、俺を誰かと勘違いしてねぇか?」
俺はとりあえず咲夜の拘束をスルリと抜け出し、雰囲気を操り完全に他人の振りをする。
すると、咲夜は怒ったような鋭い視線をむけてくる。
「何を冗談を言っているのですか。お前は姉の顔を忘れたと言うのですか?」
「忘れたも何も知らないっての。俺は確かに煉夜という名だが、あんたの弟の煉夜じゃねぇ」
「成る程…つまりお前は不安なんですね?
『外見が変わってしまった自分を何故弟だと判断できる。実は名前で判断しているのではないか?』
と…」
うん、それは確かに凄い疑問だった。
しかし、気のせいか話が凄い方向に解釈されてる気が…
「姉を見縊らないでください。どんなに姿形が変わろうとも愛しき弟を間違えるはずがありません。
それが、姉というものです」
妹は俺を分からなかったがな…まぁ、アイツは昔の俺に固執してる節があるから、しょうがないっちゃあしょうがないんだがな。寧ろそれが普通だ。
ちなみに俺の外見の変化具合を簡単に表すと、の○太君が6年後に、世紀末な感じのモヒカン姿で「ヒャッハー!!」と言いながらジープを乗り回しているようなモノだ。
姉ってすげぇ…
そんなことを頭の中で考えながら、俺は呆れ顔を創り、肩を竦める。
「やれやれ…何を根拠にそんな自信があるのやら…」
「根拠はありますが、お前に言っても理解できないとでしょう。なので、もっと簡単に証明します。
お前が鳳煉夜ならば右耳の裏側には、小さな縦一文字の傷があるはずです」
「何を馬鹿なことを…そんなのあるわけが「あった。この傷だね」なん…だと…?」
驚愕する俺に、会長はカシャ!と携帯のカメラで写真を撮り、見せてくる。
そこには、確かに傷がある俺の耳の裏が…
何故俺自身知らない箇所の傷を知っている!?
思わず驚愕の表情が表に出そうになるが、反射的に感情を押さえ込み、対処する。
「へぇ、こんな偶然もあるんだな。名前も傷の位置も一緒なん…」
「他にも、左手首に切り傷、左手に刺し傷、首筋に切り傷…」
「お、本当だ。全部ある」
「!?」
「更に―――――――」
次々と挙げられていく、俺の身体中にある傷という名の身体的特徴。
咲夜が言っていった箇所全てに、知っている傷や、俺自身知らなかった傷があった。
つーか、特徴の全てが傷ってどうよ…まぁ、親父に毎日ボコらえていたから当然か…
それにしても、何故に俺の身体中の傷知ってんの!?…と、思わなくも無かったが、何となく返答が怖いので、聞かないことにしておく…
「――――どうですか?これで証明になりましたね」
「…ハァ、アンタには適わねぇな…咲姉さんよ…」
俺は諦め、降参の意を込めて両手を力無く上げながら、敢えて昔の呼び名を呼ぶ。
呼んだ瞬間、咲夜は大きく目を見開くと、今度は嬉しそうに目を潤ませながら微笑む。
「…ようやく、名前を呼んでくれましたね…煉夜…」
そして、俺に駆け寄り、再び抱きついてくる。二度と何処にもやらないと言わんばかりに。
え、何この状況?
「おかえりなさい、煉夜…」
「……おう」
潤んだ目で此方を見上げながら咲夜は再び微笑む。
俺はこの展開に戸惑いながらも、目を逸らしながらもそれに答える。
しかし、決して『ただいま』とは言わない。
俺は鳳煉夜ではなく白神煉夜…故にこの地はもう俺の故郷ではないのだから…
「あ~…あたし先に行ってた方がいいかい?」
そこに聞こえてきた気まずそうな声。
体を放しそちらに顔を向けると、会長が申し訳なさそうな顔で頬を掻いていた。
「すみません。私としたことが、つい…」
そんな会長に慌てることなく謝罪する咲夜。
俺はそんな中、これからどうしようか考えていると…
「…まぁ、立ち話もなんだし、とりあえず生徒会室に行こうか」
「…いや、あんた等会議あるんじゃ…」
「それがいいですね。積もる話もあることですし」
「オイそれでいいのか副会長」
生徒会のトップ2人が職務怠慢に走ろうとしていた。
面倒事は御免だと何とか思い止まらせようとするも、お気楽会長と暴走中の副会長には通用しなかった。
「細かいことは気にしなさんな。それじゃ、行こうかい」
「そうですね。それに皆をこれ以上待たせるのは忍びありません。行きますよ、煉夜」
「…ハァ、やれやれだな」
グイグイと会長と咲夜に両手を引っ張られながら、俺は溜め息を吐いて諦めるのだった。
しばらく歩き、他の部屋とは造りの違う豪奢な扉の前に辿り着く。その扉の横に付けられているプレートに『生徒会室』と書かれている。
「ここが生徒会室、ね…」
「なんだい?ここに来るのは初めてかい?」
「まぁねぇ…来る予定も来る気もなかったし…」
「二人とも、話はそこまでにして入りますよ」
扉をゆっくりと開く咲夜に促されるまま、俺は会長に引き摺られるように入室する。
生徒会室には既に2人の生徒が、指定されているのであろう席に着いていた。
まず、入ってすぐの『書記』と書かれた三角錐のネームプレートがある席には、制服に緑のリボンを付けた灰色のショートヘアに一筋だけ長く伸ばした後ろ髪が特徴的な、涼しげな中性的な顔立ちをした女生徒が、のんびりとした態度で小説を読んでいる。
そして、その向かいの『男子副会長』と書かれた、同じく三角錐ネームプレートがある席には、昼休みに会った赤髪オールバックで眼鏡を掛けた知的な雰囲気の男が、腕組をして瞑想しているかのように瞳を閉じて座している。
へぇ、これが生徒会か…
「やぁ、随分と遅かったね有紗。今日はどうしたんだい?」
生徒会室と役員を見回していると、俺たちの入室に気付いた書記は、小説を閉じて此方に視線を向ける。
会長は苦笑しながら書記に答える。
「ちょいと野暮用でね。遅れたことは謝るよ」
「おや、そちらの一年君は?」
「あぁ、彼は……」
「…何故貴様がここにいる…?ここは貴様のような輩が来るような場所ではない。早々に失せろ」
書記が俺の存在に気付き、会長が何か言おうとした所で、静かに、しかし敵意剥き出しに赤髪眼鏡は俺をギロリと睨み付ける。
俺とて、何故自分が現在此処にいるのかわからないので、文句を謂われても仕様がないのだが…
ま、とりあえず……
「ほれ会長、この調教副「おい待て貴様!?」…赤髪眼鏡もこう言ってるし、俺はこれで…」
赤髪眼鏡にうまく便乗して脱出を試みることに
「駄目ですよ、煉夜」
しかし、さりげなく出口を塞いぐように立っている咲夜に阻まれる。
チィッ、流石は咲夜。抜け目は無いか…
それに対し、俺を引き止めたからか、俺を名前で呼んだからか知らんが、赤髪眼鏡が抗議の声を上げる。
「お、鳳!?何故そんな奴を引き止める!?
昼休みの時もそうだったがそいつはお前のなんなん…」
「そんな奴…?」
不意に咲夜がピクッと反応し、次の瞬間、突如生徒会室の空気が凍ったかのように冷たくなる。
チラリと咲夜の方を見てみると、顔は無表情だが目は怒っている咲夜がそこにはいた。
「いくら沢白さんでも、私の大事な弟をそんな奴扱いするのは…許しませんよ?」
赤髪眼鏡を威圧するかのように、咲夜の体から吹き出る強い魔力の奔流。
その魔力は赤髪眼鏡だけでなく一瞬で生徒会室全体を支配し、その場の空気が物理的に重くなる錯覚を全員に見舞わす…
ふむ、予想より魔力が強いな…それもまだ底が感じられない…俺と同じくリミッターでもしてんのかね……
皆が青ざめたような表情をしている中、俺は魔導士としても成長している咲夜を洞察する。
俺はこの学院にいる間だけ、己にリミッターを掛けている。俺の魔力は異常な程にでかい為、今の咲夜のようにふとした拍子に洩れる魔力で、ある程度の実力者にその異常性がバレる危険性がある為だ。
まぁ、そんなミスを犯す程甘い魔力操作技術をしていないが、念のために、だ。
ま、威圧も兼ねてやってるんだろうが、感情に流され過ぎだな。リミッターが緩んでやがる。
まだまだ甘ぇなぁ咲夜…
などと、6年前までは俺より遥か高みにいた咲夜を、無能が原因で家を追われた俺が批評していることに、少しばかり皮肉を感じて内心苦笑する。
「あぁ〜ハイハイ、ストップ、ストップ。あんたが弟君を大切に思っているのは分かったから落ち着きな」
「…すみませんでした。少し取り乱してしまったようで」
そんなことを考えているうちに、その場を会長が治めて一段落ついたようだ。
咲夜は表面上は落ち着いて見えるが、付き合いの長い俺から見たら、反省したような態度でシュンとしたように見える。
「そ、それより弟というのは、ど、どういうことだ…?」
動揺を押し隠そうとしているのだろう赤髪眼鏡は、表情は冷静なまま中指で眼鏡の位置を直している。が、腕はプルプルと小刻みに振るえ、声はどもりまくっているため、微塵も隠れていない。
まぁ、副会長の気持ちもわからんでも無い。
自分が惚れている人が、自分が嫌いな奴を擁護したのだ、内心穏やかじゃないだろう。しかも、その嫌いな奴が好きな人の弟だったのなら尚更だ。動揺の一つもするだろう
まぁ、血の繋がりはないんだがな…そういや、今は家の繋がりもねぇな…ん?つまり戸籍上は赤の他人ってことになってるのか?
…まぁ、別にいいか
「ムフフ、聞きたいかい透?」
そんなことを思いながら咲夜と会長の背後で腕組みをしていると、会長がこちらを見ながらニヤニヤしていた。
ちなみに、透とは副会長の名前らしい。
「彼はねぇ…鳳咲夜の弟分にして、あたしが見つけた空席の会計候補さ!!」
「おいコラ待て」
さりげなく後半に付け加え、高らかに宣言した会長の頭をとりあえず鷲掴みする。
ちなみに赤髪眼鏡は驚愕した表情で固まっており、書記は「へぇ、この子が…」と呟きながら楽しげに俺を見ている。まぁ、気にしないことにしよう。今はこちらの生徒会長が先だ。
「俺はついさっき断ったはずだが?」
「いやねぇ、咲夜のプレッシャーに顔色一つ変えないで傍観していたからさ。
やっぱ凄い実力者なのかねぇ、と思ったらまた欲しくなっちまってね」
「買い被りすぎだな…只単に顔に出てねぇだけだ。
内心は現在進行形で恐怖に震えてるわ」
「煉夜?全身が凄い細かく振動してますが大丈夫ですか?」
「震えるのではなくて振動!?」
たまらずツッコむ赤髪眼鏡。
少し大袈裟に体を震えさせようとしたら、やりすぎて振動の域にまで達してしまったらしい…流石は俺(?)
「まぁ、冗談もそこまでにして、とりあえず…改めて自己紹介でもしようかい」
会長は手をパンパンと叩き、妙な空気になってきたその場を収める。
ちなみに俺は会長の頭を鷲掴みにしたままなので、なんとも締まらない光景になっている。
「じゃあ私から…」
今まで事の成り行きを楽しげに傍観していた書記が、一筋だけ長い後ろ髪を翻しながら席を立ち、俺の傍までスゥっと近寄ってくる。
「生徒会書記を務めさせて貰っている、3年の東郷薫だよ。
よろしく」
そして、妖艶な笑みを浮かべながら手を差し出す東郷書記。
この身のこなし…この女、武道経験者か…
俺は分析しながら、会長を開放してその手を握ろうと手を差し出すと、突然彼女の手が鋭く動き俺の手首を取ろうとしてくる。
しかし、俺は瞬時に反応し、その手を掴み強引に握手する。
「!?」
「はいよ、よろしくさん」
「…へぇ…面白いね、キミ」
「はて、何のことやら…」
東郷書記は一瞬驚愕の表情を見せた後、楽しげな笑みを俺に向けてくる。
どうやら会長に続き、また俺は試されたらしい。
身のこなしと、不意打ちで俺の急所ではなく手首を狙ってきたことから、この女は何か柔術を習っていると推測。
もしも掴まれていたなら、極められていたか投げられていたのだろう。
どうでもいいが、会長といい東郷書記といい…人を試すのが流行ってんのかねぇ…?
「…男子副会長の沢白透だ。言っておくが、例え貴様が鳳の弟だろうが、俺は貴様を認めた訳じゃあないからな…」
若干辟易としながら東郷書記と握手を済ませると、少し遠くの位置から、副会長が腕組をしながら此方をジロリと睨みつけてくる。
初対面がアレだった為、どうやら溝は深そうだ…
「認められなくて結構だが…ま、よろしく」
「フン…」
俺は一応手を差し出してみるが、赤髪眼鏡は自己紹介が済むと、もう話すことは無いと言わんばかりに腕組みをして瞳を閉じる。
そんな赤髪眼鏡の態度に俺は嘆息する。そして一つ軽い小芝居を…
「やれやれ…冷たい先輩だねぇ、俺様泣いちまうぞ?」
「……沢白さん…?」
「お、鳳!?ち、違、これは…貴様ぁぁ!?」
わざと悲しげに笑ってみると、予想通り再び魔力により凍りつく生徒会室。
俺と3年二人は赤髪眼鏡の慌てる様を見て笑う。
一頻り笑った後、その場が落ち着いたのを確認し、俺も自己紹介をしておく
「さて、一応俺も名乗っておこうか…
俺は一年の白神煉夜。
ソコで現在進行形で暴走している鳳咲夜の弟分ってことになっている。
しがねぇ不良にすぎないが、まぁ、よろしく」
「しがない不良があたしの魔法を…まぁいいわ。
自己紹介も済んだことだし、少し遅くなったけど生徒会会議を始めるよ」
会長は苦笑しながら自分の席に着くと、先程までとは打って変わって、真面目な雰囲気で宣言する。
すると、その宣言を聞いた役員達はその場の空気を一変させ、皆己の席に着いていく。
…流石は腐っても生徒会か。
見事、と言うしかないな…一瞬でこの空気を創り上げやがった…
今の空気は先程までの仄仄とした緩んだモノではなく、ピリッとした適度な緊張と、無意識にその場にいるものの背筋を伸ばしてしまうような、締まった空気になっていた。
…まぁ、それはいいとして…俺、蚊帳の外?
会長が議題を出している中放置されている俺は、場違いなのでさりげなく退室しようとするが、会長と咲夜、ついでに東郷書記にバレて何故か止められた。
じゃあ、俺にどうしろと?
なにやらやるせない想いが胸中に渦巻くが、流石に茶化す空気じゃないため、俺は会議が終わるまで入り口付近の壁に凭れて待つことにした。
*
「……と、いうわけで、行事に向けての準備も一段落ついたけど、皆気を抜くことなくしっかり乗り切るように。これにて生徒会会議を終了する。礼!」
小一時間程にも及んだ会議は終了を迎え。有紗の号令により皆頭を下げる。
そして、皆頭を上げると同時に、その場の空気が一気に緩む。
「あぁ~、疲れた…」
「さて、どうやら終わったようだな。じゃあ、俺はこれで…」
「あぁ、それなら煉夜、一緒に帰りましょう」
煉夜は壁から背を放すと、帰るために出口へ向かう。咲夜はそれを止めるでもなく、後に続こうと席を立ち上がる。
そこへ、不意にコン、コンと扉からノックの音が聞こてくる。
皆の視線が扉に集中する。それと同時に扉が開き、ダークスーツを纏い煙草を咥え、目に掛かるほどのダークグレーの髪をした長身の男が顔を出す。
「活動中に済まないが、鳳はいるか?」
「ハイ、此処に」
「頼んでおいた書類はできているか?」
「まだですが、提出日までには間に合うかと…それが何か?」
「いや、それがちょっと予定が狂ってしまったらしくてな。今日中に提出しなければいけなくなったんだ。
だから悪いが、なんとか今日中に仕上げてくれないか?」
「今日中にですか…わかりました。もう大方の作業は終わっているので、すぐに仕上げましょう」
「そうか。それじゃあ、済まないが仕上がったら教務室にまで持ってきてくれ。ヨロシク」
咲夜の返事に男は満足気に頷くと、紫煙を燻らせ手をヒラヒラと振りながらその場を後にした。
そのやり取りを見ていた煉夜は、気怠るげに息を一つ吐くと、肩を軽く竦ませる。
「ふむ、災難だな。ま、邪魔しちゃあ悪いだろうし、部外者はさっさと退散するとしよう」
そう言って扉に手を掛ける煉夜。
沢白はこれで邪魔者がいなくなると内心喜びながら、咲夜と一緒にいるべく手伝いを申し出る。
「お、鳳、なら俺が手伝って……っ」
しかし、そこまで言ってあることに気付く。
咲夜の表情が寂しさに彩られていることに…そして、その悲しげな視線が、帰ろうとした所で有紗と薫に捕まり、なにやら面倒そうに会話している煉夜に向けられていることに…
「………」
そんな想い人の姿を見て沢白は、会話を切り上げて今度こそ帰ろうとしている姉不幸者を呼び止める。
「…待て貴様」
「…んぁ?」
「…聞いた通り鳳はまだ仕事がある為、居残りして作業しなければならない。
生徒会室に何の用も無く来たんだ。せめてそれぐらいは手伝っていけ」
「……あ?」
沢白の言葉に一瞬呆けたような顔をする煉夜。
しかし、咲夜の方に視線を向けると、納得したような顔になる。
そして、何が面白いのか、クックックと喉の奥で笑う。
「…何がおかしい」
「いや何、案外いい男なのだなと思ってな…」
どうやら不器用なようだがな…と、語尾に付け足し、煉夜は踵を返す。
そして、沢白とすれ違い様にさりげなく耳打ちする。
「面倒だが、今回はアンタの咲夜に対する心遣いに乗ってやる…次からは自分でしろよ?」
「…フン、口の利き方には気をつけろ。生意気な一年坊が…」
そうして二人は軽口を叩き合った後、煉夜は机の上に書類を出し始めた咲夜の隣の席に腰を下ろす。
すると、咲夜は目に見えて嬉しそうな顔になる。
沢白はその顔を見て満足気に頷くと、三年二人を連れて生徒会室から出て行った…
*
生徒会室を出ると、有紗は会議の結果を報告しに職員室に向かい、沢白と薫は玄関へと向かっていた。
「どうしたのかな沢白クン?いつもなら自分が率先して手伝うというのに」
ニヤニヤと笑いながら薫は、先行する沢白の背中に問いかける。
その問いかけに、彼は振り返らずに答える。
「…俺とて流石に空気ぐらいは読めます」
「ふむ、確かにキミは咲夜クンにとってベストな選択をした。
しかし、君には咲夜クンの仕事を手伝い、落ち込んでいる彼女を慰めることで、咲夜クンとの距離を縮めるというベターな選択肢もあった筈だよ。
それでもキミは良かったのかい?」
「俺は彼女には笑っていて貰いたいだけです。
あんな顔の鳳を見ているのは辛いですから…」
薫の問いに彼は少しだけ振り返ると、僅かに口角を吊り上げ、苦笑しながら答える。
その答えを聞いて、彼女は心底楽しそうに笑う。
「フフフ、不器用な男だな、キミは」
「…フン、自覚はしています」
その笑みを自分を馬鹿にしていると見たのか、彼は若干不機嫌そうに鼻を鳴らし、再び前を向き歩く。
そんな彼の様子を見て、彼女は益々楽しげに笑うのであった。
*
三人が出て行った後、俺と咲夜は書類の制作に勤しんでいた。
尤も、先程咲夜が言っていた通り大方の作業は終わっており、後は書類内容に不備が無いかを確認し、整理して終わりなので、そんなに時間は掛からなそうだ。
しかし、咲夜は俺との空白の6年を埋めるかのように、わざとゆっくりと作業している。
真面目すぎるこの人にしては珍しい。
しかし、それでも常人の数倍の速度で作業しているため、書類の制作はあっというまに終わった。
「さぁ、書類を提出して帰りますよ煉夜。今日は舞と雅也も呼んで姉弟水入らずで夕飯にしましょう。腕に縒りをかけて料理しますので、楽しみにしていなさい。今晩はご馳走ですよ」
あいつ等と食事だと…?正直それは勘弁してもらいたい…
という訳で、その事態を回避するべく、俺は瞬時に断るための言い訳を382通り考え、その中で最も効果的な断り方を導き出す。
そして、即座に断ろうと口を開いた所で…
「ところで、姓が変わっているようですか、いつ姓を戻しに本家に戻るのですか?
白神煉夜もいいと思いますが、やはり鳳煉夜が一番しっくりしていると私は思います」
口を止める。
咲夜からしたら何気なく口にした疑問なのだろう。
しかし、俺からしたら、これからの人生の分岐点になりうる質問。
自分の胸に問いかけてみる。
鳳に本当に未練が無いのか…
家族達と決別することに後悔は無いかを…
…ハッ、今更だな……
答えは勿論、未練も後悔も躊躇いも無い…
無意識に俺の雰囲気が冷たく、重苦しく変化する。
「…何か勘違いしているようだな…咲夜」
突然俺の口調と雰囲気がガラリと変わったことに戸惑っている。しかし、言葉は止めない。
これはちゃんと口にしておかなければならないことだから…
「俺がこの地に帰ってきたのはあくまで野暮用で、鳳に戻るつもりで帰ってきた訳じゃない。それに…」
追放されてから6年…それまでの10年とは比べ物にならない程濃密な時を過ごした。
鳳を追放されてから俺は、多くの事を経験し、多くの大切なモノができ、多くの大切なモノを失い、多くの恨みを買い、多くの業を背負った。
それらは全て清濁問わず、鳳煉夜としてではなく、唯の煉夜として得た大切なモノ。
だからこそ、鳳に…強大な権力と影響力を持つ名門の庇護下に戻ることなぞできない…逃げ道など必要ない。
だから此処に、そして己に、ありったけの意志を込めて宣言する。
「俺は二度と、鳳の姓を名乗るつもりは無い」
「……え……?」
決別の言葉は、驚くほどすんなりと口から出た
記念企画アンケートの結果は、外伝に決定しました〜!
そして、外伝のプロットを再びアンケート!
①過去話、シルヴァア&煉夜のドタバタ珍道中!
②日常、主要キャラの日常。
③対談、心優しき少年、鳳煉夜&変わってしまったお兄様、白神煉夜!
④とある購買の風景
⑤その他
できれば、⑤のその他で、読者の皆様にアイデアを出して貰いたいですね…そしてそのアイデアを作者の独断と偏見で選び、アレンジし、作品とする…面白そう(主に自分が)!
よろしくお願いします!