13話
久々の学園パートだったので、テンションが上がり、長くなってしまいましたぜ…
今回はギャグ多めに書き、所々伏線っぽいモノもいれてみました。
新キャラも数人出てきます。
裏話…ストーカー編の犯人は、当初は翼にする予定だったのですが、翼が予想以上に扱いやすく、個人的に気に入ってしまったので、急遽犯人を変えてしまいました…
一部の人間を騒がせたストーカー事件は無事に幕を下ろした。
そのことについて村園女史と、舞には高宮の爺さんが何とかしたと伝えた。
本当のことを伝えたら、二人はその現場にいなかったことを悔いるだろうし、何より俺の立場やらなんやらがややこしくなりそうで、俺はそれを嫌ったから伝えなかった。
舞はそのことに関して素直に喜んだが、村園女史は俺を訝しんでいた。
恐らく俺が何かしたと勘付いているのだろうが、特に何も言ってこなかったし、何も行動していないようなので、放置しておくことに。
そして俺が、お嬢のふざけているが、実は非常に面倒な依頼を受けてから2日の時が経った。
俺は楽しい学院生活をエンジョイするべく、まずはゆるりと交友の輪を広げることにした。
前までは依頼の為、必要以上に接しなかった奴らにさり気なく、だが確実に接する機会を増やしていき、翼の人脈のお陰もあり、2日で俺の交友の輪は一気に広がった。
こういう時本当にアイツの存在に感謝する。
とりあえずはそんな感じで、俺はのんびりと学院生活を満喫していた。
そして現在は昼休み。
俺と翼は昼飯を食いに、俺お気に入りスポットである屋上へ向かって歩いていた。
仲良くなった友人達は先に屋上に行っており、俺達は購買で買い物をしていた為、遅れて屋上へ向かっているのだ。
ちなみに俺の昼飯は、俺お手製の弁当と先程自販機で買った緑茶で、翼は購買で買ったパン数個とコーヒー牛乳だ。
「いやぁ〜、大量大量!」
ほくほく顔をした翼は機嫌良さげに、戦利品であるパンが入った袋を掲げてみせる。
翼の体にはあちこち擦り傷や打撲の痕である痣が所々にあり、俺はそんなザマのコイツを見て呆れながら呟く。
「やれやれ、購買ってのはあんなに荒れているモンなのか…」
そして、先程の光景を思い出す。
この学院の購買部はとても飲食物の種類が充実している。しかし、人気商品には勿論限りがあり、競争率も高い。
今までお嬢の警護を兼ねて学食で飯を食べていた俺は、今日初めて見た光景に呆気にとられた。
「どけぇ!」
「てめぇがどけぇ!黒豚カツサンドは渡さねぇ!」
「フハハハハ!温い!温いぞ貴様らぁ!」
「ちょっとあんた達邪魔よ!」
「あぁ、もう!鬱陶しい!喰らいなさい!
『彼の者を焼き払え…ファイアーボール』!」
「ちょ!?魔法がこっちに…」
ギャアァァアァアアァ!!?
…そこは購買ではなく戦場だったのだ…
先輩後輩男女問わず凄い人数の生徒達が購買に向かって全力で突っ込んでいき、その際に拳や足が飛び出るわ、魔法が飛び交うわ…その光景はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。そして、そんな暴徒を無駄なく淡々と捌く購買のおばちゃん……
俺はそんなシュールな光景を購買の近くにある自販機の側で呆れ半分、面白半分で眺めていた。
ちなみにその光景を見て、昔見たことがあった餌に群がるゴブリンの集団を思い出したのは内緒の話だ。
…話が逸れたな。その戦場で身体能力が高い翼は、先頭集団に何とか食らいついていき、傷つきながらも見事戦利品をもぎ取って帰還した…
と、まぁそんなことがあったわけだ。
名門校のイメージが若干崩れたぞ、俺ぁ…
先程の醜い争いを思い出し、ややげんなりとする。
そういやぁ…
俺は暇つぶし程度の感覚でしかその光景を見ていなかったが、ふとその中に少しばかり印象深い光景があったのを思い出す。
それは、群がる生徒を獅子奮迅の如き勢いで蹴散らし、先頭を独走していた三年男子寮寮長、羽柴道利に付いていけていた長い銀髪の美しい女子がいたことだ。
羽柴は三年の中でも間違いなくトップクラスの実力者で、そんな奴の猛進に付いていけていたということは、あの銀髪の女も相当な実力者ということなのだろう。
あの羽柴の猛進に付いていける、か…そういや制服のリボンが赤色だったな。つーことはタメってことか…
その銀髪の女の制服からチラッと見えたリボンの色は赤色だった。
この学院の制服は学年ごとに男子ならネクタイの、女子ならリボンの色が違う。
一年なら赤
二年なら青
三年なら緑といった風にだ。
ちなみに中等部は制服自体が高等部の制服と少し違うので、間違えることはない。
ふむ、…少しばかり興味が湧いてきたな。
暇な時にでも接触してみるかね。女子との交友はまだ少ねぇし
「煉」
「ん?」
歩きながらそんな思考していると、後方から声をかけられる。
振り返ってみると、周りの視線を釘付けにする2人の美少女が…お嬢と舞がそこにいた。
嫉妬と羨望の視線を受けながら、俺は2人に気軽に応える。
「あぁ、お嬢に鳳か。どした?」
「いや、食堂に移動している途中でお前達を見かけたのでな」
「煉はもう昼食は食べましたか?」
「いんや、これからだ」
「ならご一緒に如何ですか?」
お嬢が微笑みながら朗らかに尋ねてくる。その笑顔は俺が入学した当初は想像できない程生き生きとしたもので、周囲の連中が見惚れる程に美しい。
やはりお嬢はストーカー騒ぎが無くなってから変わった…いや、これが本来のお嬢なのだろう。
それに伴って舞も以前までのピリピリとした空気が軟化し、最近優奈と一緒に笑顔でいることが多くなった…気がする。
ま、それはそれとしてお嬢よ。どうでもいいが、そういうことは翼にも聞いてやれ…横で寂しそうな顔してて気持ち悪いから。
横で何やら恨みがましくこちらを見ている翼を華麗にスルーし、俺はお嬢に返答する。
「悪いな、先客がいるんでね」
「そうですか。先客がいるならば仕方ありませんね」
そう言って少し寂しげに苦笑するお嬢。
「まぁ、また今度誘ってくれや。
お嬢ほどの女に食事誘われるなんざ、男冥利に尽きるからな」
「フフフ、ありがとうございます、煉」
「さて、何故俺はお礼を言われてるのやら…」
「それは貴方が優しいからですよ」
そう言って、顎に手を当てて考える振りをしている俺に、お嬢は柔らかく微笑む。
「…なぁ、ちょっといいか?」
そこへ、先程まで空気だった翼が少し躊躇い気味に声をかけてくる。
その翼の跡を継いで、舞が意を決したような表情で疑問を口にする。
「…2〜3日程前から気になっていたんだが…お前達のその呼び方は何だ?」
「呼び方?」
舞の問いに首を傾げるお嬢。
俺は大体察しがついたので、ここはお嬢に任せて傍観に徹することに。
「随分と親しげにお互いのことを呼び合っているじゃないか」
「おかしなことを言うのですね、舞は。
親しげではなく、私達は既に親しい間柄なのですよ」
…そうなの?
と、思わず言いそうになるが、その言葉を辛うじて呑み込む。
俺とて流石に空気ぐらいは読めるさ。
「それはどういう…」
「てんめ、煉夜ぁ!!どういうことだゴルァァ!?高宮ちゃんといつの間に、いつの間にそんな親密な仲にぃぃぃぃ!?」
若干不機嫌そうになった舞が更に質問しようとすると、いきなり翼が俺の胸倉を掴み、叫びながらガックンガックンと揺さぶってくる。
うぉ~~、視界がぁ、視界がぁ~~……
「さてな。ま、男と女の距離なんざ、ちょっとしたきっかけですぐに縮まるもんだぞ?
例えば男が体を張って女を守ったりな。
あぁ〜、つーか酔う。よろっと酔う。マジで酔う…」
自分の顔が青ざめていっているのを感じながら、翼の腕をタップする。
それが通じたのか翼は揺するのを止めるが、今度は頭を抱え始める。
「ちくしょおぉぉぉぉ!!!あの魔法授業の時か!?
あの時、あの時煉夜より早く魔法に気付いていればぁぁぁぁぁ!!」
そして雄叫びを上げるが如く、空に向かって悲痛な叫びを上げる
忙しいやっちゃな…しかし、流石に騒ぎすぎたか…よろっと周囲の好奇な視線もウザったいし…
逃げるか…
俺はとりあえず、未だに後ろで叫び声を上げている翼から他人の振りをしながら、さり気なく関係者に思われない程度の距離を取る。
そしてそのまま逃げようとした所で、ふとあの銀髪の情報を同じ女子生徒であるお嬢…は期待してないからいいとして、舞なら持っているのでは?と思い立ち、現在翼の奇行にドン引きしている2人に近付く。
「そういやお二人さんよ。ちょいと聞きたいんだが、俺らとタメ…同じ学年で身体能力の高い銀髪の女知らねぇか?」
タメの意味が通じなさそうだった為、言い直して二人に聞いてみる。
「銀髪?」
「………」
俺の質問を聞いて、舞は顎に手を当てて思案顔になり、お嬢は何やら不機嫌そうな顔でこちらを見ている。
まぁ、面倒そうなのでスルーさせてもらおう
「…その人に興味があるようですね、煉」
させてもらえなかった
お嬢はジト目でこちらを見ながら不満そうに唇を尖らせている。
気のせいか、最近お嬢に思考パターンを読まれてる気がしないでもない
「多少な。ま、楽しい学院生活の為に交友は広げておこうと思ってね」
「楽しい学院生活、ですか…」
しかし俺の方針は変わらず、本音を適度に混ぜてあしらうことに。
楽しい学院生活の為と聞いて、お嬢は不満げではあったものの、それ以上は何も言ってこなかった。
そんなやりとりをしているうちに、思案顔をしていた舞が顎から手を離し、こちらに視線を移す。
「同い年で銀髪で身体能力が高い…それは恐らくC組のフィリス・レインハーツのことだろう。
それがどうかしたのか?」
「レインハーツ…」
レインハーツ…たしか鳳程ではないが戦闘魔導士の名門だな。
そういや昔、依頼で共闘した騎士団の団長がレインハーツと名乗っていたな…つーことはあいつの親族ってことか?
騎士団というのは、二つ名持ちの魔導士によって編成されている、政府直属の国の警備部隊のことだ。主に魔物の討伐や魔導士による犯罪の取締りをしている、魔法を使う警察と軍隊を混ぜたような部隊といえばわかりやすいだろうか?
おっと、話が逸れてしまったな。
「いや、さっき購買で見かけて面白そうな奴だと気になったんでな。
実際どんな奴なんだ?」
「私はあまり交流が無いから詳しくはわからないが、いつも無口で大人しく、どこか周りを寄せ付けたがらないような雰囲気を放っている…そんな感じだ」
俺の質問に舞は言葉を選ぶようにして答える。
「へぇ…なるほど。
情報提供感謝するぜ」
「あぁ、気にするn−ふぇ!?」
そう言ってつい舞の頭をわしゃわしゃと撫でてしまう。
…どうやら癖が再発したようだ……
俺達がまだ幼かった頃のある日、妹分である舞は俺の目の前で初めて魔法を成功させた。
その頃、まだ自分にも魔法が使えると思っていた俺は、先に魔法が使えた舞を羨みながらも、賞賛の意を込めて頭を撫でてやった。
舞はそれをえらく気に入ったらしく、以来、舞は何かいいことをする度に、褒美として毎回俺に頭を撫でることを要求してくるようになった。
それを繰り返しているうちに、俺は舞が何かする度に頭を撫でる癖が付いてしまったのだ。
舞は最初こそ戸惑っていたが、懐かしい感覚に襲われたのか次第に安心した表情になっていき、今はされるがままになっている。
俺はそんな舞の様子を見ながら
フフフ、これでも6年前までは毎日のように撫でていた頭だ。
こいつの好む撫で方など感覚的に覚えておるわ!!
見よ、この安心しきった顔を!フハーッハッハッハッハ!!
などと調子に乗っていた……
が、本音は
ノリと癖でやっちまったが、舞は俺の正体を知らないわけだから今手を離したら十中八九照れ隠しと怒りによる高火力魔法を叩き込まれてしまう…!!
と、内心己の迂闊さを呪いながらガクブルしていた。
だって、コイツの火力普通にヤベェもん…
魔法使えない設定継続中の俺からしたら荷が重過ぎる…
そこへ舞い降りる救いの女神。
「舞、そろそろ行かないと席が取れなくなってしまいますよ?」
お嬢きた!お嬢きた!これで勝つる!
…前にもこんなネタしたような…
「……ハッ!!そ、そうだな、急がなければいけないな、それじゃあ私は先に行って席をとっていることにしよう!では!」
「ぐふぉぅ!!?」
舞は我に返り早口に捲くし立てると、凄い勢いで走り去っていった…さりげなく俺の鳩尾に肘を叩き込んで…
「ふ、流石は我が妹…先の一撃に一点の濁りもなかったわ…そのまま精進するがよい…」
俺は己を超えた弟子を、慈愛に満ちた目で見守る老い先短い師匠のような口調で呟くと、そのまま床に膝を着いた。
「ざまぁwww」
どうやら翼が発狂状態から復活したようで、こちらを指差しながら笑っている。
…多少イラっときたので、先ほど何となくスっておいた、こいつの大好物である黒豚カツサンドとコーヒー牛乳を、後で容赦無く喰らっておくとしよう…
空腹状態で好物を食えない悔しさと、パンを水分無しに食うことにより襲い来る渇きに絶望するがいい!!
そんなささやかな反撃を胸中で考えていると、お嬢が手を差し伸べてくる。
「大丈夫ですか、煉?」
「あぁ、問題ねぇよ、このぐらい」
そう言って、俺はお嬢の手を借りずにスクッと立ちあがる。
そのことに不満げな顔をするお嬢に、俺は手をヒラヒラ振りながら笑みを見せる。
「ほれ、あんたもさっさと行きな。遅くなるとあいつが心配するぞ?」
「えぇ、そうします………」
そう言った後、お嬢何はやら迷っているかのように、視線を彷徨わせる。
俺は次に出る言葉を予想しながら、黙ってお嬢を見る。
「…あの、煉…」
「お嬢、わかっているとは思うが、舞に俺のことは話すなよ?」
そして、意を決したように口を開くお嬢を、俺は用意していた言葉で遮る。
このやり取りは、実は二日前からしている。
お嬢はやはり、俺が舞に正体を明かさないのを納得していないようで、俺と舞が接するたびに説得してくるのだ。
「…しかし、それでは舞が…」
「俺は風来坊な『不』良である白神煉夜で、あいつが求めてんのは優しいお兄様である鳳煉夜だ。
そのお兄様が中身外見が変わり、今の俺みたいな野郎になっているのを知ったら、失望して傷つくだろうよ。
それはそれで面白そう…冗談だからそう睨むな」
お嬢の言葉を遮り、俺はお嬢の睨みを受けながら自嘲するかのように薄く笑う
お嬢はこれ以上何を言っても無駄だと判断したのか、諦めたようなため息を吐く。
「…わかりました。私からは何も言いません…しかし、一ついいですか?」
「何だ?」
「あまり舞を甘く見ないでください。
あの子は貴方が思っているよりもずっと強く成長していますよ。
それに、最近の舞は貴方と話しているとき、本人は気付いていないでしょうが、とても明るい顔をしています。
先程もそうです。
先程貴方が舞の頭を撫でられている時、舞があそこまで安心しきった顔を、私は見たことがありません。
私は舞の話でしか昔の貴方を知りませんが、あの子は今の貴方でもきっと受け入れてくれますよ。
それでは」
お嬢はそう言って慈愛に満ちた微笑を浮かべ、その場を去って行った。
「今の俺を受け入れてくれる、ねぇ…」
俺はその背中を見送りながら小さく呟き、誰からも見られないよう薄く、酷薄に嘲笑を浮かべる。
「なぁ、高宮ちゃんと何話してたんだ?」
そこへ、翼が手を頭の後ろに組みながらのんびりと聞いてくる。
俺は笑みを消し去り、いつも通りの表情を創り、答える。
「んぁ?なんでもねぇよ。
それよりさっさと飯食いに行こうぜ?
腹減ってしょうがねぇ…」
「だな、あいつらも待っているだろうし、最後の一個だった黒豚カツサンドも俺を待っているしな!!
あぁ~早く食いてぇ~!!」
「…そうか」
そう言って、ウキウキしたようにパンの入った袋を振り回す翼に、俺はポケットの中にある黒豚カツサンドを弄びながら、生温かい笑みを向けるのであった。
再び屋上に向かうべく談笑しながら歩いていると、廊下の先に人だかりが出来ているのに気付く。
「…んだありゃ?」
「あぁ、大方生徒会の人間とその関係者だろ。
よろっと行事も近いし、昼休みもそのお仕事って所かな」
「…生徒会?」
俺の呟きに翼が答え、この学院に入ってから初めて聞いた単語を聞き返す。
「あれ?お前見たことないのか?」
「生憎な。まぁ、特に興味も無かったし」
「ふぅん。ま、お前は転校してきてまだ一週間ちょいぐらいだからな。
わからなくても不思議でもないか。
生徒会ってのは、簡単に説明するならこの学院を取り仕切る、顔、成績、魔法の実力、全てが優れている完璧超人の集まりってとこだな。
生徒会長、副会長、書記の娘は見ておいて損は無いぞ〜!特に副会長はな……」
「へぇ、全てが優れている、ねぇ…」
何やら横で熱弁し始めた翼を無視し、少々興味が湧いたので人だかりの中心で、顔を不機嫌そうにしかめながら何やら指示を飛ばしている男を遠目から観察してみることに。
身長は170後半ぐらい。
赤髪オールバックで、端正な容姿に黒縁メガネをかけており、知的な印象を受ける。
魔力は…100000ちょいって所か。
身のこなしからして多少武術の経験はありって感じかね。
「ありゃあ、2年の男子副会長、沢白先輩だな…」
つい癖で観察から分析に移行していると、いつにまにか説明を止めていた翼が、つまらなそうな様子で呟く。
大方、女子の生徒会役員を期待していたのだろう。
「へぇ、あれが副会長ね…ま、もうどうでもいいな。
行くぞ、翼」
「あぁ、そうだな。
男の生徒会役員に興味なんて無いしな」
俺は沢白とやらに対する興味が失せたので、翼と噛み合わない会話をしながら人混みの横に空いている道を通ろうとする。
すると、俺の肩が副会長にぶつかってしまう。
「あ、わり」
おざなりだが一応謝罪をし、特に気にせずそのまま去ろうとする。
しかし
「待て貴様、人にぶつかっておいて何だその態度は?嘗めているのか」
なんか絡まれた。
俺は足を止め、此方を睨んでいる赤髪眼鏡に視線を移す。
「一応謝罪はしたはずだが?」
「誠意が込もっていない。
そんな形だけの謝罪で納得できると思っているのか?」
その言葉と態度でなんとなく理解する。
どうやらこの男は仕事の忙しさ故か苛立っており、ちょうどぶつかってきた俺を、八つ当たりするためのカモに選んだのだろう。
全く持って迷惑極まりなく面倒くさい…
少しからかうか
「さて、この世に肩がぶつかった程度で、真に誠意を込めて謝罪できる人間が果たして何人いるのやら…」
そうは言って俺は大袈裟に肩を竦める
案の定苛立たし気に眉を吊り上げる赤髪眼鏡
「貴様…俺を馬鹿にしているのか?
俺は先輩で生徒会副会長だぞ?
口の利き方には気をつけろ、一年」
視線を鋭くし、威圧の真似事をしてくる赤髪眼鏡。
俺は親善大使だz…いや、なんでもない。なんとなく思い浮かんだだけだ…
それにしても面倒だな…ちゃちゃっと済ますか。
「あぁ、副会長でしたか、これは失礼。
貴方如きを敬う気なぞさらさらありませんが、副会長殿が言うならばなら仕方ありませんね。
先程は副会長殿に私のような下賎な者がぶつかってしまい、誠に失礼致しました」
俺は嘲笑を浮かべながら床に片膝を着き、わざとらしい程恭しく頭を下げる。
この光景を、何も知らないギャラリーは怪訝そうに赤髪眼鏡に視線を向けている。
周囲からこの光景がどんな風に見られているか多少気になるところだ。
「くっ!!貴様ふざけやがって、そこに直れ!俺直々に指導してやる!!」
怒りに顔を髪の毛と同じ色に染め上げ、手を俺に突き出し魔力を溜め始める赤髪眼鏡。
周りはそれを見て、ざわめき慌てふためく。
そんな中俺はというと…
「嫌ぁ~~~、調教されるぅ~~~」
『!?』
ここまでくると逆に素晴らしいのではないかと思える程の棒読みで…且つ辺り全体に聞こえる声で俺は声を上げる。
予想通りその場は更に混乱し、赤髪眼鏡に至っては怒り、焦り、戸惑いにより相当テンパッている。
ちなみに、俺のこの迂闊な行動により、後に一部の女子から『白×沢』や『沢×白』などと騒がれることになるのだが…まぁ、それは置いておこう。考えたくもない…
話がまた逸れたが、俺はこの混乱に乗じて逃げようとするが
「き、き、貴様…もう許さん…!!塵も残さず吹き飛んでしまえ…!!」
赤髪眼鏡に気付かれ、手を突き出される。
手に溜めた魔力は、明らかに周りにも被害がでる程に溜まっており、目が血走っているのがわかる。
からかいすぎたか…つーか短気すぎだろ…
などと思いながらも、よろっと危険と判断し、赤髪眼鏡を気絶させるべく手刀をつくる。
そこへ
「どうされましたか、沢白さん?」
優しげな、それでいて凛とした力のある声が聞こえてくる。
そのどこか聞き覚えのある、懐かしい声音に俺は立ち上がり、赤髪眼鏡を無視して振り向く。
儚げで透き通るような雪肌で、腰ほどにもあるまっすぐで艶やかな黒髪。モデルも裸足で逃げ出すような美貌に均整のとれた体。
そして、他を圧倒する程の強大な魔力と、全てを優しく包み込むような柔らかな雰囲気。
皆が彼女の登場に息を呑み静まり返る中、俺だけは、この人は変わらないな、と無意識にフッと笑みをこぼす。
そこには鳳家次期宗主にして、俺の姉貴分である美少女。
鳳咲夜が立っていた。
「あ、ああ、いや、そ、そのだなぁ、鳳…」
我に返った副会長が、先程の俺に対する態度から一変。
顔を違う意味で真っ赤にしながら、しどろもどろになりながら説明し始める。
その様子を見て俺はニヤリと笑う。
ククク、なるほど。コイツは高嶺の花に心奪われた男ってところか
念の為咲夜から距離を取りたいが、今動けば確実に咲夜の意識は此方に向くだろうし、気配を消せば逃げれるだろうが、精神的に疲れるからやりたくない。
結果、赤髪眼鏡の弱みでも握っておくこと。
携帯でこのあたふたしている姿を写真に写すか、それとも上擦りまっくている声を録音しようか迷うな…
そんなことを考えているうちに、話は進み、赤髪眼鏡は話を逸らそうと話題を変えようとする。
「お、鳳はどうしたんだ?仕事は?」
「私は仕事がひと段落着いたので、これから昼食を…」
咲夜はそこまで言葉を紡ぐと、不意に此方に視線を向けて、固まる。
何やら呆然とこちらの顔を見ているようだ。
…気付かれたか?いや、それはないか。
自分で言うのも何だが、昔の俺は黒髪黒眼で、穏和で優しげな顔をしていた。
しかし、今の俺は白髪銀眼で、はっきり言って目つきの悪い悪人面だ。舞が気付かなかったのだから咲夜も…
「れ、れ、煉夜ぁ!!!」
「ぐほぁっ!!」
そこまで考えた所で、咲夜が俺に勢いよく抱きついてきた。
「あぁ、会いとうございました、愛しき弟よ!!
6年前、いきなり日向さんがあなたを外武錬に出したと言い出したのですから、姉は心配したのですよ!?しかし帰ってきてくれて私は本当に嬉しく思います!!」
先程までの毅然とした態度から一変。涙目で甘えるように俺の胸に頭をグリグリとこすりつける咲夜。
落ち着いた雰囲気と行動とのギャップがなんともまぁ…
ちなみに日向とは俺の親父の名前だ。クソッ、思い出したくもない名前を思い出しちまった。
それにしても、どうしようか…速攻でバレちまった。
しかもご丁寧に姉弟発言までしやがって…
この様子じゃあ、俺は別人ですって言っても聞かないだろうし、何より周囲の目が痛い。
「姉…弟…?」
「あぁ、咲夜様があのような目つきの凶悪な暴漢に…」
「高宮さんだけじゃあ飽きたらず副会長とまで…」
「そういえば舞さんとも仲良かったよな…」
「リア充爆発しろ」
「いっそのこと俺の手で…」
「いや、俺が…」
「なら止めは私が…」
…………
「退くぞ!翼!!」
「え、退くの!?つーか、お前鳳先輩と…」
「説明は後だ!そして此処は戦場だ!!
背を見せたらワンショットキルされっぞ!?」
「ワンショットキル!?つーか現在進行形で背中見せてんぞ!?
あぁもう!!お前マジで後で説明しろよ!?」
俺は翼とギャーギャーと口早に言い合いながら、咲夜の拘束からスルリと抜け出し、全力で逃走を開始する。
「あ、待つのです煉夜!廊下は走ってはいけません!!」
…6年振りに再会した弟が逃走して言う言葉がそれかよ?
そう心の中でツッコンでいると…
「逃げたぞ!!奴らを追えぇぇぇぇぇ!!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
何故か沢白副会長を筆頭とした周りいたに生徒…否、暴徒達が俺達を追ってくる。
今此処に、リアル鬼ごっこが開始された。
『彼の者を焼き払え…ファイアーボール!!』
『風の精の気紛れな拳…ウィンディ・フィスト!!』
背後から俺達に向かって飛来してくる火の玉と風の礫。
それらを俺は経験と感覚で、翼は勘で避ける。
「うぉっ!今あいつら魔法使ってきたぞ!?」
「伊達に超名門じゃねぇな…一撃一撃の魔力密度が…」
「てめぇ冷静に分析してる場合か煉夜ぁ!?どうすんだよこの状況!?」
激しくなる暴徒の攻撃を器用に避けながら、頭を抱える翼。
それでもしっかりパンを守れているのは流石だと思う。
チラッと背後を見る。
俺達クラスの身体能力の人間は向こうにいないようで、追いつかれてはいないが、此方は魔法を躱しながら走っているため走る速度が落ち、奴らを振り切れない。
このままじゃあジリ貧だな…さて…
そして、少し考えた所で不意に閃く。
「つーか俺関係無かったじゃん!あきらかにとばっちりじゃん!?」
「落ち着け翼、まだ慌てるような時間じゃない…
俺に策がある」
「全部お前のせいだがな!
まぁ、この際逃げられるならなんでもいい!
で、その策ってのは!?」
「よし、あそこに曲がり道があるだろ?そこでだな…」
俺は走りながら素直に話を聞く姿勢になる翼を見て一つ頷くと、前方にある曲がり角を指差す。
翼はその指の先にある曲がり道に意識が向く…その瞬間
「スケープゴート投入!!」
「なっ!!?」
俺は翼の足を払った。
意識が前に向いていた翼は、下からの強襲により転倒する。
これぞ我が策…『The☆裏切り!!』
「言った筈だ、翼…此処は戦場だと…
仲間がいつまでも仲間であるなんて限らないんだぜ…?」
「ちょ、煉夜てめぇ!!いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は振り返ること無く前だけを見て走る。
そして背後から聞こえてくる爆音と怨嗟混じりの断末魔。
翼は犠牲になったのだ…
成仏しろよ、翼…骨は拾ってやらんこともないから…
心の中で翼に合掌し、道を曲がろうとしたところで、茶髪の中等部の少年とぶつかりそうになる。
普通の奴ならこのままぶつかるだろう。
しかし、俺は反射的に体を捻り回避行動を取る。
だが、相手も同じように避けようとしたらしく、避けた方向が一緒になる。
へぇ、あのタイミングから避けるようとするか。…だが
ぶつかる直前、俺はそこから更に逆方向に体を捻り、相手を抜き去ろうとする。
しかし、目の前には相手の姿が。
あそこから更に避けるだと?やるねぇ。
相手は俺が同じ様な行動をするとは思っていなかったらしく、驚いたように目を見開き、その後衝撃に備え目を瞑る。
ま、いい動きだったが、そこで目を瞑るようじゃあまだまだだな。
俺は少年とぶつかる直前、体を捻った勢いを利用して跳躍し、空中で足を半円を描くように体勢変え、少年の頭を飛び越える。
これまでのやり取り、1秒弱。
俺は着地すると勢いを殺さぬまま再び走り始める。
そして去り際に、何が起きたか分からないような表情をしている少年に賞賛を送る。
「いい動きするじゃねぇの、頑張れよ若人!!
お兄さんは現在進行形で頑張ってるからぁぁぁ!!」
「え?あ、ちょっと待…」
「ちょ、てめぇ待ちやがれ煉夜ぁ!!」
少年の言葉を遮りどうやら上手く逃げられたらしい、ボロボロになった翼が声を上げながら並走してくる。それでもしっかりパンを(ry
俺はそんな翼を見て、あからさまに溜め息を吐く。
「んぁ?何だ、生きてたのか翼。
ったく、囮は囮らしく時間でも稼いでろや…」
「ハッハッハ!いいよね?キレていいよね?
今の俺ならカッとなって人を殺めた犯罪者の気持ちわかるぞ?」
「ハイハイ、ワロスワロス」
「殺ぉす!!てめぇだけは今俺の手で殺ぉす!!」
「面白ぇ、殺ってみろやグラァァァァァ!!?」
「カッとなって殺りますぅうぅぅぅぅ!!!」
お互いに走りながら胸倉を摑み、そして小競り合いをしながら更に速度を上げ、屋上まで一気に駆け上がる妙なテンションの俺達。
このとき俺は気付かなかった
「今のは、まさか…兄さん…?」
遠ざかる白髪を見つめる、先程ぶつかりそうになった『弟』がそう呟いたことを…
となラー(隣のラーメン屋略)夏のキャラ祭り到来〜!
今回は名無しを含めて4人の新キャラが出て来ました。
もう少し出す予定ですが、一応翼も沢白もそれなりに設定があるので、設定のあるキャラを作るのは結構キツいです…
それに加え行事もかんがえなきゃいけないし…
ま、泣き言はこれまでにして、とりあえず新キャラ候補のイメージです
ヒロイン候補
天才型ダルデレ
素直クーデレ
飄々
天真爛漫
世話焼きお姉ちゃん
幽霊、ドラゴンなどの人外
従順
姉御肌
高飛車ツンデレお姫様
小動物系ロリ
*
男キャラ候補
高スペックナルシスト
堅物真面目いじられ
ノリの良い冷静馬鹿
万能イケメン
地味ツッコミ
ツンデレヤンキー
謎の多い飄々
渋い兄貴
と、こんな感じです。
案外多いな…
この作品は一応ハーレムを銘打ってますが、別に侍らすつもりもないので、とりあえず面白そうなら出してみようかと…
もし、出して欲しい属性があるなら感想に書いてドシドシ送ってください。
それではまたお会いできれば幸いです