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12話(修)

天壌之位の説明を修正しました。


ストーカー編完結!

遅くなってすいません!

一週間に一つ更新するつもりだったんですが…


早く学院生活に戻したいが為にいろいろと詰め込みすぎ、話がグチャグチャになっている気がしないでもありませんが、楽しんで貰えたら幸いです。

今回の後書きは魔法がまったく登場しなかったので、軽い裏話を掲載します。

あの後俺は寮の近くに『(ゲート)』を開き、そのまま部屋に戻った。

部屋に入るなり翼から何やらラブレターやら女の子やら訳の分からないことを聞かれたが、とりあえず煩かったので強めの手刀で気絶させておいた。明日の昼過ぎまで目は覚まさないだろう。

そして現在、俺は電話していた。


「…つーわけで、お前んとこの下っ端がやらかした訳だ。ど〜すんだ?〈革命(ヴァル)楽団(ゼクス)〉の存在が公になると思うが?」


『最近見ないと思ったら彼そんなことしてたんだ。組織が公になるのは楽しくなりそうだから別にいいんだけど、やり方が気に食わないね〜。そんなやり方で組織大きくしてもつまんないのに…』


「相変わらずの楽観主義者だなぁ、オイ。まぁ、此方としては楽しめたから別にいいんだがな」


『キャオちゃんを一人で倒したんだっけ?流っ石煉夜、やるやるやるぅ〜♪』


「お前が気に入るだけあって、Bランクにしちゃあなかなかに強かったわ。

尤も、初めから真面目にやってりゃあ魔法無しでも殺れただろうがな…つーか、キャオちゃんて…」


『可愛いでしょ?煉夜は昔から敵の様子を見すぎなのよ。初めから攻めまくればいいのに。

ま、なんにせよやっぱSランク召喚獣契約者は違うわね〜。

Bランクって言ったら騎士団一個隊ぐらいの力があるのに』


「よく言う…お前もSランク召喚獣契約者だろうが」


『まぁね〜♪それより煉夜、いい加減私の組織に入る気にならない?

私はいつでも大歓迎よ?やっぱり貴方がいないとつまらないのよ〜』


「パス、絶対面倒。んじゃ、よろっと眠いから切るわ」


『あ、待って!その前に連絡先−−』

「おやすみ〜」ピッ


そう言って俺は通話終了ボタンを押すと、使っていた使い捨て用の携帯を白銀色の波動で消し去る。

こうでもしないとアイツからずっと着信がきて非常にウザったいからだ。


ま、面倒そうではあるがアイツが作った組織ってのには興味あるな。この仕事が終わったら会いに行ってみるかね…


俺は一つ息を吐くと、充電器に携帯を差し込み、ベッドに寝転がる。


終わり、か…そうか、高宮の爺さんの下にあの男が無事送り届けられれば俺の仕事は終わりな訳か…


先程の自分の胸中の言葉を反芻しながら目を閉じ、追憶に想いを馳せる。

初めて高宮の爺さんと出会った時は、刺激の無さそうな仕事だと落胆した。

しかし、依頼内容を聞いて、少しは楽しめそうだと気を持ち直した。


まさか学生をすることになるとは思わなかったがな…


ククク、と笑いながら此処でのことを思い出していく。

6年振りに出会った妹分。

顔や動きなどでわかるが、しっかりと精進しているようで何よりだ。まだまだ甘いがな。

転校してきたばかりの俺にいろいろと協力してくれた現在床に転がっているバカ。

コイツには何気にいろいろと助けられた。コイツがいなければクラスにたった数日間で馴染めなかっただろう。

他にもいろいろとバカを言い合ったり、ふざけあったりした級友。

そして、面白い程に真っ直ぐな目をしたお嬢様。

最初はただの警護対象でしかなかった。

しかし、少しばかり交流を持ってみればなかなかどうして…俺の仮面を見破っただけでなく、敵だろうと傷つけられない程甘く弱いかと思えば、その敵を身を挺して守る程の覚悟と強さを俺に見せつけた。本っ当に俺の調子を狂わせてくれる、なんとも面白い女。


思い返せばたった一週間しかいなかったが、なかなかに有意義な時を過ごせた。

それだけでも負の思い出ばかりのこの地に来て良かったと多少は思える。


たまにはこういう生温い仕事も悪くはないかね。


眠気により徐々に鈍化していく思考でそんなことを考えながら、睡魔に身を委ねる。


…そういや村園女史放置しっぱなしだった気が…まぁいいか……


そして、最後にどうでもいいことを思い出し、俺の意識は闇に堕ちていった





次の日


AM5:30


ピピピピ、ピピピピ


とまだ設定していない無機質な着信音が早朝の部屋に鳴り響く。

俺はその携帯の着信音で目が覚め、枕元に充電状態で置いておいた携帯を手に取る。

ディスプレイを見てみるとその着信は高宮の爺さんからだった。


「五時半に電話してくるとか…老人の朝は早くていけねぇな…」


などと愚痴りながらも頭はしっかりと覚醒している。

海外にいた頃よく寝込みを襲われていたので、俺は寝起きでも瞬時に覚醒できる体になっている。


二度寝し難いのがアレだがな…


などと考えながら携帯を手の中で弄ぶ。

ここで通話してもいいのだが、俺はなんとなく『(ゲート)』を開き、誰もいなさそうな校舎の屋上に移動することにした。





誰もいない早朝の屋上。

ここは何気に俺のサボりスポットの一つで、お気に入りの場所でもある。

屋上はでかい校舎に比例してとても広く辺りにはベンチやテーブルが置かれ、手入れの行き届いた花や木などの植物が植えられている。いわゆる屋上庭園という造りなのだろう。

俺は4メートルはあるであろうフェンスの上に飛び乗り、眼下に広がる故郷の景色を見下ろす。


此処からの景色も今日で見納めかね…


などと柄にもなく感傷に浸りつつ、青空と出たばかりの太陽を眺めながら通話ボタンを押す。


「よう、老人の朝は早ぇな」


『早朝に済まないね。しかし、そう言う割には随分とスッキリしたような口調だが?』


「寝起きは良い方なんでね。それより要件は…何て聞かなくてもいいか。依頼の件だろ?」


『あぁ、そのことについて話がしたい。急で済まないが、この後6時に前と同じレストランに来てくれないか?今ぐらいしか時間が取れないのだよ』


「大企業の会長殿は忙しそうだねぇ…ま、別に構わんがな」


『そうか、それではすぐに迎えを寄越そう』


「いや、必要無ぇ」


『そうかね?学院からあのレストランまで結構な距離があるが…いや、君が必要無いと言うのなら大丈夫なのだろう。それではまた後で…』


そう言い残して通話を切る高宮の爺さん。

現在の時刻5時40分

座標は特定できているから『(ゲート)』で移動は一瞬で済む。つまり時間まで後20分…仕事時は5分前行動を心掛ける俺には後15分の時間がある訳だが、さて…


「…とりあえずシャワーでも浴びるか」


昨日風呂に入り忘れてたのを思い出し、自室に戻りシャワーを浴びることにした。







「さて、そろそろ行こうかね」


シャワーを10分で済ませ、身支度を整えること3分。

俺は纏めておいた荷物を持ち、目の前に『(ゲート)』を開き、足を踏み入れる。

踏み入れた所で俺は振り返り、一週間使っていた部屋と友人に目を向ける。


「じゃあな、遅刻すんなよ〜」


聞こえてはいないだろうがそれだけ言い残し、俺は改めて『(ゲート)』を潜った。



(ゲート)』を潜ると一瞬にして寮の自室から一週間程前に訪れた高級レストラン前へと場所が変わる。


「5時54分到着、と」


俺はレストランの扉に近付き、ドアノブを掴もうとする。しかし掴む前に扉が開き、中から何故かメイドが姿を現す。


「……」


俺は一歩後ろへ下がり、看板を見てみる。

やはりメイド喫茶とは表示されていない。


…っかしいな〜、昨日の戦闘でさほど疲れは無かった筈だが…何かメイドの幻影が見える…欲求不満か俺?しかし俺にメイド属性は無ぇ…


「白神様でございますね?会長とお嬢様が先にお待ちになっておられます」


半ば現実逃避していると不意に声を掛けられ、俺は我に返る。


「ん?あぁ、悪ぃな。ところで俺今日も私服だけど大丈夫かね?」


「えぇ、構わないそうです。お望みとあればすぐにでもスーツをご用意致しますが?」


「遠慮させてもらうわ。堅苦しいのは苦手でね」


「そうですか。お荷物をお持ちします」


「別に貴重品が入っている訳でもないが、よろしく」


差し出された手に持ってきた荷物を手渡す。

こういう時は遠慮した方が相手に失礼なのだ…まぁ、元々遠慮なぞする気もなかったが…


「ハイ、それでは此方へ…」


俺から荷物を受け取ると侍女は踵を返し、案内の為に先を歩いていく。

俺もその後を続いた。少しばかり歩くと豪奢でシックなデザインの広いホールに着く。

そのホールの中央にある円卓に、高宮の爺さんとお嬢の姿が見える。

2人の背後に付き従うように立っている黒服の男と侍女が何ともシュールな感じだ。

俺はその場へと進み、案内侍女が引いてくれた椅子に座る。

案内侍女は一礼し、そのままお嬢の背後へと下がる。


「おはようございます、煉」


「おはよう、白神君。こんな朝早くに申し訳ないね」


「おはようさん。ま、依頼主の呼びかけには流石に答えんとな」


そう言って出された水を一口飲む。


「で、俺に何か用か?」


「まぁ待ちなさい。折角レストランに来てもらったんだ。少し食事を楽しもうじゃないか」


高宮の爺さんがそう言うと、ウェイターとメイドが料理を運んでくる。


…なんでメイド?


そんな疑問を抱かないでもないが、ツッコんだら負けと自分に言い聞かせ、俺は料理を食し始めた。



前にも来たことあるが、やはり高級レストランというだけあり料理はとても美味い。

俺達は適当な雑談をしながら食事を進め、皆が食べ終わったのを確認すると本題に入ることにする。


「さて、一通り食事は終わった訳だが、俺を呼んだってことは何か問題でもあったのか?」


「いや、問題は特に無かった。犯人は犯行を認めたしの」


「そうかい。そいつは良かったじゃねぇの。これで俺はお役御免って訳だな」


肩を竦め笑いながらの俺の言葉に、何故かお嬢の肩がビクッと跳ね上がり、その顔は悲しげに歪む。


?よくわからんが、なんつー顔してんのかね、このお嬢さんは…

ま、今は仕事を優先させてもらうがね。


「で、犯人のことじゃないってなら何のために俺は呼ばれたんだ?」


「うむ、話というのは男の所属していた組織のことについてだ。優奈から聞いたが君は何やらその組織を知っているらしいじゃないか」


「あぁ…」


大切な孫が襲われたんだ。その襲った組織が気になるのは当たり前か…


「確かに知っているな」


「そのことを教えてくれないかね?」


「…別に構わんが、依頼内容に情報提供は無かった筈だが?」


冗談混じりに薄く笑う。

そして感じる殺気の数々。

俺の言葉と態度を、主を馬鹿にしたモノと判断した黒服と侍女から放たれたモノだろう。


へぇ、全員よく訓練されてやがる…殺気が心地いいねぇ…


内心で彼らを賞賛するも、それらを素知らぬ顔で流しながら高宮の爺さんの目を見やる。



「ふむ、そうだったな。では情報料として報酬を上乗せしよう」


「まいど〜」


ふむ、反論せずに受け入れ、此方にもメリットがあることを提示するか…まぁ、常套手段ではあるな。とりあえず報酬が増えてラッキー

何やら周囲の視線が痛いが、そこは気にしない方向で。


「んじゃ情報提供といきますか。尤も、俺は組織の頭と面識があるだけだから、内部についての情報はさっぱりだから、そこんとこは、あしからず」


そう前置きをしてから俺は〈革命(ヴァル)楽団(ゼクス)〉について話し始めた。


……

………


「…つーわけで、あの組織はもうお嬢を襲わないと思うぞ?アイツは金や権力より力を求める奴だからな」


俺の話を興味深そうに神妙に聞いている高宮の爺さんに目を向け、一通り話終えた俺は水を一口飲む。

あ〜、長話の後の水分は美味だねぇ〜


「なるほど…しかし〈革命(ヴァル)楽団(ゼクス)〉か…聞いたことのない組織だな…」


「そりゃそうだろ。俺がアイツと別れたのが2年前だ。たった2年で0からスタートした組織に何ができるよ」


それも思い付きとノリで生きているような女だ。

組織を作ったのも半ば思い付きとノリなのだろう。

いや、一応目的はあるらしいが…


「ふむ…では盟主のシルヴィアとやらについては?」


「あいつに関しては説明事項が多すぎて面倒だから一言で済まさせてもらう。あいつの位は天壌之三位(てんじょうのさんい)だ」


『!!?』


俺の言葉に高宮の爺さんとお嬢だけでなく、背後の黒服と侍女達もざわつく。


天壌之位(てんじょうのくらい)の魔導士…つまりは魔王の一人ということか…」


「そそ、端的に言うならば人の域を軽く超えた化物だな。つーわけで、あいつとはこと構えない方が得策だな…」


ま、それは俺もだがな。と、心の中で付け足し、水を一口飲む。

そして、何やら黙り込んでいる2人の様子を見て、席を立つ。


「さて、話は終わりか?終わったんなら俺は行くぞ…っと、その前に…」


俺は侍女の下へ歩み寄り、持ってきた荷物を受け取ると、その中から制服と一枚の封筒を取り出す。そして、それらを高宮の爺さんの目の前に差し出す。

高宮の爺さんは渋い顔をしながらそれらを受け取り、お嬢はそれらを見て驚愕する。


「制服と退学届けだ。一応形式だけでもちゃんとしておこうと思ってね。そんじゃ、サヨナラだな、お嬢」


「煉…行ってしまうのですか?」


お嬢は悲しげな顔をして俺を上目遣いで見上げてくる。

俺はその目を見返しながら肩を竦める。


「今回の依頼内容は『高宮優奈をストーカーから守り、ストーカーを捕らえるまでの間ルミナス魔法学院に潜入』っつーもんだったからな。依頼が達成した今、俺があそこに通う理由は無ぇのさ」


「しかし…」


「何、別に今生の別れって訳でもあるまいよ。いずれまた会う機会もあるだろ」


そう言って手をヒラヒラと振りながら踵を返す。


「待ちなさい。どこに行くのかね?」


しかし、厳かな声に呼び止められ、俺は顔だけ高宮の爺さんに向ける。


「そうさな…また適当に世界をぶらつくさ。

風の向くまま気の向くまま、ってな」


「私はまだ君の退学を承諾していない」


「…あ?」


高宮の爺さんはそう言った後、俺にとっては重要な単語を口に出す。


「悪いが君の経歴を調べさせてもらったよ。鳳煉夜君」


「…え、鳳って…?」


「…やれやれ、前言撤回だ。大企業の会長も案外暇なんだねぇ」


高宮の爺さんが言った単語に、お嬢は呆然と呟き、俺は高宮の爺さんに向き直り、苦笑を漏らす。


「おや、随分あっさりと認めるのだね。てっきり否定するかと思ったのだが…」


「何をほざきやがる狸爺が。

目ぇ見りゃ何かしらの確信があるから言ってるってことぐらいわかるんだよ。

否定して余計なことを言われちゃたまんねぇからな…」


わざとらしい程不思議そうに聞いてくる高宮の爺さんに、俺は悪態を吐きながら溜め息を吐く。

そこで、ふとお嬢が俯いているのに気付き、そちらに視線を向ける


「どういうことですか…?煉が鳳の…?では舞が慕っていると言っていた兄というのは…」


「…あぁ、あいつが何と言っていたかは知らんが、6年前、確かに俺はあいつから兄と呼ばれていたな」


呟くように小さな問いに俺が淡々と答えた瞬間、お嬢は顔を上げ俺をキッと睨むと、激情を吐き出す。

他でもない親友の為に…


「…何故…何故舞に何も知らせずに家を出たのですか!?

何故舞に連絡の一つもしてあげなかったのですか!?」


「………」


俺はお嬢の目を見返しながら、とりあえず黙っておく。


「舞とは中学校からの付き合いですが、よくあの子は貴方のことを話してくれました。楽しそうに、誇らしげに…しかし、決まって最後は寂しそうな、悲しそうな顔をするんです…貴方はあの子がどれだけ貴方を心配していたかわかりますか!?あの子がどれだけ貴方を慕っていたかわかりますか!?あの子が…」


「…優奈。少し落ち着きなさい」


「お祖父様…」


お嬢の勢いが増してきた所で、高宮の爺さんが宥めに入る。

周りの黒服、侍女連中は唖然としている。

恐らくは普段温厚な彼女が怒っている姿を初めて見たからであろうと、推測しておく。


「どうやらその舞君とやらは勘違いをしているらしい…彼は何も自分の意思で家を出たわけでもなく、ましてや修行に出たわけでもない」


「…どういうことですか?」


「…おいコラ待てや」


何やら暴露話をされそうな予感がして咎めてみる。


「資料によれば彼は…6年前に鳳家から追放されているのだよ…無能を理由としてな…」


しかし、スルーされる。

人権って何なんだろう


「追、放…?しかし舞は海外に修行しに行ったと言っていましたが…?」


「……」


それは恐らくあいつは外武錬をそのまんまの意味で捉えているからだろう。

俺は鳳の姓に相応しい力を付ける為に海外へ武者修行をしに行った、と…

その本当の意味を理解しないで…


そして尚も続く暴露話。

本当にどこから仕入れてきたと不思議に思う程、正確な情報で、俺は高宮の情報網の広さに戦慄を覚えていた。


「…ごめんなさい。貴方のことを何も理解しないで一方的に怒鳴り散らしてしまって…」


俺の強制海外旅立ちの話を一通り聞き終えたお嬢は、先程の勢いはどこへやら、しゅんと気落ちしたした表情で謝ってくる。

こういう湿った空気が嫌いな俺は肩を竦ませながら答える。


「気にしてねぇよ。結果的にあいつを悲しませたのは事実だ。

ま、それよりも、俺はあいつの為に全力で怒ってくれる奴を見て安心したがね。

どうやらあいつはいい友人を持ったようだな…これからもあいつを支えてやってくれや」


「…ハイ!」


俺の笑いながらの言葉にお嬢はしっかりと返事をした。

それを高宮の爺さんは微笑ましそうに眺めている。


「よし、話が纏まった所で俺は行くわ。報酬は3日以内に俺の口座に入れといてくれ。さもなくば物理的にあんたの会社全て潰してやるから。んじゃ」


「だから待ちなさい」


そう言って抜け出すチャンス到来!と、言わんばかりにそそくさと立ち去ろうとするが、案の定止められる。


うん、どうでもいいが、俺が帰ろうとするたびにお嬢が悲しげな顔をするのは正直止めて貰いたいね。

大分磨り減っている筈の良心にチクチクくる。


「話が大分逸れてしまったね。君の経歴を見てみると、君は小学校、中学校共に出ていない。

高校ぐらい出ていた方が良いと私は思うが?」


その言葉を聞いて先程まで悲しそうな顔をしていたお嬢の表情が少し明るくなる。


現金だな、オイ


「経歴なんぞ偽造でいくらでも誤魔化せる。それに一応博士号ぐらいは取得しているから問題無い」


しかし俺は高宮の爺さんの誘いを遠回しに拒否する。

学院なぞ今更行く必要性を感じないからだ。


「…君自身気付いていないかもしれないが、君はその歳不相応に達観しすぎている。甘えられない環境で生活し、更に過酷な環境で育ってきた為にそうなってしまったのだろうが、今の君は危うい…どこかで羽を休めないといつか壊れてしまう…」


「………」


「老いぼれの老婆心だと思って。一つ学生として、子供として生活するのも良いと私は思うが?」


爺さんの目と言葉には説得力があった。

正直ここまで気を遣ってくれる高宮の爺さんに有り難く思う…しかし


「ハァ、その気持ちは素直にありがたいと思うが、経歴知ってんなら尚更止めとけよ。

俺ぁ足こそ付いちゃいねぇが、出るとこ出りゃあ立派な犯罪者だ。

一応それは俺の『位』によって半ば許されてはいるが、それでもそんなのが学院にいることがバレたらパニックに陥ると思うが?」


俺は皮肉気に笑いながら返答する。

位とは二つ名を与えられた魔導士…いわば一流の魔導士の中で、更に魔導士としての力を格付けしたものだ。

位は十〜一位、その上に天壌之五〜一位があり、数が若い程位が高く、天壌之位の魔導士は魔王と呼ばれるようになり、様々な権限を与えられる。


位が高ければ高い程ある程度の規則はあるが、それを守れば大抵のことをやっても許される。

例えば位の高い者は、政府と魔法協議会が納得できる理由さえあれば人を虐殺しても、街を半壊させても罪にはならない…など。


まぁ、流石に政府と魔法協議会連中も上位の連中を敵に回したくないため、規則は大分緩いがな。


俺は海外でいろいろ手を回したお陰で政府と協議会との繋がりがあり、尚且つ仕事のお得意様が政府と協議会のお偉いさん連中が大半などの理由により、犯した罪は大体もみ消されている。


「大体そんな汚れた存在を健全な生徒達の中に紛れ込ませていいのかい。高宮龍之介理事長さん?

知ってるか?リンゴ箱の中に腐ったリンゴを入れると周りも腐るって話。

クッハハハハ!

誰が腐ったリンゴだグラァ!?」


うぅむ…キレが悪いな、セルフノリツッコミ…周りの連中ドン引きしとる…


「しかしだね…」


「少しいいですか、煉?」


尚も説得してこようとしてくる高宮の爺さんを遮り、お嬢が声を掛けてくる。


「何だ?」


「この一週間、楽しかったですよね?」


「んぁ?何だ藪から棒に」


「答えて下さい」


お嬢の質問の意図がわからず、内心首を傾げながら一応素直に答える


「?…まぁ、刺激こそ無かったが、なかなかに楽しめたな…それが?」


「そうですか。なら、私からの依頼です」


「依頼?」


真摯な目で此方を見ながらお嬢は俺に依頼内容を提示する。


「この学院に、卒業まで滞在してください」


「…あ?」


…いきなり何を言い出すかこのお嬢様は。

高宮の爺さんも同じ様な心境らしく、呆れたような目でお嬢を見ている。


「依頼なら、貴方は学院に留まらなければいけませんよね?」


「…まぁ、確かにそうだが…一応聞いてやる。

その俺を馬鹿にしているようなふざけた依頼の報酬は何だ?」


俺は声音を仕事時の冷たいモノへと切り替え、お嬢の目を冷たく見据える。

しかしお嬢はそれに臆する様子はない。


「報酬は…沢山の思い出です」


「………はぃ?」


思わず間の抜けた声が漏れる。

それに構わずお嬢は言葉を紡ぐ。


「この学院には沢山の行事があります。その中には煉の言う刺激的なモノもある筈です。

それを私達と一緒に楽しみ、忘れられない思い出を作りましょう。それが報酬です」


それを聞いた俺は…


「ク、クク、クハハ、クハハハハハハハハハハ!!ハァーッハハハハハハ!!!」


勿論、爆笑した。


「な、なんですか?」



「ククク、いやいや、思い出ねぇ。こんなふざけた依頼と報酬を提示してきた奴は初めてだ。それに、碌に友達もいない奴の台詞じゃねぇわな」


「なっ!」


俺の言葉に、心外な!みたいな感じでお嬢は仰け反るが、背後の黒服&侍女連中は頻りに頷いている。


「クッハハハハ!…しっかし、やっぱアンタは面白ぇわ。

こんな依頼が通るとマジで思っていやがる…

…そんなアンタと一緒にいれば確かに退屈せずには済みそうだな…」


「え…それじゃあ…!」


笑いすぎて出てきた涙を拭いながら呟くと、それを聞いたお嬢が期待の込もった眼差しで俺を見る。

俺はそれに答えるようにハッキリと言葉を紡ぐ。


ったく。柄にも無く想像しちまったじゃねぇか…

お嬢や舞や翼達との楽しい未来ってやつを…


「あぁ、実にふざけていてどう考えても俺にメリットは無いが、それに乗るのもまた一興。ある程度条件付けさせてもらうが、それでいいなら受けてやる」


正直、ここで断ればそれはそれで面白いモノが見れそうと一瞬考えたが、そんなことをしたら背後の連中が黙ってなさそうだし、何より高宮の爺さんが何をやらかすかわからなかったので、止めておいた。


「本当ですか!?」


そんなことを考えていた手前、お嬢の歓喜に満ち溢れた顔を直視できず、視線を高宮の爺さんに移しながら頷く。


まぁ、俺もあそこでの生活は嫌いじゃないしな


「二言は無ぇよ。つーわけだ。いろいろと渋っていたが、お望み通り学院に滞在してやるよ」


俺はそう言って高宮の爺さんに手を差し出す。


「フッ、そうか。

なら理事長として歓迎の言葉を授けよう。

ようこそ、ルミナス魔法学院へ。

ここで友や先達と共に沢山の忘れられない思い出を作ってくれたまえ」


「ま、しばらく世話になるわ」


高宮の爺さんは俺の手に先程渡した制服を持たせると、退学届けをビリビリと破り捨てた。


俺は制服の上だけを羽織り、出口へ向かって歩き出し、すれ違いざまにお嬢の頭に手をポンと乗せて、耳元で囁く。


「あんなふざけた内容の依頼をこの俺に出したんだ。

精々俺を楽しませて、思い出とやらを沢山くれよ?優奈」


「勿論です…え、今名前で…?」


お嬢が何かを言っているが、俺は気にせず学院まで『(ゲート)』を開き、そのまま中へ入っていく。


学院生活、か。楽しませてもらいますか。


俺は知らず知らずのうちに笑みを浮かべながら、移動して目の前に現れた学院を見上げる。


「うん、とりあえず今日も絶好のサボり日和だな」


そう呟いて、俺は寮へと向かった。

ちなみにこの後俺は、昨日放置しっぱなしにしてしまった村園女史に捕まり、攻撃のフルコースを再び喰らうのだった。




オマケ



「行ってしまいました…」


謎の門に入っていった煉の姿を見送った後呟く。

いま考えてみると、私は大分図々しいことを頼んだ気がする。

あの時の私は、彼が私達の前からいなくなる…そのことを考えたら切なくなり、いてもたってもいられず、あのような依頼を出してしまったのだ。

正直断られたらどうしようとドキドキしていたし、こんなに積極的になったのは初めてのことだった。

そして、彼が笑顔で承諾してくれたのを見て、胸の内が満たされた感じがした。

彼に名前を呼ばれた時は悲しみとは違う切なさがこみ上げてきて、胸が大きく高鳴った。

こんな感覚は生まれて初めての経験だ。

ふと、彼に手を置かれた頭を自分で無意識に撫でる。

とても大きく、暖かい手でしたね…


私は彼の温もりと、胸にの高鳴りの余韻に暫く浸ったのであった。

温室で大事に育てられた少女はその感情の正体にまだ気付かない…

しかし、近い未来にその感情を自覚することになるのだが…それはまた別のお話である

(ゲート)

属性、空間

位、?

空間転移魔法


自分の現在地の座標と、目的地の座標の空間を繋ぐことにより、目的地へ瞬時に移動することのできる魔法。

例によって消費魔力量は大きい。


二つ名

一流と認められた魔導士に与えられる、己の本質を顕す名。


裏話

村園が優奈をとても気にかけていた理由。


去年、新人教師としてルミナス魔法学院に来た村園は、初めての教員生活に緊張しっぱなしで失敗ばかりしていた。

彼女はそんな自分を情けなく思い、深く落ち込んだ。

しかし、そんな彼女を優しく励まし、元気づけてくれた存在が優奈だった。

村園はそのお陰で自信を持て、仕事で失敗しなくなった。

だから優奈に恩義を感じている彼女は、彼女がストーカーに悩んでいることを知り、彼女を守り恩返ししようと考えたのだった。

結果は空回りだったが…

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