10話
戦闘のみを三人称にしようか…
話全てを三人称にしようか…
それとも全て一人称にしようか…
次で多分ストーカー編ラストです。
今回漸く主人公が魔法を使います。
魔法以外にも妙な技を使います。
後書きの魔法説明が長いです。
「キャオオオオオオ!!」
サンダーバードが空中から煉夜目掛けて突進してくる。それを煉夜は横に大きく跳ぶことで回避するが、サンダーバードが通過した直後、その周囲の空気が一瞬でスパークし、煉夜はその身を焼かれる。
「っと。纏いの密度上げてなければ死んでたかもな…」
しかし、陽炎のように煉夜の体から立ち上っている灰銀色の光により、彼の体には火傷どころか焼け跡一つない。
纏いは本来、体の内側から無意識に魔力障壁を張り、魔力抵抗力を高めるというモノなのだが、ある一定以上密度を上げると、魔力が体外にまで滲み出し、その魔力が更に煉夜を守る鎧となる。要するに防弾服の上から更に鎧を纏ったような状態になったのだ。
とはいったものの…突進の副産物にしかすぎない雷でこの威力…下手をすれば塵すら残らないかもしれねぇな…
サンダーバードが通過した後の地面は抉られたかのように消滅し、辺りの空気は未だにバチバチと帯電している。
突進の余波でこの威力だ。恐らく掠っただけでも纏いなぞ何の意味もなさずに消し炭となってしまうだろう。
一撃でも直撃すれば昇天か…ハッ!そんな戦闘は慣れているんだよ!
空中で旋回した後、再度突進してくるサンダーバードに対し回避行動を取りながら、張り詰めた緊張感と背筋の粟立つ感覚に笑みを深める。
恐怖心は無論ある。だが、彼にとっての恐怖とは敵や敵の攻撃の脅威を表すバロメーター。そして、適度な緊張感を得るための促進剤でしかない。
故に怯む理由なぞどこにもない。
「キャラァァアァァァ!!」
サンダーバードは空中に浮かび上がると翼を羽ばたかせ、強烈な風を起こす。
その風は敵を吹き飛ばす暴風ではなく、全てを切り刻む鋭い刃となり、更に空気に帯電した雷は槍と化し煉夜を襲う。
「チィッ!」
流石に広範囲に巻き起こる風を躱すことはできない為、両腕で急所を守りながら纏いの密度を上げることにより耐える。しかし、纏いにより致命傷こそ負わないが、風は肉を裂き雷は肌を焦がす。至る所に切り傷と火傷が生まれ、煉夜は徐々に傷だらけになっていく。纏いの密度を全力で上げてもぶち抜いてくるか…しかも、あの羽ばたきは確か攻撃行動じゃなかった筈…
サンダーバードの羽ばたきとは、巣にあるゴミを風で切り刻み、雷で焼き払うという習性。所謂掃除行動だ。
…あれ、つーことは何か?俺はゴミ扱いってことか?ハッハァ!そうかそうか…鳥の分際で舐めてんじゃねぇぞ…!!!
煉夜は強烈な殺気をサンダーバードに叩き付ける。
その殺気を浴びて煉夜が危険だと判断したのか、決定打が決まらないと悟ったのか、サンダーバードは羽ばたくのを止め、今度は翼を大きく広げる。
その翼に雷がどんどんと収束されていき、次の瞬間、高密度に圧縮された雷を纏った羽が一斉射出される。
「オイオイ、洒落になんねぇぞこれ…」
浮かべていた笑みが強張っているのを感じながら、飛んでくる金色の壁のように見える程の大量の羽を見据える。
羽の一つ一つが人を容易く消し去る程の威力を秘めており、もしも喰らえば纏いなど簡単に貫かれ消し炭となってしまうだろう。
「なら、全て躱すしかねぇよなぁ…」
諦観の念の込もった溜め息を一つ吐くと、腕をダラリと下げ体を半身にし、構える。
それらの羽は小さな標的を狙うような攻撃ではなく、辺り一帯へ絨毯爆撃するような攻撃だ。だが、狙いが定まっていない分、隙がある。
だが完全に躱しきることは不可能。ならば、纏いの密度を最大にまで高め、些細のダメージは度外視し、致命傷を負わない弱い隙の部分へ体を滑り込ませ、前へ前へと躱していく。
躱しきれなかった部分が纏いと一瞬だけ拮抗するも貫かれ、肉を削っていくが、気にかけずに次々と羽を舞うように躱す。躱す。躱す。躱す……
……しばらくしてようやく雷羽の吹雪が止む。どうやらサンダーバードは仕留めきれないと判断したようで、違う攻撃に移行すべく空へと上昇していく。
致命傷こそないが体の至る所を炭化させ、満身創痍となった煉夜は血の混じった唾を吐き捨てる。体の機能が低下しちまってるな…炭化したお陰で血が流れないのは不幸中の幸いか…
体の状態を確認しながら少し荒くなった息を整え、空高くに上がっていくサンダーバードを見据える。
上昇したっつーか距離を取った感じだな…空にいられちゃ攻撃できないが、さて……
身構えながらどうやって攻撃を与えようか考える。すると、上昇していたサンダーバードは急に方向を転換し、雷を纏いながら猛スピードで突進してくる。
好機!
それに対して煉夜は回避行動を取ろうとせず、纏いの密度を更に高め、左足一点に凝縮する。
「さぁて、今度は俺のターンだな」
そして、彼は突っ込んでくるサンダーバードを迎え撃つべく大きく跳躍し、迫り来るサンダーバードの巨大な嘴に、全身をバネとした灰銀色の霞を纏った左膝を横から叩き込む。
「ギャオオオオオオ!!」
「っ!!」
直進する物体は横からの衝撃に極端に弱い。サンダーバードは煉夜が放った横からの膝蹴りにより進行方向が横に逸れ、地面へと叩き落とされ、嘴にはビシィッ!と、僅かだが亀裂が入る。突進の衝撃と雷を受けた左膝は、纏いによりダメージを軽減されたお陰で炭化はしたものの辛うじて機能している。
少しはダメージを与えられたか…?
煉夜は片膝を着きながら敵の動きを洞察する。サンダーバードはすぐに立ち上がるも、何が起こったか理解していないかのように頭を左右に振っており、身に纏っている雷は今だけは機能していないようで、辺りは再び薄暗くなる。
多少怯んだか…周囲の雷も機能していないようだし、一気にいくか
煉夜は立ち上がり、特殊な呼吸法により丹田から『気』を練り上げ、操り、身体能力を高める。更に体内に存在する魔力を『強化』の意志により、身体能力を強引に強化する。
『気』と『魔力』
この2つの力は混じり合い相乗効果を生み出し、彼の身体能力を人外の其れにまで引き上げる。
それはかつて、彼がまだ充分に魔法を扱えなかった頃に編み出した対人外用戦闘体型。
名を『鬼殺し』
煉夜は鬼殺しによりサンダーバードとの距離を一瞬で詰めると、全長5メートルはあるサンダーバードよりも高く跳び上がり、右脚を天高く振り上げる。
「堕ちろ!」
そして、煉夜の脚が消失したかのように見える程の速度で振り下ろされ、鋼すらも容易く爆砕する一撃がサンダーバードの額に炸裂する。その一撃により顔面から地面に叩き付けられ、衝撃で地面が大きく陥没する。
「さて、これで決まってくれなきゃちとヤバいかもな…っと」
地上に無事着地し、鬼殺しを解除する。それと同時に体中に激痛が走り、片膝を着く。
傷口からは血が止め処なく溢れ出て、地面に血溜まりを作っていく。
鬼殺しの副作用だ。鬼殺しは一時的に人の限界を遥かに超えた身体能力を得ることができるが、その代償として使用後、普通の人間なら体が壊れてしまう程の大きな負担がかかる。
煉夜は訓練により、副作用の負担に耐えられる肉体を得ているが、現在は満身創痍。とても副作用に耐えられる状態じゃない。
「やれやれ、この苦痛も何時ぶりかね…」
「限界のようだな…」
自分の体の状態に苦笑しながら呟くと突如、姿を消したと思われた右腕を失った仮面の男が姿を表す。その失った右腕はどうやら治療魔法であろう黒い膜のようなモノで覆われている。
煉夜はその姿を既に興味の色を失った冷めた目で見る。
「あぁ、まだいたのか…てっきり逃げ出したのかと思っていたが」
男はそんな煉夜の態度を気にする様子もなく答える。
「フン、そうしたいのもやまやまだったが、お前らは我らが組織にとって危険な存在だ。死ぬのをこの目で見ないと安心できないのでな…」
「お前らってことはお目当てのお嬢も殺す気か?」
「高宮優奈を連れ去るのは何も絶対の目的ではない。今の俺では彼女を連れ去るのは不可能だからな…どこにいるかはわからんが、姿と力を見られた以上、彼女の財力と権力は我らが組織の妨げとなる。故にまとめて消させて貰う…!」
煉夜の呆れたような言葉に男は淡々と答え、左手を空に掲げる。
『翔よ雷、敵を貫け…』
「…舐めるなよ…この状態でもお前の魔法を防ぐことぐらい…お前を殺すことぐらいは容易にできるんだよ…」
魔法を放とうとする男に煉夜は殺気を放ち、纏いの密度を上げる。
「フッ、召喚獣相手に一歩も退かぬ貴様なら虚勢でもなく本当にできそうだから恐ろしい…だから安全策を取らせて貰おう…」
男はその煉夜の殺気に強烈に恐怖を覚える。
しかし、男も数々の修羅場を経験してきた一流の戦士だ。煉夜と同じようにその殺気に恐怖はするものの、怯む様子はなく、左手を倒れているサンダーバードに向ける。
その意図に気付いた煉夜は憎々しげに舌打ちをする。
「チッ、やってくれる…」
『ライトニング・スピアー』
男の左手から雷の槍が放たれ、サンダーバードに吸い込まれていく。その雷槍に込められた意志は『回復』
普通ならそんな意志を込めた所で何の意味も成さない。
しかし、その雷槍を受けた相手は雷の化身である雷鳥だ……故に
ズガァァァン!!!!
突如陥没した地面から激しい雷の柱が天を衝く。そして
「キャオォォオォオォオォォォ!!!」
復活したサンダーバードは体中の羽毛を逆立て荒々しい雷を纏い、高らかな咆哮を上げながら空中に舞い上がる。
その額には×を描くように新たな大きな裂傷が出来ており、火のように滾る瞳は怒りと憎悪により禍々しく光っている。
「一つ、雑学を授けてやろう。サンダーバードは怒るとその黄金の毛を逆立て、ある行動を取る習性がある…その行動とは……」
男が歌うように言葉を紡いでいく。
その説明の途中、空から轟音が鳴り響き始め、高密度の魔力が収束されていくのが感知できる。それも一カ所や二カ所なんてモノではなく、空の至る所から感じられる。
「周辺を破壊し尽くす八つ当たりだ」
そう言い放った瞬間、男を半球体の闇が包み込む。
その闇は空間を世界から隔絶する絶対堅固の闇の結界…『プリズン・アビス』
恐らく煉夜とサンダーバードが戦闘している最中に仕込んでいたのだろう。
そして、薄暗い空が強烈な轟音と共に眩く輝き始める。その空から溢れかえる程の力は決壊寸前のダムを連想させる。
『空間支配』
空を満たす光が最高潮に達し、雷が放たれようとした瞬間、煉夜が魔法名を呟いた。
そして放たれる雷。
幾つもの閃光が地上に降り注ぎ、全てを消し去る圧倒的エネルギーが辺り一面を蹂躙する。
轟音と衝撃波が周囲に撒き散らされ、ここから半径数100メートル以上の空間が消滅した……筈だった
しかし
「なん…だと…!?」
雷が降り止み、辺りの光景が見れるようになった男は驚愕の声を上げる。
全くの無傷なのだ。あれだけの雷による圧倒的エネルギーと衝撃波を受けている筈なのに、煉夜どころか周りの空間にも傷一つ付いていないのだ。
そして、気付く。辺り一帯の世界が灰銀色に染まっていることを…
「『空間支配』…これは俺が定めた空間で俺の我が儘を通すことのできる魔法でな…少しばかり我が儘を言わせて貰った。『俺が定めた空間で召喚獣の雷は無効になる』ってな。正直、コレは疲れるからあまり使いたくはなかったんだがな…」
驚愕に声すら出せずにいる男に気にせず、煉夜は自嘲するように言葉を紡ぐ。
「しっかし、魔法無しでも倒せると思ったんだがなぁ…流石に無理だったか…まぁ、充分楽しませて貰ったから良しとしよう。その礼といっちゃなんだが、最期は俺の魔法(お気に入り)で逝かせてやるよ。遠慮はすんなよ?」
煉夜はそう言うと、左腕をゆっくりと上げ、横に鋭く振るう。瞬間、先程まで何もなかった彼の周りの空間に優に100を超えるほどの剣や槍などの武器が出現する。それらの武器はある物は炎で、ある物は光で、ある物は風で、様々な属性で形成されており、その一つ一つが先程のサンダーバードの雷以上の膨大な魔力を秘めている。
「…なんだ、これは…!?無詠唱でこれだけの…それも全属性だと…!?お前はいったい!?」
その圧倒的な光景に男は体を震わし、声を漏らす。
そして今までの戦闘を思い出し、戦慄する。
今までの戦闘は、まるで本気では無かったというのか!?
煉夜はそんな愕然と絶望した表情をしている男を見て、酷薄な笑みを浮かべる。
「『無辺の裁き』俺お気に入りの魔法の一つだ。んじゃ、逝ってみようか」
そう言い、煉夜は左手を振り上げる。
それは一人と一羽への死刑宣告。
そして、彼が左手を振り下ろした瞬間、圧倒的な力を宿した100を超える武器が、一人と一羽に殺到した。
「そうそう、雑学のお礼に一つ教えといてやる。知ってるかもしれないが俺の魔力値は200000なんだが、アレも実は嘘でな。本当は…」
目の前で轟音と共に巻き上がった大規模の砂煙を眺めながら、その中心にいるであろう男に煉夜は言い放つ。
「二億だ。
つっても、もう聞こえてないか」
煉夜は悪戯の成功した子供のように無邪気に嗤った。
魔法説明
※今回は煉夜の使用属性のネタバレが入ります。それが嫌な人は見ないで下さい
『鬼殺し』
属性、/
位、/
魔法ではない
一時的に人の限界を遥かに超えた身体能力を得ることができる、煉夜オリジナル技。
しかし、体内にある魔力と気を混ぜ、その全てを身体能力強化に注ぎ込む為、魔法はおろか纏いすら発動できなくなり、使用後、術者の肉体に大きな負担が掛かるデメリットがある。
名前の由来は文字通り、編み出した直後に鬼を殺したから
[補足説明]
サンダーバード戦で最初からコレを使用しなかったのは、纏いが使用できない為、サンダーバードが身に纏う雷を突破できない為。
空間支配
属性、空間×創造
位、?
空間掌握魔法
己の定めた空間に、己の意志を法則として創造し、顕現する煉夜オリジナル魔法。
ただし、魔力消費量が非常に大きく、法則は詳しく定めなければ魔力消費量が更に大きくなる。
煉夜の定めた意志を上回る意志を持ってして攻撃、行動すれば破れる。
無辺の裁き
属性、創造
位、?
殲滅魔法
様々な属性の武器を創造し、相手に一斉射出する煉夜オリジナル魔法。
武器の一つ一つに膨大な魔力を宿している為、魔力消費も膨大。
込める魔力量に比例して武器一つ一つの威力を上げることも武器の量を増やすことも可能。