9話
今回は視点がコロコロと変わります。戦闘は基本的に三人称にしようと考えているのですが、今回はキャラの心情を中心的に書きたかったので、戦闘は激しく手抜きです。
よろっと(そろそろ)ストーカー編もクライマックスに突入です。
無い頭と文才で頑張って書いたので、鼻で笑いながら読んでください
「煉!!!!」
「呼んだか、お嬢?」
俺は空間から出ると、とりあえず飛来してきた雷の槍を拳で叩き落とし、お嬢に返事をする。
「…え……!?」
お嬢は驚愕したように目を見開き、こちらを見る。
「…煉、ですよね…?」
「おいおい、呼んどいてそのリアクション何?」
「え、いや、だって、その、というかどうやって…?」
要領の得ない言葉を譫言のように呟くお嬢。どうやら突然の出来事に混乱しているようだ。
俺はため息を一つ吐き、お嬢を落ち着かせる為に、なんとなくお嬢の目の前で柏手…いわゆる猫騙しをしてみる。
パンッ!
「キャッ!え、え…!?」
おぉ、なかなかに可愛い反応するじゃないか。…軽くパニックに陥ってる気がしないでもないが…
「あぁ…めんどい」
何やらオロオロとしているお嬢の額に指を当て、目を真っ直ぐ見据える。そして、意志を込めた言葉を掛ける。
「落ち着け」
言霊と瞳力による軽い暗示。それにより、お嬢は落ち着きを取り戻す。
「煉…すみません。お見苦しい所を見せてしまいまして…」
申し訳なさそうに頭を下げるお嬢。
「わかったからさっさと下がれ。邪魔だ」
無論、それに対して優しい言葉を掛けてやる俺ではない。半分以上俺の責任のような気がしないでもないが、それでも優しい言葉は掛けない。それが俺クオリティ
「な、貴方が戦うと言うのですか!?確かに二度も助けて貰ったことには感謝します。しかし、これは私の問題です。貴方を危険に曝すわけには…」
俺の言葉に反発するお嬢。それを聞いて俺は溜め息を吐く
「あんた、案外鈍いのな」
「え?」
訳が分からなそうな表示をするお嬢。ったく。ここまでくれば普通わからないかね?
この状況なら正体を明かしても別段問題ないだろう。
「俺、あんたの護衛」
「…ハイ?」
ふむ、いきなりだと流石にすぐには理解できないか。なら噛み砕いて説明しようか。
「俺はあんたの爺さん…高宮龍之介があんたを守るために雇った存在。いわゆるボディーガードだ」
それを聞いて呆けた顔をするお嬢。
おぉ、普段凛としている分、こういった緩んだ顔はなかなかにそそるモノが…
などと考えているとお嬢は頭を振り、心配そうに俺を見る。
「し、しかし、例えそうでも貴方は魔法が…」
その瞳は心配や不安などの様々な感情に揺れていた。本当なら言いたいことは沢山あるんだろうが、状況が状況だけに自重してるのだろう…
「あぁ、アレ嘘」
「…嘘、ですか…?」
「当たり前だろ。どこにいるかもわからん相手に自分の手札見せる訳無いだろうが」
まぁ、もう既に相手に情報提供しちまってるがな。この場に魔法使って来ちまったし
「貴様…どうやって……」
そこに、何やら憎々しげな声が聞こえてきたので、そちらに顔を向ける。
そこには全身黒ずくめの仮面の男が立っていた。表情こそ仮面でわからないが、僅かだが動揺の気配が感じ取れ、覚えのある魔力残滓を感じる。
つまり
「あぁ、お前が犯人ね…お嬢、下がってろ」
お嬢に一言告げるとゆっくりと男との距離を縮めていく。背後でお嬢が何やら言っているが、勿論無視。
さて、お手並み拝見だな
「いや、貴様がどうやってあの空間を出たかなどはどうでもいい。俺のすることは変わらない。姿を見られたなら邪魔者は排除し、高宮優奈を頂く」
そう言うと男は後方に大きく跳躍し、詠唱を唱え始める。
「いけません!『風の…』」
「手ぇ出すなお嬢」
恐らく男の魔法を妨害する為の魔法を放とうとしていたのだろうが、俺はそれを遮る。
だって相手がどんな出方をするか楽しみだし…
「しかし!」
「あんたとあいつじゃあ技量、意志力、そして覚悟が違う。無駄に手ぇ出してもまず効かないだろうし、俺からしたら寧ろ邪魔なんだよ」
俺の辛辣な言葉にお嬢が少なからずショックを受けているのが背後から伝わってくる。
そこで俺はお嬢を安心させるように笑う。
「何、安心しろ。あんたは俺が守ってやる。だから後ろで高みの見物でも決め込んどけ。尤も、俺が信用できないなら好きにすればいいさ」
そう言ってチラリとお嬢に視線を移す。お嬢は顔を赤くして少し迷ったような仕草をした後、俺の目を見て静かに頷き、後ろに下がった。
信用してくれるのか。なら答えてやんねぇとなぁ。
俺は腕をダラリと下げ体を半身にし、構える。
そして男の魔法が完成する
『影よ目覚めよ、我が同志となれ…シャドーズ・ファミリア』
発動と同時に、男の周りの影が実体として沸き起こり、人の形を成す。その数6体
「闇系統の分身魔法か…」
「まだだ『煌めく雷光、数多の敵を打ち砕け…スパーク・ランサー』」
更に6本の雷の槍が男の目の前に出現し、その雷の槍を影の分身が1人1本ずつ装備する。
本来なら敵に射出する魔法を分身に装備させるか…なかなかの応用力だな
煉夜が内心で男の技量に感心していると、雷槍を携えた影が一斉に突進してくる。
前方から影の一人が雷槍を突き出してくるのを、煉夜は前にダッキングしながら踏み込むことで雷槍を避け、影の腹部に拳を叩き込む。
影は後方に勢い良く吹き飛ぶが、すぐさま体勢を立て直し再び突進してくる。
一撃では消えないか…どれだけの意志をつぎ込んだのやら…
本来分身魔法の分身は一撃攻撃を入れれば消えるのだが、この影の分身は恐らく強力な『存在』の意志により、消えにくくなっているのだろう。が、脅威と感じる程でもねぇな…
影が瞬時に煉夜を取り囲む。
「あらら、囲まれちまった…これは少しヤバいかもねぇ」
言葉とは裏腹に余裕そうな笑みを浮かべながら煉夜は左手の指を軽く曲げパキッと音を鳴らす
「まぁいいか。精々、俺を楽しませてくれよ?」
薄く嗤いながらの言葉を皮切りに、影は一斉に煉夜に襲いかかった
*
「すごい…」
目の前で繰り広げられている光景に私は目を奪われる。
最初は真剣な眼差しで信用しろ、守ってやると言われ、思わず頷いてしまったことを少し後悔してしまった。確かに煉のことは信用しているし、それなりの実力があることは魔法授業で知っている。しかし、あの仮面の男は間違い無く私や舞以上の実力を誇るプロだ。いくら烏丸を楽に倒していたとしても、流石に敵わないのではないか?もしかしたら私の短慮のせいで彼を死地にやってしまったのではないか?そう思っていた。しかし、その心配は全くの杞憂で終わってしまった。
彼は様々な方向からくる攻撃全てを時には避け、時には受け流し、時には利用する。6人の猛攻を緩やかに、流麗に、流れるように、一部の隙も無く攻撃を無効化するその様は、典雅な舞を思わせる。そして更には男が私に向かって放つ魔法もどういう原理かは知らないが、素手で全て叩き落としている。
彼は未だ影を1人も倒してはいないが、素人目に見てもわかるほどに、彼は6人、本体を入れて7人の攻撃を魔法も使わずに簡単にあしらっていた。
「こんなもんか…じゃ、攻勢に移るかね」
そう呟くと、彼の手が一瞬ブレ、背後から襲いかかってきた影の頭部が弾け飛ぶ。
更に左右から2人の影が雷槍を突き出してくるのを、彼は一歩後ろに下がって避け、左右の影の腕を掴み、引き寄せる。左右の影は勢いあまり、お互いに突き出していた雷槍に貫かれ消滅する。
男が私に向かって再び雷の魔法を放つも、彼は無造作に向かってきていた影の1人の頭を鷲掴みにすると、空を翔る雷に向かって投げつける。放った影は寸分も狂わずに雷に直撃し、魔法と影は両方とも消滅する。
そこで男が何かを取り出し長い詠唱をしているのに気がつく。一瞬、妨害でもしようかと考えるも、不意に戦闘中の彼と目が合った。彼は優しく微笑むだけだった。
そして私は思い直す。そう、私は彼を信じると決めたのだから最後まで彼を信じよう。あの誰よりも頼りになる背中を…
*
何なんだあのイレギュラーは…!?
目の前で行われている戦闘を見ながら男は憎々しげに歯噛みする。
侮っていた訳ではない。
模擬戦の時僅かに見せた奴の体術や、魔法を生身で打ち砕く謎の術?を考慮した上で、物量で攻めようと分身魔法を使用した。更に確実に仕留める為に影に雷槍を装備させた。
今まで1人相手にこの魔法を使用し、破られたことは数えるぐらいにしか無かったから、経験から言っても余程のイレギュラーでない限りこれで充分だろうと思っていた。
その見通しは甘かった。
奴はその余程のイレギュラーであった。
影6人からの攻撃を奴は容易く凌いでいるのだ。それも余裕そうに。
隙を作るため、演習場の時と同じように高宮優奈に向かって魔法を放つも、奴の腕が一瞬ブレたかと思った瞬間に、魔法が叩き落とされていた。2つの魔法を維持した状態で魔法を放つのは容易ではないので、どうしても威力の低い下級魔法になってしまう。しかし、例えどれだけ威力が低くても、影を6人相手しながら高宮優奈を守ることがどれだけ困難なことか…それを容易くやってのける奴がどれだけ異常か…
そして遂に奴が攻勢に出て、影が次々に消されていく。隙が出来たと、高宮優奈に魔法を放ってみるも、奴は影を魔法に投げつけ防ぐという荒技をやってのけた。
しかも、『分身を破壊した相手の動きを鈍らせる』というシャドーズ・ファミリアの追加効果も発動されている気配はない。これはマズい事態だ。このままでは高宮優奈を連れ去ることができない。
そうなれば我らの計画に支障が出てしまう。
「…背に腹は代えられぬ、か……」
男はそう呟くと、懐から1つの蒼い宝石を取り出し、詠唱を始めた。
*
「ホイこれでラスト〜」
影の腹部を足で薙払い消滅させ、最後の1人の頭を鷲掴みにし、地面に叩きつけると、影は煙のように消えていった。
なかなかに面白い戦闘だった。
分身に魔法を装備をさせる発想や、それらを維持したまま魔法を使うあの男の精神力の高さ。
これでもっと火力があれば流石に魔法を使わなければならない程に追い込まれていただろうが、それは最早才能の話になってくる。精神力や意志力は鍛えればなんとかなるが、火力…つまり魔力だけは鍛えて上がるものではない。あの男もそこそこ魔力は高いが、舞やお嬢とは比べ物にならないほど低いし、更に燃費の悪い上級魔法であるプリズン・アビス使用後ともあって、魔力が少なくなっていたのも原因の一つだろう。
尤も、あの男が全快状態だろうと負ける気は微塵もしないがな。
それよりも戦闘中チラッと見たが、あの男、何やら面白そうなことをしているな…
「さて、何が出るのやら…」
そこで、ふとあの男が何かを持っていることに気がつく。
「…あ〜、ヤベェかも……」
それには強い魔力隠蔽が施されていて気がつかなかったが、強大な魔力が秘められている。そして、その宝石には見覚えがあった。
「召喚石……」
召喚石とは、魔物と契約を結び、儀式魔法によりその魔物を召喚する上位魔法。『召喚魔法』を擬似的に行う為の道具だ。
本来召喚魔法とは、魔物に己を認めさせ、直接契約を結んだ者にしか発動できないのだが、ある特殊な石に契約者の身体の一部(髪や爪、血など)を埋め込むことによりできるのが召喚石だ。
この召喚石を使用すれば対価を支払うことにより、一時的に契約者の召喚獣を使役できるようになる。
尤も、その召喚獣の位によっては理不尽とも言える程の対価を払わせられる危険性もあるので、使う奴はあまりいないが……
アレに何が潜んでいるかはわからんが、召喚石を使うってことは相当な覚悟をしていると見える…面白い!!
「お嬢、何か面白そうなのがくるからこの場から逃げるか思いっきり離れるかどっちかしとけ!!」
口元に笑みを張り付けながら後方に声を飛ばす。
お嬢の気配が遠退いていくのを察知しながら、肌にビリビリと感じる強大な圧力。これは大物の予感がするねぇ
『さぁ、我らが盟主より授けられし眷属よ!我が身を喰らいてその身を顕現せよ!』
男が詠唱した瞬間、対価となったのだろう男の右腕が肩口から消失する。それと同時に宝石から眩い光が放たれ、宝石が砕け散る。
そして、姿を現す召喚獣。
全長は5メートル弱の巨体。雷の色を表したかのような眩い金色の翼と体躯。その存在の周りは強烈な電気により、空気がバチバチと帯電しており、薄暗いその空間とその身を煌びやかに照らしている。
火が燃え滾っているかのような鋭い双眸に、抉れたような巨大な嘴、逆立った毛。そして額には裂かれたかのような大きな傷痕。
それは鷲の姿をした、ある地域では神鳥とも謳われている霊鳥。
その名を雷鳥
『サンダーバード』
「キャオォォォォォ!!」
天を衝く咆哮。空気がビリビリと震え、辺り一面が轟音と共に一斉に火花を散らしスパークする。
お嬢はその圧倒的存在感と威圧感に当てられ気絶し、召喚した男も消滅した右腕の肩口を押さえながら、その神々しい姿に魅入ったように呆然としている。
俺はその存在感にビビる訳でも、その姿に魅入る訳でもなく、ただある一点を見ていた。
それはサンダーバードの額に付いているモノ
「あの傷は…」
その姿とその傷には見覚えがあった。
*
『煉夜、煉夜!私、あの鳥召喚獣にしたい!』
『…また随分と面倒そうな……』
『私と貴方なら簡単なことでしょ♪』
『えぇ〜、俺も参戦確定かよ…』
『いいでしょ、さっさとアレを屈服させてご飯でも食べに行きましょ?』
『ったく、言い出したら聞かねぇんだから…んじゃ、俺はお前のサポートに回るからお前はさっさとあの鳥叩き墜としてこい。腹減ってるから迅速にな』
『ラジャー♪』
*
一瞬の追憶。そして完全に思い出す。
この鳥はかつて俺が世界を回っていた頃に、とある戦友が武をもってして屈服させた存在。そして、額の傷はその証…
と、なると。コイツはアイツの召喚獣か…そしてあの男、さっき『我らが盟主より授けられし〜』とか言ってたな…
「そういやアイツ、昔何か組織作りたいとか言ってたような…つまり、そういうことか?」
…まぁ、細かい話はコイツを殺った後あの男から聞き出せばいいか。
そう自己完結すると、俺は額を指で叩きながら挑発するように冷たく笑う。
「…さぁて、今度は俺がその額に傷を付けて屈服させてやるよ。覚悟しろよ?」
その挑発を理解したのか、サンダーバードは雷鳴を引き連れて空へと舞い上がり、俺を睨み付けてくる。
俺はその滾った目を真っ向から受け止めながら、一気に魔力を練り上げた。
魔法紹介
シャドーズ・ファミリア
属性、闇
位、上級
分身魔法
影に己の魔力と意志を注ぎ込み、影を使役して戦う魔法。分身魔法は属性により付属効果が異なり、闇属性の場合は「分身を消した相手の動きを鈍くする」
生み出した分身は術者の身体能力に能力が反映され、自動制御、遠隔操作、切り替え可能
スパーク・ランサー
属性、雷
位、中級
直進型射撃魔法
本来は無数の雷の槍を生み出し、相手に一斉射出する魔法なのだが、仮面さん(仮)はこれを装備魔法に使うという応用をしていた。
さて、一応補足説明ですが、今まで出していませんでしたが、この世界には魔獣が存在します。
元々の世界設定は現代とファンタジーを融合した感じです。FFⅦ、Ⅷ、ⅩⅢのどれかを想像すれば概ねイメージできるかと…
ストーカー編が終わったら詳しい設定を公開しようと思っています。
次回、遂に煉夜が本格的に魔法を使用!…する予定が無きにしも非ず。